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赤ずきんが真実を語ったのかどうか誰も知らない  作者: 相木ナナ
「帰ったらボッチだった、勝手に時間進めるなんて聞いてない事案」 (浦島太郎)
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{Change before you have to.変革せよ。変革を迫られる前に} 

「人は、無力だから群れるのではない。

あべこべに、群れるから無力なのだ」 竹中労

 



 ブルックリンの雑踏を歩く二人の美少女は、周囲の冷やかしと好奇の視線を無視して歩いていた。


 一人は見事な金髪ブロンドで、短いスカートと白いニーハイソックスが学生らしいがモデルのように颯爽としている。


 連れは見事なゴシックファッションで、赤毛以外は黒一色だ。


 服装に見合った白い顔がより黒を誇張している。


 どちらも美形なのだが、金髪娘は見事なふくれっ面をしていて、赤毛のゴシック少女はうつむき加減に下を向いている。


 傍からみえば、喧嘩でもしたかのようだったが、二人の機嫌は目下『目玉コレクター』のせいだった。



「なによっもう、ブルックリンで永眠させてやろうと思ったのに、まさかマンハッタンまで移動してるなんて、犠牲者何人目?責められるのはこっちだってのに、”浦島”のやつ」


「……新聞では……昨日で5人目……」


「あっそ!ていうか、なんで今日本語で返事したわけ」


「……アメリカは多民族……英語以外でもうかつに話すと……知られるから」


「聞かれたってどうせ意味わかんないんだから、別にいいでしょ!”チェシャ”って変なとこ真面目なわけ?」


「”アリス”はずさんすぎ……」



 コードネーム”アリス”と”チェシャ猫”は勢い任せに2ブロックの距離を歩くと、ひとまずスターバックスに入った。


 アリスはギターが入っているような楽器ケースを、チェシャ猫は、トロンボーンでも入っているような大きなケースを置くと、ゴトンと重い音がする。



「ちょっと!なんでアンタまで座るわけ!注文してきてよ」


「……知らない人と話したくない……」


「またそれ!?アンタはどうせ、なんとかキャラメルだかチョコレートソースの甘いやつでいいわけ?サイズは一番大きいの?」


「うん……」


「まったく、相棒パートナーがずっとこれなのも辛いわけ。ああ、赤ずきんさまと一緒なら何でもパシりになるのにっ」



 文句を並べ立てながら、アリスは席を立って注文の列に並びにいった。


 チェシャ猫は、黒いレースの装飾のスカートの中からアクセサリーがてんこ盛りのスマートフォンを出す。


 デイライトのアプリを押すと、チェシャ猫の認証が動き、更新された情報が次々に流れてきた。


 熱心に読み進める、その爪も黒のマニキュアで染められている。



「ほら、買ってきたわけ!感謝しなさい!」



 周囲の下心の目線を蹴散らして、アリスがチェシャ猫の前に生クリームやキャラメルソースがこれでもかとかかった大きなコーヒーを置いた。


 アリスはブラックコーヒーに申し訳程度のベーグルがひとつ。


 自然エネルギーでオーラを保持できる彼女たちにとっては飲食はカモフラージュでしかない。


 中には、各地の味や時代によって変わる食べ物を好んでグルメを気取るものもいるが、アリスにはそういう趣味はなかった。



「浦島が、被害者……9人だって……悪魔ターゲットはオーラが増してる……」


「ふん、これだからニューヨーク市警はアテにならないのよ!全然使えやしないわけ」



 アリスは熱いコーヒーをガブリと飲むと、ニューヨーク・タイムズ紙を広げる。


 チェシャ猫の方は、スプーンで大量の生クリームをすくうと嬉しそうに口に放り込んだまま続けた。



「オーラが増して……”乙姫”の探知に引っかかったって……ソーホーの方に移動したみたい……」


「はッ!ニューヨークを血まみれの街ブラッディ・タウンにしよってわけ?ナメられたもんだわ」


「あと……赤ずきんと狼が日本に……秘密情報提供者を一人確保したって……」



 赤ずきんの名前を聞いた途端に、羨望の視線を集めていたアリスの組んだ足が跳ね上がる。


 チェシャ猫は自分のカップを持ち上げて回避したが、テーブルにぶつけたアリスの足でブラックコーヒーの半分が溢れた。


 テーブルで被害にあったベーグルはたちまちコーヒー色になってふやける。



「なんですってぇ!?赤ずきんさまが、あの赤ずきんさまが……滅多に下僕なんて作らない方なのに!あの狼のクソ野郎のせいね、絶対そうなわけ!」


「第二圏のニバスだって……でも3枚の”契約の羽”があるから、第二圏以上のパワーになると思うけど……」


「そんなんどうでもいいわけ!!……って、悪魔!?3枚?!赤ずきんさまと、あの馬鹿狼以外に誰が渡したわけ!?長靴を履いたネコはただの後始末屋の人間でしょ、あいつにそんな権限あるわけない……誰かしら、”かぐや”のワケもないし、可能性がありそうなのは”白王子ホワイトプリンス”とかだけど」


「そこまでは……書いてない……」


「何のための正気デイライトなのよ!ホラ、ちんたらしてないでさっさと行くわよ!!イカれ目玉喰いなんかさっさと片付けて日本にいくわけ!!」



 ペーパーナプキンで溢れたコーヒーを乱雑に拭くと、アリスはせかせかと立ち上がった。


 こうなったアリスを止めても無駄なことを分かっているチェシャ猫は、スプーンを挿したままのカップを大事に持ったまま荷物を持ち上げる。


 ブルックリンからソーホーまではイースト川を渡れば、さほど離れていない。



「浦島が、なんて言うか……」


「そんなこと知ったことじゃないわけ!いざとなったら毎日アメリカと日本を移動してやるまでよっ!」



 チェシャ猫は溜息をついた。



 仲間が減り、悪魔はどんどん人間界を黒い欲望で支配している。


 しかも悪魔は人間のふりをして殺人や事件を起こすが、高位第七圏以上の悪魔は憑依してあっという間に逃げることができる。


 更には人間たちが好奇心で悪魔を呼ぶ儀式サバトなどを行うせいで、悪魔の数は減らしても減らしても増えていく一方だ。


 殺戮の天使たちは二人一組ツーマンセルで、互いに身を守りながら倒すしか無い。



 アリスが本気で日米往復するならば、チェシャ猫もまたそれに同行するしかないのだ。


 コーヒーで犠牲になったベーグルは、手付かずのまま廃棄される。


 ソーホーの方面に早足で向かうアリスを、チェシャ猫は不穏な音が鳴るケースとコーヒーを持ってゆっくりと追いかけた。



 .

アリスとチェシャ猫でした。次回、多少グロでも笑える回で、なんともう赤ずきんターンに戻ります(早い

アリス勝ち気。チャシャ暗い。デコボココンビです。アリスは赤ずきんを大好きです(一方的に)

男嫌いというより赤ずきんの相棒には自分がなりたかった節があるので、狼への当たりは強くなりますが、雛阪の運命はいかに!?※次回はそんな話ではない。次回は


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