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赤ずきんが真実を語ったのかどうか誰も知らない  作者: 相木ナナ
「帰ったらボッチだった、勝手に時間進めるなんて聞いてない事案」 (浦島太郎)
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{Change before you have to.変革せよ。変革を迫られる前に} 

「流転、流転、流転! がニューヨークの行動原則だ……

我らが祖先の骨さえも、地中で四半世紀と静かに眠ることを許されず、新たな世代は前時代の遺物を残らず排することに情熱を傾ける」 NY市長フィリップ・ホーン『日記』

 

 アメリカ、ニューヨーク州。


 アッパーイースドサイドを歩いていたサマンサ・グルーマーは、タクシーを拾わなかったことを後悔していた。



 チェルシーにあるアパートまで、酔いざましに歩くから。


 そう断って、彼の「送るよ」という言葉には、友達にも用があるの。その一言で、未だ家に招く気がないことは伝わったはずだ。


 けれど、この街といったら。



 空き缶を漁る浮浪者や、麻薬ドラッグを売る売人たち。


 通りすがりに卑猥な言葉を投げてくる酔っぱらいたちーーシラフだと余計に怖いが


 ヒールを鳴らして歩くサマンサに、独り歩きしていることを警告するようだ。



 おもったよりデートはいい雰囲気だったからこんな時間になってしまった。


 やはり彼に送ってもらうべきだったか。


 ブルックリンを中心に、”目玉コレクター”と呼ばれる連続殺人魔シリアルキラーがニューヨーク・タイムズの紙面を騒がせている。


 こんな時間に一人で歩くのは、無謀だったかもしれない。


 サマンサは、バックに入れている唐辛子スプレーを命綱のように握り直す。



 夜風はそれほど気にならなかった。


 出てきたシカゴと比較すれば、この程度はまるでそよ風と同じ。



 イリノイ州にいる母が今のサマンサを見たら顔をしかめるのが目に見えるようだ。



 ーーまあ、サミー。そんなに肌を露出させる格好で、あんた高級娼婦コールガールに間違われるでしょうよ。



 お願い、ママ。サミーなんて呼ばないで。ニューヨークで出来た友達たちはみんなサムって呼ぶのに。



 それを知ったら余計に嫌な顔をするに決まってる。


 だけど、ダサい眼鏡に、ママの特製カーディガンを着た冴えないシカゴのサミーとはもうおさらばだ。


 今のサマンサはニューヨーカーらしく、ドレスはシックでも髪色も派手に染めて、奮発して買ったジミーチュウの靴を汚さないように慎重に歩いている。



 まだ二回目のデートだった。


 彼からのコーヒーを飲んだら家にこないかという婉曲な誘いも断った。


 未だ二回目。イエスというには尻軽だと思われるかもしれない。


 誰かが限界まで酔っ払った勲章のように吐いた吐瀉物を華麗に避けて、サマンサは大事なブランドのハイヒールを死守した。


 ふぅ、このニューヨークでは油断も隙もないってことね。



 いっそ人目がないほうが安全なのかもしれない。


 サマンサは、右折して裏路地に入った。


 ペッパースプレーを再度確認する。


 何処かで誰かが大音響でヘビメタを鳴らしているのが聞こえてきた。



 マシーン・ヘッド・デスの「ザ・ゲーム・オーバー・ナウ」だ。


 今頃なんだってこんな選曲なのだろう。


 まあ、夜道でテイラー・スウィフトの失恋ソングを聞くよりマシかもしれないが。


 サマンサは、また黒い水たまりを避けた。


 まるでトラップみたい、なんでこう都会は汚れているのか。



 そう思った瞬間、金気臭い血の匂いを感じ取った。


 女なら、毎月嫌でも嗅ぐことのある、おなじみの嫌な匂い。



 カタン。



 誰かが怪我でもしたのか、それとも不潔にも使い終わったナプキンを袋で閉じずに放り出しのか。



 カタン。


 いくらニューヨークでも、そんな恥知らずな女はいないだろう。彼氏か旦那の仕業かもしれない。



 カタン。



 ドラムとギターの叫びの合間に、さっきから聞こえる不審な音はなんだろう。



 サマンサは、足を早めた。あの音は何か気持ちを不安にさせる。


 捨てられた中華のテイクアウトの紙ゴミを蹴飛ばしてしまったが、もう靴に構う余裕はなかった。



 カタン。



 走ろうとして、サマンサ自慢のジミーチュウのヒールが片方折れる。


 良きサマリア人は口にしない罵りを吐いて、反射的に掴まった手に力を入れて体勢を立て直そうとしてサマンサが気がついた。



 何に捕まっている。


 フェンスはまだ2フィート先に見えているのに?



 悲鳴は上げられなかった。



 粘っこい人型のそれは、サマンサの口を塞いだまま長い舌を釘のように右目に突き刺した。


 サマンサの視界が朱く染まり、灼熱の痛みが吹き上がる。



 ーー何故、何故なの



 シカゴの家、そして編み物をする母が、脳裏を一瞬で通り過ぎていった。


 それきり、サマンサの視界は黒い異物も見えなくなる。


 ただ、眼球の最後の神経が僅かに抵抗するのを最後に、ブツリと切れて両眼から激痛と鮮血が迸った。


 何も見えない。瞼の裏も真っ赤に染まっているのに、手足が引きちぎられるのがわかる。


 痛い、痛い、痛い……叫びたくても、口は塞がれたまま突如膝下の感覚が消えた。


 せり上がってくる痛み、サマンサは身悶えようとしてそれも不可能なことを知る。



 耳がわずかに、遠くで鳴るマシーン・ヘッド・デスの歌詞を捉えた。



 I've forever gone, colder.colder


 If life is just a the game then game over now


 Game over now

 Game over just now



 ああ、NYのサムはゲームオーバーなのね。


 シカゴの冴えないサミーのままなら、こんな最後を迎えなかったのかもしれないのに。




 私は永遠に行ってきたの


 ゲームオーバー


 ゲームの限り


 今終わった人生というゲーム


 ゲームオーバーよ、サミー。



 自分の目玉が音を立てて噛み砕かれる、ブチュブチュという音を聞きながら、サマンサはこの世の全てにさよならを告げた。


 .


今回が一番頑張ったシーンです。個人的にw

何かの音楽にかけようとしてマシーン・ヘッドを選びましたが、なかなか歌詞が見つからなくて必死に耳コピをして翻訳。ひっかける場所にやたらと悩みました。章タイトルだけは相変わらずふざけきっております。なお、なろうの規定にふれるので、作中はグループ名と歌詞も作者がアレンジした架空のものになっております。

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