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赤ずきんが真実を語ったのかどうか誰も知らない  作者: 相木ナナ
「首をハネられるホラーは夢オチかよ」(アリス)
16/18

「wolf moon」

「君の骨はガラスでできているわけじゃない。君は人生にぶつかっても大丈夫だ。

もしこのチャンスを逃してしまったら、時とともに、君の心は僕のがりがりの骨と同じように。

乾燥して壊れやすいものになってしまうよ。

さあ、行きなさい、何してるんだ」

映画 『アメリ』より


 

 日本。首都東京。



 熟睡していた雛阪に、命の危険は突如として発生したのだった。


 ベッドには赤ずきん、ソファーからは長身の狼が足をはみ出したまま、昼寝という名のオーラ充電の中。


 雛阪もまた、平和に、ここ最近で慣れてきた寝袋 on the フローリングの中で蓑虫の如くもぞもぞして惰眠を貪っていたのだが。



 玄関のドアが高らかに侵入者を告げると共に、ドアとして死亡したことを告げる。


 跳ね起きたのは狼で、雛阪のダメージジーンズに悪趣味なティーシャツという部屋着のまま武器を探った。


 一方、雛阪は寝ぼけつつ目を覚ましたものの、寝袋の中で抜け出すことも起きることもできずに一転する。


 その脳天に釘バットがギロチンのごとく振り下ろされたのを、狼がスライディングして雛阪を蹴飛ばしたことで回避させた。



「な、なにごと~~なんですか!?あわわ、止まらない~~~」


「おい、感謝しろカイト・ボーイ。お前さんの命を救ってやったヒーローを称えるんだな。ーーンで、ミス・跳ねっ返り。うちのペットをなんで殺そうとしやがったんだ?」



 誰がきたのやら、狼のキックで余計に部屋を転がった雛阪はようやくクローゼットに腰を打ち付けながらも、やっと静止する。


 幸いに寝袋のおかげで腰は無事だが、目が回って余計に状況が謎だ。


 悪魔が襲ってきたのなら、気配で気がつくはずだがーーこれは寧ろ天使のオーラ。



「あらぁ、誰かと思えばこの野蛮なバカ狼なわけ!さっさとその低級悪魔の首を差し出しなさい、アンタもろとも葬るいい機会なわけ」


「あのなぁ、てめぇのお粗末なノーミソにゃ加護の契約の中身はすっかり忘却してアドリア海にでも浮かんでンだろーが、契約違反すりゃ”オズの魔法使い”がどーするか思い出せや。それに同胞殺して堕天してぇならとめねえが、お相手は俺はこうむるぜ、他所当たるんだな」



 つまりこれは、噂のコードネーム”アリス”か。


 遅まきながら雛阪の脳が動いて現状を把握しだす。


 つまり、さっきは対悪魔用兵器で攻撃されたわけでーー。



「うっわぁぁぁぁあ!!!僕死ぬとこだったんじゃないですか!!!寝てるとこを安楽死どころか、暗殺されかけたってことですね!?」


「把握がおッセぇぞ、少年。だから命の恩人だって言ってんだろーがよぉ」


「ガタガタ五月蝿いわけ。さっさと死になさい。加護のことならわかってるわけ。今すぐその身にあまる羽根をあたしが引っこ抜いて無効にしてやるから、死になさい」


「いよいよ頭が火星に飛んだか、このバカ野郎。ああ失礼、このくされビッチ。確認するこたできても、てめぇに無効にする権利なんざねぇだろうが」



 むくりと起きたのは、この騒音の中でも休息していた赤ずきんだった。


 アリスの目が赤ずきんを捉えて、彗星のごとく輝いたが赤ずきんは面倒そうに溜息をついただけだ。



「せっかくの休みの中どうしてこううるさいのかしら。ーーそういえばポンコツは未だ生きているの?」


「はい!!残念そうに聞かれて若干悲しいですが、生存しております!!」


「そう、ならいいわ。死ぬ機会はまだあるだろうし。ーーアリス、ポンコツをどうするかは私の判断よ。先走らないでもらえる?これでもいざという時に時間稼ぎに死んで私達が助かることがあるかもしれないのよ」


「人身御供みたいな扱いですけど、止めてくれてありがとうございます、って言いにくいフォローですけど、感謝しますぅ」



 ようやく寝袋から抜け出した雛阪は、釘バットを持ったブロンド美少女の姿をようやく見ることができた。


 赤ずきんに叱られて、どうやらその蒼い瞳には涙が浮かんでいる。


 見た目小学生の赤ずきんと、女子高生のアリスだが、予想以上に赤ずきんのシンパのようだ。



「まず、玄関で綿あめ食べてるチェシャ猫を中に入れてあげなさい。ドアはアリスが弁償すること。狼、仕方ないからポンコツのおもりをお願いね」


小僧の子守ベビーシッターか、やれやれ。この女がくると毎度ハリケーンが発生してるじゃねぇか。ここはルイジアナかニューオリンズか?」


「東京で僕の家ですけど、避難させてください。僕死にたくないんで」


「野郎にひっつかれる趣味はねぇんだがな。アホの国際見本市みたいな物騒な事態だ、しゃあねえ。脳天とばされないよう、しばらくコットンの肩に止まってるオウムみたいに静かにしてろ」



 なんと言われようとも、雛阪の命がいつ飛んでもおかしくない状態なので、雛阪は狼の幅の広い背中に隠れた。


 するとアリスは引き返し、玄関のドアががしゃがしゃ鳴る音がして、7色の綿あめを食べながらゴシックファッションの少女が入ってくる。


 どうやらここに直行する前に、竹下通りにでも寄ってきたものらしい。


 問題は、重そうな楽器ケースと、室内に厚底ブーツなことだが、未だチェシャ猫のキャラが掴めない雛阪は無言を保った。


 足跡は拭けばなんとでもなる。


 しかし、命は一個しかないのだ。



「チェシャ猫、靴を脱いで玄関において来なさい。ここでは脱ぐのよ。いい?」


「……わかった。……久しぶり、赤ずきんも狼も……」



 しかしチェシャ猫は綿あめが優先らしく、巨大なお菓子を食べているまま。


 狼が、がっくりと脱力した。



「あっちのイカレポンチも何だが、おまえさんのマイペースぶりは何世紀たっても変化ねぇな。そのクレイジーなわたコットンあめキャンディーはどっか置いて先に靴を脱いでこいや」


「……どこ置くの?」


「テーブルでも花瓶でもバケツでも、どこでも好きなところにおけばいいだろうがよ。あのなぁ、俺は本来こういう役回りするキャラじゃねえんだって。スットコドッコイが来るとなんでこうなンだよ。不本意にも俺が善良みたいじゃねぇか」


「あのぅ、よかったら僕お皿だしましょうか……?テーブルに直は嫌だろうし……」


「こンのアホ!!」



 髪の毛数本の差で狼が雛阪を背後に放り投げる。


 さっきまで雛阪がいた場所には、凶悪なモーニングスターがめり込んでいた。


 顔面から窓ガラスに激突した雛阪だったが、振り返って血の気が引く。



「チェシャ猫は、人見知りがナイーブの()()()()してンだよ、まして加護持ってても悪魔のカイト・ボーイみたら反射で攻撃してくるに決まってんだろーが、だから黙ってろって言っただろ!」


「先に言ってほしかったですよ、理由をーー!!でも狼さま大恩の天使さま、感謝しますーー今日だけであと何回死にかけるんですかぁ、僕」


「知らん、あの血の気が多い阿呆ども次第だ。いいから静かにしてろ、次はアレが少年のケツにぶっささってミンチになっても、俺は責任取れねぇぞ」



 チェシャ猫は目が座っている、凶器もまだ握りしめたままだ。


 赤ずきんは溜息まじりにベッドから飛び降りると、チェシャ猫のスカートを引っ張って勢いよくかがませると、そのまま激しい頭突きをかます。


 思いもよらない攻撃に、チェシャ猫が額を押さえている間に、赤ずきんはモーニングスターをコップでも拾うようにして持ち上げて狼へ放った。


 それを受けた狼は、ぶっそうな武器を雛阪が脱皮したあとの寝袋の中に放り込んでベッドの下に蹴込む。



 ーーけど、さっきの釘バットといいモーニングスターといい、特注武器ってことはかぐやさんの……?どういう趣味でこんなモノを渡したんだろう。


 ーーだから言ったろうが、アリスが猪型の凶暴タイプなら、かぐやは笑顔で殺人鬼に得物をあげる変人女だ。ほんとにおまえは表面で騙されてンなぁ。



 また心の中を覗かれているのか、とは思うが、雛阪がうかつに発言すると実際にミンチになりかねないので、今は念波で会話できる有り難みを噛みしめた。



「いい?チェシャ猫。あのポンコツは私と狼のペットでゲボクで使い捨てできる便利なアイテムなの。よく見れば加護が多いのがわかるでしょ?いい加減慣れなさい。ポンコツの情報はデイライトで知ってたはずでしょ。脊髄反射みたいなことしてると、いい加減私が怒るわよ」



 酷い言われようだが、命が助かるなら今は何も言われてもいい。


 雛阪カイト、あくまで死にたくないのだ。


 そして戻ってきたアリスを見て、また反射で狼のティーシャツを握りしめてなるべく姑息に隠れる。



「赤ずきん様、申し訳ないですーーその、無断でお邪魔したことを謝ります」


「ゲボクのポンコツを勝手に殺しかけたこともね。そうねーーどうしても納得できないなら、勝負なさい。アリスとチェシャ猫が納得できる2本勝負でいいわ」


「勝負!?それで勝てばそいつを殺していいわけなのです!?」


「残念ながら、もうポンコツはかぐやの加護もあるわ。そうね、勝てばかぐやかシンデレラのところに梱包して私達の羽根は回収してもいいわ」



 アリスはあくまでも赤ずきんの傍に悪魔がいることが許せないようだ。


 前のめりに、勝負に前向きな姿勢を見せるが、雛阪としては色々と不利な予感しかしない。


 そもそも梱包という時点で生きているのかあやしすぎる。



 ーーうちのひめさん侮るな、少年。まあ、見てろ。



 狼の声に、遺書を書くべきか書いたところで渡す相手もいないのだが、という計算を始めた雛阪は、首をかしげて赤ずきんを見た。


 赤ずきんは雛阪の視線を無視したが、これはどうも二人の念波は聞こえている。



「いい、簡単な勝負よ。一つは私の好みの紅茶を淹れること。次はデザート勝負よ」



 天使と悪魔の謎の勝負は、こうして赤ずきんの一声で始めることになった。


雛阪、再び死にかける。毎度のことですね!(おい

次回も平和な話になります。

天使と悪魔の料理対決ww

狼のコットンの上のオウムーーというのは、パイレーツオブカリビアンのネタです。

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