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赤ずきんが真実を語ったのかどうか誰も知らない  作者: 相木ナナ
「王子だからといってイケメン補正をかけるのはやめてくれ」(各王子より)
15/18

「レイニーシティー」


「誰かにものを

教えることなんてできない。

できるとすれば、

その人が自分で気づく

手助けをすることだけだ」


ガリレオ・ガリレイ


 

 収斂するその黒い体を鞭がそのまま締め上げる。


 たちまち腐臭が部屋中に広がった。



「悪行の山で、腐った魂ではさぞかし煉獄でも臭うでしょうね。二度と還れないよう、送ってさしあげます」



 シンデレラの鞭が食い込んで、まるで生身の人間に焼きごてをあてるかのような悪臭と臭液が立ち上る。


 白王子は、ささげていた十字架をベッドで倒れて伏したままの子供に当てた。


 悪魔の断末魔が消えた刹那、十字架が子供の傷を光りながら癒やし始める。



「さすが”白雪”のキットですね、無事に怪我も直るでしょう」


「君のハッタリに騙されてくれて良かったよ、相手は第八圏の高位悪魔だからね。もう少し手こずるところだった」



 溶けて消えた悪魔の臭いに、顔をしかめたままシンデレラは眼鏡を直した。


 10分ほどすると、あれだけねじれたはずの首まで元通りになり、疲れたがぼんやりとした表情に戻ったドミニクが不思議そうに二人を眺める。



「私はご両親を呼んで参ります」


「ああ、よろしく頼むよ」



 シンデレラが外に出ていき、白王子が懐から別の十字架のネックレスを出すとドミニクの首にかけてやった。


 少年は、それを手の中で遊ばせながら白王子を見上げる。



「それは君を守る大事なお守りだ。つけててくれるかい?お願いだビッテ



 ドミニクは未だ不明瞭な顔ながら、ネックレスを握りしめた。


 もう悪魔が憑依して傷をつけた跡などどこにも見当たらない。



 泣き声と悲鳴をあわせた声で駆け込んできたのは、母親だった。



ナインナインナイン……ドミニク!!ああ、良かったーー」


「感謝します、神父さま、シスターさま……」



 涙を浮かべたコンラートが、白王子の手を両手で握る。


 とめどなく泣くコンラートを、白王子は黙って微笑み返した。



 悪魔に憑依されていた記憶がないドミニクは、ユリアンナに力いっぱい抱きしめられて、困惑している。



やめてニヒト痛いディーザー・シュメルツ……ママ?」


「あなたに何かあったらと思ったら……嗚呼、神様、感謝します……」



 憑依されてからずっと耐えてきた気持ちは、天使たちには推し量れない。


 二人の天使は憑依専門に悪魔を倒しているが、その苦しみをまとめて同じ感情などには出来はしないのだ。



 そっと退出して、空港へ向かう。


 悪魔憑きの情報はかなり多い。


 これからまた次の場所へ向かわねばならなかった。



「ああ、報告をあげといたけど、興味深い情報があったよ、シンデレラ」


「なんでしょうか?」


「少し前に君が悪魔に羽根をあげたことがあったろう?アメリカに居た時だったかな、50年かそれより前だったか」



 白王子の言葉に、シンデレラは白い額に指を当てる。


 そして、眼鏡の奥に理解の色が広がった。



 滅多にないことだった。


 憑依を落としたものの、連続殺人鬼シリアルキラーとして名高かった相手は牢に送り込まれた。


 憑依の相手は倒した。しかし、やりきれないのはいつものことだ。


 シンデレラたちの仕事はいつも、被害が出てからでないと報告がこない。


 大抵が手遅れでしかなかった。



 その帰り道に、死体に怯えているかのような小さな悪魔を見つけたのだった。


 声をかけたのは気まぐれだ。


 千年以上、悪魔を追い続け狩り続け、天界からの力も減ってきている。


 悪魔は人の悪の思念につけ込み、戦乱を呼び、穢れを伝染の限りに人間界に浸透させてきていた。


 仲間も少しずつ減り、悪魔との殺し合いは今や天使全体が劣勢。


 真面目なシンデレラだけでなく、全体に消耗の色が強い中、人間の死体に喜んで食べようとする悪魔以外のものなど、長生きしていても見たことがない。



「何故、人を食べないの?」


 見つけた悪魔は小さく、まだ力も弱かった。


 天使であるシンデレラが近づいただけで消えてしまうほどなのに、何故人間を食べないのか。


 小さな悪魔はいやいやをするように、身を震わせた。



「食べたくないと解釈しても良いのかしら」


 そんなはずがない、悪魔相手にーーそう思って問いかけたが、悪魔からは肯定の意思が伝わってくる。


 そもそも天使を相手に、悪意も戦意も見せていない。それだけでも異色。



「本当にそれを約束していけるのなら、私の羽根の加護を与えます。人間に化けられるくらいはできるでしょう。そしたら悪いことをしないのですよ」


 そう言って、シンデレラは加護の羽根を与えたのだった。


 そして当時はアメリカだったので、アメリカ人の名前を与えて人間の世界で破ってはいけないことを教えた。



「あの時の悪魔が、なんと人を食べないまま60年生きてきたようだよ、君の言い付けを守って、人を食べずに攻撃もせずに」


「そう、でしたかーー」



 あの後、シンデレラは悔いていたのだった。


 迂闊に悪魔を信じて加護を与えて、もしあのときの姿が欺いていたのだったら。


 悪魔はそうした心につけ込むものだとよく知っていたはずなのに。



「しかも、赤ずきんと狼の秘密情報提供者になったそうだよ。赤ずきんたちと、なんとかぐやからも加護を貰って羽根を4枚もある悪魔なんて信じられるかい」


「え、真逆ーー」



 相棒である白王子は、穏やかに笑む。



「たまには報わることもあるということだね」


「ええ、そうですわねーー神に感謝せねばなりません」


「今は日本で雛阪カイトと名乗っているらしい。姿と名前と居場所はこまめに変えるよう、それも君の指示だったね」


「雛阪、カイトーーそうですか、あの子が」



 ウィリアム・キース、成長したのですね。


 そう呟いたシンデレラの声は、喧騒の中パートナーの耳だけに届く声だった。


このドイツ編、なにが頑張ったって一切の辞書を使っていない!!ので、ドイツ語だけでも褒めてほしい(おい)雛阪の過去というか、誕生秘話というか、まあ皆様どうでもいいと思うのですが、シンデレラとの出会いが明かされました。委員長と副委員長みたいなソツないペアで、少し面白みに欠けてしまったかなぁ・・・・・・。

次回、そんな雛阪に刺客?が。新章!!

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