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赤ずきんが真実を語ったのかどうか誰も知らない  作者: 相木ナナ
「姫よ、竹から生まれて何故月に帰るのか理由だけ教えてくれ」(かぐや姫)
12/18

「ブルームーン」

「ほんとうのことを言うよ

ぼくらの

人生は短いのさ

そう

夢はながいけれどね」 



ジュール・ラフォング『最後のひとつ前につぶやくこと』より


 

 レンタカーを借りる時も、相当に天使たちの機嫌は治っていなかった。


 返却は近くの同じ店舗ならどこでもいいという利便性で借りたのだが、赤ずきんは自販機で買った紅茶がまずいといい、狼は日本車なのがダサいといつまでも不平を言っている。



「こんな子供のおもちゃみてぇな車じゃなくて、せめてシボレーとか、キャデラックとかねぇのか」


「そんなもんレンタルできるわけないじゃないですか!しかもシツヨウにアメ車推しやめてください。日本車は世界に誇る技術ですよ」


「自販機においしい紅茶はないの?ポンコツが作れて何故自販機にはないの?」



 雛阪の作る紅茶は、けっこう手が混んでいる。


 一般家庭でもそうそうでないであろうものを求められても、雛阪にはどうしようもない。


 運転する背後から空き缶が雛阪に当たるのは、かぐやのところでの色々が気に触っているのだろうと雛阪は諦めた。



「ほんっとにーこの辺なんだろうなぁ?俺には延々と田んぼと森しか見えてこねーぞ、日本のナルニア国かここは」


「気配がして、だから新幹線降りたんですって!レンタカーで東京まで帰るほど物好きじゃないですよ!」



 窓をあけてタバコを吸っていた狼がスマホを取り出す。


 田舎の道はすれ違う対向車もほぼない。



「ゲッ、マジかよ。悪い知らせと悪い知らせ、どっちが聞きたい?」


「いやいや普通はいい知らせか悪い知らせですよね!?ほぼ一択ですよね!?」


「運転に集中しろ、少年。スイート、アメリカからアリスどもが来るってブレイキング・ニュースがきたぞ」


「……めんどうだわね」



 赤ずきんのローテンションにも、いい反応か悪い反応かはもう雛阪でも分かる。


 これは悪いほうだ。


 仲でも悪いのかと思うーーかぐや的な意味な苦手さとか。



「アリスはうちのひめさんの熱烈なおっかけだ。俺と小僧は、っつうか小僧は9割殺されるぜ。悪魔専用のER~緊急救命室でも予約しとけ」


「9割ってもうほぼ死んでますよね!?僕がなんで会ってない方に処刑されるんです!?そしてそんな便利な病院僕は知りませんッ」


「チェシャ猫は未だ無害だからいいけど、アリスは悪魔が嫌いだし。狼も嫌ってるわ」


「そりゃあ悪魔好きな天使なんかいないでしょうけども!かぐやさんみたいに会えばわかるとかないんですか!?」



 バックミラーごしに、雛阪は契約天使たちが揃ってお手上げの顔を浮かべたのを見た。


 つまりは赤ずきんのように威嚇射撃なんかでは済まないレベルーーしかも天使仲間の狼でさえ嫌われるとは如何なる理由か。



「アリスは私とペアを組みたいみたいなのよ。チェシャ猫もいい子なんだけど、昔から私のペアの狼が嫌いなのよね」


「はっ!!そういえばナチュラルに会話してましたけど、また僕の心の声覗いて会話してるじゃないですか!!」


「便利でいいだろ、Win-Winな仲でな」


勝利ウィンしてるのはそちらだけなんですけど!!」



 一体どれだけ恐ろしい天使がくるのか。


 そもそも赤ずきんたちという大天使にあってから、不思議で刺激の強すぎる日々しか起こっていないのだが、一番危険な香りがする。


 コードネーム、アリスとチェシャ猫について考えていた雛阪は、急速に悪魔の敵意に気がついた。



 むしろ、相当に迫ってきている。向こうから。


 近いです、と告げる前に雛阪は、心を読まれていることをまたも失念していた。


 窓から黒髪をたなびかせている狼の手には既にグロックが、赤ずきんは貰ったばかりの機関銃を取り出している。


 そして、軽々と車の天井に片手で穴をあけてしまい、賃貸の車はオープンカーと化した。



「あああああ、レンタカーがァァーーーー!!!」


「騒ぐな、小僧。第5圏以上の気配がするぜ」



 もうすぐそこに気配はある。


 雛阪はかぐやに貰った箱を運転しながら必死に探った。



「ポンコツ、頭をさげなさい!」


「ええええ!!!運転は!?」


「小僧、アクセルだけふんでろ、ハンドルは俺が」



 頭を下げて下に潜り込もうとした雛阪は、()()()()()()()()()老人の顔をみた。



『そう焦りなさんな、お若いの』



 車が横転する。


 視界が回転する最中に、雛阪は必死に箱をあけてアーミーナイフをつかもうとした。


 横転する車内で、焦る手元から箱は滑っていく。


 そして上からはこの状況下でも銃弾爆撃の音。



「あいにくここは、ユニバーサルスタジオでもなんでもないんでな。俺を回転させても何も楽しくねえから観覧料は払わねぇぞ!Beat itうせやがれ!!」



 窓ガラスが割れて、雛阪は首を締め上げられるのを感じた。


 必死に手を伸ばすーーその指先にアーミーナイフが触れた。


 放り出されるようにして、首を掴まれたまま老人の姿をした悪魔に引きずられる。



「カタリスね、ポンコツを離しなさい!」



 今もしかしなくても、人質にされているのか。


 狼が蹴り飛ばした半壊の車が吹き飛んでくるのを肌で感じながら、雛阪は特注アーミーナイフを老人姿の悪魔、カタリスの肩に突き刺した。



「レンタカーをこんなボコボコにして、あとで僕がどんだけ大変だと思ってるんですか!!」



 半ば八つ当たり気味に叫んでから、雛阪は滑るナイフを持ち直した。


 僅かに緩んだカタリスの手に、もう一度ナイフを突き刺して、雛阪は土手を二転三転する。



 赤ずきんの機関銃がカタリスを狙って死の弾丸を連射し、狼のグロックが心臓を狙った。


 カタリスは老人の顔のまま、首や手足が異常に伸びていく。


 グロテスクで醜悪な姿で、天使たちの銃弾を避けながら雛阪を狙う。



『殺戮の天使の手先にしては、可愛がられているじゃないか。その手足を、首を、骨を、腸を、血を、寄越せ』


「残念ながら、その手の勧誘はお断りです!!」



 しなやかにジャンプしながら魔の手を回避するが、カタリスの手は天使の攻撃をかわして執拗に雛阪を追い続けた。



「ムリムリムリ!!!もう捕まりますよ!狼さま、赤ずきんさま、助けてください、本気でやばいーー!」


「ガタガタぬかすな、カイト・ボーイ!『24』のジャック・バウアーになったつもりで逃げろ!」


「こんなのキーファー・サザーランドでも、ムリですッ!!」


「ンじゃあ『プリズン・ブレイク』のつもりで必死に逃げろ!!」


「あれは頭脳派脱獄でしょう!!僕にはそんなセンスないですから!!」


「うっせぇ!!マイケルが無理ならリンカーンになれ、ティーバックでもいいぞ」


「どんどん悪化してくんですけど!?」



 躍り上がった狼が、カタリスの脳天に銃床を叩きつける。


 ゴパァと黒い液体が散ったが、カタリスの速度は衰えない。


 顔をかすめたその腕をかいくぐり、無我夢中で雛阪がアーミーナイフを鋭いスナップでカタリスに投げつけた。



「どきなさい、今すぐ蜂の巣にするわ!」



 雛阪の腕を掴んだまま、狼が飛翔する。


 赤ずきんの手の中で、狼のスミス・アンド・ウエッソンの銃口が光った。


 そして、空中からはグロックが同じ場所へと狙いを絞りきっている。



「くだばりやがれ、化物フリークス!天使様が最高の悪夢ナイトメアを見せてやるよ」



 カタリスの脳漿が二度、割れ飛んだ。


 そして、光る弾丸が心臓を撃ち抜く。



「人の命に味を占め、罪を重ねること何百年。業の深さと同じだけの()()()()()()消し飛ぶといいわ」



 黒い塊は、伸縮しながらもその腕から溶け始めた。


 狼が、液状化していくその部位に、火の消えたタバコを口から飛ばす。


 そして、無造作に顎だったあたりを引きちぎった。



「カイト・ボーイ。お前さんのだ」


「な、なにがですか」


「ナイフの狙いは、まぁまぁ良かったようだな。及第点をやる、ただしこれから退治しようってときに飾り物の中にお上品に閉まってないで、そのケツにしっかりいれとけ」



 渡されたアーミーナイフを、雛阪は収納してから地面に座り込む。


 新しいタバコに火をつけようとした狼は、中身が空なことに気がついて舌打ちをした。


 赤ずきんはバックパックに得物をしまうと、座っている雛阪を見る。



「生まれて初めて攻撃なんかしましたよー、見てください、この手の震え!」


「さっさと立ちなさいよポンコツ。座っている暇はないわ。カタリスの根城にしていた場所を、デイライトに報告しないと。人間に怪奇ニュースとして報道されるのよ」


「そんなぁ、今すぐですか!?」



 足元がおぼつかないまま、人間の血臭とカタリスの残り香を追って雛阪が歩きだす。


 狼は、少女の姿の相棒を見やった。



「今のは”よくできました”の意味か、相変わらず素直じゃねぇなぁ」


「生まれて初めて、のワリにはよ。そのニヤけ面をひっこめなさい」



 真夜中の田舎道を1時間歩いて、カタリスの拠点を見つけたあと。


 壊れたレンタカーを思い出して雛阪が絶叫するまであと1時間15分だった。



 .

いろんな狼のドラマ知識がでましたね。「24」とか「プリズンブレイク」とか「ナルニア」とかw

雛阪が初のアクションシーン、まあ、頑張ってたほうだと思います。なんか赤ずきんが地獄◯女みたいになってしまった・・・。

グロより、アクション多めに盛りましたので、スプラッタ期待していた方は申し訳ないです。

せっかく武器もらったのでお披露めということで。次回からは新章シンデレラ編です。

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