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『異世界食堂』 だいありいず  作者: 江戸屋猫七
6/12

ほら吹き大根

のんびり、とろーりの姫、アーデルハイドさんと側仕えのハンナさんのお話。

お料理がメインのはずなのに、毎度関係ないお話ですみません。

「失礼いたします、皇女殿下」



 皇女殿下の寝室の扉をノックする。

 返事がないので、失礼しますといいつつ、勝手に入らせてもらう。


 部屋の出窓を開けると爽やかな風が運ばれる、緑に囲まれた美しい離宮。


 いるはずの皇女殿下が、いつも七日ごとに行方知れずになる、今日がその七日目。

 当初は、姿が消えると毎回のように大騒ぎになっていたようだが、今では召使の誰もが『いつものこと』として当たり前の風景の一部となっている。


「また、どこかにお出かけかしら。今のうちに掃除してしまいましょ」


 寝室の掃除といっても、大してやることがない。

 シーツを新しいものに取り替えて、古いものをたたむ。

 風に運ばれた砂ほこりは皇女殿下にとって大敵であるので、水桶に浸した清潔な布で家具をきれいに拭い、箒で床を掃き、その後で床を磨く。


 この部屋の主は、ものを散らかすことも汚すこともしない。

 朝の挨拶に伺うと、皇女殿下自らが丁寧に寝巻きをたたんでいたりするので、恐縮してしまう。

 もう少し働きがいがあるように寝巻きを放り投げていたり、手紙を散らせてくれても良い気がする。


「これで、よしっと」


 ひと通り、床もきれいに磨きあがったので満足して、掃除道具の後片付けをする。


 以前、大地の神を信仰する神殿で、司祭の修行をしていたので、こういう掃除も苦ではない。

 古いだけが取柄の貧乏貴族の娘である私は、口減らしのために神殿へ出され、さらに苦しい家の事情で呼び戻されて、帝都の宮殿へ勤めることになり、苦しい家に仕送りするようになった。

 もう家には戻れないだろう。


 ある意味、病がうつっても問題ないと、家からも宮殿からも『都合がよい』と思われた私が選ばれ、今はこうして皇女殿下の身の回りをお世話する側仕えをしている。

 運命とは不思議なものだ。

 まさか、こんな日々を送るとは思ってもみなかった。

 私は今の静かで不自由ない生活を幸せに思っている。


 最後に寝室を見回し、自分の掃除の出来に思わずうなづくと、寝室を後にしようとする。

 そこで視界の一部に違和感を感じて立ち止まる。


 寝室に重厚な黒い扉がそこにある。猫の絵がかかれており、離宮のどこにも、これと同じ扉は使われていないし見かけもしない。


「これ、何かしら?」


 宮殿や離宮の中は秘密の部屋や有事のための隠し通路があるという。

 うかつに触れてはならないと宮殿に勤めていた頃から申し付かっているので、興味本位で覗いてみたり、手にかけることはしない自制心を持っている。

 きっと、そういった類の何かなんだろう。

 私は、自身にそう言い聞かせていた。


 部屋に戻ろっと。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 私が宮殿で最初に拝謁した時の皇女殿下は、咳がひどくて会話もままならない状態だった。

 青白い顔、細く長い手足、笑みを浮かべようとした途端、激しい咳で苦痛に満ちた表情になっていた。

 その後、離宮に療養に移られてからも、静けさの満ちた夜中に、時折聞こえる泣き声の主は皇女殿下ではないかと思う。


 今では、皇女殿下のその当時の姿を思い出すことも難しい。

 もう咳も出ることもなくなった。

 美しく血のめぐりもよい健康的な白い肌に、こぼれる優しい微笑。

 失礼きわまりの無い言い方ではあるが、城下街を町娘の姿で歩いていても、自然に人々の視線が集まるだろう。



 次の日の朝、皇女殿下の寝室へ挨拶に伺うと、とろけたような甘い笑みを浮かべていた。

 昨日は何か良い事があったようなのか、いつも以上に幸せそうに見える。


「おはようございます、皇女殿下」

「おはよう、ハンナ」


 寝巻きから普段着の着替えを手伝い、髪に櫛を通す。

 身の回りのお世話が済むと、用意していたお茶を入れ、朝食の伺いをする。


「お食事は、寝室でされますか? 大広間そばの晩餐の間でされますか?」

「ここでお願いね」

「承知しました。料理人に伝えます」



 寝室から出ようとしたところ、ふと、あったはずの昨日の黒い扉が見えないことに気づいた。

 厚手のカーテンが壁にかけていたが、扉がそこに隠されているのだろう。


 皇女殿下に伺うような話でもないので、私は首をかしげていた。

 失礼しますといって、外に出ようとした時に、背中から皇女殿下がお声をかけていただいた。



「ハンナ、お茶の時間に一緒に『シュウクリイム』を食べましょう」

「えっ、『シュウクリイム』ですか?」


 さっとに振り返るった私を見て、皇女殿下は笑みをこぼしていた。

 自分でも相当、にやけていたのだろう。


「ええ」

「はいっ」


 何だか今日もやる気が出てきた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 城で側仕えをたばねていた、どっしりとした恰幅のよい貴族夫人がいた。

 城内では、面倒見がよく、ダンシャクのように丸々としているので、『ダンシャク夫人』という愛称で人々から呼ばれていた。

 本人もそう呼ばれて満更でもなかったようだ。

 皇女殿下の身の回りを見る仕事を、私の家族がダンシャク夫人に懇願していたときには、夫人は困っていたが、私のことを良く心配してくれていた。


 そんな方より私宛に手紙が送られてきた。


「何かしら」


 側仕えやお手伝い同士も、小さな荷物や手紙をコッソリと離宮と宮殿でやりとりする荷物に紛れ込ませることはあるが、この手紙は蝋と紐で封印してある。

 正式な作法に則った手紙をもらうことは、貴族の当主同士でもまずない。

 よほどのことに違いない。


 刃物で手紙の一辺を丁寧に切って、中から手紙を取り出す。

 上等な紙に美しい字で、こう書かれていた。



 :  ハンナへ。

 :

 :  南の国より、姫様を望まれるとの使者殿が宮殿へ来られた。

 :  宮廷侍従長が追って離宮に向かう。

 :  姫様が息災なら一緒に宮殿へお連れするといっている。

 :

 :  姫様にお伝えして。

 :  時は無い。

 :

 :  あなたの『ダンシャク』より。



 あわてて廊下にでると、皇女殿下の寝室に向かって駆けていった。

 後で聞いた話ではあるが、私は誰に聞かせるわけでもなく、「皇女殿下、大変です!」を繰り返し叫んでいたらしい。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「皇女殿下、大変です!!」

「ハンナ、廊下から、しっかり声が聞こえてましたよ」


 のほほんとしている、いつもの皇女殿下だった。


「しっ、失礼しました、皇女殿下っ」

「一体あわててどうしたのですか?」

「こっ、これをご覧ください」


 手紙を受け取った皇女殿下は、いつもの調子で慌てることなく、「はあ」とか「あらあら」とか言いながら、何度か手紙を読み返していた。

 人差し指を顎にあて首をかしげた皇女殿下は、ぼそりといった。


「さて、困ったわね。 どうしましょう……。 うーん。 今が楽しいので、まだ嫁ぎたくないのだけど。」


 うーん、と声に出す皇女殿下はかわいらしいのだが、事態は猶予もならない。


 私も知らない間に皇女殿下と同じ格好をして、つぶやいた。


「困りました、どういたしましょう?」


 しばらく、二人で「うーん」の合唱を繰り返していた。

 合唱で頭が疲れてきた。


「いい考えが浮かびませんねぇ。 そうそう、ハンナ、お茶にしませんか。『シュウクリイム』を食べましょう」

「はい、皇女殿下。 少々お待ちください。 考え疲れた時には、甘いものを食べるに限ります!」


 お茶の用意を始めて、少し気分が晴れた気がする。


 皇女殿下のお知り合いの王族の方から贈られたと言う、魔法の力でいつでも冷たい空気がこめられている不思議な箱から、冷やされた『シュウクリイム』を取り出すと、艶やかな白磁の皿に盛り付ける。

 お茶を入れる前に、皇女殿下はさっそくひとつ手にとって頬張っていた。


「皇女殿下、お茶が入りました。 皇女殿下?」


 夢中なのか、かじりかけの『シュウクリイム』をじっと眺めている。

 穴があくほど、さらに眺める。

 じいいいいっと。


 皇女殿下が、「あっ!」といって目を見開いたかと思うと、『シュウクリイム』をまるごと口の中に押し込み、モゴモゴとひとつを平らげて、とろけそうな満面の笑みを浮かべた。


「ハンナ、いいことを思いつきました。病気のふりをするのです!」

「あの、皇女殿下、失礼ですが、見るからにすっかりお元気そうなんですけども……」

「そこは、こうして、えいっと」


『シュウクリイム』の1つを割ると、そこに入っていた白い『ホイップクリィム』を指ですくって、自分の頬に塗ってみせる。


「ほーら、顔が真っ白になったでしょう? うふふふ」


 皇女殿下が毎度の突拍子の無いことをしたので、口があんぐりと開いたままになった。

 確かに、化粧をしてごまかせば何とかなるかもしれない。


 さすがに、これを塗るとも思えないが、念のためにひとことご忠告をしておく。


「皇女殿下、とっても甘ったるいにおいがします。 しかも、ベタベタしてます。 虫が寄ってきても知りませんよ」


「いやですよ、ハンナ、『ホイップクリィム』をそのまま塗ったりしませんよ。顔色が悪く病気に見えるように化粧をすればいいんじゃないかしら」

「そうですね。 それに、咳を時々混ぜて話していただけると、それらしく見えるのではないでしょうか」

「うーん、咳が酷い時には、どういう咳だったか気にしていないから。 覚えていますか、ハンナ」


「確か、皇女殿下のは、こんな感じだったのではないかと……、ゲホっ、ゲホっ、ゴホっ……」

「げほ、げほ、げほ……」

「棒読みです、皇女殿下。 もうちょっと力強く、腹から声を出すように……」

「ええええ?」


 こうして、皇女殿下と私の演技練習が始まった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「皇女殿下、だいぶ、それらしくなってきました……」

「うーん、練習にしては一所懸命やりすぎて、けっこう喉が痛くなりましたわね」

「ところで、お顔に塗るものはどうしましょうか」

「そうねえ……、小麦粉を水に溶いたものをもってきてください」

「小麦粉ですか。少々お待ちください」


 厨房の料理人に不審がられながらも、大きな器いっぱいに、濃い目のどろどろになった小麦粉をもらって帰った。


「それでは、さっそく……」


 皇女殿下が両の手を器にスボリと入れると、ねっとりした小麦粉をすくいだし、まるで洗面するように顔に塗りつけた。


「どうですか? 白いでしょう?」

「白いのは白いのですが、ボタボタ落ちて、床がすごいことになっちゃっています」


 この離宮はそよ風が流れ、湿度もなく爽やかな気候。乾燥も速い。

 目と口が動いている以外は、一様に真っ白だったが、次第に、目も口も動きづらくなって、皇女殿下が手足をバタバタしはじめた。


「顔が痛い、痛い、いたいですぅ」

「皇女殿下、お待ちください。 今すぐ、はがして差し上げます」


 顔に手をかけると、スポンと塗ったところがきれいに外れた。

 まるで、お面のように皇女殿下のお顔の型が取れている。

 もったいないから、何かに使えないかな。

 お面を大量生産して村の祭で売ったり、『離宮名物、皇女殿下饅頭』とか作って土産物にできないものか。

 ん……もらって帰ろう。



「皇女殿下、もっと水で溶いて薄くしないとだめですよ、顔も動かないですし」

「そうしてください、顔が動かせなくて死ぬかと思いました」


 今度は、さらさらになるくらいに薄めて、皇女殿下が同じように塗ってみる。


「まあ、これは良いではないですか」

「皇女殿下、見えるところの手や首も塗らないと、ばれてしまいますよ」

「あらら、確かにそうですね。 それなら、浴槽に入れて全身に塗りましょう」


 突拍子も無い提案をしたあとに、いそいそと、私の前で服を一枚ずつ脱ぎ始める皇女殿下。

 一糸もまとわぬまま浴槽へと、ぺたぺた歩いていった。その後を私は小麦粉の器をもって追いかける。

 浴槽には今日の湯浴み用に水が満たされているが、かき混ぜながら器の中身を注ぐと、とろんとして白く濁っていった。


 するりと足から浴槽にはいり、最後にはザブリと白い水にもぐった皇女殿下。

 空気の泡がぽこぽこと現れる。

 しばらくすると、息が続かなくなったようで勢いよく立ち上がられると、全身がきれいに白くなり、彫刻のような美しい姿になった。


 ん……、一瞬、このまま素揚げにもできそうな御姿、と思ったことを黙っておこう。


「乾くまで、このままでいますね」


 裸体のまま、しばらく部屋の中で風と陽にあたると程よく水気がとれて、一様にきれいな白い肌となった皇女殿下は、姿見でご自分の出来具合を眺める。


「何とか少し白くなりましたわね」

「皇女殿下は元から白い肌をされていますので、あまりご病気になっているように見えないようで……」


 さらも皇女殿下が顔や腕をいろいろ動かしているうちに、夏の日焼けのように白い皮がぺりぺりとはがれてくる。

 面白いように薄皮をはがしながら、二人で「うーん」の合唱を繰り返していた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 そう、なるべく顔も全身も動かないでいただければ、ごまかせるかも知れない。

 それに、もう少し青白くした色になれば、ご病気らしくみえるのでは?


 皇女殿下にお伝えすると喜んでいただいたようで、さっそく小麦粉を青くする染料を求めるために、離宮の植物を扱う園丁のもとに向かった。

 青く染めるものが欲しいとお願いすると、乾燥させた花を大きな袋いっぱいにして渡される。

 皇女殿下が何か布を染めようと思ったのだろう。



 寝室に戻った私は、浴槽に花を何個か入れて混ぜると、白い液体が徐々に淡い青に染まっていった。

 水をかき回していた私の腕も実に不健康そうに……いや……まるで異国にいるという怪物、『ぞんび』のように見えてきた。

 隣でわくわくしながら見ていた皇女殿下が、寝巻きを脱いで浴槽に浸る。

 息が続くまで潜り、勢いよく謎のポーズをとって水から飛び出した。


 全身すべて不健全な、ほどよい青白い肌!

 完璧!完璧すぎます!

 だれが見ても、不健康な姿です。


 皇女殿下は姿見を覗く。


「皇女殿下、行けます! これで行けます!」

「あら、とっても病気になっていそうな雰囲気になりましたね」

「乾くとはがれてしまうので、体や顔を動かさないようにしてくださいね」

「ええ、わかりましたわ……」


 口をなるべく動かさずに、小さく返事をしていた。

 あとは、乾燥させて待つのみ。


 すると、ノックの音とともに、宮殿が宮廷侍従長が到着して、大広間で待っているとの声が扉の向こうから聞こえてきた。


「皇女殿下、お早めにお着替えを」

「わかりましたわ」


 塗った青い肌がバレないように慎重になっているのか、のんびりしすぎた皇女殿下のペースも相まって、遅々として着替えが進まず。


「あわてなくても大丈夫ですよ、大丈夫!」

「皇女殿下、この御召し物に、ゆっくり袖を通してください! 腕はそう、あまり動かさずに」

「見えないところは、気にしなくてもよいと思うのですが……」

「ああっ!皇女殿下、足は止めたままにしてください。右足をゆーっくり」


 いつもの十倍の時間と百倍の疲労感を感じた頃、ようやくお姿が整った。


 廊下を移動するにも、まるで操り人形のような不自然な動きをとらせて、慎重な動きをお願いした。


「皇女殿下、それでは咳をする時には、派手な動きはしませんように、お気をつけてください」

「わかりましたよ、ハンナ」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 離宮の大広間は晩餐や来客に使われる宮殿の大広間を小さくした部屋である。

 質素だが礼を失せず、風格を帯びた部屋のつくりと調度品は、それだけで威厳と威圧感を覚えてしまう。


 皇女殿下が足取りも重く、ゆっくり大広間に入るのを見ると、宮廷侍従長は驚きを隠せず、

「姫、お元気になられたと聞いていたのですが、おいたわしや、そのお姿……」

「爺か。はるばるよく、ここまでゴホッ、ゲホッ……」

「大丈夫ですか。本日は姫に城に戻っていただくよう、お願いに伺ったのですが、これでは……」

「すまない、爺。私はまだゲホッ、ゲホッ……」

「ああ、お顔色もあまりよろしくないようですな、どうなさったのですか、む、なんと、さきほどよりも急に青くなられているではありませんか。早くお休みになられたほうが」


 宮廷侍従長は慌てるわけでもなく、目は冷ややかに半目で、なかばあきれ顔で芝居がかって答える。


 皇女殿下の青白く不健康そうにみえた肌の色がみるみるうちに鮮やかな青へと変化していく。

 何事が起きているのかと、ざわつき始めた。


「そうさせていただきましょう。ゴホッ、ゲホッ……」


 指を握って拳をつくり、口元に当てようと動いた途端、腕からぺりぺりと音を立てて真っ青になった皮が破ける。


「あっ!?」

 ざわつきとともに大広間にいた人は一様に声を発した。宮廷侍従長は、苦々しい顔をして禿げ上がった額に手をあてて、ハアと重い息を吐き出した。


 逃げるように、私は皇女殿下の手を引いて大広間から出て行った。

 歩いた後には、点々と青い何かがばら撒かれていたという。


「皇女殿下、まずい、まずいです」

「まあ、困りましたわね」


 皇女殿下は相変わらず、のんびりされていた。




 寝室に戻ると、ドレスを脱いだ皇女殿下の体中にある真っ青になった皮をぺりぺりと剥がす。


 あれ?

 はがれない?

 爪をたててはがそうとすると、


「いたたたた、痛いです。 ハンナ、それは私の皮膚ですよ」

「え?」


 体中の小麦粉と染料でできた『はがれる皮』を剥がし終えると、そこには、ほんのり青く染まった皇女殿下がいた。


「あらあら、これは大変」

「緊張感がありませんよ、皇女殿下!」


 浴槽の水を全て抜き去り、新しい湯をたたえた。

 皇女殿下をエイヤッと放り込んで、青くなった玉の肌をごしごしこする。


「ハンナ、何だか前よりもお肌がすべすべしていますよ」

「青く染まっちゃっているんですよ、どうするんですか」


 ゴシゴシこすって、痛がられたので、今日はここまでにした。

 しばらく青いままでいていただく。



 園丁に相談しにいくと、こっぴどく叱られて、その後、あきれ返られた。

 体を洗う泡がでる植物の実をもらったが、それを使っても、ひと月くらいは青い色がとれないらしい。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「これはこれは、『ダンシャク夫人』」


 離宮から戻った宮廷侍従長の執務室に、『ダンシャク夫人』は姫の様子を伺おうと訪れていた。

 お茶を飲みながら離宮での出来事を語りあうと、生まれたころから姫を良く知るふたりは苦笑しあっていた。


 王国には、演技が下手な役者のことを、どう料理しても腹に中毒を起こさせないオオネにたとえて、『オオネ役者』、という言葉がある。

 それにしても姫は『オオネ役者』だというと、夫人は腹をかかえて笑っていた。あなたもでしょ、と夫人にからかわれる。


 夫人が辞去すると、机に向かい、国章が彩られた立派な羊皮紙に南の国へ送る儀礼書をしたためた。

 人から優雅な美しい文体だと褒められると照れくさいが、それが役に立つ仕事ができるのだから、うれしいことは無い。

 時季の挨拶と相手を褒め称える挨拶文を連ねた後、本題の

 姫の御輿入れの件、もうしばらくお待ちください

 と記して、組紐を巻き、王国の印章と封印を押して完成させた。


 陛下もそのようにせよと、同意なされた。


 姫も元気になられた。

 もう少し、元気な時を謳歌させてもいいのではないかと。


 ひとり、あの時のことを思い出しては、ほくそ笑んだ。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 チリンチリン。


「いらっしゃいま……、えっ!?」

「ごきげんよう、アレッタさん」


 異世界食堂の扉を開けると、当然その反応になるでしょうね、といった予想通りの反応を店員と常連の客たちにされた。

 珍しそうな視線と、驚きと、どうしたのという質問の山。


 今日は、砂漠の国の人で、兄妹でもあるシャリーフさんとラナーさんが先に着ていたので、同じテーブルの席について挨拶をする。

 ふたりは目をあわせて、苦々しい顔をしていた。

 よほど、カッファが苦かったのかしら。


 私の顔が青くなった話をいろいろすると、ラナーさんが笑い転げていた。

 シャリーフさん、相変わらず下をむいたままで、どうしたのかしら。


「おまたせしましたー、『ジャンボ・アラカルト・パフェ』です。ごゆっくり。」


 アレッタさんが重たそうに運んでくださいましたのは、今度挑戦しようとしていた夢のパフェ。

 ラナーさんも大きさに目を丸くして驚いてますね。

 さあ、今日も楽しくいただきましょう。






勝手に動き回って、ぜんぜん違うお話になったような・・・。

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