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戦鬼襲来

 

 この世界に於いて、およそ最強と云える存在の一つ。

 それこそが魔王・・。読んで字の如く、魔族の王を示す言葉であり、即ち頂点に立つ存在である。

 かつて神話の昔。神々が戦ったとされる大きな戦争があった時代。

 魔王はある邪神が世界を支配する為に作り出したおよそ考えられる限りに於いて、あらゆる種族を越えるモノであったという。

 神々は自身では世界に干渉出来ない。だからこその代理による争い。

 魔王という圧倒的な強者に対して、勇者、或いは英雄という存在が現れるまでの時間はまさに世界にとって闇の時代であったそう。


 私は憧れる。かつての魔王という存在に。圧倒的な実力にて全てを蹂躙出来るモノに、私はついぞ成り得なかったのだから。

 今や魔王、という呼称を名乗る愚物が何と多い事であろう。

 かく言う私とて、その愚物の一人でしかないのだかな。

 笑わせてくれる。今や形骸化した魔王、という存在。それでもそんなモノに民草が従うのだ。であれば私に出来る事はただの一つ。

 では、行くとしよう。仮にも魔王などという大仰な名乗りをした愚者として。敵となりし者共へ末代まで語り継がれる程の恐怖を与えんがために。



 ◆◆◆



 フリージアが混乱している様を丘より見下ろす一団がいた。

 夜目が利くのか、或いは潜む為だろうか、一切の灯りを使うことなく佇む姿はまさに異様そのものだろう。


「王よ、潜入していた死神共が、街の入口を開きました」

「うむ、であれば行くとしよう。第一陣を突入させぃ」


 その号令を契機として、突如、静かな丘陵地からドン、ドン、という太鼓のような音が打ち鳴らされる。

 フリージアの、防衛に当たっていた人々もまた、事態を理解した。

 何故なら…………丘を下って向かってくる一団。黄色い肌をした巨体が迫るのが確認出来たから。

 それは魔族の中でも極めて強力とされる種族。戦鬼オーガの軍団であった。


「突撃せよ、門を打ち破れッッッ」

 そう声をあげるのは、人間と比べて二回り以上は大きなオーガの中に於いて、更に一回りは大きな個体。どうやら指揮官らしく、黄色い肌をした他の個体と違い、緑色の肌をしており、剣を握りしめている。

「ウオアアアアアアア」「グルウアアアアアア」

 怒号に満ちた大音声が沸き上がって、門へと殺到していくオーガの一団。彼らにとって戦いにおける最大の武器は己が肉体そのもの。

 その硬く分厚い筋肉は鎧であり、また鈍器ともなる。肩を突き出して門へとぶつかっていく。その都度、門はミシ、ミシ、と軋みを上げる。

「まずい、門を守れっっっ」

 オーガによる体当たりは、まるで破城槌のような威力を発揮。

 一度に複数人もの肉の塊が衝突、当初こそビクともしなかった門だが、繰り返し繰り返し加えられる数トンもの生きた槌の前に、徐々に門には亀裂が生じていく。

「何としても通すなッッッ」

 警備に当たっている民兵達も、上から矢を射かけ、槍を突き出すものの、オーガの分厚い筋肉の鎧にはなかなか致命傷を与えるには至らない。

 そして、やがて門は…………。

 ズズン、とした音と共に突破される。

「いけ、皆殺しにせよ」

 指揮官の野太い号令と共にオーガの軍団が殺到し、ここにフリージアの門は完全に倒壊した。



 その様子を丘の上から見下ろす影が幾人かいる。

 人数は五人、その内三人は図抜けた巨体をしていて、一人はまるで子供のように小さく、残る一人は常人並み。うっすらと見えるその肌の色は三人が黒、小さな一人が灰色、残る一人は青。

「王よ、これで我らの目的は半ば達成されましたな」

 そう声をかけるのは、灰色のオーガ。その顔には深い皺が刻まれ、髭が伸びており、老人らしい。

「長老よ油断はするな。ここはかつて我らを率いしあのお方・・・・が遂に陥落出来なかった街だ。それに……」

 青肌をしたオーガ、王が指を指し示すのは、街へ攻めいった自軍へと向かっていく騎馬兵の一団。

 ドド、ドカカ、という蹄が大地を踏みしきる音と共に、背後から襲撃にかかる。

「むぅ、まだあれだけの騎士を抱えておったとは!」

 歯ぎしりしつつ、自軍が被害を出す様を口惜しそうに睨む。

「さすがはアラシだ。三十三年前もそうであったが、私にはあの者こそが英雄の中でもっとも手強く思える」

 かつて、大戦に於いて魔族の軍団から人々を守り切った小男の姿を思い浮かべつつ、呵々、と笑う。

「だがな、かつてのようにはいかぬぞ。今回は我らが勝つのだ」

 背後を取られ、数を減らしていく自軍を見ながら、王は姿なき好敵手へそう言葉を投げかけた。


 そして、オーガの軍勢へと突撃をかける騎士達を城門から双眼鏡で眺める壮年の男、つまりはフリージア王ことアラシもまた、嫌な予感を拭えない。

(なにか、おかしい。あの攻撃で確かにフリージアの街への損害は甚大だろう。だが、この城へ誰も攻め寄せないのは妙だ。これではまるで、背後を突けと促されているかのようだ)

 フリージアの街を守る為に騎士団を出陣させた。この事自体は仕方ない。如何に城が無傷であっても、国をささえる人民がいなくなっては意味を為さない。

(なら、一体何がある?)

 アラシは、務めて客観的に事態の推移を考える。

 目と耳を閉じ、仮に自分が相手だったなら、どうやってフリージアを攻略しようと目論むのか、と思索に耽る。

(もしも、オイラが攻めるなら、出来うる限り敵の戦力を削ろうとする)

 その為に国内各地で、襲撃などを引き起こす。これにより、各地へと救援の兵や物質を送る事になる。罠だと気付いていても、王である以上、人民を守らねばならない。

(で、攻める算段で、陽動を使う)

 まずは派手な目立つ部隊で周囲の砦やら街などを包囲。これを見殺しにすれば、城は孤立無縁とまってしまい、不利な状態になる。

(だけど、それじゃ時間がかかりすぎる)

 そこで取る手段は焼き討ち。街に火を放ち、灰燼と化す。

 それを防ぐ為に、騎士団を出陣させた。実際、オーガの軍団は押し込まれつつある。

(考えろ、オイラなら、この状況でどうする?)

 そして、ある考えに思い至り、ハッとして叫ぶ。

「マズい、城の守りを固めろッッッッ」


 そしてその声を打ち消すのような、ドオン、という轟音が鳴り響く。

 ズズン、とした振動で城が揺れ、そして、城を取り囲む城壁に穴が穿かれる。


「くく、一手遅かったな、フリージア王」

 オーガの王は口元を歪ませ、満足そうにかぶりを振る。

 その視線の先にあったのは、自軍とはまた別の一団。

 緑色の鎧をまといし、人間の軍団。そう、この一団こそが彼にフリージアへの侵攻を決意させた最大の要因。

「これで詰みだ」

 そして、オーガ王オーガキングは剣を鞘から引き抜くと、

「者共、これより総攻撃をかける。我に続けぇいっっ」

 雷声を轟かせ、馬上より一斉にフリージアの街へと襲いかかるのであった。


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