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リアル過ぎる感覚

 

 ああ、今日は何ていい日なんだろう。

 だってさ、これで皆が助かるんだ。

 何せ今やオイラの双肩にゃあ、一家郎党の生活がかかってるんだからよ。


 見えてきた見えてきた。


「よっしお前らついてこいや」


 そう言うとオイラは馬に跨がり、手下達に号令をかける。そう、オイラはここいらじゃ誰もが恐れる盗賊団の長だ。手下の数はおよそ六〇人。

 今まで色んなゲームをプレイをしようと考えていたオイラが、ここに来てから選んだのがこの所謂悪人プレイだった。


 最初は小さな窃盗から始めて、今じゃ国中から恐れられる大悪人。


「う、らあああああっっっ」


 手にした長剣で隊商の護衛を馬上から切り裂く。

 本当に痛快だ。

 こんなに手応えがあるゲームなんて今までなかった。


 しかしコイツは本当にVRゲームなのか?

 ここで見たり感じるモノ全てが、あまりにもリアル。


 こうしてここで生きる事かれこれ数年経過したわけだが。


 ゲームだってのにこの身体には色々とガタが来てやがる。傷はなかなか治りゃしない、病気になるとしんどい。とにかくもリアル過ぎる。


「う、おっっ」


 無数の矢が降り注ぐ。

 罠、だ。くそ、馬をやられた。走って逃げるしか……。


 ダメか、向こうから声が挙がる。

 そして姿を見せたのは王国の騎士団。それから、弓兵隊。退路を断たれたって事かよ。


「うららあっっっ」


 長剣を振り回しながら、どうにか活路を開こうと足掻いてみたが無駄らしい。

 手下達は続々と矢で射抜かれ、剣に斬り伏せられていく。如何に荒事に長けた盗賊団でも、完全装備の騎士団とそれを支援する弓兵隊に待ち構えられてはどうしようもない。


 キィン、という甲高い音はオイラの長剣があげた断末魔の叫びだ。

「く、がっっっ」

 相手はどうやら騎士団長らしい、周囲の騎士連中と比べても纏っている雰囲気が違う。


 周囲を見回す。

 もう誰も仲間は立っていない。

 全滅したらしい。ったく、呆気ないもんだな。


 まぁ、いいさ。

 オイラは充分にこの世界を堪能した訳だし。


 目の前に騎士の剣が迫る。

 何の躊躇もない一撃が迫る。


 ああ、これで死ぬのか。

 まぁ、今回は悪人プレイだったんだから、この次は善人プレイでもすりゃいいだろうさ。


 剣はオイラの喉元を貫き通し、そのままの勢いで何かが身体を離れて飛んでいく。

 冗談みたいにオイラの視点はクルクル変わっていく。


 ところでこのゲーム……リセットとかあるんかよ?

 じゃなきゃ、もしかしてし、ぬ……。


 By とある盗賊団長だったプレイヤーS・W



 ◆◆◆



 さてさて、どうしようか?


 周囲を完全に囲まれてしまった。

 人数は、ひいふうみい……うん。とりあえずは八人。ただしあくまでも視界に入った人数だけど。


「オウオウオウオウ」


 そう声をあげたのは一際大きな体格をしたモヒカン頭の如何にもそうです、といった大男。

 多分、いやほぼ間違いなくコイツがこの連中のボスだろうな。


 コイツだけは他の髭面連中とは違い、手斧じゃなくて剣を、それも大剣を鞘に納めている。


「テメェみたいなガキがワシらにケンカを売るとはいい度胸だなぁ、あああん?」


 ビリビリ、とした震えが鼓膜に響き渡る。

 連中のボスは、見た目としちゃオランウータンみたいな奴。面倒だからオランウータン、って名付けようコイツ。

 だってさ、ゴツゴツした見た目と毛むくじゃらのきったねえ身体は人間っつうよりも野生動物みたいだもんよ。


「オイ、ガキ無視くれてんじゃねぇぞ」

「く、ぐぐっっ」


 オランウータンが怒気もあらわに俺の胸ぐらを掴むとそのまま片手で持ち上げる。見た目通りの馬鹿力だな。


 それにしたって苦しい。何でこんなにも息が苦しいんだ? 何でこんなに相手の息遣いを生々しく感じ取れるんだ? おかしな事だらけだ、どうなってるんだこのゲームはさ?


「クソガキが、あくまで無視しようってのか。本当にいい度胸だな」


 オランウータンはそう言うと俺の身体を乱暴に突き飛ばす。勢い余った俺の身体はたたらを踏みながらも何歩か後ろに下がると、そのまま地面に尻餅をついた。


「よーしテメェら! このガキが泣き叫ぶまで痛めつけろぃ」


 オランウータンの声に髭面連中はおお、と声をあげる。

 おいおい、これはちょっとヤバい。逃げられない。

 武器は連中に取り上げられたし、地面の石ころじゃ、返り討ちに合うのが関の山だ。


 何とか、機会を待つしかない。

 コイツらが油断した隙を待つしかない。



 ガツッ、ゴスッ。

 鈍い音が響く。


 だけど、

「ぐあっっっ」

 どうやら……その考えは大分甘かったらしい。


 連中はひっきりなしに俺を痛めつける。

 油断とかそんな隙を窺う余裕なんざ全くない。

 アイツらはオランウータンの指示で三人一組で俺を殴りつけ、蹴りを喰らわす。


 俺がいるのは連中のアジトだろう。

 丸太小屋がいくつか見えるから、ここには以前集落があったのかも知れない。

 それがコイツらのせいでそうなったのか、別の原因なのかは分からない。聞こうにも猿ぐつわをされてちゃ質問するのも無理だ。


「く、うぐっっっっ」


 にしても、何なんだよコレはさ?

 全身が痛くて仕方がない。

 顔面、腹、背中、腰にまるで火でも出てるんじゃないかって位の熱を感じる。


 こんなにリアルな、リアル過ぎる痛み、とてもこれがゲームとは思えない。

「あ、ああ。ぐううう」

 猿ぐつわが外れた事で俺はようやく声を出せる。痛くて仕方ない。

「あああああああああっっっっっっっっっ」

 その途端だ、さっきまでとは段違いの激痛が全身を駆けめぐる。

 手足が柱にくくりつけられていなきゃ、地面を転げ回りたい。こんなに痛いのは、もう何年も前にリアルでケンカに巻き込まれた際に、不良連中によってたかって殴られた時以来、だ。

 いや、あん時よりもヒドい。


 あん時は何とか逃げれた。だけど今は逃げるどころかこの場で呻き喚くしか出来ない。

 それに、だ。

 コイツらはあん時の不良連中よりもずっとタチが悪い。


「おほっ、よく泣くじゃないかよ」

「いいぜいいぜ。もっと叫べよ」

「いっそ殺しちまおうぜ」


 髭面三人組は嬉々とした声と笑顔を浮かべながらこっちを見下ろしている。

 コイツらは楽しんでいやがる。俺、といういくら殴ってもいいオモチャを好きなだけ殴る事に没頭して笑っていやがる。

 そうして一人が手斧を手にしてこちらへと振り上げようとした時だ。


「おい、ソイツはワシがぶっ殺す。いくら痛めつけても構わないがそれだけは守れよ」


 オランウータンが小屋に入って来るなり、開口一番で手下達にそう注意をした。

「おい小僧、ずいぶんとまぁ……男前になったじゃないか」

 しげしげ、とした無遠慮なその視線、二つの双眸からは凶悪な光をぎらつかせている。


「る、せえよ不細工ゴリラやろ、…………うがよ」


 一切の嘘偽りもない言葉、これが俺にとっては精一杯の抵抗だった。

 唾も吐きかけてやりたかったけど、口の中がズタズタになっているのと、痛みが酷すぎてそんな嫌がらせすら不可能だった。


「く、クソったれがテメェ。どうやらさっさと死にたいんだかな。いいぜ、今すぐに首を叩き落としてやるさ」


 オランウータンはその顔を真っ赤っかに染め上げ、「よこせ」と、手下から斧を奪うとその刃先を俺の鼻先へと突き付ける。


「く、あぎゃあっっっっ」


 同時に俺の鼻に激痛。オランウータンの左の手の甲が直撃していた。情けない声をあげちまったけど、とんでもなく痛い。

 鼻が折れたか、砕けたんじゃないかっていう痛み。

 こんなん耐えられない。


「や、めてくれ」


 オレは屈しちまった。

 ああ、みっともないんだろうって思うだろうがもう我慢出来ない。痛いのはもう嫌だ。


「あぁん? よく聞こえなかったわ。なぁテメェらもそう思うんだろう」


 オランウータンの言葉に手下達はかぶりを一度、二度と振るう。


「まぁ、そういう事だからよ」


 斧を手にし。ニヤリと満面の笑みを浮かべつつ、

「や、めろ、やめて……」

 と懇願する俺の顔面、鼻先へ裏拳をたたみ込む。


「さあ、死んじまいなっっっっ」


 手斧がいよいよ俺を殺すべく、鈍い光を放つその野蛮ま武器が俺の首筋へと向かおうとした時だった。


「ぎゃああああああああ」「やめろおおっっ」


 野太い悲鳴にオランウータンは反応。

 斧を投げ出すと同時に、「ついて来い」と言うと小屋から出て行く。三人の髭面もまたその指示には素直に応じ、出て行く。


「く、何とか助かったかよ」


 今しかない。今、誰もいないこの隙を逃さずに、こっから逃げるんだ。


 オランウータンが放り投げた斧。それさえ取れればにげだせる。


「く、そったれ、が」


 けれど届かない。

 柱に縛り付けられた俺の拘束は厳しくて、そんな期待が如何に淡く、儚いのをこれ以上なく痛感する。


(ダメだ、このままじゃ絶対死んじまう)


 絶望的な気分。ゲームに過ぎないってのに。絶対死にたくない、と思っちまうのはどうしてだろう? あまりにも痛いからだろうか。それとも、…………。


 そんな事を考えている時だ。


「あ、いたいた。おいそこのヘタレな兄さん」


 その声はさっきまでの連中とは明らかに違う。

 思わず俺は顔をあげ、その誰かへ視線を向ける。


「へへ、どうやら間に合ったみたいだね」


 そこにいたのは、背の低い赤い髪をした少年だった。


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