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消えない疑念

 

 ん、何だろうか?


 心地いい、一定のリズムで程良く身体が揺れるような感覚。

 ガクン、ガクンと頭が動き、手足が少しばかり動く。

 何て言えばいいか、まるで乗り物に乗ってるみたいな寝心地────?


「ん、? わっ」


 目を覚ますといきなりの直射日光の襲撃に思わず顔を背け目を逸らす。

 ガサ、という音と共にチクチクと何かが刺すような感触。視線を動かせば目の前には無数に積まれた干し草がベッドみたいになっている。


「え、……草?」

「あ、ようやっくお目覚めかぜよ」


 聞き覚えのある独特な語尾は…………キリセだろう。


「う、うう」


 俺はゆっくりと身体を起こして周りを確認してみる。


 真っ先に見えたのは見覚えのある街道。ボコボコとしたお世辞にも褒められたものじゃない手入れの行き届かない荒れた道。

 とは言っても、こうした状態になっている事自体がここを使う商人やら旅人が多いという何よりの証左らしい。

 そう言えばこの前話したな。ええ、とあれは。



 ◆◆◆



「いいかネジ、道がデコボコしてるのは何でだと思う?」


 そう、俺がツンフトの依頼であの集落近辺に向かう途上でレンの奴がそう話を切り出した。


「え、そうだな。そりゃ誰も手入れしないっていうか、金をかけないからじゃないのか?」


 正直言って道の舗装なんて”向こう側”でもしょっちゅう見てた。だから道がデコボコしてる、って事自体が最初は信じられなかった。

 何でそんな事を問いかけるのか、意図が分からない俺が訝しんでいると、レンはフフン、と笑ってやがる。何だよ、何でそんなエラそうに笑ってる?

「ハッズレーー、ボコボコになるのは馬車とかの重さで土とかが沈んだりしちゃうからでしたぁ」

「あ、ああ。そっか」

「フッフー」

 そう言われてみればそうだ。向こう側の道ってのはアスファルト。で、ここの街道は土を平らに固めてるだけのモノだ。

 さっきからたまにすれ違う馬車を比べても様々だった。薪とかを積んでいたり、樽を一杯詰め込んでいるらしい馬車、それからそれから、馬車も一台の場合もあれば十数台の隊商だったり。そういった色んな重量のモノがこの道を通っていく。

 向こう側みたいに大小様々な道が整備されていない以上、必然的にフリージアへ向かう人やら物資は全てここに集約される。だから道が整ってるはずもない、って事か。

「じゃ、この道ってもう何年も手入れされてないって事か……」

「何で?」

「だってこんなボコボコなんだぜ、そんなになるって事はだな……」

「ハッハ、こんなのマシなほーだぜ。多分二週間位かなぁ?」

「──ハ?」

 思わず口を開けちまった。二週間、でこうなるのかよ? 恐るべしフリージア。侮り難し中世世界。

「じゃあ、一応定期的にツンフトの依頼で道の舗装ってのはあるんだ」

「そ、定期的に仕事があるってコトと報酬も悪くないって理由で結構人気だぜ」

「でも、そんなにいいのか? 人力で地面を整えるんだぞ? 人手がかかるんじゃ……」

「ブブー。精々二、三人でーす」

「え、そんなの無理だろ?」

「おやおやぁ、ネジくんは何も知らないのだねぇ♪」

「うぐ……」

 くっそ、何か知らんが今日はコイツに言い負かされっ放しだ。スッゴイ悔しいんですけども。

「土魔法だよ」

「土魔法、ああ……」

 そういう事か。納得した。大地に働きかけて効力を発揮する魔法。向こう側の世界でよくやっていたゲームとかだと敵の攻撃を遮断する壁を作ったり、または地割れとかで一気に倒したりしてたな。なる程、道の舗装、か。これは盲点だったな。まぁ、魔法って言われても今一つピンとはこないのはここには色んな特殊能力があるからだろう。



 俺が知ってるだけでも魔法、加護、で特典ことギフト。大きく分けるとこの三つが主だったモノらしい。

 魔法、はある程度なら誰でも使える一種の技術。もっとも訓練を受けなきゃならないらしいが。

 加護、ってのは特定の種族が生まれつき持ち合わせる祝福。魔法とは違い、先天的要素がモノを言う。

 ギフト、は完全に個々人で大きく違うので区別自体が難しいらしい。ただ、金髪エルフのロビンが言うには、「ギフト、については担い手自身の素養・・に左右されるとも聞く」のだそうだ。

 まぁ、つまりは個々人によって当たり外れとかどうしようもない部分があるらしい。


「あと、付け加えるなら【呪詛カース】というのもある」

「呪い、って事か?」

「ああ、特定の者を呪う。もしくは特定の場所を呪う、魔法や加護とは違う特殊な能力。

 普通に生きていればまず見る事はないであろう能力だ」


 何か気になる物言いだったが、ともあれそんな所らしい。

 魔法が一般的な技術。加護が恵み、保護。でギフトはランダムな異能、超能力って感じだろうか。呪詛はまんま呪い、だからまぁ普通なら関わる道理はなさそうだ。


 うん、そんな話をあの時してたなぁ。



 ◆◆◆



 意識を取り戻した俺はまずはあれからの時間経過について訊ねた。

 レンによると、どうやら俺はあの戦いが終わってすぐに意識を失ったままかれこれ四日ぶっ通しで眠っていたらしい。


 集落にはあれから二日残って諸々の事をしたそうだ。

 生き残ったのはたったの五人。

 レンが守った子供達と、キリセが隠れるようにいった別の子供達、そしてキリセ自身だ。

 キリセの家族はあそこで亡くなったのだそうで、身寄りを失った彼はしばらく俺達と行動を共にするのだそうだ。

 集落だが、ツンフトの依頼で騎士団が動いているらしいが再建はもう難しいらしい。子供達はフリージア近辺にある修道院で面倒を見てもらうらしい。

 ツンフトとしてもあの一件で生き残ったキリセには訊きたい事もあるだろう、という事で同行してもらってるらしい。

 で、今の状況だがこの馬車はキリセの家の持ち物らしく、それに乗せられて俺はここまで来た、という事だった。幌が付いてないので日射しをモロに受けるのが難点だな。夏とかだったらシャレにならない日焼けをしてしまいそうだな。




「…………うん、」


 俺のギフトが何なのか、それは未だによく分からない。

 何せ、本来なら俺がこっちの世界に来てすぐに説明・・があるべきだというのに未だにそんな機会がないからだ。

 ”案内役ガイド”が俺の前には一向に姿を見せない。

 ガイドはこの世界に来た来訪者ビジターに様々な説明をするのが役割。

 今がどういった世界情勢なのか、周辺にはどういった街があるのか。

 そして何よりも大事なのがギフト、について。

 自分がどういった能力を持っているのか、それを知らせるのが一番大事な項目なのだそう。

 そりゃそうだ。自分がどんな能力を知らないままじゃいつどんな場面に自分が何を出来るのか検討もつかない。

 切り札が分からないんじゃ自分が何処までやれるかすら分からない。


 とにかくも俺はかなり厳しいスタートなのは間違いない。

 っていうか少なくともこれまでに俺は二回、死んだはず。

 だが生きている。多分、これが俺の持つギフト、なのだろう。


 死んでも復活、ってまるっきり何かのラノベ、だよなぁ。

 ある意味チートもいい所だ。だけどそれだけじゃない気がする。

 俺は生き返った後、二回とも奇妙な感覚を覚えた。それはそれまでよりも全然強くなってる、って事だ。死から生還したらより強くなる、まるでどこぞの戦闘民族みたいだけど、強くなるのは一時的なモノだ。これじゃまるで複数の能力みたいにすら思える。


「ギフト、はあくまでも一人一つ。それは間違いないよ」


 レンはそう断言した。

 そして一人で複数の能力を持つ者などこれまで聞いた事もない、とロビンが補足する。

 正直何も分からない。考えると混乱してしまう。

 とにかく情報が欲しい。

 だからこそ俺はツンフトでリーベに聞きたい。

 あの和装をしたおかっぱ頭の童女なら何かを知ってるかも知れない。

 今はとにかくそこに望みをかけないといけない。


 今はフリージアに戻って、もっと自分について知らなければならないんだ。



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