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ルストその1

 


「………………あれ、?」


 気付けば俺は真っ白な空間にいた。

 何だここは?

 俺は何でこんな場所にいるんだろうか?

 身体が妙に軽い。まるで風船にでもなっちまったみたいにすら思える。

 ぴょんぴょんとそうやって何度も何度も跳ねてみる。


『それは君が死んだからだよ』

「え?」


 不意に声が聞こえ、後ろへと振り向く。するとそこにいたのは小さな子供。

 薄緑色の髪をしたこれまた白いトーガみたいな服を着ている姿は妙に堂に入ってるっていうか似合ってるように見える。

 だけど……おかしいな、さっきまで誰もいなかったってのに。

 いや、そんなのはどうだっていい。こいつ今、何て言った?


『だから君は死んだんだよネジ』

「な、っ」


 表情がひきつる。冗談にしちゃ随分とタチが悪いぜ。

 死んだって、何だよ。じゃあここにいる俺は一体…………。

 頭を抱えて状況を考えようとする俺に対して、


『ここにいる君は言うなればかな。肉体から切り離された中身・・だとも言えるね』


 その子供はそんなのも知らないの、当たり前の事じゃないか、とでも言わんばかりにこちらを見て微笑を浮かべる。


「な、なぁ。ちょっといいか?」

『何だい? 聞かなくても分かるけど言おうか?』

「そ、そいつは勘弁してくれ。何だか調子が狂っちまう」

『ふぅん、そっか。不便だよね人間ってさ』


 まるで自分は違うモノだとでも言いたいらしい。だけど、じゃあこいつは何なんだ?

 仮に俺が死んだのだとして、だ。ここが天国やら地獄やらのどっちがだと仮定してだぞ。そこにいるこの子供は一体誰なんだよ?


「お前は一体誰だ? でここは何なんだよ?」


 俺の問いかけを受けて薄緑色の髪をした子供は待ってました、とばかりに笑みを浮かべると、


『そうだね。僕の名は【ルスト】。君の友達だよ、ネジ』


 そう言いつつ、その背中から小さな白い羽を見せるのだった。




『さて、まずは何処から知りたいのかな? 本当は分かってるけど、一応訊ねるよ』


 しかしこいつは一体何なんだ? 羽根があるって事はあれか、天使とかそういう類の存在だろうか。

 だとしたら、俺はもう…………駄目なのかも知れない。


『うん、そうだよ。念の為にもう一回言っておくけど、君は死んだんだからね』

「はぁ、」


 何ていうかとにかくやりづらい。

 どうもこっちの心を読んでいるような節があるんだが、ならば俺が何を話そうとしているのだとしても無意味な気がする。

 っていうかそもそもだけど俺が死んでるんだったら何を聞いても意味なんかないんじゃないのか、って思う訳だし。


「俺は本当に死んじまったのか?」

『うん、そうだよ。そうだって言ってるじゃないか。全く君は相変わらずだなぁ』

「ああ、すまん」


 どうもルスト、の話を聞く限り俺は目の前にいる天使? とそれなりに親しく付き合っていたように思える。勿論、相手が初対面なのにそういった物言いで話の主導権を握るつもり、って可能性もある訳ではあるのだが。ってか、こう思ってるのだって相手にはバレバレな訳で。あーややこしい。ろくすっぽ考えも上手くまとまらない。


『とりあえず落ち着こうか』

「…………ああ、そうだな」


 云われるがままに、深呼吸をして気分を落ち着かせる。


 ルストは俺の目の前でパタパタ、と羽を動かし宙に浮いている。どうやらあいつの羽は滑空する為ではなく小鳥のそれに近いらしい。


「とりあえずルストは俺の友達、なんだよな?」

『そうだよ』

「じゃあさ、俺はお前とどういうきっかけで知り合ったんだ?」

『ああ、なるほどね。そうきたかぁ』


 ルストはくすり、と笑ってみせる。ん、今の質問が分かってた訳じゃないのか。じゃあそれなら一体──。

 するとそこで俺の目の前が突然ギュルギュルと歪み始める。


「な、んだ?」

『うん残念。今回はこれで時間切れだ。じゃあまたここで会おうね。

 そうそう、目を覚ましたら君には反撃の手段があるはず。それを上手く利用する事だ。

 君の【特典ギフト】は強力だ。発動すればまず負けたりはしないからね』


 何を言ってる、またここでってどういう意味だ……。そんな言葉をかけようにも俺の世界は、目の前はあっという間に真っ暗になり、そして────。




 ◆◆◆



 ──え?


 声が聞こえる。何だ、何が俺に起こったんだ?

 う、それよりも何より眩しい。さっきまで真っ暗な何処かを通ったような感覚だった。


 ──おい。


 誰が俺に呼びかけている、のか。

 じゃあここは、天国か地獄か────。


 ゴン。


「くっは、つう」


 思わず目を開くとそこには、


「バカ! 何やってんだよお前!!」


 赤い髪をした美少年(偽)ことレンの顔があった。


「あ、れ? 夢でも見てたのか───」


 カラン、という音に気付き足元を見ればそこには一本の矢が落ちている。その矢尻の先端は赤く染まっており、まるでついさっきまで何かに刺さっていたみたいに思える。


「このバカ! 死んだかと思ったじゃないか!」

「え、え?」

「ともかく細かい話は後だ。ネジ周囲を見ろ」


 どうにも頭がスッキリしないが、促されるままに周りを確認してみるとゴブリンの群れがそこに。

 そっか、そうだった。俺はゴブリンの群れにどう反撃しようか、って考えてて、それでまずはレンとの合流を優先してたら何処かからレンへ向かっていく”矢”が見えて────。

 待て、じゃあ足元の矢は俺に刺さってた矢なのか?


「なぁ、──俺は死んでたのか?」

「分からない。刺さったと思った矢だけど次の瞬間には落ちてたから」

「そ、か。ところでゴブリン達はどうしたんだ?」


 とりあえず状況は変わってない。ゴブリン達は相変わらず俺達を半包囲したままだ。

 でも何か妙だ。今の連中からは何て言えばいいのか、恐ろしさを感じない。

 一気に押し潰すでもなさそうだし、前に出ようとする奴とていない。


「まるで驚きのあまりに呆然としているみたいに──」


 そうして俺は不意に自分の心臓の上に手を触れる。そこにはさっきまでなかったはずの穴が空いている。間違いない、俺はさっき射抜かれたんだ。そうして足元の矢に視線を向ける。


「あれ?」


 するとその矢に細い糸のようなモノが着いているのが見えた。まるでワイヤーみたいな糸。俺は矢を手にしてレンに訊ねる。


「……なぁレン。この糸なんだろうな?」

「糸? 何言ってんだよ。お前大丈夫か?」


 だがレンからの返答はそんなモノなど有りはしない、というモノ。だが実際俺の目には一本の糸が間違いなく垂れ下がって、向こうへと伸びている。まるで、そう。相手の居場所・・・を示すかのように────。


「そうか──!」

「オイ、ネジっ」


 気付けば疾風のように飛び出していた。気付いたんだ、コレが反撃・・手段きっかけだと。

 あの夢みたいな場所でルストに言われた事。それがこの事なんだと。


 間違いない、この先だ。この先に俺、いやレンの奴に矢を射かけた相手がいる。そいつを倒せば状況は一変するんだって。


 ゴブリンの群れは緩慢にこちらを見ているだけ。やっぱりだ、この連中には意思・・がない。まるで、そう操り人形みたく。


「ぐがおおお」


 唐突にゴブリン達が呻き出して動き出すが遅い。俺の目は相手の姿を認めている。


「邪魔をするなっっっ」


 向かってくるゴブリン達をナイフで切りつけ、肘で打ち払って前へ進む。


 ボウン。


 音が聞こえ、同時に火の手が上がる。どうやらキリセの奴が仕込みを終えたらしい。ゴブリン達は急に動き出すけどこっちの方が先手を打ってる分有利だ。これで囲んでいたはずのゴブリン達もまた炎に囲まれた格好だ。


「ん、」


 相手が矢を弦につがえるのが見える。どうやら先にこっちを仕留めるつもりらしい。

 上等だ。俺もナイフを構えて突っ込む。ここで決着を付けてやるぜ。

 自分でも何でかは分からないけどさっきは辛うじて見えただけの矢の軌道が見える。


「そこだ」


 ナイフで矢を叩き落とす。まるで自分が自分じゃないみたいな”感覚・・”。だけどこれは間違いなく現実だ。突っ切る風を、火の発する熱をまさしく肌で感じているんだから。

 さっきまでぼんやりとしか見えなかった相手の顔が見えてくる。逃げるつもりなのか背中を向けようとしている。


「逃がすかよっっ──!!」


 叫び声と共に一気に肉迫していく。これで終わりにする。

 間合いを詰めた俺はわずかに振り返ろうとした相手の喉を切りつけるのだった。

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