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王との対面

 

 ”わあああああああああああ”


「え、なに?」


 俺っちは奇妙な音で目を覚ました。

 妙に肌寒い、って思ったらそれも当然。周囲にはチラチラと白い雪が降っているんだから。


「あれ? 何ここ?」


 見回すと周囲には誰もいない。

 おかしいな? 確か俺っちはいつものゲーム仲間と一緒にいたはずだったってのに。

 今、一番話題になってる新型VRゲームの発売でそれを買う為に仲間と初めて顔合わせして、ショップの

 列の先頭で並んで一緒に買った後で、近所だっていう仲間の家で一緒にプレイしよ


 うん、俺っち達のギルドのリーダーもある日から全く連絡が取れなくなったってメンバーが言ってた。

 そういや、あの人もこのゲームの先行版をしていたんだよな。

 いやいや、そんな訳あるかよ、ゲームしてたら異世界に来たなんてそれは何のラノベだよ? 冗談きついな、本当に。



 ”わああああああああ”


 そう言えば鬨の声が段々近くなって来てる気がする。

 何だろう、嫌な予感がするな。

 早くここから離れなきゃいけない、でも一体何処に行けっていうんだな?


「地図だ、それを見れば――」


 その矢先だった。

 ザシュ。

 その音は背後、ほんの数メートル後方から聞こえた。それが雪を踏みしめる音だってのはすぐに分かった。

 でも、どうやって来た? ここは山頂で、俺っちの背後は十メートルでゴツゴツした絶壁だったはず。


 ザシュ、ザシャ。


 足音が近付いてくる。いやだ、来るな、やめろよせ。


「クッソ、誰だよお前は――」


 そうして意を決して振り返った俺っちが目にしたのは…………。


「う、わあああああああああああああああ」




 ◆◆◆



 ギイイイィィィィィィ。


 跳ね橋がゆっくりとこちらへ向けて降りて来る。


「…………」

「ネジ、何見てんの?」

「あ、ああ……」


 ファンタジー小説やら中世世界については、一応知識としては知ってたけども、こうして跳ね橋が動いているのを目の当たりにすると、何ていうか思わず見入ってしまう。


(あいつらもこの様子を見たら俺みたいに見入っちまうのかなぁ?)


 そんな事を思ってしまっていた。

 あいつらってのは元いた世界、向こう側で色んなVRゲームで一緒に遊んでいたゲーム仲間達の事だ。

 あいつら、は今頃俺がいなくなったって事に気付いてたりするんだろうか?

 いや、どうだろな。何せリアルじゃ一回だって顔合わせしちゃいないんだ。

 せいぜい最近付き合いが悪いな、位にしか思われちゃいないんだろうな。


「貴様、そんな所でいつまで突っ立ってるつもりだ? 門番やら衛兵が怪訝に思ってるぞ」

「あ、ああそうだな」


 俺は金髪エルフに思わず素直に返事を返していた。

 まぁ、いいや。

 折角だから、この城の中を見てやるさ。



「うわーー、」


 中に入ると目に飛び込んで来たのは、大広間に上へと繋がる階段だ。

 左右には色んな絵画が壁にかけられていて、何人もの槍を構えた衛兵が規則正しく直立不動で立っている。


「さ、行こうぜこっちだよ」


 レンの奴が先導して、俺とロビンはそれに付いていく。

 階段を上り、そこから左右に分かれた通路を一切迷う事もなく即座に左へ、そこからまたしばらくして階段を上り、の繰り返し。にしたって、何だか妙だ。


「なぁレン?」

「ん、何?」

「お前この城に詳しいのか?」

「んーー、そだな。結構知ってると思うぜ」


 妙な事にレンは何だか言いにくそうな感じだった。何かしら言葉を濁したように見える。


「そんなこたぁいいんだよ。ほら、もう着いたから。ここだぜ」


 レンは足を止めるので、俺もまたそれに従って足を止める。

 衛兵がその部屋の扉を開く。


「入るがいい」


 部屋から声がしたので視線を向けると、そこは所謂王の間なんだろうか、大きな広間に衛兵が十数人と、服装の異なる文官らしき連中が数人。そして十数段程の階段があってその下には貴族らしき豪奢なドレスを着た数人の女性。上には一段と立派な椅子に腰掛けた大男が腰を降ろしている。うわ、でかいな。まるでクマだぞ。


「レンよ、よく来た」

「ああ、それで横にいるのが」

「うむ、ネジだな。こちらへ近付くがいい」


 クマと見紛う大男の野太い声には威圧感がある。

 ここは素直に従わないと、即座に斬られちまうように思える。

 そういやあれが王様なら、下手な態度を取ったら不敬だとか何とか言われて投獄、死刑も有り得るんじゃないのか?


「どうした、早く来ぬか」

「あ、はい」


 みっともない事に声がうわずっちまう。

 でも、誰一人として笑いはしない。皆が一言も発する事すらなく、静まり返っている。

 重苦しい空気が漂い、部屋の面々の視線が突き刺さるように思えた。このままじゃまずい、言われた通りにしなきゃ。


 ゴクリ、と唾を飲み込んで足を前へ。ともかくも、行かないとまずそうだ。


「他の者はここから出よ」


 その声は妙に甲高い。

 思わず視線を向けると、くまみたいな王様の横に小男が一人立っている。

 何だアイツは? 王様のお気に入りの家臣か何かだろうか?


 で、気付けば誰もが、レンまでもが広間から出ていった。


「あ、あ」


 そして目の前には王様の巨躯がそびえていた。あの階段から飛び降りたのか? 足音も立てずに?


「う、っわ!!」

「………………」


 や、ばい。睨まれている。すっごい睨まれてる。


「どうした? 王の御前であるぞ、頭を垂れぬか」


 小男の声が聞こえるが、こっちはパニックでそれどころじゃない。

 王様の手が伸びてきて――。


「はっはっはっは。もうそれくらいにしとこうかな」


 高らかな笑い声が響いて。


「失礼をした」


 クマみたいな王様が俺に膝を屈して詫びている。え、何? 何だよこれ?


「さって、随分と待ったんだな、ネジ」


 小男があろうことか椅子に腰掛けていた。


「あの方こそ王であらせられる」

「へ?」


 俺は思わずキョトンとした顔で段上の小男を見上げる。


「俺っちはこの日をずっと待ってたんだな。忘れちゃないだろ【クレスト&フラッグ】の名前をな」

「──!」


 その名前は、俺がゲーム仲間と作ったギルドの名前?


「え、じゃあお前は……」

「そう、俺っちはあんたのギルドのメンバーだった【アラシ】なんだな」


 こうして俺は王様に対面したのだった。

 そしてそれは思わぬ知り合いとの対面でもあった。



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