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城塞都市フリージアその4

 

 レンの奴の案内で宿に着いた俺は、そこの一番上の階にある部屋に辿り着くなりベッドに沈み込んだらしい。

 そのまま意識が遠退き、あっという間に夢の中。

 泥みたいにグッスリだったそうだ。


 ん、自分の事だってのにどうしてそんな曖昧な言い回しをするのかって? 理由は簡単だ。何せ俺はその話を翌朝になってレンの奴から聞いたんだからな。ちなみにほんの十数分前の事だ。


「いい加減機嫌直せよなぁ。悪気はなかったんだからさ」


 食堂のテーブルにはどんどん料理が運ばれてくる。

 俺は自分で言うのも何だがかなり腹を立てていた。


 ◆


「ん、んああ、……何かスースーするなぁ。っておい!!」


 慌てて飛び上がるように起き上がる。何せ、目を覚ましたら俺は一糸まとわぬ姿ってヤツなのだから。


 で、驚いた俺が何があったのかを思い出そうとしたら、ガチャリと部屋のドアが開かれそこに姿を見せたのは赤い髪をしたアイツ。


「よ、目が覚めたか。ああ、服とか全部洗ってもらったから。心配すんなよ、城に行く前にはちゃんと乾くらしいから」

「お、お前っっっっ」

「ん、何をそんなに慌ててるんだよ。オレ何か悪いコトしたかな?」

「これは……お前か?」

「何がって、ああ。そだよ、だって汗臭いじゃないかそんなの着てたらさぁ。それにさ、寝るときってのは着てない方が楽ちんじゃないか」

「んが――」


 それは実にまぁあっけらかんとした声と笑顔だったよ。

 俺はもう絶句だったさ。まぁそういう事だ。何の事か分からない? いいから察してくれ。

 ってか、待て。着てないほうが楽って、コイツまさか!!

 とか何か一瞬思ったのが俺の不運だった。ちょっとしたアレだ、男の子の生理現象の延長戦上っていうか、その、目の前のあいつの寝てる時の姿を思わず想像しちまった結果、まぁ……大きくなった訳なのだが。


「あ、ぷふぃっ」


 生理現象でそうなったものを鼻で笑われ、ビックリする位の勢いで一気に萎む。

 ああ、何だか大事なモノを失った事を深く深く実感する。

 要するに俺は、朝一番で赤髪の美少年の振りをした少女に思いっ切りあられもない姿を見られたって訳だ。

 もっともその赤髪の悪魔は、もう数時間前に既に俺の全部を見ちまってる訳なのだが。


「レン、あんな奴を起こしにわざわざお前が行く必要は────き、きっさまあああああああ」


 おまけにそこに金髪エルフことロビンの奴まで姿を見せたからもう大変。


「よくも貴様そのような貧相なモノをレンに見せてくれたな!! そこになおれ、──今すぐに矢でその心臓を射抜いてやる!!!」


 とまぁ、こんな感じでひと悶着。危うく本当に矢で射抜かれそうだったし、おまけに、騒ぎを聞きつけた他の客やら宿屋のおかみさんにまでこの生まれたままの姿を大公開しちまったって訳だ。

 はぁ、……本当に最悪な朝だぜ。


 ◆


 で、今。


 俺はレンとそれからロビンの奴と一緒に宿屋の食堂にいるわけなのだが。ちなみに服を洗濯中の今の俺が着てるのは宿から提供された衣服で、確かコトって上着に下はブレーとかいうズボン。パンツ? そいつは聞くな。それから靴。


「とにかくさっきのはオレが悪かったからさぁ。食べなよ、冷めちゃうぞ?」


 レンの奴は口でこそ謝ってくるがどう見たって心から反省はしてないのが見え見え。だってめっさ笑顔だぞコイツ。どう見てもすっごい軽く流そうとしていやがるぞ。食い物で買収されてたまるか。


「大体さっきのは貴様が悪い」

「は? 何だってそういう結論に帰結するのかが俺にはサッパリなんだが」

「僕のれ、いやレンの目の前で朝から卑猥な姿を見せるとは言語道断。まったく破廉恥な奴だ、恥を知れ」


 だけど、そう言いながらも金髪エルフの表情にはいつものような侮蔑は浮かんでおらず、むしろ同情しているみたいに見えた。そう言えばコイツ、時折こっちにも気を遣ってるよな。


「だが貴様にも同情しないでもない。あんな貧相なモノをぶら下げていたのではな……」

「オイコラ!!」


 そっちか、お前はそっちに同情してたんか!!

 あれは違う、あれは赤髪のヤツの一言で一気に萎えただけだ。違うからな俺の全力はあんなもんじゃ……。


「あっはっは、ま、いいじゃんか。もう終わったコトだしさ~」


 レン、俺の目の前で笑いながらフォークで皿に盛られたソーセージをブッスリするのはやめてくれないか。どうにも色々思い出すから食欲が失せるんだよな。それに終わった事だからー、ってそのセリフを言うのであればお前じゃなくて被害者たる俺だろうが。


「はぁ、もういいや。何かすんごい疲れる」


 ここで抗議の声をいくら上げようとも、レンの奴に全く加害者意識がない以上、無駄だろう。

 それに確かに腹が減ったのも事実だし。

 目の前にある湯気を上げるスープやら焼きたてのパンだとかを冷めるまで放置するのは悪い気もする。


「そうそう、たんとお食べよ」

「…………」


 レン、お前はオカンかよ。

 とりあえず周囲を見回すと、大体の客はスープを口にし、次いでパンを少し千切って食べる。

 なので俺もそれに習う事にする。

 店の食器類だが、殆どは木製らしい。

 ここいらにそんなに多くの木材があるとは思えないが、それはそれだけこの街に入る色んな物量が多い、って思えばいいのか。


「何だい? そんなに食器をしげしげと見てるなんてさ。こんなモノが珍しいんかね?」


 声をかけてきたのはこの宿屋”穴蔵とモグラ亭”のおかみさん。ついぞさっき俺の醜態を見た中の一人だ。

 そのふくよかな見た目通りの豪快な性格らしく、さっきから食堂にその笑い声が響いていた。


「ええ、陶製の皿とかって使わないのかなって思って」

「そうさねぇ。よそはどうだか知らないけど、フリージアじゃずっと木製の食器を使ってるわねぇ」

「へぇ、それはどうしてなんだ?」

「さぁねぇ、あたしに聞くよりも王様に聞いたらどうだい」

「……何で王様に?」

「何でも王様が決めたらしくてさ。あんたら確か後で王宮に行くんだろ。そこで聞いてみたらいいんじゃないかい、ねぇレン?」

「あ、ああ。そだね。あとできいてみにゃよ、ねずぃ」


 おいレン。食いながら話すな。何言ってんのかよく聞き取れないからさ。にしても、昨日も言ってたけど、今日本当に王様に会うのかよ。何ていうのか会ってもいいんだろうか?


「つまらん事を考えるな。フリージア王は話の分かる御仁、お前程度の些末な疑問であろうともあの方なら答えてくれるだろうさ」


 俺の怪訝な表情を見たのかロビンがそう言った。

 そうか、金髪エルフの奴は王様ってのに会った事があるんだな。

 ってことは、レンの奴も同じくって事か。

 すると、俺のそうした視線に気付いたのか。これ見よがしのドヤ顔をしてくださるじゃないですか、はい。


「まぁそういうこったから、あんたはまず腹ごしらえをしっかりしときなよ!」

「うぐっ」

「冷めたら折角の料理が台無しだからねぇ」


 バァン、と俺の背中を豪快に叩いておかみさんは笑いながら別のテーブルの皿やらカップをトレーに乗せていく。


「…………」

 気を取り直して、目の前に用意された料理に手を伸ばす。

 スープを啜り、パンを千切って口に入れる。スープには豆やら人参やらが入っているらしく、程よくコンソメ味。それから主菜は白身魚のムニエルだろうか。うん、美味しいな。


「おお、いい食べっぷりじゃないか。でもソーセージは食わないのか? おかみさんの自慢だってのに」


 レン。お前が何を考えてるのか俺にはよく分かるぞ。

 お前は自分の分を全部食っちまった。そして俺の皿にはソーセージが残ってる。

 だから無言で皿をレンへ。


「にしし、いいんだな。もう遅いからな♪」


 レンは破顔すると、ソーセージを食べる。

 おかみさんすまん。

 まぁ、今はちょっと食べるのが躊躇われるからなぁ。また次の機会にでも食べさせてもらおう。



 ◆◆◆



 そして、それからおよそ二時間後。

 俺達は大キープ、つまりは王宮の前にある城壁の前にいる。

 そのそびえるような壁からは敵を絶対に通すまい、という威圧感を感じる。


「よ、お疲れさん」

「うん、レンか。話は聞いている、よし通っていいぞ」


 レンを見るなり、兵士はそう言う。

 顔パスって事なのか。街に入る前は符丁だの何だのを見せてたはずなんだが。

 ギギギギ、という音は門ではなく、その向こうにある跳ね橋が下りている音。


「どしたネジ、……もしかしてお腹でも痛いのか?」

「いや何でもない。行こう」

「んじゃ行くぞ」


 ここまで来たらもう行くしかない、そう思った俺はレンの後について行くのだった。


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