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ゴブリン、襲撃

 

 ガタンガタン、と馬車は揺れる。

 懐中時計を見てみると時刻はもうすぐ昼の十三時。道理でお日様があんなに高い訳だよ。


「う~、っ」


 幌から顔を出して外を覗いて見ると、いつの間にやら周囲は平地から山へ変わりつつある。

 前方にはかなりの坂道が見える。


「ん、どしたネジ?」


 どうやらレンの奴が目を覚ましたらしい。

 にしても、コイツひたすら寝てばっかりだったな。


「ああ、山が見えてきたんだ」

「へ~、……じゃあそろそろかぁ」


 ん、レンの奴。何か様子が変だぞ。

 妙に楽しそうな表情をしていやがる。しかも、何だか悪い顔だ。


「んじゃお先に♪」


 楽しそうな声を上げてレンは何を思ったのか馬車から飛び出す。


「え、あ……うん?」


 で、気付いたんだが、妙なのはこの馬車内だけじゃなくて、他の馬車もだ。急に速度を落とし始め、中からは剣や斧を持った連中が外へと出て行く。

 ピリピリとした空気に変わっていくのが肌で分かる。

 気が付けば馬車も止まっている。

 何だよ隊商全部止まってるのか?


「おい貴様も外だ」

「う、あっっ?」

 と、外から手が伸びてきて強引に引っ張り出された。

 軽く首が締まったので、息が詰まる。


「くは、ぐうはっ。……何しやがる金髪クソエルフ!」

「ふん、さっさと出て来ればいいだけの話だ。死にたくないならばさっさと用意でもするんだな」


 金髪エルフめ、図体がデカいからって偉そうにしやがるぜ。今に見てろよ……。

 俺がそう心に誓いつつある中で、

「お、ロビンにネジ。おっすおっす」

 てな感じで、レンが脳天気な言葉をこっちにかけてくる。何だろもう、どうでもいいや。

 にしても……はぁ、お前は本当に気楽だな。

 しかしこのピリピリした雰囲気は普通じゃないよな、やっぱり。


「…………」


 とは言ってもこっちはさっぱり事情が分からない。だから何があるのか聞いてみたいんだが、……とりあえず周りを見回してみたものの、殆ど全員それどころじゃない、っといった面持ち。で、金髪エルフの周囲には何ていうかこう、″僕の半径五メートルに入るなカスが″みたいな誰も寄せ付けないアブソリュートなフィールドが展開されてる。


「なぁ、……一体何があるんだよ?」


 てな訳で選択肢は一つだった。

 俺の真ん前で一人ワクワクした面持ちの赤髪の美少年を装った美……もとい、少女に訊ねてみる事にした。


「ん? ああ、そか。ネジは知らなかったっけ?

 この山はさ、巣窟なんだよ」

「巣窟? 何のだよ?」


 何だか知らないけど、凄くイヤな予感が、……ってかイヤな予感しかしねぇぞ。


「ゴブリンだよ──、あ、来た来た♪」


 レンがニッコリと笑った時だ。

 坂を下ってくる一団が見える。その数は数十、……いや百はあるんじゃないのかこれ?

 おいおいこっちは馬車十台、で護衛が確か二十だったはずだ、──つまり相手は五倍かよ。


「来たぞ、盾を構えろ」


 あのおっさんが声を上げると護衛の半数が背丈程もある盾を構えるとおっさんや馬車の御者の周りを囲む。


 ドドド、とした足音がみるみる内にこちらへと近付いてくる。距離は大体……二百メートルってとこか。

 ここまで来ると相手のシルエットも分かる。

 灰色の肌をした人間に似たような姿の集団だ。


「──弓を構えろ」


 今度はロビンの奴がそう声がけする。

 五人の射手が矢をつがえ、狙いを弦を引き絞る。


「いいか焦る事はない。あっちは無駄に数が多い。きちんと飛びさえすれば一匹倒せる……今だ射ろ!」


 声と共にヒュウン、と風切り音と共に矢が放たれる。

 たった六本の矢は集団へ飛び、向こうから「グギャ」という悲鳴があがるのが聞こえる。

 だが、如何せん六本じゃあの集団全部の足止めは叶わない。依然として集団は坂を下ってくる。


「次、もう一度だ。今度はさっきよりも簡単だ。狙いも気にするな!」


 そう言うや否やでロビンの奴が矢を放ち、他の射手も続いて矢を放つ。


「よっし、じゃあネジ。今度はオレ達の出番だぜ♪」

「は? まさか出番って……」


 イヤな予感しかしない。

 まさか、だよな?


「とっつげきぃ──イヤッホーーーー」

「やっぱりかよおい」


 レンの奴が大喜びで一人で集団へと突っ込んでいく。


「おい貴様もさっさと行け」

「バカ俺に何が……」

「貴様でもゴブリン程度なら殺れるはずだ。一応背中は僕が守ってやるから安心しろ、レン一人にやらせるな」


 金髪エルフは淡々とした口調で矢を放っていく。

 他の射手はすでに斧や小剣を構え、集団との激突に備えている。


「くそ、分かったよ。行きゃあいいんだろ行きゃあよ」


 こうなりゃ成るがままにやるしかない。

 どの道何もしなければゴブリン達に殺されちまうかも知れない訳だ。


「うああああああああ」


 意を決した俺も腰からナイフを取り出すと、レンに遅れて集団の最中へと突撃していく。


 互いの距離が縮まるに連れて、色々な事が分かっていく。ゴブリン達はゲームとかで見たのと同様に背丈は低い。格好は粗末な衣やその上に胸当てみたいなモノを当てており、手にした武器は棍棒や剣である。


「ギィイイイイイイイイイ」


 という叫び声は耳障りで、不快な音。何よりその白目からは正気を感じられず口から泡やよだれを垂らしながら襲いかかってくる様は不気味そのものだった。


 とか何とか思っている内にレンの奴がゴブリン達の集団の真っ只中に一足先に突入した。


「うっ、りゃあああああ」


 かけ声と共に跳躍。ボロ切れそのものな外套を翻しながら、そのまま先頭のゴブリンへ飛び蹴りを喰らわせる。「ギャイイイイ」と悲鳴をあげながらゴブリンは倒れ込み、群れを乱す。

 レンと言えば、蹴ったゴブリンをそのまま踏み台にすると集団の真っ只中、まさしく中心に飛び込んでいく。そして当然ながらゴブリン達がそこへ殺到していく。


 おいおいマジかよ?

 いくら何でも無鉄砲過ぎるんじゃないのか?

 急がないとマズいぞ、そう思い足を早める。


 だけどそんな心配は全くの杞憂だった。


 レンが群れの中に沈み込んだ次の瞬間、「だりゃあッッ」という声をあげ、全身を燃やしながらその姿を見せる。その際、まるで冗談みたいだけど周囲にいたゴブリン数匹がぶっ飛ぶのも見えた。


「イーヤッホーーイ」


 わー、スッゴイ楽しそうな顔してるなアイツ。

 そうだった。そういやアイツはああいう敵が入り乱れた状態にやたら強かったよな。先日の髭面山賊を夜襲とは言えど、一人で殆ど壊滅させていたよな確か。


「ヒャッハーーーー」


 お前は何処の世紀末世界の無法者だよ。

 なんつー声出してるんだ。

 何か、もうゴブリン達に同情したくなってきた。

 アイツが炎を揺らめかせながら、拳を振るえばそのフックでゴブリンが二人位吹っ飛ぶ。

 回し蹴りを放てば周囲を囲もうとしていたゴブリンがまとめて十人蹴り飛ばされていく。


「アッハハハハハハ」


 レンの奴は満面の笑みを浮かべながら縦横無尽に暴れ回る。もうこうなるとどっちが襲われてるのかよく分からん。

 と、そこへ俺に続いて金髪エルフが近付いてくるのが見えたので聞いてみる。


「おい、金髪エルフ」

「……なんだ」

「なぁ、これ俺ら必要ないんじゃないのか?」

「……何も言うな」


 襲いかかってくるはずの襲撃者ゴブリンが逃げ惑い、襲われる立場の防衛者こっちはそれを遠目で呆然と。いや唖然とした表情で眺めている。


「アヒャヒャヒャヒャー」


 何だろ、ゴブリン達に同情したくなる。

 覚悟を決めて戦おうとしたってのに。


 結果だけ言うと、この後まともな戦闘には一切ならなかった。

 ゴブリン達の群れは数匹が矢で射殺された以外、大半を赤髪の美少年の振りをした美少女に蹴散らされ、僅かな生き残りはほうほうの体で逃げ出していく。


 で、俺はこの後で聞いたのだが、レンの奴の世間一般的なあだ名は″赤髪レッド戦闘狂オーガ″だそうだ。

 まさしく言い得て妙だ。


 そんなこんなでレンの活躍? もとい暴虐のおかげで俺達はゴブリンと戦う事なく山を抜けた。何でももう二時間もすれば辿り着くそうだ。


 目的地である北の街、通称″フリージア″へ。



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