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疑惑

 

 俺がレンの事を実は女の子だったと知った翌日。

 隊商は予定通りに野営地を離れ、北へと進路を取った。

 目的地である北の街、フリージアにはこのまま街道をおよそ一日程進むと辿り着くらしい。


「…………う、え」


 また吐き気を催す。

 ガタンガタン、とした振動がやっぱりどうにも慣れない。街道だが石畳が相変わらずガッタガッタ。完全に寂れてるってのが丸わかりだ。


「おい貴様、吐くなら外へ向かって吐け。間違っても馬車内では吐くなよ。分かったな! 絶対だぞ!」


 で、同じ馬車内には金髪エルフのロビンも乗ってやがる。相変わらずムカつく物言いだが、まぁ、とりあえずは無視しよう。だって今は、……ソレどころじゃない。


「うっせえ。こっちだって吐きたくなんかないぜ。

 なぁ、レン。もう少しゆっくり揺れないように走れないものか?」

「無駄だ諦めろ」


 すがるような声で俺達の前、デカい酒樽に背中を預けてる赤髪の少女、いや赤いゴリラ娘、に声をかける。

 金髪エルフの言うことなぞ無視だ無視。


「────く、かーー」


 だが無駄だった。

 レンの奴完全に寝ていやがる。


「言ったはずだ無駄だとな。レンの奴は一度寝入ったらちょっとやそっとじゃ起きやしない」


 おい、金髪エルフ。何でお前はそんなに誇らしげなんだよ? まぁ、仕方ない。

 確かにレンの奴に全く起きる気配はない。


 よくもまぁ、こんな酷い揺れの中、あんな酒樽に背中預けられるよな。


 ええ、と昨夜。というか半日前。


 俺とロビンの奴はレンにボッコボッコにのされた。


 ああ、それはもう見事なまでにフルボッコに。

 レン、あいつは本気でヤバい。

 俺は真空飛び膝蹴りを喰らいノックアウト。

 薄れゆく意識の中、金髪エルフはジャーマンスープレックスを叩き込まれてた。はは、ざまーみろ。


 で、気付けば馬車にいた。


 それは金髪エルフも同じだったのか、あいつは俺が目を覚ましてからしばらくして起きた。

 で、そっから今に至ってる。


 しっかし、こいつ。

 本当に無防備だな。

 それによくもまぁ、こんな堂々と寝ているもんだ。

 ちなみに服装は、皮の鎧の上にいつものボロ切れみたいなマントを羽織っている。

 胸がないのはさらしか何か巻いているのか。

 どうも女の子である事を隠してる節があるんだよな、こいつは。

 でも、昨晩の事があったから、だろう。

 どうにも落ち着かん。だってだぞ、俺の目の前には女の子が寝てるんだ。それも相当なレベルの美少女。

 ボロ切れみたいなマントがあっても白い肌、そして爪先までは隠し切れやしない。ううむ、もっと見てみたい。とそう思った矢先、


「しかし、君随分とレンに気に入られているみたいだねぇ」

「え?」


 思わず間の抜けた返事を返しつつ、声の方へ顔を向けるとそこには昨日顔を合わせた身なりの整ったおっさんがいた。


「ああ、すまんすまん。いきなり声をかけてしまったかな?」


 おっさんは意味ありげに笑いながらこっちを見ている。おい、何だよその笑顔。何でそんなに優しい顔でこっちを見てるんだあんた?


「確かに誰が誰を愛そうともそれは自由だ。これは本当にそう思うよ、だけどね。

 私もね衆道、っていうものを否定するつもりだってないよ。ないのだけどね、せめて真っ昼間から私の馬車ではそのちょっと控えてもらおうかなぁ」

「いえそんなつもりじゃ──」


 とそこまで言いつつ何か違和感を覚える。

 おい、ちょっと待て。おっさん、何かとんでもない爆弾を投げていかなかったか?

 こめかみを右人差し指でトントン、とつつきながら何を言ったのかを思い起こしてみる。


 愛だの何だの、って話だったよな確か。

 で、恋愛は自由だとも。まぁ、ここまでは問題ない。

 シュウドウ、って何だっけ?

 何か聞き覚えがある単語によく似てるんだけど…………、思い出せ。確か歴史にハマった頃に聞いた言葉だ。

 確か戦場で、ムラムラ欲求不満になったお殿方が、小姓とかを相手にハッスルするアレ…………だっけか。

 確か小姓には美少年が多いのはそういったお殿様の趣向が反映されてるだの何だの…………。

 ってオイ待て。ナンだってオイオイオイ。


「ち、違うっ、俺はそういう趣向じゃないです!!!」


 俺はそっちの性癖は持ち合わせていないぞ。だからこそ思いっ切り否定しておく。

 だってだぞ、レンは女の子だ。

 仮にだぞ、そういった感情があったとしても、俺は男の子であっちは女の子だ。ほら、何の問題もないじゃないか。


「ふうむ、そうかね。その割には随分と熱心にあの子の顔を見ていたような──」

「だからそれは…………」


 ああもう。くそ、あいつが女の子なんだって分かってもらうのが一番手っ取り早いんだけど、ここで、アイツが寝てる間に公表しちゃ流石にマズいよな。

 じゃあ、どうするよ。

 そんなこんなで頭の中がグチャグチャになったその時。


「すみません。ソイツはまだ自分に素直になれないんですよ。だから戸惑うのです」


 そんな言葉をあげたのは金髪エルフのロビン。

 お、お前──。


「何言ってやがる、そんな言い方したら誤解を招くだろうが!!」

 思わず声を荒げる。

 ふざけんな。俺はノーマルだ。絶対認めない、認めねぇからな。

 ほら見ろ、おっさんの奴の目。何か凄く優しいじゃないか。絶対誤解してる、誤解してるぞありゃ。


『おい、レンの為だ。協力しろ』


 不意にそんな声が耳に届く。囁くような声だが、間違いなくロビンの声。でもあいつは俺から少し離れてる。ならこれは…………。


『この声は風に乗せて届けている。風の加護を受けた僕にはこの程度の小細工は実に容易い』


 小声なんだけども、上から目線なのがありありと伝わるその言い口はどうにも腹立たしい。


『──いいからこの場は僕に合わせろ。それにレンの事がバレたら、間違いなくあいつにぶっ飛ばされるぞ』


 くっそ、どうにもそうするしかないらしい。

 もうぶっ飛ばされるのは勘弁だぜ。


「あ、ああ、その最近になってそうだった、と理解したんで」


 ああ。口にしちまった。

 これで俺もその気がある、って思われちまったな。


「ははーん。成る程、どうりで何て言うか、何処か違和感が合ったわけだな。まだそっち系に目覚めたばかりなんだね」


 ほら見ろ、おっさんがまたどんどん勘違いしていきやがる。またぞろさっき同様に、優しい笑顔を浮かべていやがる。


「そういうことなんで、その、はい」


 あああ、もう知るかよ。色々考えるのも面倒臭い。

 勘違いしたきゃしてな、俺はまわりにどう思われても気にしないぞ。気にしないんだからな。

 微笑みには微笑み返しで対応する。


 すると、だ。


「ネジ、お前オレの事が好きだったのか?」


 心底から驚いた声がする。

 オイこらこの赤髪美少年もどき。今頃目を覚ましやがるんだ。

 それに何だよその顔は……芸術が大爆発したみたいな顔っていうか、何とも味のある表情しやがって。


「はっはレン君は本当に人気者だなぁ」


 で、おっさんよ。あんたもある意味すげえな。

 もう何か言い返すのも面倒だ。


 てなわけで俺は実に不名誉な事にそっち系の人だと思われちまった。

 だがこの話で一番恐ろしいのは、

『ちなみに僕はレンが男だろうが一向に構わないがな』

 っていう風の加護を使っての告白だった。

 もうマジで勘弁してくれ。


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