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ロビン──その1

 

 うん、その色んなモノを見た後で。


「…………」

「全く何をそんなに怒るのさ?」


 レンの奴はロビンに説教している。

 しっかし、何て言えばいいのか身長は一五〇センチ位の小柄な少女が腕を組み、身長は優に一九〇はあろうかという金髪エルフにガミガミ怒る様は何処か滑稽だ。

 それに付け加えるのならば、金髪エルフのロビンの奴、正座させられていやがる。

 見た目だけで言えば子供と大人位の身長差だってのにさ。


「ちょっと、ちゃんと聞いてるワケ? いい加減怒るよ」


 どん、と地面を踏みつける。

 いや、お前もう充分に怒ってるじゃないか。

 だけどな、俺は思う。

 レン、お前はそこのエルフの気持ちに鈍感過ぎる。

 そいつはお前の事が好きだぞ絶対。だからこそ俺がお前と喋るのが気に食わないんだぞ、分かるか? うん、まぁ分からないか。

 で金髪エルフ、お前はお前でよくもまぁ、そんなじゃじゃ馬を好きになったもんだな。物好きめ。


 それにしても、今更ながらに気付いたが、池の水から湯気が出てるのは何故だろうか?

 温泉じゃないよな? だって湯気は真ん中からしか上がってないし、俺がいる端っこはひんやりと冷たい。

 って事は、考えても仕方がない。訊ねてみるか。


「なぁ、レン。聞いてもいいか?」

「何だよ今ちょっと忙しい」

「いや、一つだけだ」

「……何さ?」


 ギロリ、とした目からはまだ怒りの感情がありありと見える。おっかない、マジでおっかない。俺は絶対あそこで正座させられている金髪エルフの立場にはならない。うん絶対嫌だ。


「この池の真ん中から湯気が出てるのって……」

「ああ、アタシのせいだよ」

「ん、アタシ?」

「何だよ。これでも一応女なワケ、……文句あるの?」

「いえ、ないです全くないです」


 首をブンブンと大きく必要以上に振る。我ながらみっともないがアイツがどんだけ強いのかは先日でよっく見ている。絶対ケンカしちゃいけない相手だ。


「ハァ、ったく。何かアンタ見てたら何か怒んのバカバカしくなってきた。ロビン、もういいよ」


 レンはスタスタ、とした足取りで岩場へ。

 にしても、アイツの足元はサンダルだろうか。

 それに、何ていうか綺麗な足だと思った。

 でも、いくら身体を洗ってたからってこんなに草木が生い茂った森をあんなので歩いたりしたらケガとかするんじゃないだろうか。


 だがそんな疑念はすぐに吹き飛んだ。

 だって見た。

 アイツは何の気なしに草むらを通ってきたし、おまけに小さな水溜まりをそのままサンダルで歩いていたのに。泥とかがピチャ、と跳ねたにも関わらず、その足には一切の泥などの汚れは付着していなかった。


「あれ?」

「貴様、下心丸出しの目であいつを見るな──アイツが穢れる」


 耳元で囁く声はロビンの奴だ。

 いやいや、ちょっと待て。穢れる、って何だ。下心丸出しって、うん、全く無いかと言われたら嘘かも知れない。

 だってそうだろ? ついさっきまで小柄な男だと思ってた奴が実は女の子、それもかなり可愛い女の子で、何も知らなかったとは言え、そのあられもない姿を目にしちまったんだぞ。


「おいおいロビン。だから何をそんなに怒るのさ?

 たかが裸を見られただけじゃないか。減るもんじゃないし気にしてないって。ハッハーー」


 そしてレン。お前は頼むからもっと慎み深くなってくれ。本当に男前な性格だな。

 ひとしきり豪気に笑い飛ばす様は何ていうか女の子の姿をした豪傑の類に思えちまう。やっぱり男なんじゃないのだろうか。


「で、湯気のコトを知りたかったんだろ? ──じゃ見てな」


 チャプ。


 言いながら池に手を入れる。

 すると即座に変化が起きた。冷たくひんやりとしているはずの水がボコボコ、と気泡を生じさせていく。


「ネジ、手ェ入れてみなよ」

「…………、あっつ」


 驚いた、水がお湯に変わってる。まるっきり天然温泉のようだ。


「これも【ギフト】って能力なのか?」

「ん、そうだよ。もっとも人によって大分個性が違うけどね。うん、まぁ好い加減だ。ネジもお風呂どう?

 さっき見られたからこっちも見ときたいし♪」

「全力で断る」

「ハッハーー、冗談冗談。ロビン、睨むなよ」


 ああ、頼むからあの金髪エルフの神経を逆撫でするような言葉は謹んで欲しい。俺は矢で射殺されたくはないんだからな。


「でも折角お湯を沸かしたコトだし、じゃあ足だけでも浸かっていきなよ。結構疲れが取れるんだよ。ほらロビンも一緒にね」


 そんなこんなという訳で、何だかんだで俺も金髪エルフもレンと一緒に足湯する事になった。


「はぁ、確かにいいもんだな」

「当然だ。レンが沸かしたんだからな」


 おい金髪エルフ、何故お前がドヤ顔をするのか。

 まぁいい。これはこれで確かに身体全体が少しずつ温まる。馬車に乗りっぱなしでどうにもあちこち凝っていたのがほぐれていくみたいだ。


「ハッハーー、極楽極楽。そうだ、ネジ。ちゃんと話してなかったけどアタシのギフトは自分を燃やすんだ」

「自分を燃やす? どういう事だ?」

「簡単に言えば自分の中にある薪を燃やす感じかなぁ。とにかく集中するコトで一気に全身を熱して、それを身体中に巡らせてく感じかな」

「へぇ、戦い以外にも使えるってのはいいなぁ。

 じゃあ、金髪エル、……いやロビンの場合はどんなギフトを持ってるんだ?」

「貴様に言う必要などない」

「ロビン──、いいから言いな」


 レンの言葉に折れたらしいが、金髪エルフは露骨に嫌な顔をこっちに向けると、おもむろに地面から石を手にする。

 そして、何を思ったのか下手でその石を投げた。

 てっきり俺にぶつけるかとも思ったのに、あんな勢いじゃ全然届きやしないぞ。


『風よ』


 そうロビンが呟いた瞬間だった。俺の手前に落ちようとしていた石がいきなり加速。

「う、いたっっ」

 俺のすねに直撃しやがった。

「ふん、今のが僕の持つ【加護】だ」

「いっててて、何だよ今のは?」

「何ていうか……簡単に言えば神様のお助けみたいなモノかな、ね? ロビン」

「まぁ……平たく言えばそうだな」


 金髪エルフは渋面ではあるが、かぶりを振る。


「僕は【来訪者ビジター】じゃなく、この世界で生まれ育った存在だ。だから君たちみたいに【特典ギフト】は持てないんだ」

「へぇ、そうなのか。…………ってレンも俺と同じでこっちに来たのか?」

「え、ああうん。そうみたいだ」


 ん、何だ今のは。レンの奴の言葉が何だか引っ掛かる。何て言えばいいのか、妙に歯切れが悪いように思える。俺の訝しむ様子に気付いたのか、レンはハッハーー、と笑い飛ばしながら、「まぁアタシもアンタと同じでヨソモノってコトだからさー、ヨロシクぅ」とか軽口を言いつつ場を去っていく。一体どうしたんだろうアイツは? そんな事を思っていた時だった。


「貴様ッッ」

「ぐがっっ」


 レンが去った途端、俺の身体は宙を舞い、池へと投げ落とされた。水飛沫が飛び散る。水の中で助かった。もしも砂利だらけの地面に落ちていたらシャレにならなかっただろう。あの金髪エルフにもそれくらいの配慮はあるのかも知れない。


「何しやがる」「貴様こそ何を聞いたか分かってるのか!!」


 俺の言葉を打ち消すように怒声を張り上げ、拳が飛んできた。ガツン、とした衝撃が顔面に入る。

「う、」

 呻きながらよろめいた俺の足をロビンは払い飛ばす。再度池に落ちた俺だが、これでもこの前散々殴られたんだ。あの時は何人もの髭面山賊にそれこそしこたま殴打されたんだ。金髪エルフのパンチも相手の体格がいいから効いたけどさ。


「でもさ、」

 そう言いながら起き上がる。

「なに?」

 金髪エルフの表情が変わる。ここで俺が起き上がるとは思ってもいなかったらしい。

 だよな、そうだよな。実際俺自身が一番驚いてる。


 今までリアルじゃこんな目に合いでもしたらとっくに逃げ出そうと思ってたはずなんだ。だって痛いのは嫌だし。でもさ、何故だろうか?

 俺は今、ここから逃げ出そうなんてこれっぽっちも思っちゃいない。


「おい金髪エルフ」

「貴様、今何ていった?」

「るっせぇ。俺は今ムカついてるんだ! 確かに俺は何も知らないさ。だからさっきだって何か言ったのかも知れない。ああ無知で悪かったよ」

「貴様」

「レンに何か言ったなら後で謝る。だけどその前に教えてもらう」

「ふざけるな。僕がお前のような雑魚に教える義務などない」

「ああ、だろうさ。だからさ、今からお前をぶん殴る」

「なに?」

「俺は雑魚なんだろ? だからこそそんな俺がお前をぶん殴ったらもう雑魚じゃないよな。

 雑魚じゃないなら俺を認めて話してもらうぞ、いいな」


 そうだ、俺は負けたくないんだ。

 金髪エルフのロビンに、いいや前の、向こう側での俺に負けたくないんだ。


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