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ある戦地にて

 

 ドンドンドンドン。

 耳をつんざくような太鼓の音。

 それから続いて轟くのは大勢の男による野太い叫びに怒号。

 矢の雨が互いの陣地へと降り注ぐ。

 数百人もの騎士が騎乗槍ランスを構えて突撃。

 いずれの側が優勢で劣勢なのかは知らないけれども、今頃戦場は血に染まっているだろうな。


「うん、調子は悪くないな」


 俺は手足を回しながら、傷のチェックをする。

 いつもながら、身体中には無数の傷が刻まれている。まぁ、仕方がない。俺は司令部付きの遊撃部隊の一員。

 戦場の端から端へと飛び交う矢の雨を、繰り出される槍を突破しながら駆け抜ける、という危険極まりない任務を下知さえあれば四六時中やってるようなクレイジーな連中の一員なのだから。


 あてがわれた陣幕から外へ出る。

 日はすっかり沈み込み、あと数時間で深夜に達しようかという時刻。

 年の半数を戦場にて過ごすようになってからかれこれ何年経過しただろうか。


 小高い丘の上から戦場となっている平野を望む。


 一昔前なら日没と共に戦さは中断、続きは翌日へと持ち越すのが暗黙の了解、ルールだったそうだ。

 しかし眼下の光景を見るとそれも今や昔、といった事か。


 最初は卑怯だの何だの、と批判だらけだった夜襲も今や常道となった。

 そもそも軍隊にしても各々の領地から馳せ参じる昔ながらの軍隊から、傭兵が中心になりつつある。


 騎士道などここじゃ何の役にもたちやしない。


 戦場ここでのルールはたった一つだけ。

 生きている者、生き残った者が勝者。実に単純明快だろう。卑怯千万、大いに結構だ。


 奇麗事を吐き、実行しようとしておっ死んじまったら元も子もない。


 だってそうだろう?


 俺はこの世界とは何の縁もない″少数派マイノリティ″なのだから。


 こんな世界で時代で、ましてや戦場で死んじまうなんてのは真っ平御免なのだからさ。


 ガチャガチャ、とした鎧の音がこっちへ近付く。


 どうやら出番らしい。


 大方平野で繰り広げられている夜襲で、敵方の陣地に隙が出来たがらそこへ一点突破か、或いはその隙を作る為の作戦行動か。いずれにせよロクな任務じゃあないだろうさ。


 だけどな、それも仕方がないさ。


 何せ俺は元の世界でもこんな役回りばっかりだ。


 勝利を得る為の犠牲、死んでも誰も悲しまず、誰の記憶にも残らない。

 存在もしない誰か、それが俺だ。


 さて、そろそろ行くか。

 相棒たるドラゴンの紋章が刻まれたハルバートを抱え、馬に乗る。

 今夜もせいぜい生き延びてみせるさ。


 もしも神様ってのが、今、この瞬間をも見ていたのならこれだけは言っとく。


「ここにいなくて幸いだったな、じゃなきゃぶっ殺されてるぜ少数派おれらによ──!!」


 そして俺はハルバートを振りながら戦場へ突入していく。


 ここはとある異世界。

 その名を″フライハイト″。全くバカにしやがるぜ。何せ元いた世界のとある国の言葉じゃ″自由″を意味する言葉なんだそうだからよ。


 もしも俺の言葉が他の世界の誰かに聞こえてるっていうならこれだけは信じてくれ。

 自由フライハイトなんてのは嘘っぱちだってよ。


 だってここにあるのは人を殺す自由か、殺されてやる自由位のモノなのだからな。


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