第2話 断る理由なんてないね
「ポルックス、息を合わせなさい!」
「うん、姉さん!」
2つの閃光が森の中を駆け抜ける。
ゴブリンの上位種であるハイオークが振り下ろした巨大な棍棒を目にも留まらぬ速度で躱し、美しい銀色の髪を腰の辺りまで伸ばした女性が剣でハイオークの首元を勢いよく切りつける。
それでも傷一つ付かなかった首元を見て女性は悔しげに唇を噛んで後方に跳び、銀髪ショートカットの少女と入れ替わった。
「はあああっ!!」
槍を自由自在に振り回す少女による、先程の女性を上回る速度で次々と放たれる強烈な突き。
それでもハイオークは一切怯まず、次第に息が切れ始めた少女目掛けて棍棒をフルスイングした。
地面に着地した直後だった少女はそれを躱すことが出来ず、咄嗟に槍を盾にしたものの派手に吹っ飛ばされてしまう。
「ポルックス!」
「だ、駄目だ。強すぎるよこいつ・・・」
そんな少女に駆け寄った女性は魔力を纏って振り返ったが、既にハイオークは真後ろで棍棒を振り上げていた。
この距離では躱せない。
それが分かった女性は、死を覚悟しながらも少女を守る為に剣を握り締め、そして全力の一撃を繰り出す。
自分は死ぬ。それでも、僅かにハイオークが怯めば愛する妹を逃がす時間くらいは稼げるはず。
迫り来る死を至近距離で見つめながら女性がそう思った直後、突然ハイオークの動きがピタリと止まった。
「美少女が二人がかりでも傷一つ付けられないということは、ハイオークの中でもかなりの力を持った個体ということか」
「え、貴方は・・・?」
「通りすがりの勇者です」
現れた黒髪の青年に銀髪の2人が顔を向けた直後、何か重いものが落ちたような、ゴトリという音が聞こえた。
何事かと思い2人が再びハイオークに顔を向ければ、先程までは恐ろしい形相で2人を睨みつけていた醜く大きな頭が地面に落ちているではないか。
「流石はコウメイ様。誰も反応できない速度で、太く硬いハイオークの首を切断するとは」
「え、え・・・?」
何が起こったというのか。
それを2人が理解するのは、もう少し後の話だ。
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「なるほど、2人は双子だったのか」
「お二人共とても美人なので、コウメイ様がとても興奮しているのが伝わってきます」
〝七魔神〟についての情報を集める為に街を目指して森の中を歩いていた俺とシャル。
その途中でハイオークに襲われているところを俺が助けた双子の姉妹は、二人共とても可愛いので確かに多少は興奮している。
「先程は助けてくださって有難うございます。貴方が居なかったら、私達はどうなっていたか・・・」
まず、姉のカストル。
銀色のロングヘアがとても綺麗なお姉さんタイプの美人さんだ。背は160cm程で胸はかなり大きく、武器は長剣を使用するらしい。
「多分骨が折れてたのに、回復魔法であっという間に治っちゃった・・・。やっぱり、勇者さんって凄い人だったんだね!」
そして妹のポルックス。
カストルとは違って銀色の髪は短くカットされており、背はシャルと同じぐらいで胸は大きくもなく小さくもない。
武器は彼女の身長を越える長さの槍だという。
「魔王だなんて呼ばれてる勇者だけどな。ま、困ってる美少女に手を差し伸べるのは男の役目だ」
「コウメイ様。貴方は勇者なのですから、困っている人全員に手を差し伸べるべきなのでは?」
「それはそうだけど、さすがに全員を助けてる余裕なんて無いと思うんだ。だから、助ける優先順位はまず美少女からでだな・・・」
「目の前でおじさんが困っているとしたら、他の美少女の所に行く前にそのおじさんを助けるべきです」
「その時はその時だ」
いつも通り何か言ってきたシャルの頭を軽く撫で、カストルとポルックスに顔を向ける。
この2人には聞きたいことがあるのだ。
「どうして2人はハイオークなんかの相手をしていたんだ?」
俺がそう聞くと、2人は少し困ったような表情を浮かべながらその理由について説明してくれた。
「私達が住む町は今、恐ろしく強い魔族によって支配されてしまっているんです」
「んっ?」
「その魔族の言うことを聞かなければ町はすぐに消されてしまいます。だから、私とポルックスは魔族の命令に従って、今回ハイオークの討伐をしに来ていて・・・」
「なあ、シャル。その魔族が例の〝七魔神〟の1人である可能性が高いんじゃないか?」
「そうですね。何の為に2人にそんな指示を出しているのかは分かりませんが、圧倒的な力を持つ魔族というのは今の時代にそれ程居ない筈ですから」
シャルの言う通り、半年前に魔王軍は俺が壊滅させたから、あのレベルの強さを誇る魔族は〝七魔神〟以外居ないと思う。
それなら、カストルとポルックスについていけば、早くも1人目始末できるんじゃね?
「あの、勇者様。お願いがあるんです・・・」
「宏明でいいよ」
「は、はい、コウメイ様。もしよければ、私達を・・・私達の町を救ってください・・・!」
「喜んで!」
「ええっ?」
即答してカストルの手を握る。
「俺達の敵を仕留めて君達も救える。断る理由なんてないね」
「こ、コウメイ様・・・」
目に涙を貯めてカストルが見つめてくる。こんな美人な子にお願いされたら、それがどんな内容であったとしても断れない。
「まったく。人助けは良い事ですが、そうやってすぐに手を握ったりするのはどうかと思います」
「あれ、もしかして嫉妬?」
「は、はあ!?そんなわけないじゃないですか!」
「さーて、2人の住む町に行くとするか〜」
冗談でそう言ってみたら、シャルが顔を真っ赤にしながら魔法を唱えようとしたので急いでその場から離れる。
今スキルの効果で魔法反射してしまったらカストルとポルックスも巻き込まれる可能性が高いからだ。
それはさておき、町を支配しているのは七魔神の1人なのか、それとも別の存在なのか。
まあ、どっちだろうが、美少女を困らせている輩にはお灸を据えなきゃならないな。
『シャルロッテ先生のスキル講座』
ー極・剣技Lv10ー
全ての剣技を習得し、更に全剣技のLvがMAXの状態であるコウメイ様のスキルです。
コウメイ様は、軽く剣を振っただけで太く硬いハイオークの首をいとも簡単に切断します。