勇気、異端の戦略・・・!
■翌日教室
「皆さんおはようございます。今日もいい日になるといいね!」
始業のベルが鳴りシャード先生が爽やか200%で教室に入ってきた。
なんていい笑顔をしているのだろうか、きらりと歯が光り、きらりと頭頂部も光った。
「なあ大介」
後ろの席から身を乗り出して勇気が耳元に囁きかけてきた。
「ん?」
「次の休みさ」
「うん」
「BBQしない?」
騒動に巻き込まれることになるのは目に見えていたので俺はこう返す。
「嫌だ」
なぁんでだよぉ~親友だろぉ~とずっと泣きながら訴えかけてくる。
奴は持久戦を挑む気だ。
良いだろう、受けて立とう。
俺はthe 雨垂れ石を穿つと呼ばれる男だ。
「やかましい!!」
勇気は阿久比に鞘での一撃を脳天に食らって大人しくなった。
■昼休み 屋上
昼休みになって凪ねーちゃんの元へ野郎三人衆と阿久比が集まる。
場所はいつも通り屋上。
憩いの場所。
「しっかし勇気もたまには良い事言うな。おねーさんが褒めてあげよう」
凪ねーちゃんが唐突に勇気を褒めた。まさに唐突、前後の会話が無かったのでさっぱり分からん。
「たしかに、ゆうさんの意見としては上出来すぎて偽物を疑うレベル。おい、テメーゆうさんじゃねえ
な?」
「将太君、それは流石に酷すぎるよ……」
俺一人が会話についていけない。
なんだなんだ俺も会話に混ぜてくれよ皆。
「おいおい、みんな何の話してんだよ~なんかあったの?」
「む、大介お前はまだ聞いてないのか?」
凪ねーちゃんが不思議そうに俺に問い返してきた。
「だから何が?」
「週末にみんなでバーベキューやるって勇気の話しだよ」
その時大介に電流走る・・・!
(勇気の奴、朝のHRが終わってもずっと俺の後ろで文句を言っていた・・・授業中も休み時間でさえもぴったりくっついて俺に不平不満を囁き続けていた、それも駄々っ子の様に・・・俺は勝手に持久戦だと思っていたが否・・・!持久戦はブラフ・・・!本当の狙いは別にあった・・・!反対する俺以外を落として俺を一人孤立させる事・・・!しかし、いつ・・・!?)
勇気はニヤリと笑った。
(ああ・・・!!ああぁぁぁ・・・!!昼休みまでの間じゃない・・・!!その前、もっと前から用意周到に準備されていた・・・!!きっと数日前から・・・!!!俺が反対するだろうという事を見越して俺に話を持っていく前日か前々日に既に周りを懐柔していた・・・!!!!俺にイエスと言わせるしか無い状況を既に作られていた・・・!!狙い撃ちされた・・・俺の性格を読み切って蛇の様に・・・!!)
ざわ・・・ざわ・・・
「おい大介、大丈夫か?変なエフェクト出てるぞ」
阿久比が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「あ~そういえば大介にはまだ言ってなかったっけか~ごめんな~でも大介も行くだろ?」
くっ!!!!この野郎白々しい演技しやがってなんだその勝ち誇った目は・・・!!!!この状況で断れる訳ねーだろうが・・・!!!!
「あ、阿久比は行くのか?」
汗がだらだら顔を伝うが、何とか阿久比に話題をぶん投げて一時的に凌ぐ・・・!
阿久比は購買で買ったコロッケパンをはむはむ食べながら俺に決定打を言い放った。
「うん、行くよ」
退路は無かった……
いや、初めから外堀を埋められた落とされる寸前の居城だった。
策士を気取っていた俺だがその実、勇気に策を張られて俺は負けたのだ……
「私はバーベキューというものをしたことが無いのだが資格とかいるのか?」
阿久比の一言。
色々思う所がある発言ではあったが黙っておいた。
友達いなかったの?とか家族としなかったの?とか頭に浮かぶがすぐにかき消す。
きっと想像した通りだろうから。
ずっと剣術の修業に明け暮れていたに違いない。
だから無知なのは悪い事じゃない。
「資格か、あるぞ。私の仲間という資格がないと参加できないのだー!!ふっはっはっは!!」
腕を組んで高らかに笑う凪ねーちゃん。
快活豪気なその性格が心底羨ましく、カッコよく見えた。
……そして良い感じに場面が移り変わる直前に勇気に対するささやかな反撃を思いついたのだった。
■週末 BBQ当日
結局俺はBBQに参加の旨を伝えたのだが、その時には既に反撃を思いついた後だったので快く承諾した。
場所は裏山。
ディアーウィッチ校舎のすぐ後ろには裏山がありちょいと大きな川なんぞもありますもんだから山の中の川辺でテントでも張りながら一泊二日BBQキャンプに出掛けようって事らしい。
昼ぐらいに校舎裏手、裏山の麓に参加メンバーが皆集まった。
メンバーは凪ねーちゃん、阿久比、勇気、将太、俺、そして・・・
「ブレイブくぅ~ん!!!」
「げっ!?明石!?何でここに!!!」
はっ!!と勇気が俺を振り返る。
そうさ、その通り。
俺が誘ったのさ!!!
俺をハメたといい気になっていたお前は笑えたぜ。
「俺からのささやかなる反撃だ」
「ささやかじゃねーよ!!大惨事だよ!!!」
「ブレイブ君、さあ俺と一緒にエデンの園へ向かおうじゃないか」
「なんでテメーと二人で行かなきゃなんねーんだよ。あとブレイブって呼ぶなって言ってんだろ顎かち割るぞ」
「ん?何うろたえてんだ?2チームに分かれてやるんだろ?勇気&明石ペアとその他で。なあ大介」
勿論凪ねーちゃんは俺と勇気の裏の戦いを知らないので既に根回し済みである。
「うんそうだよ^^」
事前準備か、勇気は俺に大事なことを教えてくれた。
早速使わない手はないよね、根回し、イエスとしか言えない状況づくり。
「あぁ・・・!!あぁ・・・!!!嫌だぁぁぁぁ!!!!生きたい・・・!!!もっと生きていたい・・・!!!」
「さあブレイブ君行くよ」
明石に引きずられて勇気は俺達より一足先に山へと入っていった。
俺達も山に入るが同じところに行っても面白くないという凪ねーちゃんの意見に皆同意して勇気達とは別方向に歩き出した。
■大介チーム 川辺
川辺にちょうどいいスペースがあったのでそこをキャンプ地とする事にした。
男女でテント一つずつ。
まずはテントを将太と俺が立て、その間に阿久比と凪ねーちゃんは焚き木を集めたりバーベキューの準備をきゃっきゃ笑いながら進めてくれていた。
テントを立てた後はいよいよ火起し、これがまた大変なのである。
将太は早々に「川魚釣れねーかなー」と釣竿をもって逃げやがった。
着火剤に火をつけてうちわで扇ぐ扇ぐ!!
このキャンプでは魔法禁止という凪ねーちゃんの言葉で魔法禁止になったのでアナログな手法で火を起こさねば!!
炭からは徐々に煙が見え始めてきた。
■勇気&明石チーム
「楽しいね!ブレイブ君♪」
「野郎二人っきりで何が楽しいんだよ。……ってかお前リュックも何も持ってないけど」
「ああ、僕はこれ持ってるから平気♪」
そういうと一本のナイフをホルスターから取り出した。
勇気(馬鹿なのか?俺はみんなで一緒だと思っていたから食料もテントも持ってないんだぞ?飯は?寝床はどうする気だ?}
「待って!!」
「急に大声出して何だよ……」
明石が茂みを指さす。
「ブレイブ君、足元にある長い木の棒を取って。見てください、ヘビがいます」
「ほいよ木の棒…ってヘビ!?」
「これはディアーウィッチの裏山にのみ生息するマジックスネークと呼ばれる種ですね。非常に強力な猛毒を持っています。噛まれたら血清を打たなければ半日で死んでしまうでしょう」
「へー、そうなんだ、危ないじゃん」
「まずは木の枝で頭を押さえつけます…!そしてナイフで一気に頭を切り離します…!ふぅ…しかし安心してはいけません、見てください切り離した頭がまだ動いています。ヘビの頭を切断したら忘れずに地面に埋めてください。これで事故を未然に防ぐことが出来ます」
「タメになるんだかならないんだか正直分からんけどお前ってこういうキャラなの?ってかヘビも避けて通れば良かったんじゃ」
「それではヘビの皮をむいて内臓を取り出します。…パク、モグモグ、この種のヘビは生でも食べる事が出来ます。ジャングルでは貴重なたんぱく源です」
「ファッ!?」
「お、こんなところにバッタがいますね、昆虫は牛肉よりもたんぱく質の比率が高く(ryもぐもぐ」
「うせやろ……」
■大介チーム
将太の釣りは好調のようで川魚を数匹釣っていた。
まあそもそも食料はたんまり持ってきているので追加のおかずといった感じだ。
炭にもしっかり火が点き、轟轟と真っ赤な炎を上げている。
鉄板もいい具合に温まり、肉を焼くにはちょうどいい火力と言ったところだ。
阿久比は焚火のそばで何やら食材を使って燻製を作っていた。
「なあアグッち、燻製ってチップとか必要なんでしょ?そんなの持ってきたの?」
「アグッち…?あぁ、えーと実家に立派な桜の木が立っていて、その折れた枝なんかをチップとして作ることがあるんです。これは実家のをちょっと持ってきました。燻製というのは保存食にもなりますし結構長期の戦いや戦争なんかの時に役立つんですよ」
燻製の話から急に物騒な話に変わってたけど俺は無視した。
さて、奮発して高い肉を買ったのできっと美味しい。
鉄板からはジュージューと食欲をそそる音と匂いが漂い始めた。
将太も釣りを一旦止めて川魚を焚火の所で串焼きにしている。
ああ、なんて素晴らしいのだろう。
綺麗な空気に川のせせらぎの音、肉の焼ける音と匂い。
バーベキューって本当、いい物ですね~。
日が傾き始めてきている。
ランプを出す準備をしておくか。
■勇気&明石チーム
「なあ、早くしないと夜になっちまうぞ。寝床と飯はどうすんだよ」
「うーん、そうだね寝床は比較的短時間で出来るからまずは場所探しと食材集めに行こう。あと飲み水の確保です、人は一日に最低11リットルの水分が必要なのです」
明石が喋っているがこいつは何しに来たんだ!?BBQしに来たんですけど……
「ちょっと待って、何でバーベキューに来たのにサバイバルになってんの!?そしてなんで説明口調なの!?」
「川の水はそのまま飲んでは危険です、水あたりを起こしてしまう可能性があります。ろ過装置でゴミを取り除き、煮沸して飲みましょう。ろ過装置がない場合はシャツやズボンで汚れをこす事が出来ます」
「もう嫌帰りたい」
■大介チーム
沢山飲んで騒いで食べて遊んで。
あたりはすっかり暗くなっている。
焚火を囲んでみんなでマジカルジュース(アルコールは入っていません!!)を飲んでいた。
「うひゃひゃひゃひゃ、やっぱマジカルジュースに限るわ!ゴクゴクゴク、かぁー!!たまんねえ!!」
「凪ねーちゃん、オヤジみたいだよ」
注意するが凪ねーちゃんはどこ吹く風である。
「私はマジカルジュース飲むの始めてだ」
そして阿久比も一口。
マジカルジュースとは大手清涼飲料メーカーが発売しているジュースだ。
…ジュースだ!アルコールは入っていないただのジュースである!
「凪ねーちゃんも結構よっぱらっれるんららいれすかぁ~?」
「おう将太もやってるな!はっはっは、マジカルジュースごとき何本呑んでもマジカル状態になるものかー!!うあっはっはっはー!」
(マジカルジュースを摂取しているとごく稀にマジカル状態と呼ばれる謎のステータス異常になることがありますがアルコールは入っていません。)
普段大人しい将太がマジカル状態になってハイテンションになっている。
凪ねーちゃんもいつも以上に豪快な性格に。
なにやら二人で肩を組んで「マジカルダンス」なるものを踊り始めたからたまったものではない。
阿久比はというと、初めて口にする飲み物だからか両手でちびちび飲んでいた。
その姿にドキッとした。
マジカルジュースを飲んで少し頬が赤くなり(アルコールは入っていません)、焚火の明かりに照らされた阿久比の横顔が凄く可愛く見えた。
あー、そういえば俺も結構マジカルジュース飲んでる。
ちょっとマジカル状態になっているのかも。
でも、可愛いって思う。
目が離せずしばらく眺めていると阿久比が俺の視線に気づいて振り向いた。
「む、どうした大介」
「アルコールは入っていません」
「はぁ?」
咄嗟の事で意味不明な事を口走ってしまった。
恐ろしやマジカルジュースのマジカル状態。
アルコールは入っていません。
■勇気&明石チーム
「真っ暗だし、お腹すいたし、もう帰りたいよぉ・・・」
「ブレイブ君、生死にかかわる状況では先入観を捨てなければ生き残る事は難しい」
「あ、蛇だ・・・!くそ・・・こうなったらやけだ!!とっ捕まえて食ってやる!!」
「ダメだブレイブ君!」
「なんだ!?毒蛇なのか!?」
明石「見てくださいこの綺麗なまだら模様、マジカルスイートヌカスネークです。この種は保護種に指定されていますのでそっとしておきましょう。命にかかわる状況なら別ですが、今はそうではないので無用な殺生はやめておきます」
「このままじゃ命に関わるだろうが!!もうお前とはやってられん!!俺は逃げる!!!」
■大介チーム
森の中から勇気がボロボロになって這い出てきたので救助した。
軽度の脱水症状と空腹が原因だと思うがいったい何があったのだ……
明石が遅れて合流したが明石は元気そうだし。
すると勇気が目を覚まし明石の顔を見るや否や「この貴重なたんぱく源!!」と悪態(?)をついて
ぷんすか怒っていた。
「まあまあこうしてみんなと合流できたんだからいいじゃねーか。予定は変わったがみんな一緒に楽しもうぜ。さあ花火だ!!」
凪ねーちゃんの一声は戦場の武将が如く、である。
皆を扇動するのがいつもながらうまい。
リーダーシップの塊のような女性だ。
きっとこの人が戦国時代に生まれていたなら戦場で首手柄を取る為に鬼神の如く突撃し敵の首をかっさらう妖怪首おいてけになっていたことだろう。
そんなことはさておき、皆が持ち寄った花火を広げ始めた。
よくコンビニやスーパーなんかで売ってる花火セットが大半である。
将太は両手に手持ちの花火を目一杯持って一斉に火をつけてぐるぐる腕を回しながら勇気を追いかけまわしている(危険)。
凪ねーちゃんはロケット花火とは違う一番大きな筒形の打ち上げ花火に点火したところだった。
一際大きな音と光を打ち上げ続ける花火を凪ねーちゃんは見上げ、その姿を阿久比と俺が見ていた。
二人の目線が合う。
「なんかアレを選ぶ当たりやっぱ凪ねーちゃんだなって」
「そうだな、彼女には豪傑という言葉がよく似合うよ」
そう言って笑う阿久比に胸が鈍痛を覚える。
動悸と息切れもしてきた。
誰か救○を・・・!
胸の高鳴りを悟られてはまずいが阿久比を見てると症状が悪化する。
とりあえず凪ねーちゃんを見るふりして視線を外す。
するとなにやら勇気が凪ねーちゃんに近づいていた。
勇気「いい音でしょう、余裕の音だ。火薬が違いますよ」
凪「一番気に入ってるのは」
勇気「なんです?」
凪「……威力だ」
勇気「わーっ、何を!わぁ、待って!こっちに向けちゃ駄目ですよ、待って!止まれ!うわーっ!!」
勇気目掛けて飛び交う光の環は、それはとてもとても美しかったそうな。
みんな笑ってみんな楽しそうだ。
行くのを渋ったけど特になんの騒動も起きなかったし、来てよかった。
そして阿久比へのこの気持ちはやっぱあれなのか。
こ、こ、こ・・・
「恋だ」
「うわあああ!凪ねーちゃん!いつの間に背後に!!」
「それは恋だ少年。愛だエロスだ」
「人の心を読むな!!」
「なあに、そんな熱い視線でアグッちを見つめていたら誰だって分かる」
「……恋なのかな」
「さあな。それは大介にしかわからんよ。まあしかしだ、その気持ちがどちらにせよだ、私は全力で
お前たちをくっつけようと画策するだろう。そしてそれを全力で楽しむだろう。はーはっはっはっは!」
--もしかしたら一番知られちゃいけない人に最初に知られてしまったのかもしれない。
その後はテントの中で一夜を過ごし、後片付けをしてBBQはお開きになったが俺の新たな苦難は始まったばかりだった。