いつもの日常
■伝統あるディアーウィッチ魔術学校 屋上
昼休みになり俺と勇気、そして何故か陰陽術の阿倍野が付いてきて飯を食うことになった。
場所はいつも決まって屋上だ。(本当は立ち入り禁止だがコッソリ使っている)
ガチャリと重厚な扉が開き屋上の景色が目に飛び込んでくる。校舎が城の様な外観なだけはあっ
て絶景である。
屋上と言っても一番高い場所ではないが、生徒が出入りできる場所で一番高いところはここなの
だ。
屋上には先客が一人。
凪ねーちゃんであった。
「おう、先に始めてるぞー」
何やら言い方が宴会のオヤジみたいになっているが軽くスルーした。
普段なら将太もこの場所で昼を済ませるのだが姿が見当たらないので凪ねーちゃんに聞いてみ
る。
「なんだ、将太はまだ来てないのか?」
「ああ、なんか飲み物忘れたから買いに行ってくるって言ってたぞー」
いつも屋上は俺達幼馴染4人で集まって昼食を取る事になっている。
誰が決めたわけじゃないけど自然にそうなった。
凪ねーちゃんはあまりの魔力の強大さに周りが怖がって近づかないから俺達くらいは一緒にいてあ
げようって誰かが言ったような気もする。
まあそんなことが無くてもきっと凪ねーちゃんと一緒にいる事にはなったんだろうけど。
そんなこんなでしばらくして将太が帰ってきた。
「おろ、人が増えてる」
将太の顔見知りで上の学年の奴といったら俺と勇気、凪ねーちゃんに阿久比と阿倍野くらいであ
る。
阿久比と阿倍野はたまに一緒に行動するくらいなのでそこまで仲が良いとは言えないが、将太がど
う思っているかまでは謎だ。
特に何も言わないから悪い気はしていないようではある。
だがたまに参加する側としてはやはり気を遣うのだろう、阿倍野は将太に問う。
「将太殿、すまない。お呼ばれしてしまっている。お邪魔だったか?」
「いやいや別に。多いほうが楽しいじゃん?」
将太はどっしり座り込んだ。
そして唐突に将太が話し出した。
こいつはいつでも唐突だ。
何故なら将太は唐突系男子だからだ。
「俺って魔法の才能無いのかなぁ……」
まだ入学して3か月のお前が何を言うか!
そして誰も返答していないのにさらに将太は語り続ける。
「いやー、何かね?魔法使いになるって勉強したり練習したりしてるけどさ、なんか俺には才能無
いんじゃないかなと思ってさ。テキスト通りの魔法は一通り難なく使えるんだけどオリジナルが全く思
いつかないんだよね」
それを聞いて勇気がワナワナと震えていた。
そして勇気は将太を指さして高らかに叫んだ。
「テキスト通りの事が出来ない人もいるんですけどー!?誰とは言わないけどー!!」
「確かに勇さん、朝よりアフロのボリュームが倍になってるね」
将太はまだ入学して3ヶ月くらいしか経っていない。
飽きっぽい所があるのが小さい頃からの将太の癖だ。
しかしテキスト通りに魔法が出せれば優秀って訳でもないからね。
結局自分が思う通りの事が出来るのが一番いいんだから。
「まー自分の力を使いこなせる様になるって難しいよな。」
勇気が語り始める。
「だってさ、俺は今火炎変換の魔術が凄い出しやすくて、俺は火炎系の魔法が得意なのかもっ
て思ってるけど、実はまだ試していない重力系の魔術の才能があるのかも知れない。でも今のまま
だったら俺は火炎系の魔術ばっかり練習して本当の才能を潰してしまうことになる。」
勇気の言っていることは至極まともだった。
適正というか才能というか。そういうものは結局見つけるには難しくて才能通りの分野で活躍できて
いる人はきっとかなり運がいい人なんだろうなとは俺も思う。
--だがとりあえず制御できずに自分の頭を燃やすくらいだから火炎変換は向いてないと思うぞ。
そして今度は勇気が凪ねーちゃんに問いかけたが返答は・・・
「凪ねーちゃんにはそういうの無いの?」
にやりと笑って凪ねーちゃんは胸を張って答えた。
「私は何でも出来る。最強だからな!」
--凪ねーちゃんの事だから全く参考にならなかった。
だが凪ねーちゃんは続けた。
「強いて言うなら・・・戦いに関する事以外のことはなんかめんどくさくて嫌いだ。色々頭の中で質
面倒くさい計算して魔力を練って別の物質やエネルギーに変換させて……って面倒くさいんだ
よ!!力溜めてぶっ放す!!これに尽きる!」
この人は何になろうとしているのだろう……どっちかというと魔法使いというより武術家だ。
だがとりあえず間違いは正しておかないといけない。
「凪ねーちゃん、魔力を放つだけってのは魔法とは呼べないと思うよ」
「黙れ。強さこそ正義。私を圧倒してからならその意見を聞いてやろう」
--凪ねーちゃん一切聞く耳持たず。
■校外 放課後
学校が終わり放課後となる。
基本この時間から夜10時までは自由行動となる。
寮には10時までの門限があり、それまでは特にどこにいても構わない。
休みや連休、夏休みや冬休みなどの大型の休日期間は外泊届けさえ書いて提出すれば外泊も認
められている。
まああまり外泊する生徒はいないが。
いたとしてもライブに行くとか実家に帰省するとかその程度だ。
そんなこんなで放課後になり、俺達幼馴染グループと阿倍野を入れた5人は放課後、学校近くの
行きつけの喫茶店に行きたむろする事になった。
週に1度はその喫茶店に行っている。
■喫茶店「魔女狩り」
魔術学校の近くになんと不穏な名前の店だろうと毎度思う。
事実学生の客はほとんど見かけない。
カランコロンとドアに付けられた鈴が鳴る。
「いらっしゃーい・・・ってなんだいつもの奴らか。」
ぶっきら棒な声で客を迎え入れ、カウンターに頬杖付いているやる気の無さそうなお姉さん。
この喫茶店を一人で切り盛りしている霧島冬花さんだ。
頭にはバンダナを巻いて長髪がなびいている。
肩の刺青がいつも半袖なので目に入る。
「stardust knights of noblesse oblige」と書かれている。
スターダストナイツ学園のOBなのだろうと勝手な憶測で納得して本人には聞いていない。
「どうして毎度毎度客はあんたらしか来ないんだろうねぇ・・・で、注文は?いつもの?」
勝手に注文を決められるがこれも毎度の事である。
俺と勇気と将太はコーヒー、凪ねーちゃんは緑茶がいつものメニューである。
--ちなみに緑茶なんてメニューはこの店には存在しない。
「えーと、そっちの子は?注文どうする?」
阿倍野はあまりこの店には来ないので迷っていた。
「余は水でいい。」
「あんたねえ、私に飢え死にしろっての?あんたらの注文で私はまんまが食えているわけ!唯で
さえ常連の客なんかあんた達しかいないんだから、固定客を獲得しないと生きていけないわけ!そ
していつもの奴らに一人人が増えて私もラッキー♪なんて思ったらそいつが注文したのは水!?
ガッデーム!!ジュテーム!!」
将太に制止されても聞かず冬花さんはファンキーしていた。
「お、落ち着いて冬花さん!」
「落ち着いていられっかー!!こっちゃ生き死にが掛かってんのじゃい!!」
2人の騒ぎを全く意に介さず阿倍野がメニュー表を見て注文する。
「じゃあ余には紅茶を。」
メニューを見ながら阿倍野が注文する。
「ああん!?そんなメニューはうちの店にゃあ無え……ってあるな。こんなメニュー私作ったかな
……?つか紅茶の茶葉はあるけどどうやって淹れるんだ……?」
--店主はボケていた。
それか俺達以外の客が来ないのでメニューを忘れているのかもしれない。
どちらにせよどうかしている。
この店に来ても特にやる事は変わらない。
メンバーに冬花さんが増えて雑談をするだけ。
学校の他の生徒はきっと魔法の訓練や自主勉強に明け暮れているのだろう。
まあ俺たちと同じようにぐうたら過ごしている生徒もいるだろうけど。
もうすぐ夏休み。
俺達は今以上に暇を持て余す事になるだろう。
■伝統あるディアーウィッチ魔術学校 食堂
しばらく雑談をした後俺達は店を後にして寮に帰る事にした。
夕方6時から8時までの間に帰れば食堂で夕飯が食べられる。
食堂は学校にあるので勿論ここは男女共用、生徒も教員も共用だ。
食堂に6時少し過ぎに到着した俺達は空いているテーブルに座って夕飯を食べる。
阿倍野は先に帰ってしまったが、今度は妖刀使いの阿久比と孤高のロックンローラー明石がいた
のでご一緒させてもらった。
……ちなみに明石は勇気の事がお気に入りだ。
「皆さんお揃いで。ブレイブ君もこんばんわ。アフロ似合ってるね」
爽やかな笑みで勇気を見る明石。
しかし、勇気の眉間に皺が寄る。
「いいかエセロックンローラー、俺の事をブレイブ君って呼ぶのを止めないと顔の形が変わるまで
殴るぞ」
明石は勇気の事をブレイブ君と呼ぶ。
何故かと言ったらそっちの方がロックだからなのだろう。
--多分。
阿久比は関心が無さそうに一人黙々と食を進める。
彼女の好物はハンバーグ定食だ。いつも同じ物を食べている気がする。
「おーおーテメーら楽しそうだなぁ。俺も混ぜてくれよ。ん?」
いつの間にか担任の観音寺も加わりさらに騒がしくなる。
明石は誰も聞いていないのにロックとは何たるかを熱弁し、勇気はお茶を溢してのた打ち回り、将
太は阿久比と黙々と食を進め、凪ねーちゃんは大爆笑。
--何ともカオスな夕飯であった。
喧噪の合間に阿久比にいきなり話し掛けられた。
「なあ大介、明日土曜日で学校休みだろ?買い物に付き合ってくれんか?」
これまた唐突な阿久比からの誘いであった。
「別にいいけど、他の連中は・・・」
「いや、貴様だけでいい。休日までこの喧騒が続くのは少々堪える。」
「そっか。じゃあ正門前に・・・10時くらいに集合でいいか?」
あまり早い時間を指定しなかったのは俺が朝弱いからだ。
しかも休日となるとなおさら。
「ああ、そうしてくれると助かる。」
激しい喧騒の中明日、女子と買い物に行くことになってしまった。なんという青春。
季節は初夏だが青い春の訪れである。
しかし相手は阿久比。
正直二人っきりになった事がないので少し怖い。
そして突然凪ねーちゃんが叫び始めた。
「あー、私も明日暇だなぁ~!誰かデートに誘ってくれないかなぁ!!」
……凪ねーちゃんの地獄耳には俺と阿久比の会話が聞こえていたか。
厄介な事になりそうだな。
--うわぁ何かすげー凶悪な笑みを浮かべているし。
すると勇気が凪ねーちゃんに跪いて話し掛けた。
「お嬢さん、私目も明日予定がございませんのでよろしければこの勇気とデートなぞ如何でしょう
か」
「わりぃ、明日は用事あんだよね」
「さっきと言ってる事が逆なんですけど!!」
勇気のお陰で何とかあの場で俺と阿久比が二人で買い物に行くということが他のメンバーにバレず
に済んだ。
しかし、相手はあの阿久比だ。変に期待することもないだろう。
今日はゆっくり寝て気負わず明日を迎えよう。