俺の幼馴染は最強でした
■伝統あるディアーウィッチ魔術学校 女子寮玄関前
「いいか、ぬかるんじゃねえぞ大介」
「分かってるよ。でも毎回毎回捕まってるのは君のせいだからね」
夜の女子寮に忍び込もうとしている男二人。俺、神崎大介と悪友で幼馴染の近藤勇気。
さて我々は男子禁制の神聖なる女子寮に忍び込もうとしている。
侵入するのは初めてではないがやはり緊張する。ここは生と死が交差する場所。
見つかれば死、見つからなければ……って見つからなかった事なんて一度も無かった。
という事はこの場所は死と死が交差する場所。
Dead or aliveどころではない。
--DEAD & DEADだ。
「じゃあいくぞ大介、開けるからな」
「いや、やっぱやめといた方が……」
ガチャリと大きな音を立てながらこれまた大きな門の様な玄関の扉が開く。
「前回までの反省を生かせば今回こそ……」
勇気が後ろにいる俺の方を見ながらドアを開けていてまだ気づいてないけど、玄関の中で、おもいっきり仁王立ちで侵入を待ち構えられていた。
腕を組んで常に抑えきれない魔力のオーラを纏っているこの長髪つり目の女性こそ、僕らの最強の幼馴染、『天馬凪』だ。
「『今回こそ』、何かね勇気君」
名前を呼ばれて一気に硬直した勇気。さあ……どう出る、勇気。
「あ、お待たせしましたいつもありがとうございます!食べると元気!勇気の出る勇気印のデリバリーピザのお届けに……」
「散れッッ!!」
最強の幼馴染、天馬凪による強大な魔力を乗せた正拳突きによって勇気はお星様と相成った。
そして次は勿論俺の番である。凪ねーちゃんはにやりと悪魔的な笑みを浮かべながら俺へ問う。
「今日は星が美しい。大介、お前もきらきら星になりたいだろうそうだろうそうかなりたいかおねーさ
んが叶えてやる」
早口でまくし立てられて口を挟む隙は一切なかった。凪ねーちゃんの身体の周りには濃い紫色の魔力が溢れ出し、それが一気に右の足へと収束していく。
魔闘体術、凪ねーちゃんが最も得意とする攻撃方法だ。魔力で強化された拳や足での強力な打撃、そしてその勢いのまま魔力を放出し相手を吹き飛ばす。
魔力というものを大体の魔法使いは火や水なんかに変換させて使う物だが凪ねーちゃんは肉体強化、そして圧縮して放出するというごり押しもいいところな使い方しかしない、というか出来ないのだ。
何故出来ないのかというとこれまた単純な話、彼女は勉学が嫌いだからである。だから変換の仕方が分からないからただぶっ放す事しか出来ないのだ。(本人は『ぶっ放す方がつええから変換なん
てしないだけ』とのたまってはいるが……
そして繰り出される後ろ回し蹴り。顔面にめり込む凪ねーちゃんの右足。一瞬見える純白のパンテ
ー。
俺も勇気と一緒にお星さまと相成った。
「懲りない弟共だよ全く」
■回想
『私のね、将来の夢はね・・・』
遠い昔の記憶。
1つ年上の幼馴染の女の子と話した将来の夢の話。
あの頃の俺の夢は何だっただろうか。
今となっては上手く思い出すことが出来ない。
『なれるかどうかも分からないんだけど・・・』
俺の夢はきっと子供ながらに思う、どうでもいいような夢だった気がする。
プロのサッカー選手になるとか、宇宙飛行士になると。
それか当時見ていたヒーロー番組のヒーローになることだった気もする。
まあ、どの夢だったにせよ大差はない。
だってそのどれもが生まれながらの才能があってとか、又はそれ相応の努力をした上でなければ
手に入れることの出来ない大きな大きな夢だからだ。
勿論その当時の俺にそんな才能は無かったし、今の俺にも無い。
努力だってして来なかった。
だからどんな夢だったにしても俺にとってあの頃の夢は叶うはずの無い、小さな子供のただの戯言
に過ぎないんだ。
彼女の夢だってそうだったはずだ。
俺と同じようなとてつもなく大きな大きな夢だった。
彼女も俺と同じように努力なんてしなかった。
俺と同じように遊んで俺と同じように育って・・・
『私はね、私はね!』
でも彼女と俺には決定的に違う点があった。
俺に無くて彼女にある物。
それは・・・
『この世で一番強い魔法使いになるの!』
--簡単に言えば才能なんだろう。
彼女の夢は最強の魔法使いになること。
魔法を志す者なら誰だって一度は夢見る事だ。
魔法の分野には「魔術師見習い」「魔術師」「魔導師」「大魔導師」という位が存在する。
そう、この世界には魔法が存在している。
正確に言えば魔法というより『魔力』と呼ばれるエネルギー源が存在している。
火力発電、水力発電、魔力発電と言った具合に魔力とは新たに発見されたエネルギーなのだ。
体内で魔力を発生させ、それを色々な物質に変換させる、これが所謂『魔法使い』と呼ばれる者達
だ。
この世界で魔力を持った人間と持たない人間と、その割合は半々といった所なのだが、魔力という
概念自体研究途中のよく分かっていない謎の力と言った認知度でしかない。
魔力を持っていてもビジネスマンになりたい人もいるし、ミュージシャンになりたい人だっている。
必ずしも魔力を持っているから魔法使いを目指す、と言った事もないのだ。
例えるなら、足が少し速いからって「よし!オリンピック選手目指さなきゃ!!」とはならないのと同じ
ような感じである。
この世界で魔力を持っていなくても別に馬鹿にされることもない。
普通の世界でだってアルコールを分解する能力がないからお酒が飲めないとか、牛乳を飲んでも
乳糖を分解する能力がないから必ずお腹を下すとかあるでしょう?
あれと似たようなものだ。
なので別に魔力があるから、無いからで優劣はあまり無いという風に考えられている。
だが逆に魔力を持っていなくても努力してなんとか魔法使いになれないものかと学校に通う者だっ
ている。
魔力は不思議なもので生まれながらにしてすぐに持つ者もいれば、40、50を過ぎてようやく出てく
る者もいる。
個人差があるので一概に生まれ持って魔力の無いものが魔法使いになれない、ということも無い。
俺と彼女は幸運にも幼少期から魔力を人並みに発現させていたので小さな頃から魔法使いにな
るという夢は追うことが出来た。
後はその魔力が成長と共にどの程度増えていくかという事だ。
別段魔力がとんでもなく強くないと魔法使いになれない訳ではないのであまり気にする必要はない
のだが、彼女の場合は夢が「最強の魔法使い」なのである。
並みの魔力じゃまずその夢は叶わない。
まあしかし、その点彼女は簡単にその問題をクリアした。
なにせ成長と共に彼女の魔力は倍々に上がっていくのだ。
少女期にして彼女は魔術師レベルの魔力を有していた。幼い頃から尋常じゃない魔力を有し、さら
にその成長は止まらない。
現在俺は17歳。彼女は18歳。
勿論彼女は魔術を習いに魔術学校へと進学した。俺も彼女を追う様に同じ学校へ進学した。
俺らの住んでる街から近い魔術学校で有名な所と言ったら2つだ。
まず一つ目は伝統ある実力派の学校、「伝統あるディアーウィッチ魔術学校」。魔法専門で色々な
分野の道を示してくれるとても大きな学校だ。学校名に「伝統ある」を入れているのはワザとらしい。
『魔法専門』と言ったのは後述する2つ目の学校が関係する。
そしてその2つ目である近代科学と魔術の融合を目指す「スターダストナイツ魔術学園」。こちらは
どちらかというと学校というよりは軍の訓練学校に近い。術者の魔力を増幅させる魔導ウェポンと呼
ばれる兵器の使い方等を学び、そのまま軍事関係の道に進むか魔導ウェポンの研究者の道を選
ぶ生徒でほぼ分かれる。
ちなみに俺と彼女は前述した「伝統あるディアーウィッチ魔術学校」へ進学した。
全寮制のこの学校に入学してから1年が経ち、俺は2年生へ、彼女は3年生になった。
俺の魔力は普通だが、彼女の魔力は今や大魔導クラスである。異常中の異常なので何かと彼女は
有名人。知らない人なんかいないくらいのね。
これはほぼ夢が叶ってしまっている彼女と、平凡な俺の物語である。