チョコレート
甘い匂いがキッチンを包む。その正体は、大量のチョコレート。今日はバレンタイン、あなたのために甘い愛をプレゼント。得意なフォンダンショコラを焼き上げる。意外に簡単です。箱に入れたら、ハートの形に固めたクランチチョコを近くに添えて、ラッピングは完了。一息ついて時計を見上げた。大変、急がなくっちゃ。
白いニットのミニ丈ワンピース、長い髪は三つ編みにして、赤いベレー帽でアクセント。気合いをいれてメイクして、いつもよりかわいい私。キャメルのコートを羽織れば完璧。さあ早く行かなくちゃ!
「太陽、お待たせっ」
「お疲れー」
待ち合わせの公園につくと、あなたは居た。手のひらを上げて、私を見つめたあなた。事前に取り付けておいたデート。喜んでくれるかな。
「ん?なんか甘い匂いする……」
肩のあたりにあなたの顔が近づく。ちょっと待って! 鼓動が伝わっちゃいそう!
「チョコっぽい」
そうやってあなたは、くしゃっと笑った。その顔、反則です。
「秋月さん」
「なに?」
「ちょーだい?」
両手をすっと差し出して、首を僅かに傾げる。あなたって人は本当に、わざととしか考えられない。
「……はい」
「あざーすっ!!」
紙袋の中を見るあなた、すごく嬉しそう。私は思わず微笑んだ。その時、目が合う。あなたがまた笑った。
「食べていい? 食べていい?」
「どーぞ」
「やった!」
きょろきょろと辺りを見渡して、空いているベンチに座るあなた。ポンポンと隣のスペースを叩いて、こっちに来いと促された。私が隣に座ると、ガサゴソと紙袋から、私が頑張ってラッピングした箱を取り出す。それを見て、丁寧に丁寧にリボンを解いていった。
「これは、カップケーキ?」
「それはフォンダンショコラ。まだあったかいとは思うけど……」
私が言い終わらないうちに、マフィンカップを破いてかぶりつく。口をもごもごさせながら、あなたは断面を指さした。中のチョコがとろり、はみ出しそうだ。
「おいしい?」
気になって聞いてみると、あなたは縦に首を振る。口に合ってよかった、ほっとする。
「すごい! お店で売ってるやつみたい!! めっちゃおいしい!」
それだけ言って、ノンストップで平らげた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです」
包装を綺麗に紙袋に戻したあなた。どこか満足げな表情に、私はそれをじっと見つめていた。
「ほんと美味しかったー、秋月さんお菓子じょ……」
気がつけば、体が動いていた。あなたの唇の端、甘い甘いチョコレート。ほんのちょっとなのに、口の中いっぱいに甘さが広がった。
「ついてたよ、チョコレート」
イタズラに笑ってみせた。あなたはしばらく、目をぱちくりとさせてたけど、だんだんと顔が赤くなっていた。そんな所、すごくかわいい。
「あのさぁ……」
手で顔を覆うあなた。なんかまずかったかな? 自分の行動に少し反省。
「あ、嫌だった? ご、ごめ……」
あなたはオロオロする私の腕を掴むと、ぐいっと顔を近づけてきた。息が止まる。今にも破裂しそうな胸は、早さを増していく。
「どーなっても知らないからな? 花穂」
そのまま唇に落とされたキスは、チョコレートよりも、深くて甘かった。
「今日はこれから俺ん家、決定な」
そう言ってあなたは、ニヤリ、笑った。




