情報屋と少女。
ある冬の夜のこと、情報屋の少年は情報を売る人を探していた。
その少年は情報を売って生活していたからだ。
しかし思いのほかその日は買い手がつかなかったため、
夜の町をあてもなく歩いていた。
そんな少年が目を付けたのは病院だった。
ここにはきっと情報を必要としている人がたくさんいるはず…
情報屋の少年は、もうほとんど人が居なくなった病院の廊下を歩いてた。
そして、明りのついた病室で少年は1人の少女と出会った。
“僕は情報屋、情報はいらないか?”少年は少女に笑いかけた。
その少女は生まれてから一度も外に出たことが無いという。
少年はそのことを知り少女に外の世界について教えてあげたいと思った。
少年が少女に外の世界のことを話すと少女はとても嬉しそうに笑う。
少年は少女の笑顔をもっと見たいと思った。
そして、少年はそんな少女にだんだんと惹かれていった。
少年は毎日のように病院に通った。
少女の笑顔が見たかったから…
ある日、少年が病院に行くと少女はいつものようにベッドに寝たまま少年の方を向き笑った。
今日も来てくれたんだね。私、毎日君に会えるのが楽しみだったんだ。
君の話とても面白かった。すごくわくわくした。
外にいつか出るんだってそう思えた。
もうとっくに諦めかけてたはずなのにね。
今日はね。嬉しい話があるんだよ。
君には絶対言いたいと思ってたんだ。私ね、今日退院することになったんだ。
もう君に会えないのは残念だな…。
でもね外に出られるんだよ。
君が話してくれた世界に私は行けるんだよ。
だからありがとう。
また、何処かで。
少年は嬉しい気持ちよりも寂しい気持ちの方が大きかった。
喜んであげないといけないのに…
退院おめでとう。
少年はそれしか言えなかった。
そんな少年の言葉を聞いた少女は少年をみて笑った。
本当にありがとうそう言って少女は笑った。いつものように笑った。
次の日、少年は気づいたら病院に来ていた。
もう少女は退院したはずだからいないのに…
そう心ではわかっていても、少年の足はそこへ向かっていたのだった。
少年は昨日まで少女がいた病室へ行った。
当然だが病室は空っぽになっていた。
少年はなにも無くなった病室でただぼーっと立っていた。
気づけば少女と出会って1年ほどが経過していた。
少年は少女への想いを巡らせる。
するとそこへ看護師の人がやってきて少年をみつけると駆け寄ってきた。
君がもしかして例の少年?やっぱり、そうだよね。
そう言うとその看護師はとても悲しそうな顔をした。
そっか…君が…ね。
彼女はね、とても頑張ったのよ。
いつか君と外の世界に行くんだって…
その看護師の話によると少女は、昨日亡くなったそうだ。
少女はずっと前からもう生きれないと言われていた。
少女はとても暗くて前は全然笑わなかったという。
しかし少女は少年と出会ってから変わった。
少女は少年の話を聞くのが好きだった。
自分の知らない世界を知っている少年の話には心が躍った。
いつも病室で、ただ時間が経つのを待つ不安と絶望しかない毎日が、少年と出会ってからというもの楽しみで仕方なかった。
少年に今度はいつ会えるのだろう。
次はどんな話が聞ける??
少女の色の無かった毎日は、少年によって色づいていったのだ。
昨日のあの言葉は少女なりの少年への優しさだった。
自分がいなくなっても少年が悲しまないように。
少年には笑っていて欲しいと思っていたから…
少女には家族がいなかった。
だから、少女にとって少年は特別な存在だった。
少女は少年のことを…。
少年は事実を知って泣いた。
病室に響き渡るくらいの大声で、人目も気にせず心の底から泣いた、喉が枯れるまで泣き続けた。
それから少し経って、少年は少女がいたベッドを見た。
少年は少女のいたベッドに向かってありがとう、と掠れた声で小さくつぶやいた。
そして、少年はもう一度今度は力強くありがとうといった。少年は少女に精一杯の笑顔を作ってみせた。
ある冬の夜のこと、もうほとんど人が居なくなった病院の中、
1人の少年の足音だけが響き渡っていた。
そして、その足音はひとつの明りのついた病室の前でとまった。
知りたいと思う人に僕は情報を与え続けたい…。
“僕は情報屋、情報はいらないか?”