どうしても生きなきゃ駄目ですか? 卒業
気の合う仲間と共に過ごしていく内に僕らは三年生になった。
クラスは就職や進学で頭を悩ます奴ばかり。僕はまだ何も考えていなかった。
そして冬休み間近の事。
いつも通り帰り道に仲間と会う。ほとんどの奴が部活を引退したことで僕の家には毎日十人近い人数が集まっていた。
そして話題は自然と進路の話になる。
ほとんどは就職。専門や大学に進むのはSと二、三人。
悩む事はない。うちにはそんな余裕もないのだから僕も自然と就職になる。
でも何がしたいかさっぱりわからない。
周りのみんなは毎日のように履歴書や面接の練習をしている。
そんな中、友人のEが気になることを言った。
「俺自衛隊行くぜ。履歴書とか書かなくていいし安定してるし。てか俺の親父も自衛隊だし」
「あっ、俺も自衛隊。親父が自衛隊だし」
僕の住んでいる市には大きな自衛隊の基地がある。それに比例して、たまり場に来ている友人の内の二人の父親は自衛官だ。
そして「履歴書を書かなくていい」
毎日授業が終わと遅くまで履歴書を書いてるクラスの奴ら。
そんな面倒なことをしなくてもいいのかと思い。僕は決めた。
自衛隊になろう。
その次の日、すぐ担任に自衛隊への入隊を希望した。
担任は意外な反応をしていたが、一緒に職員室に行き入隊案内を貰った。
自衛隊には陸海空があり、特に希望もなく一番倍率の低い陸上自衛隊を考えていた。
その入隊案内を持ち、帰宅して母親に見せた。
「かーちゃん俺自衛隊入る」
「え!?ほんとに!?」
「うん」
こちらが引くほど驚いていた。当然か。
「あんたどこにするの?」
「んーとりあえず陸上かな。倍率低いし」
「ふーんそっか。明日いい人連れて来てあげる」
母親はそう言うと少し嬉しそうな表情を見せた。
そして次の日、学校から戻ると知らないおじさんが実家の店にいた。
「おう。おかえり。あっちゃん(僕の母親)の息子でかくなったな!」
「ウス」(誰だこのおっさん)
「こちら自衛隊の地元後援会長。色々聞きな」
そういうとおじさん、もとい後援会長は様々なパンフレットを見せてくれた。
そして陸海空それぞれのメリットやデメリットを教えてくれた。
正直僕にはピンとこない。
そして次の言葉が出た。
「一番楽なのはどれですか?」
話を統合すると、職種もあるが一番いいのは航空自衛隊だそうだ。なにより、僕の地元基地が航空自衛他であり家からも近い場所にあるから運が良ければ戻ってこれるという。
「じゃあ俺、航空自衛隊入るわ」
単純だが即効で決めた。
「よし、じゃあ俺がなんとかしてやるよ!」
後援会長が大きく笑った。もしかしてコネか。航空自衛隊はその年では一番倍率が高かったが、一番楽と聞かされれば頑張るに越したことはない。
そうして航空自衛隊への入隊を志した僕。
入隊願書の記入と説明会が学校で開かれ、各クラスの自衛隊入隊者が教室に集められた。
もちろん僕のクラスからも二人ほど入隊志願者はいたが、この頃になると僕は完全他のクラス、よく放課後遊ぶ連中に混じっていた。
願書を記入し、後は試験を待つだけ。学校では希望者を募り入隊試験対策会のようなものを放課後毎日開催していたが、就職先が決まったことに浮かれて一度も出席したことはない。
そして冬休みが始まりいつもの面子と毎日馬鹿して過ごしていた。
冬休みが終わって入隊試験。会場は僕の地元の基地。
家から近いため集合時間ギリギリまで寝ていられた。
基地の正門前に集合し、バスで中に入る。体育館に到着して受験番号が書かれている席に座って試験開始。
試験の問題は実際簡単だった。中学校を出ていれば問題なく解ける問題ばかり。
だが僕にとっての問題は面接だった。一度も練習しておらず、とりあえず元気よくとそう心に決めて挑んだ。
すべての日程を終え、正門前までバスで運ばれて解散となった。
その後はお決まりの僕の家。とりあえずみんな手ごたえがあったらしい。
本格的な冬も過ぎようとしていた頃、担任が試験の結果を持ってきた。
僕は受かっていた。春からは自衛官だ。
というか受験者全員合格していた。
後援会長がなんとかしてくれたのかなもしれないが、結果は結果だ。
就職先が決まり、母親にそのことを告げるとわかっていたような反応だった・
受験の結果がわかってから月日の流れは早く、もう卒業式だ。
当然のことながら涙はない。ようやく苦痛から抜け出せるのだから。
他の奴らは泣いていた。男子も女子も。
それでも僕には泣く要素が見つからない。
ひとまずお世話になった先生に挨拶をし、仲のいい後輩にジャージやらボタンやらをあげた。
母親が来ていたので帰りは車。
その車内の事だった。
親が運転し、車で何度も通った道。
少し目頭が熱くなった。
クラスの事なんかではない。自分なり、本当に色々あった高校生活。それが今日で終わった。感じているのはなんだろう。よくわからない感情が僕を包み込んだ。
そして、別れがくる。
沢山の友人との別れ。一緒に駅まで行き見送った。
小学校からの付き合い。中学からの付き合い。高校からの付き合い。期間はそれぞれでも過ごした中身はどれも濃いものばかり。
もう二度と週末の馬鹿騒ぎができない、もうあの日はこないと考えてしまい、一人で泣いてしまった。
友人達がいたから僕は頑張れた。
本当に、今でも感謝している。
特にS。こいつとの別れが一番辛かった。毎日一緒にいた。それこそ週末は泊まり、Sの家族とも親密になり、お互いがお互いの家族同然のような生活だったからだ。
そして何より、僕の一番の理解者であった。
いつかまた笑って会いたい。そう強く思って見送った。