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神様ライフ

作者: 宮原 桃那

作者が息抜きに書いた、すごくノリとテンションが軽い話になっております。色んな意味で軽いです。

「私は破壊と創造の女神、ミストルフィア。人間よ畏れ敬え!!」

 おほほほほ、と水盤の前で高笑いをする私を、後ろから誰かがどついた。

「いった!!」

「何故お前は、毎日懲りもせずにそんな無駄な事をしているんだ」

「決まってるじゃないか。やりたいから」

 振り向いた先には、知識と繁栄の神、エウノスラギア。

 真面目で勤勉、常に手にはでかい本を抱えている。

 さては今どついたのはその本でだな。もはや凶器のレベルじゃないか。まったく。

「それに毎日じゃない。三日に一回くらいだ!」

「威張るな!!」

「神様だから威張れる! あんたももっと偉そうにすればいいのに」

 私とこいつはいわば同期だ。

 ほぼ同時に望まれ、神となった元人間の魂。

「偉そうにしていれば神なのか」

「いや、腰の低い神様とか嫌じゃない?」

「その言葉遣いが神だとは誰も思えないだろうな」

「神っていう単語だけでいろいろ決めるのはどうかと思うんだわ。元人間なんだから個性は大事にするべきだよ、うん」

 実際、この世界には色んな神様がいる。

 司る世界も複数存在し、同じようで違う力を持った神様があちこちに住んでいたりするわけだ。

 ちなみにそれぞれが司る力は、司る世界にのみ影響するのであって、この世界には何ら影響を及ぼす事は出来ない。

 だからこそ平和で自由な暮らしができるというものだった。

 ここで何を喚こうがだらだらと過ごそうが、誰が咎めるわけでもなく、罰があるわけでもなし。

 私にはエウノスラギアが何故そんなにかっちりした生活をしていて、私にもそれを求めてくるのか、さっぱり理解出来ない。

「個性とお前の素行の怠惰さは別物だ。どう考えてもだらけすぎだろう」

「力は与えたじゃん。それ以上に何かするって言ったら、世界を滅ぼすくらいだけど?」

「するんじゃない! というかまず考えるな!」

「だからこうして日々を平凡に穏便に過ごしてるんでしょー」

 水盤を覗き込むと、平和に暮らす人間達の姿が見える。

 私たちは彼ら人間の祈りと願いによって生まれた存在ともいえた。

 簡単に言えば、彼らが「創造と破壊」の力が欲しいと強く願ったので、その願いが力を持ち、魂だった私を引き寄せて融合し、神となってこの世界に現出したのだ。

 そして力を与え、信仰を集めて生きるのが神様としての新しい生き方、という事らしいが。

「信仰がなくなれば私達は死ぬっていうか消えるだけだし、消えたら多分、力も無くなる。……そしてその力を新たに欲した人間の願いによって、新しく神様がまた生まれる。その繰り返し。無理に長生きなんかしなくてもいいってことかなと」

「お前は生前、どんな人間だったんだ」

 苦い顔をして尋ねられても、普通の答えしか返せない。

「至って平凡な、どこにでも居る女性でした。以上」

「そうじゃないだろう。お前がどんな生き方をしてきたのかと訊いてるんだ」

「普通。他に言い表せない程度に普通。あんたは?」

「研究者だ。何を研究していたかは記憶にないが、生涯を捧げたはずだな」

 とりあえずで訊き返したら何か、すごい内容が返ってきた。

 無理だ、分かり合えない。

 諦めた私は、また水盤を覗き込む。

 巫女らしき女性が、祭壇に何かを捧げるのが見えた。

 ここは私を祀る神殿のようで、私の名前の頭三文字をとって、ミスト神殿と呼ばれている。

 そこそこ大きな神殿なので、人が多く来ては私を象った白い像の前で祈りを捧げていく。

 たまに願い事を言う人間が居るが、基本的にスルーだ。

 私が干渉できるのは力そのものであって、個人の人生ではない。

 ちなみに私の像は、最初に力を与えた際に地上に姿を現した時のままを再現している。

 長くまっすぐな美しい髪は純白だ。決して、老化による白髪ではない。

 そして、瞳にはめ込まれた美しい石の色は漆黒。日本人だった時よりも、とても綺麗な輝きと深みを帯びている。

 更には、世の男性を魅了してやまないこの絶妙なスタイル。

 ああ、人間だった頃はスリーサイズさえも平凡だったのになあ……。

「いつ見ても麗しい、私の像……うふふふふ」

「……何で、お前のような奴が神になれたのか、俺は疑問でならない」

 傍で私が笑うのを気持ち悪そうに見ながら、エウノスラギアが呟いた。

 ちなみにこいつの外見は、私とはちっとも比べようがない。

 肩くらいの位置で跳ねてる髪は見事な青色で、瞳は森のような緑。肌の色は浅黒いというのか? 男らしいといえばそうかもしれない。

 がっしりとまではいかないが、貧弱にはとても見えない体つきなので、知識と繁栄の両方を備えたというには合っているだろう。

 あえて言うなら、美麗度が足りない。

 じろじろと眺めていると、エウノスラギアはその意味に気づいたのか、持っていた本の背表紙部分で私の頭を遠慮なくどついてきた。

「痛い」

「繁栄に貢献したいのならいつでも相手をしてやろう」

「うわ、セクハラ。下品」

「お前の低俗な頭に合わせてやったんだ。高尚な会話をしたいならもっと知性のある発言をしろ」

「あんたが何で神様やってられるのか、私にはちっとも分からん」

 頭を押さえつつ、先刻の奴の台詞に、私はそう言い返してやった。

 とりあえずこいつと仲良くは無理だな、うん!



 世界は大きく分けて三つある。

 まずは人間とかが住む世界。

 次に魂や力といった、概念的なものだけが集まる世界。

 最後に、神と呼ばれる私達が住む世界。

 一つ目の世界だけは、複数存在する。

 物質的世界、とも言えるそこが、いわゆる三次元世界だ。

 そこで暮らす生物が死んだ場合、魂だけが二つ目の世界に行く。

 いわゆる概念的世界と呼ばれているらしいそこには、祈りや願いといった強い力が集まるという。

 魂も力の一種らしいので、力同士が引き合う事によって、新たなる存在が生まれるのだ。

 そうして生まれた存在が、私達、神様。

 力を実体化したので具現化世界と呼んでいるこの世界に、神様は現出する。

 魂固有である性格や記憶はそのままに、容姿と力を新たに魂へ書き込まれるのだ。

 なので成長もしないし退化もしない。

 力そのものが情報の為、現出と同時に司る世界のシステムも把握している。

 だから何をすればいいのか、何をどうすればどうなるのか、といったものが既に分かっているので、力の使い方も理解しているのだ。

 で、その司る世界が終焉を迎えると、私達も消える。消えて、また概念的世界に戻る。後は知らない。

 ちなみに三次元世界が新たにできると、大体同時に神様が複数生まれやすい。

 だから私とエウノスラギアがほぼ同時に生まれたのもよくあることだ。

 しかし消えるときも一緒とは限らない。

 なぜなら、信仰を失う瞬間まで同じになるということは、滅多にないからだ。

 大抵の神様は信仰されることによるメリットを好むから、信仰される為に色々と工夫するらしい。だから神によっては長寿レベルで長く過ごす存在も居る。

 ところがどっこい。私にはどうやら、信仰を集めるという生存競争が不向きだったようである。

 あれから数十年の時が経った今、私の体は最初の頃と同じくらいの装飾しか残っていなかった。

 対するエウノスラギアは、随分きらきらしい。

「おい、何だその体たらくは」

 見下ろす彼に、私は水盤の近くで寝転がったまま見返して答えた。

「やる気が出ない」

「信仰心をないがしろにするからだ」

 いや、やる気ないのは元からだけど。

「まあ、別にどうでもいいや」

「いいのか? 消えるんだぞ」

「うーん……」

「悩むな」

 私はめっきり水盤を覗き込む事も減り、ただ日がな一日こうして寝そべっているだけ。

 それを見かねたエウノスラギアは、持っている本を開いて私に見せてきた。

「お前の神殿はもはや廃墟だぞ」

 ……おう、確かに廃墟だ。落書きとかしてある。

 ごろん、と寝転がる体勢を変えて、私は彼の本をまじまじと見た。

 神殿だった名残はあるが、私の像はボロボロで、人の気配もしない。

 対するこいつの神殿は私ほどの大きさはないものの、しっかりとした造りをして、かつ手入れもきちんとされていた。

 なるほど、実用化しやすい力の方に転んだわけか。

 まあ、創造と破壊なんて使い慣れてしまえばありがたみも薄れるわな。

 手一つあれば出来てしまうものよりは、人間らしく頭を使う力の方が神秘性が上がるというもの。

 私への信仰心が無くなったというよりも、力を与えた私という存在そのものを認識しない人間が増えた、というべきかもしれない。

「これを見ても、お前は何もしないのか?」

 しなくてもいいかな、とは思うのだが、どうやらエウノスラギアにとって、私が消える事は好ましくないらしい。

 喧嘩する相手が居なくなるっていうのは、存外寂しいものだから、まあ、分からなくはないのだが。

「んー、仕方ないなあ。一応何かしとくか」

 よっこいせ、と起き上がった私は、数十年ぶりに水盤を覗き込む。

 しかし、数秒後には何をすればいいのか分からなくなった。

 適当に天罰を与えたところで信仰心が戻るわけでもなし、かといって新たに与える力もなし。

 うーんうーんと首をひねること数十秒。私はようやく、一つの問いをエウノスラギアに投げかけた。

「信仰って、私の力を私が与えたという認識を、もう一度思い知らせればいいの?」

「まあ、概ねそんな感じだな」

「分かった。いっちょ任せろ」

 私はそう告げて水盤に飛び込んだ。

 一番最初に来た時以来だから、えーと、百年以上は経ったのかな?

 それだけでなく、しばらく見てなかったせいで全く別物にすら思えた。

 この世界を私が司っているというのは、いささか現実味に欠ける。

 神である私がそう思うのだから、本当に切り離されかけているのだろう。

 とりあえず元の私の神殿へ向かうと、崩れかかった私の像のてっぺんに座る。

 そこは高い丘の上だけあって、それなりに遠い場所まで見渡せた。

 与えられないなら、取り上げればいいのではなかろうか。

 そんな結論に至った私は、破壊と創造どちらを取り上げようか、としばし逡巡した。

「よし、創造でいくか」

 適当な勘で決めると、拡声器みたいなものを出す。

 創造の力は想像で生まれる。

 私は神なので、想像したものを実際に生み出す事くらい、造作はなかった。

 パチン、とスイッチを入れると、ハウリングみたいな音が世界全体に響く。


『はーい、皆様、聞こえますかー? 私、破壊と創造の女神、ミストルフィアでーす。この度、信仰してくれなくなった皆様から、私の力である創造を取り上げる事にしましたー! これからは、破壊の力しか使えなくなりますからよろしくー!』


 世界中に響き渡る私の声。

 同時に、人々が私を認識したらしく、いっぺんに多くの声が私に向けられたのが分かった。

 あまりにうるさい上に罵詈雑言が大半なので、私は片方だけ耳を塞ぐ。


『あーあー聞こえなーい。与えられた力を当たり前のように使っておいて、感謝の意もないのにふざけるなとかこっちの台詞ですからー。はい問答無用!!』


 神様とは、実に非情なのだ。

 ゆっくりなどという慈悲を与えず、私は余すことなく人間から創造の力を一瞬で取り上げ、意気揚々と自分の住む世界に帰った。

「よし、やることやったし、寝るとするか」

 久しぶりに力を使ったら眠い。うん、眠い。

「いでよ、寝室っ!」

 創造の力でこの上なく快適な寝室を造り上げた私は、水盤を封印して声を届かなくした上で、寝室に入ると鍵をかけて眠りについた。

 これでもう、誰の邪魔も入るまい。



 神様だって眠る。ただし、本当に眠るというよりは、夢の世界で孤独を満喫するというべきか。

 絶対不可侵の領域である夢の世界は、静かで何もない。

 なので、私は色々作ってみた。

 ふわふわの可愛い服とか着て遊んでみたり、化粧してみたり、美味しそうな料理を作ってみたり、もちろん食べてみたり。

 後は変なオブジェとかも作ってみた。ストーンヘンジとかモアイ像とか懐かしいのも含めて。

 もちろん背景も込みである。だだっ広い草原とか、砂漠とか、森の中とか。

 創造の力はいくらでも可能性を引き出し、破壊の力はそれらを全てゼロにする。無限という根幹があるからこそ、破壊と想像はセットなのだ。

 そんなわけで、創っては壊すという無限の遊びを楽しんでいた私は、もはや司る世界のことなど眼中になかった。

 創造が出来なければ破壊も出来なくなる。

 破壊の力が使えなくなるということは、私の存在はもはや認識されなくなる。

 だから、消えるその時までこうして遊び続けていればいいのだと、そう信じて疑わなかった。

 ――夢の世界から強制的に引き戻されるまでは。


「……ろ、……起きろ、ミストルフィア!!」


 切迫した声が、夢の世界をどんどんと遠ざけていく。

 おうおう、女神様の眠りを妨げるとか、やってくれるじゃないの。

 しかし私はまだ眠り足りない!

「……あと五百年後に出直せ」

 そう言って、ふっかふかなお布団を頭までかぶり直した私の拒否を、声の主は更に拒否した。

「そこまで待ったら世界ごと滅ぶわ!! いいから起きろ!!」

 渋々と目を開けた私の視界には、かつて見た事ないくらいきらびやかなエウノスラギアが困惑を浮かべて居た。

「うっわ、眩しい。目が潰れるわ」

「やかましい!!」

 エウノスラギア、あんたしばらく会わない間に、何か重そうになってるな。

 対する私は相変わらず身軽で……あれ?

 じゃらん、と私の腕から金属音がする。

 上げてみると……おう、何か一杯腕輪が増えてるんだけど、何これ。

 ははあ、さては。

「エウノスラギア、あんた自分がいくら装飾一杯だからって、私を装飾品置き場にしなくても」

「するか!!!」

 ごすん、と本でどつかれた。

 違ったのか。じゃあこれは誰のだろう。

「それはお前の物だ。意味はわかるな?」

「分かるけど分からない」

 信仰が戻ったというのは分かったが、その理由が分からない、と言うべきだろうか。

「こういうことだ」

 エウノスラギアが開いて見せた本には、廃墟となった私の神殿があった。

 前と違って人が随分集まってるけど、どうしたんだろう。

「お前の存在はあの時、世界中に認識された。そこまでは良かったんだが、お前が創造の力を容赦なく奪い去った事で、人間はお前を崇拝する為のものが何も作れなくなったんだ」

「そりゃあそうだろうねえ。いっそ壊せば良かったのに」

「人間は大きな力の前には無力だと知ると、何も出来なくなる。更なる怒りを恐れた人間達は、お前をただ信じて祈るしかなくなったんだ」

 つまり、創造の力を取り上げられた以上、下手に何か壊しまくったら今度は破壊の力も取り上げられるんじゃないか、と怯えられたのか。

 めんどくさいからそこまでしないよ。と言っても信用ないんだろうけども。

「仕方ないなー。じゃあ返してあげるから後は寝かせて」

 もそもそと居心地のいいベッドから這い出た私を、エウノスラギアはまたどついた。

 ちょっと疑問なんだけど、何で私、いつもこいつにどつかれてるんだろう。

 そこまでのことをした記憶がないんだが。

 あ、もしかして自分もどついて欲しいのかな。それは悪い事をした。今度暇な時にどついてみよう。

「ただ返せばいいってわけじゃない! 大体お前が寝ている間、世界中で幻影が出て大変だったんだぞ!!」

「そんなの知らんよ」

「じゃあお前は夢の中で何をしていた?」

 じろりと睨まれて、私は正直に答える。

「創造と破壊の力で遊んでた」

「やっぱりか!!」

「他にすることないからね。何か問題あった?」

「大いにあった。おかしな遺跡が突如出たと思ったら次の日には消えていたとか、とんでもない格好をしたお前の姿が垣間見えたとか、料理や菓子の幻影が出て飢餓者が絶望に陥ったりとかな」

 おお、大体夢でしてたことだな。そんな風に世界には影響してたのか。

 ていうかそんな事知ったことじゃないけどね。

 私は自由に遊んでただけなので、人間がどうなろうとも関係ないのだ。

「せっかく見れても作れないから形に残せない。人間はますますお前に対して許しを請うようになったんだ。せめて形にすることくらいは許してくれと言ってるぞ」

 ちなみにせっかく知識を得ても、形に出来ないのでそれ以上の進化は望めない状態らしい。

 エウノスラギアとしても困るところなので、結局のところ嫌でも私を叩き起さなければならなくなったという。

 まあ、何ていうか、貧乏くじお疲れ様?

「とりあえず知識を形にするくらいは許してあげよう。めんどくさいから後はエウノスラギアの繁栄の力がなんとかしてくれるはず」

「お前はとことんやる気がないな」

「なりたくてなったわけじゃないからねー。必要最低限しかしたくないもんで」

 ぺたぺたと歩いて寝室のドアに手をかけ――そこで私はようやく気づいた。

「……あれ、鍵かけてなかったっけ、私」

「ああ、緊急事態だったから壊した」

 寝室の扉の取っ手にあった鍵は、見事に外れている。

 鍵だけ壊すとは器用な。いや、その前に。

「女性の寝室に、鍵まで壊して押し入るとかやらないよ普通」

「俺だってやりたくなかったんだ。いいからさっさと行け!」

 だよね。あの真面目男が無理矢理入る理由なんて緊急事態くらいだもんね。

 とりあえず納得した私は、寝室を出て水盤へ向かった。

 そのまますぐに、封印していた水盤を解放し、私はどぼんと飛び込む。 たかだか数十年だというのに、こうもあっさり世界は変貌するものなのか。

 発展しかけていたはずの町並みは、とっくに森の中に飲み込まれていた。

 前と同じように女神像のてっぺんに座った私は、その周りにひれ伏し祈りを捧げる人間を見回した。

 皆必死な顔をしている。

 創造の力って、ないとそんなに困るものなのだろうか。

 根こそぎ取り上げた私が言うのもなんだけど、半分くらい野生に帰りそうな見た目してるよ、皆。

 でもまあ、それも今日までにしてあげよう。うん。

 拡声器を取り出し、私は声を出す。


『どもー、皆様、私のこと覚えてますー? 破壊と創造の女神、ミストルフィアですよー』


 おおおお、と誰もが私を見て歓喜の声を上げた。

 何だか一流アイドルにでもなった気分。怖いけど快感だわ、これ。

 さておき仕事を続けないとね。

『説明は色々省きますけど、創造の力を戻してくれって言われて来たんですが、皆さん、モノづくり、したいですかー?』

 一応意思確認をしてみると、地響きのように彼らは雄叫びを上げた。

 これは多分、全力で欲しいと言っている……のだろう。

『じゃあ、形に残す力を、与え直しまーす。思う存分創って下さいねー』

 そう言って、私は創造の力を世界中に虹の雨として降らせた。

 これはこれでいいインパクトになるだろう。

 さて、帰りますか。



 戻った私は、早速二度寝に入ろうとしたところで、待ち構えていたエウノスラギアに捕まった。

「よし、戻ったな。早速だが話がある」

「えー」

「大丈夫だ。返事は「はい」か「イエス」か「分かりました」のどれかでいいから」

「それ全部同じじゃんか!!」

 えげつない選択肢はさておくとしても、こいつは一体どうしたのだろうか。

 こう言っては何だが、獲物を見つけたような目をしている。

「今回の事で、俺はつくづく思った。お前を放置しておくのは良くない」

「いやいや、ほっといてくれていいから。人畜無害じゃないか」

「本当に無害ならまず神ですらいられない。安心しろ」

「今の発言の何がどう安心出来るのかが分からない」

 そしてさっさと本題に入れ。

 エウノスラギアはじっと私を見ているが、何かついてるのだろうか。

「まず、お前は俺と結婚しろ。妻になれ」

「だが断る」

「即答か!!」

「当たり前じゃんか。神になってまで結婚とか面倒過ぎる」

「いいからしろ。お前を一人にしておくのは面倒にしかならないんだ!」

 神様というのは自分勝手なので、基本的に相手の意見は無視する。

 しかし、無視される側はたまったもんじゃない。

「結婚て何するの? 式挙げたりお披露目したりとか? うーわ、めんどくさ」

「しなくていい。簡単な契約を交わすだけだ」

「離婚出来る?」

「させると思ってるのか、お前」

 じろりと睨まれても、承諾しかねる。

 何がどうしてそういう結論に至ったのかを、逐一説明してもらった方がいいような気がする。途中で寝るかもしれないが。

「とりあえずお前を妻にしておけば、何かあった時に解決しやすいだろうしな。あと、個人的に興味がある」

「後者の方が強いよね、理由。絶対そうだよね」

「そこは否定しない。お前は興味の対象から外れないから傍に置いておくのが一番だ」

「私は観察される朝顔か何かか!! そんな理由で結婚を申し込むな!」

「神だからな。面倒な手順が要らなくて手間が省ける」

「開き直りやがった!!!」

 私の寝ている数十年の間に、一体何が奴を変えてしまったのだろうか。

 ……いや、元から案外こういう性格だったのかもしれない。

 私が見てなかっただけで。

「どうしても嫌だと言うなら、考えがある」

「ほほーう。言ってみろ」

 至極真面目な顔で、奴はがっしりと私の腕を掴むと言った。

「元々興味はあったんだ。神同士での行為は果たして何か効果があるのかと」

「って、待てい!!!」

 真顔で何を破廉恥な!!

「この際子供が本当に生まれるかの実験もしたいと思っていたからな。ちょうどいいからお前が承諾するまでやってみることにする」

 ずるずると腕を引っ張られて、私が作った完全防音システム搭載の快適寝室に連れ込まれていく。

 さながらそれはドナドナの気分だろうか。


「い~~~~~~や~~~~~~!!!!」


 ばたん、と非情な音を立てて、寝室の扉はあっけなく閉じたのであった。



 神様同士の結婚は割とよくあるらしい。

 そして割と上下関係っぽいものが多いらしい。

 結果だけ言おう。

 負けた。悔しいが折れるしかなかった。

 か弱い女神様を蹂躙しやがって。ちくしょう。

 あんなドS設定なんて知らないぞ。

 さておき、与えた力は安定して人間達に染み込んでいるようだ。

 水盤を覗く限りでは、大きな問題は出ていない。

 にしても、私達以外の神様を作る気はこの世界にはないのだろうか。

 無欲といえばそうなのだが、何だかあまりにも心もとない。

「あー……だるい……」

 ぐてん、と水盤の傍に寝転がる私の体には、じゃらじゃらとした宝飾具の数々。

 鬱陶しいレベルだが、外せないので放置するしかない。

 結局のところ、結婚といっても互いに印を刻んでおしまい、のようだ。

 まあ、その印が色々と影響を与え合うらしいけど。

 ところで、子供ができるのかという疑問だが、どうやら出来ないようである。

 そもそも人間と同じ行為をしたところで、人間と同じように子供を産むというわけではない。

 神様という立場上、もうちょっと神秘性のある子供の生まれ方でいいと思うので、安心だ。

 人間の頃は子供を産む為の体になるという、毎月くるアレの痛みに苦しんでいたものである。

 神様になってからはすっかり忘れていた。やはり無用な痛みが無いというのは嬉しいな!

 そんなわけでごろごろしていると、べしん、と額に本が降ってきた。

「うぐっ」

「少し目を離すとすぐに怠けるんじゃない」

「誰かさんのせいでだるいんでーす」

「そうか。人のせいにする程度には元気なようだな」

「自重しろ絶倫男」

 じろりと見上げてやると、向こうは鼻で笑ってきた。

「はっ。妻相手に自重なんかするか」

「……早く子供が出来ないかな」

 世の夫婦とは違う意味で子供が欲しい。

 ぼそりと呟いた希望を聞きとがめたらしいエウノスラギアは、いつも通りの真面目顔でそれに返してきた。

「一向に気配がないな。どうすれば生まれるんだ?」

「私が創造するのはどうよ」

「却下だ。というか、それは別物だろう」

「やっぱりか」

 こればかりは偶然とか色々条件が必要なのかもしれない。

 でもなー、腰から下がだるくて常にぐてんぐてんしてるよりは、子供の世話であちこち忙しく動き回ってる方がマシな気がするんだよねー。

 というわけだから、早く来い、我が愛しの子供よ!!



 ……という願いが通じたのか知らないけど、子供は唐突に出来た。

 正確に言うなら、私は半透明な卵の器っぽいのを抱いて、眠りに入ってしまったのである。

 中に何が入ってるのかは分からない。

 だが、ほんわかとしたあったかさがあるので、多分何かしら居るのだろう。

 夢の世界でも卵は私の腕にしっかりと抱えられていた。

 下ろそうとしても下ろせない、というか、下ろす気になれない。

 仕方ないから、抱えたままで過ごす。

 じっとしているのも暇なので、片手で色々と創る事にした。

 子供の為に、綺麗な風景を描いたり、綺麗な音楽を奏でたりしてみる。

 胎教って大事だからね。まあ卵なんだけども。

「生まれてくる子供の名前って、決まってるのかなー。決めていいのかなー」

 そもそも生まれてくる子供も神様なのだろうか。だとしたら何の神だろうか。

 謎が多いままでは名前も付けられない。

 まあ、生まれてからでもいいか。どうせ戸籍とか無いし。

 今日はオーロラだよー。ほーら、光のカーテン。綺麗でしょー。

 描いた景色に卵を向けると、卵の内側がチカチカと小さく明滅した気がした。

「それにしても、いつ生まれるのかなー。結構楽しみだなー」

 卵をゆりかごのように優しく揺らしながら、私はオーロラの景色をしばし楽しんだ。

 人間の時は体験出来なかった事を、今、形は違えど出来るとはね!

 神様やってると、何があるかわからないね、ホント!

 そういえば、外はどうなってるんだろうな。

 多分何かあっても、エウノスラギアがなんとかしてくれてると思う。

 いや、旦那だからとかじゃなく、単純にあいつは責任感の塊だからね。

 それにしても、おかしな旦那である。

 恋愛感情はなく、興味だけでここまでこぎつけるとは、さすが元研究者。

 そしてそれを受けてしまった私も大概だ。

 まあ、ここでは一切の常識がないから受け入れやすいというのもある。

 ちなみに結婚の事実だけは、司る世界に知らせてあったりもする。

 よく分からないけど、そういうものらしい。

 さて、明日は何にしようかなー。



 この世界は、神の住む世界。

 そして私はその神の一人、破壊と創造の女神、ミストルフィアだ。

 旦那は知識と繁栄の神、エウノスラギア。

 更に新しく加わったのが、私達の子供である勉学や学問を司る神、メソピアロマである。

 これがまた……よく私達と似ているのだ。

「母上っ! またおかしなレシピをパティシエ達に授けましたね!?」

「えー。おかしくないよ。ちゃんと材料は手に入るもん」

「材料を材料たらしめる手法が確立されてないんですから、そこら辺はきちんとしてもらわないと! パティシエ達が嘆いてますよ!?」

「じゃあ、いつも通りメソピアロマが勉強させてあげればいいじゃん」

「あああ……全く母上はいつもそうだ……」

 嘆く姿も麗しい我が息子は、中身は残念過ぎる事に旦那にそっくりだった。

 真面目で融通が利かない、口やかましい息子というのは哀しいものがある。

 可愛く着飾らせておしゃべり出来る娘が欲しいものだ。

 そこに旦那が戻ってきて呆れた声を出す。

「またやってるのか、お前達は……」

「あっ、父上! 実は母上がまた……」

「知ってる。というか見ていたからな。……ミストルフィア。お前そろそろ自重しないと、俺が天罰を下すぞ」

「はいはーい。じゃあ次は謎のサークルでも創ってみようかな」

「ミスト」

 ……略称で私を呼ぶようになったら、いくら私でもエウノスラギアには逆らえない。

 いつの間にか出来た暗黙の了解というやつだ。

「冗談にとどめておくから、奥の手は止めて」

「よし」

「とりあえず、投下されたレシピは回収します?」

「いや、ついでだから材料の生成方法の確立も発展させておけ。きちんと手順を踏ませれば、仕組みとしても理解しやすいだろう」

「分かりました!」

 メソピアロマの力である勉学や学問は、仕組みや原理といった基本を理解した上での応用に効果が高いようで、つまりは人間達に独自に学ばせるという事をさせる神様だ。

 ただし、少年の姿から成長はしない。

 生まれた時からあの姿なので、可愛がるもなにもなかった。

 せいぜい最初の方で少しだけ複雑な事を教えたくらいだろう。

 おかげで私はあまり忙しくならない。

 その腹いせというわけではないが、記憶にあるレシピを実際に利用して新たな料理や菓子を作り、そのレシピを料理人や菓子職人に無造作に与えていたりしていた。

 さすがに連続したせいか、しばらくはそれも我慢しなければなるまい。

「あーあー。次は娯楽の女神様が欲しいなー」

「産めばいい」

「確実に産める方法が確立出来てから出直せ」

「分かった。それまではひたすら前と同じだな」

「もう結果の得られない実験は止めた方がいいと思うの」

 ごろごろと水盤の傍で寝そべる私は、彼の言い分を察知してそう返す。

 彼の言ってる事は、こっちの体がだるくなるので止めて頂きたいのだ。

「結果が欲しいわけじゃないからな。どちらかというと、結果として得たものを見たい」

「真面目でお堅い言葉で飾ってるようだけど、つまりあんたが言いたい事はそれなりにえげつないってことだよね」

「それが理解出来る程度には頭を使うようになったようで何よりだ」

 言葉で騙されてはいけない。よく聞けばおかしいというか、絶対それは直接的表現だと規制がかかるだろうという意味合いが混じってたりする。

 神様になって随分経つが、きっとこの先もこんな感じなのだろう。

「ねー、ラギア」

「……ん?」

 初めて略称で呼んでみると、想像通り、彼は一瞬驚いたような顔をした。

 だから、私は更に驚かせてみる。


「愛してるよー」


 本当に驚いた顔をした彼は、だがすぐに笑って返した。


「二百年遅い」


 ――どうやら、向こうの方が一枚上手だったようである。

 神様ライフは当分、やめられそうにない。



―fin―

世界観決めるのに時間食いました……。主人公がここまでグダグダな性格になるとは思ってもみなかった。

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