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第06話 「今回もダメだったよ。僕は英語が苦手だからな」

 見習い騎士君の後ろを堂々と歩く僕。

 ってのだったら良かったんだけど、何やら物々しい雰囲気と何故か大勢の護衛が僕についてて、若干腰が引けてしまっていた。カッコ悪い。

 貰った剣の柄を握り締め、いつでも抜けるようにしているが、この護衛の数から見て何かあっても僕の出番なんてないんじゃないか?そう思える。

 一体なんで僕が呼ばれたのだろう?

 説明を求めても、護衛の人も先導している見習い騎士君も、僕を連れてこいという命令しか受けていないらしく、詳しくは現場に着いてから聞いてくださいって言われるだけだった。


 何か物音がする度にビクビクしながら案内された先は、予想していた通りの召喚の間。

 侵入者が居るって言ってたけど、どんな奴だろうと見ようとしたが、ガッチリ護衛の人達にガードされていて見る事は叶わなかった。

 先導の見習い騎士君が僕を連れてきた旨、現場を遠巻きに見ている大臣に報告していた。

 報告を受けた大臣は、小走りに僕の方へと駆け寄ってくる。


「勇者殿、こんな所まで申し訳ありません」


 大臣はどこか不安気な表情を浮かべている。

 まぁ、なにか緊急事態だと思うが、先の失態のせいで僕に頼っていい物かどうか不安なのだろう。

 あの失態を見たら誰だってそう思う。僕だってそう思ってる。


「勇者殿をお呼びしたのは、召喚者としての意見を求めたかったからで……」


 そう言いながら、尻すぼみに小声になっていく。

 おいおい。僕に対して不安があるのはわかるけど、そういう態度は止めてくださいよ。こっちまで不安で押しつぶされそうになるじゃないですか。

 とは言うものの、一体僕に何を聞きたいというのだろうか?

 正直状況説明されていないのに、意見をくれって言われてもどうしようもないんですけど。


 と、大臣に言おうと思ったら、よく分からない言葉が聞こえてくる。しかし、なんか聞き覚えがあるんだよなぁ。

 なんだろうと思い、大勢の兵士が囲っている召喚の間の中央付近を背伸びして覗こうとした。

 しかし、身長が足りない!

 ガッデム!!

 さすがに飛び跳ねてまで見ようとは思えず、素直に大臣に聞いてみた。


「今の僕が役に立つかどうかは自分自身疑問に思う所ですけど、この状況はなんなんですか?」


 僕の問いを受けて、大臣が慌てたように状況を説明しだす。

 どうやら、前例の無い事態で大臣もどうしていいのか分からずパニックになっていたようだ。


 大臣から聞いた話をまとめればこうだ。

 誰もいないはずの召喚の間に侵入者が現れたと思っていたら、その侵入者は異世界から召喚された ――召喚の間だからそう思う事にした―― らしく、そのせいか言葉が通じず意思疎通が難しい。

 しばらく観察して分かった事は、少なくとも敵意は感じられない。その為、召喚者は貴重な存在なので、出来る事ならば保護したい。

 そこで、同じ召喚者である僕ならば言葉が分かるかもしれないと思い、危険も無さそうなのでここに呼ばれてきた。


 あー……うん。チラッと聞こえた言葉を聞く限りは分かりませんでした。

 というか、僕はなんでこの世界の住人と齟齬無く会話が成立しているんだ? ここにきて初めてその事に思い当たる辺り、僕も相当間抜けだ。僕の場合はおそらく召喚者特性とかいうスキルのお陰だろうと勝手に思っておく事にする。事実、それ以外で思い当たる節がないからな!


 呼ばれたからには何かしらアクションを起こさないとダメだろう。そう思って、一歩ずいっと前に出たら、見習い騎士君と周りの護衛兵士からはどこか期待の眼差し、大臣からは一層不安気な視線を受ける。

 そういえば、王様はここにはいないのか。っと、そんな事は今はどうでもいいな。

 このチャンスで汚名挽回……じゃない!

 汚名返上しなければ!!


 不審者の周りを取り囲む兵士は、僕が前に出てくるとさっと横に逸れて道を開ける。

 今までは屈強な兵士達の背中で見る事は叶わなかったが、道を開かれて初めて不審者を確認する事が出来た。

 もしここで出てきたのが、本当に不審者然とした人物であれば即座に伝説の剣で斬り掛っていただろう。

 だが、目の前の人物は少々草臥れた服装ではあるが、黒髪の黒眼でその整った顔立ちは、10人に問えば10人が美人だというくらいの綺麗な女性だった。

 気だるげな表情を隠そうともせず、身振り手振りと知らぬ言葉を話しながらこちらに何かを訴えていた。そして唐突に囲みの一角が開かれたのに気付き、その道の先にいる僕と目が合う。

 その女性は僕を見て驚いたようだったが、すぐに困惑した表情を浮かべる。


 はて?

 なんで、僕を見て驚くのか?

 僕はこの女性の事なんて知らない。

 もしかして、元の世界で実は知り合いでした、なんてオチだったらまだ良かったが、別にそんな事はなかった。

 見た目は僕と同じく元の世界の東洋人って感じだが、この世界にも同じような容姿の人が何人か居る事は確認している。正直、まだこの美人さんが異世界人だっていうのは断定できないと思う。


 まぁ、気にしてても仕方が無い。

 とりあえず僕からファーストコンタクトを取ってみよう。


「who am i?」

『!?』


 って、ちげぇ! なんで英語で尋ねてんだよ!

 つか、なにが「私はだあれ?」だ!! 僕は僕だよ! トモヒサだよ!!

 特別な力が働いているせいで僕の言葉が分かるこの世界の人達は、皆一様にポカンとしている。

 そりゃそうだ。

 相手に何かを尋ねるのに「私はだあれ?」はないわ。

 汚名返上するどころか、本当に汚名挽回してしまったよ……。

 自分の英語力どころか、会話力の無さに絶望した!

 再びやらかした僕は項垂れるしかなかった。

 もう、この世界で生きて行くのが辛い。


 そんなダメダメな俺に救いの手が差し伸べられた。


『Can you speak English?』

「No」


 英語で話しかけてくんなよ。中学英語すらもまともに話せない僕に、英会話なんて敷居が高すぎるんだよ。

 僕の返答を聞いて、少し考え込む美人さん。そんな仕草も様になっています。

 何かを思いつき、けれども違うだろうという感じで頭を振ったが、ジッと僕の顔を見つめて意を決し再度問いかけてきた。


『まさかとは思うけど、日本人?』

「Yes」


 いやいや、なんで日本語で問いかけられてるのに、英語で返答してんだよ僕。


「………え? なんで日本語?」

『おー、まさかこんな所で同郷人に会えるとは思ってなかったよ』


 ドウキョウジンッテドコノヒトデスカ?

 道教の人ですか?

 銅鏡人……ねーな。

 勇者トモヒサは混乱している。


「って、え? お姉さん、日本人?」


 しばらくパニくって周りの声も聞こえていない状態だったが、ようやく意味を理解しその事実に驚く。

 僕の言葉に笑って頷いた美人なお姉さん。


「なんで日本人?」


 勇者トモヒサはまだ混乱していた。


『君は日本人って事だけど、……ここは日本じゃないね? 周りの人達やこの魔力濃度を見ればそうじゃないってわかるけど』

「え? あ、はい。ここは俗に言う異世界らしいです」


 そういや、ここはなんていう名前の異世界なんだろう?

 あとで林さんにでも聞いてみよう。

 というか、このお姉さん異世界に来たっていうのに全然驚いてないな。魔力濃度とか言ってるし、もしかして僕の居た世界のパラレルワールド的な所から来たのだろうか? その世界には普通に魔法とかあるとか?

 

「ところでお姉さん。お姉さんの居た日本って……」

「勇者殿、勇者殿」


 お姉さんの居た日本の事を聞こうとした時、後ろから肩を叩かれる。お陰で、言葉が切れてしまう。

 僕は仕方なしに後ろを振り向くと、困った顔をした大臣が屈強な護衛を隣に置いて立っていた。


「どうやら、勇者殿はかの者と意思の疎通が出来ているようですが、まず害意があるかどうか聞いて下さらぬか」

「あ、そうですね。まぁ、聞いてみますけど、問題なさそうですよ?」


 頼まれたからには聞かねばならないだろうが、正面から「あなたは私達に害を及ぼしますか?」って聞いても、普通は「No」って答えるよな。まぁ、いいか。それでここにいる人達が安心できるのなら。


 ということで聞いてみたが、返答は予想通りの「No」だった。思わず僕も返答を聞いた時に、「ですよね」って笑ってしまった。

 その後も僕が通訳に入り、大臣はお姉さんに色々質問していたが、どうやら召喚された僕とは違い、なんらかの力の作用でここに流れ着いたみたいだった。

 お姉さんは質問の内容に少し困惑したりするが、すぐに合点がいってスラスラと質問に答えている。

 大臣は、お姉さんが質問に対してほぼ淀みなく答えているので、少しばかり訝しげな表情をしているが、当のお姉さんは慣れているかの如く、そんな表情を浮かべている大臣になんとも思っていないようだ。

 そして質問の最後の答えとして――


『信じる信じないはそちら側の自由。召喚者は別として、異世界渡航者や漂流者が多数いるわけではないってのは、今のやり取りでわかりました。とりあえず、今のところはそちらの意向に従いますが、私に敵意を向けるのならばそれ相応の対処はさせて頂きます』


 と言い放ち、一度鋭い視線を未だ周りを取り囲んでいた兵士に向け、すぐに目を伏せ跪いた。

 お姉さんなりの指示に従うというポーズなのだろう。


 その後、召喚の間からは僕と大臣、あと数人の護衛を除いて他の兵士は引き上げていった。見習い騎士君も、心配そうな顔をこちらに向けながら兵士達と一緒に階段を上っていった。

 一気に人口密度の減った部屋だが、大臣は護衛の兵士に小声でなにやら指示を出している。

 お姉さんは目を伏せて跪いたまま動かない。

 僕はどうしていいのかわからずボケっと突っ立っている。

 ここにいる僕の役割は通訳でしかない。

 正直、暇です。


 誰も構ってくれないので暇を持て余しまくっていたら、どうやら大臣と護衛兵士の密談は終了したようだ。

 大臣が僕にお姉さんに立ってもらうように通訳を頼む。

 そして護衛兵士は、そのお姉さんの両脇に立つ。

 その様子に戸惑いながら、僕は大臣に言われた通りに通訳する。


「お姉さん、なんかお姉さんの処遇が決まったっぽいです。そこにいる大臣さんが立ってくれって……」

『そう』


 お姉さんは僕の言葉を受けて、伏せていた顔を上げ目を開け静かに立ち上がった。

 両脇の護衛兵士は立ち上がったお姉さんを両脇から拘束する。

 しかし、拘束された当の本人はまるで予想していたように取り乱したりはしなかった。


「では、手はず通りお部屋に案内しなさい」

「ハッ!」


 部屋に案内するのにあの拘束の仕方はないんじゃないかなぁって思っていたら、大臣が僕の方に寄ってきた。


「勇者殿、ありがとうございました。勇者殿がいなければ、不審者として処断しなければならないところでした」

「あ、いえいえ。正直、自分でも同じ世界から来た人と会えるなんて思ってなかったんで良かったですよ」


 偽らざる本音である。

 召喚された当初は憧れの勇者になれた!ってことで舞い上がっていたが、やっぱり不安はあったからだ。特にドラゴンに殺されてからは不安は増大する一方だった。

 そこに同郷人がいるってなれば、何かと安心するってものだ。


「では、私達も戻りましょう。勇者殿は先程の部屋でお休みください」

「わかりました」


 大臣と二人で召喚の間から出て、王宮に入ったところで別れる。

 別れ際に案内は必要かと聞かれたが、とりあえず必要ないって答えておいた。

 だって、何度か通った場所なんだからいくらなんでも覚えている……はず。

 大臣は慌ただしく仕事へと戻り、僕は来た道を思い出しながら執事さんが待っているであろう部屋へと向かったのだが……。


 当然の如く、迷いました。

 全然良いとこねーなぁ……僕。

 

私の英語力は某竜の球漫画に例えると

戦闘力5の一般人並。つまりはゴミって事だな・・・・・・orz

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