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第05話 「服を着たら特徴が消え失せたかもしれない」

 城内を慌ただしく駆け回る兵士をよそに、僕は初老の執事と思わしき人に豪華な一室に案内され、ようやくと服を頂くことが出来た。

 僕は頂いた服を着替え終え、このままここで待機しているように命じられる。監視の為か、案内の執事さんはそのまま部屋に残り、何も出来ない僕に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。


「こちらは、西方のミケルディア地方で栽培されている紅茶になります。少々渋みが強めでございますので、お好みでこちらのミルクをお使いください」


 そう言われてテーブルの上に出されたお茶を一口飲んでみる。

 元の世界でも、紅茶なんて缶に入った奴や、パックを使った奴くらいしか飲んだ事がないので、こうしてカップに入れられた紅茶というのは凄く新鮮だった。

 まぁ、一口飲んでみた感想は、言われた通りに僕には渋くて顔をしかめる結果となったわけだが。

 すぐに一緒に出されていたミルクを少しずつ注ぎ、スプーンで一混ぜするとマーブル状になるのが楽しくて、ついついミルクを入れ過ぎてしまった。ミルクを入れ過ぎた紅茶を飲んでみれば、ミルクに砂糖でも入っていたのかと思うくらい甘くなっていた。缶のミルクティーにさらに砂糖を何杯か混ぜたくらいと言えばわかってくれるだろうか?

 執事の人にミルクの事を尋ねてみれば、甘味の調節などはしておらず、ミルク単体が凄い甘いのだという。このミルクは庶民でも買えるくらいの安価な値段なので、この世界には結構甘いお菓子などが出回っているらしい。これほど甘いと、一体どんな動物の乳なのか気になる。が、これから冒険していけば知る事も出来るだろうと思い、今は執事さんに聞く事は止めておいた。


 それからしばしの間、紅茶に注ぐミルクの量を調節し、丁度良い感じになるまで紅茶を飲み続けた。

 真剣に研究して見た結果、紅茶9に対してミルク1の割合で調整すると、渋みと甘み、そして紅茶の風味が両立し非常に飲みやすい紅茶が出来上がった。

 紅茶のみでは渋みが先行し、風味なんて感じられなかったし、ミルクを入れ過ぎれば甘過ぎて風味なんて飛んでしまっていた。しかし、さっきの割合で混ぜる事によって紅茶そのものの風味が最大限に引き出される事が分かり、俺は嬉しさのあまり執事さんにその事を報告していた。

 執事さんは「それはようございました」と軽く微笑むだけで、俺が編み出した9:1のミルクティーを飲んではくれなかった。もしかしたら世紀の大発見かと思っていたのだが、なんてことはない普通の事だったのかもしれない。

 僕は軽く凹んだ心を持ちなおし、気を取り直して9:1ミルクティーを飲み続けた。

 いい加減、腹がたぽたぽしてきた。トイレにも行きたくなってきた。

 何十杯も飲んでいるのだからトイレに行きたくなるのなんて当然だよね。

 ということで、僕は執事さんにその事を告げトイレまで案内してもらう事になった。


 執事さんに案内され、トイレに到着して僕はビックリした。

 異世界なのだからどんな形のトイレなのだろうと思っていたら、何て事は無い普通に日本の公衆トイレのような感じになっていたのだから。

 トイレなんて似たり寄ったりだろって思うかもしれないが、世界では意外と形や使用方法が違ったりするもんだ。だから、実はちょっぴり楽しみにしていた部分もあったのだが……。

 どこか残念そうな表情でトイレから出てきた僕を見て、何かを察したのか執事さんがこの王城のトイレは何代か前の召喚者が、国のお抱え技術者と共に開発したものらしい。

 その副産物として、この国の主要都市では上下水道も完備され、昔は川にそのまま垂れ流されていた汚物も、専用の処理施設へと運ばれて衛生さを保っているのだとか。

 トイレ開発の召喚者は絶対に日本人だろ……。

 ちょっとした異世界トリビアを執事さんから聞かされ、僕はどこか関心しながら元の部屋へと戻る。


 そうか。

 何も自分一人で開発とかする必要なんてないんだよな。

 アイディアを出して、他の技術者と話し合って求める物を実現するっていうのも有りだ。

 特に僕は特別に知識豊かというわけでもないので、詳しく設計図などを書く事は出来ないが、イメージを伝える事によってそれに近いものを作り出す事も可能なのかもしれない。

 もしかしてと思い執事さんに聞いてみたら、案の定冷蔵庫や簡易着火装置などもあるらしい。ただ、冷蔵庫は一般家庭にもあるようなものではなく、倉の中を丸ごと冷やすというかなり大がかりなものになってしまっているし、着火装置もある部分の消耗が激しくて頻繁に部品交換が必要な為、王族や貴族くらいしか所持していないらしい。

 移動手段に自動車なんてものもあるのかな?って聞いてみたが、さすがにそれは無かった。

 この世界の移動手段は馬車や竜車と呼ばれるものと、各大都市に設置された瞬間移動の為の魔法陣が主になる。瞬間移動の魔法陣は魔力を大量に消費するので、そう頻繁に使う事も出来ず、大人数、大質量のものを移動させる事は出来ない上に、双方の魔法陣に魔力が残っていないと使う事が出来ない。そのせいでやはり王族・貴族専用と化してしまっている。


 他にも色々な事を聞いた。

 その中でも一番知りたかったのは、『ギルド』に関しての事だ。

 代表的なものに、『冒険者ギルド』と『商人ギルド』があるという。

 この世界には魔物とカテゴリーされる生物が存在する。

 高濃度の魔力に晒され、肉体を変質させられた野生動物が魔物と呼ばれその数も最も多い。

 その他に、人工生物が暴走状態のまま人を襲うようになったものや、不死者と呼ばれる死後の肉体や精神が現世に留まり続けたもの、悪神によって悪性変異させられた人間等も魔物に属するものとして扱われる。

 冒険者という職業は、それらを依頼という形で調査・討伐し、ギルドに報告する事で報酬を得る人達だ。もちろん、魔物に関する事以外にも依頼を受けて、その結果を納品し報酬を得る事もあるが、その殆どは駆けだしの冒険者や引退間近の冒険者達が行うもので、熟練の冒険者がメインにするのは魔物に関する事ばかりらしい。

 商人ギルドは、商人達を統括する立場にあり、各都市での売買権や不法な商品の取り締まり、あとは銀行のような役割をメインにしているという。

 商人達は皆このギルドに属さなければならず、ギルドに属さずに商品の売買を行った場合はギルドと国から厳しく罰せられる事になる。

 この他にも、職人を統括する『鍛冶・錬金ギルド』や、漁業・農業を統括する『生産ギルド』なども存在するが、あまり興味が無かったので聞かなかった。

 魔法に関するギルドは無いのかと尋ねてみたが、魔法は国が管理しているのでそれに類するギルドは存在しないと言われた。ちょっと残念……。



 とまぁ、暇潰しに色々と執事さんに色々教えて貰っていたのだが、いつになったらこの状態を抜け出して冒険へと旅立てるんですかね?

 そろそろ貰った伝説の剣を試し切りとか、教えて貰った魔法の研究とかしてみたいんですけど……。

 相も変わらず部屋の外ではバタバタと忙しく駆け回っているのがたまに聞こえてくるし、執事さんも聞かれた事以外では何も喋ってはくれない。

 うん、凄く暇。

 早く冒険へと旅立ちたいです。

 あといい加減、御飯が食べたいです。

 この世界に召喚されてからまだ一日も経っていないが、召喚されてから水物しか飲んでいない。

 さすがに紅茶だけで腹いっぱいにするのは、膀胱的に遠慮したいし、そういえば朝飯も食ってなかったので米が食いたい。

 あ! そういえば、この世界に米ってあるんだろうか?

 僕はどちらかというと、パンよりも米派なので、米が存在しないとモチベーション的に死活問題だ。

 その事を執事さんに聞こうとした時、部屋の外がバタバタと騒がしくなったかと思うと、バンッ!と勢いよく扉が開かれた。


「勇者様! お力をお貸しください!!」

「は?」


 唐突の事に僕は間抜けに聞き返していた。

 入ってきたのは、ドラゴンに焼かれて死んだ僕を最初に発見した見習い騎士君。見習い騎士君はその騒々しさを執事さんに窘められている。

 ぜぇぜぇと肩で息をしている様子から、かなり慌てていたのだろう。

 しかし、僕の力を貸してくれって……。僕の力というよりも、もしかして伝説の剣の力を貸してくれてって事じゃないのか? 自慢じゃないが、僕はこの剣がなかったらそこらの一般人にも劣るかも知れないぞ?

 まぁ、頼られるのは嫌な気分じゃない。

 カッコつけて、「ど~れ」とフカフカなソファーから立ちあがり、見習い騎士君に案内されるがままその後を付いて行った。


 その時の僕は、まさかあんな事になるなんて夢にも思っていなかった。

勇者のステータスが更新されました

★★★★★★★★★★

『トモヒサ・ミウラ』 Lv:1  クラス:勇者

称号:[伝説の剣を授かりし少年] ←New!

HP:32  MP:3

力:8

体力:5

俊敏:2

器用:10

運:6

魔力:2

――――――――――

●装備

武器:聖剣ファルフレイム

頭:なし

体:仕立ての良い普通の上着

腰:仕立ての良い普通のズボン

腕:なし

足:仕立ての良い普通の革靴

――――――――――

状態:ドラゴン恐怖症Lv5 火炎恐怖症Lv5 露出の快感Lv2

――――――――――

習得スキル

・召喚者特性 ・初級魔法 ・異世界の知識

――――――――――

習得魔法

・ステータス確認 

・火魔法Lv1 ・水魔法Lv1 ・風魔法Lv1 ・土魔法Lv1

★★★★★★★★★★

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