第01話 「主人公は僕だ!」
広い部屋だなぁ。
それが、僕が改めて思った感想だった。
その広い部屋の奥は何段か高くなっており、最上段の中央に大きな椅子があった。そこには豪華な王冠を冠り、数キログラムはありそうな分厚いマントを羽織った、初老でヒゲのナイスミドルが難しい顔して座っている。
ナイスミドルの脇には小太りで額が少し寂しくなった中年が立っていた。
その二人の脇を固めるように数人の、鎧を着た如何にも騎士然とした者達が身じろぎせず直立していた。
この場所はどうみても王の間。もしくは謁見の広間とか呼ばれているような場所である。
僕はそんな場所で、王の前で正座させられていた。
どうしてこうなった……
★☆★☆★
僕こと、三浦 智久はゲームが好きだった。ゲームであれば色々なものをプレイしてきた。
高校では同じゲーム仲間を募り、現代ゲーム研究会という同好会を設立し、日々ゲームの研究に勤しんでいた。
研究とは名ばかりで、実際は今人気のあるゲームの攻略とかばかりの活動だったわけだが。
最初は僕もゲームくらいしか趣味はなかったのだが、ゲー研の友達から勧められて読んだライトノベルが面白くて、そっちの道にも走っていた。
俗に言う、オタクといわれる人種に僕はなっていた。
だけど、別にオタク趣味は隠していたわけでもなかったし、自分でいうのもなんだが、割と人あたりはいい方だったのでクラスでも特別に浮いた存在にはなっていなかった。
ある日、僕はゲー研の友達からとあるラノベを借りた。
家に帰って読んでみると、異世界召喚もののファンタジーな世界観の話だった。
冒頭を少し読んだあと、パラパラと中身を流し読みしてみる。
断片的に知れた情報では、割とよくある異世界に召喚された主人公が魔王を討伐する勇者になるというものだった。
ボーイミーツガールという在り来たりな内容ではあったが、この作品の作者は書き方が面白くて、読んでいても全然苦にはならなかった。
在り来りな内容でも、書き手によってここまで面白くできるという事を実感させられる。
僕も、中学の頃にゲーム好きが高じて、自分で作ってみたいRPGのシナリオを書いてみたのだが、当時の友達からは「つまんね」という四文字を頂戴しただけだったので、この作者には素直に関心させられた。
「僕も、剣と魔法の世界に召喚されてみたいなぁ」
軽度の中二病を未だに患っている僕としては、異世界召喚とか凄い憧れる。
異世界に召喚された人間って、大体チート能力が備わっているので、そこで俺TUEEしてみたいという願望が少なからずある。
一度、本を読み始めると止まらなくなる質が災いしてか、気づけば一冊を読み終えていた。
今回は、お試しにってことで最初の一冊しか借りていなかったが、これは続きが気になってしょうがない。
すぐにでも友達の家を訪ねて、続きを借りてきたい衝動に駆られた。
しかし、時計を見てみればすでに深夜1時を回っていた。
時間を確認した事でわずかながら眠気を感じてきたので、本の続きに後ろ髪を引かれていたが、その日はもう寝ることにした。
気になって眠れなくなるかなぁとか思っていたが全然そんな事はなく、布団に入って数分で眠りにつけそうだった。
おそらく、さっき読んだラノベの夢でも見てしまうだろう。
気になるものがあるのに寝てしまえば、その事を夢に見るので今回も間違いなくその夢を見るはずだ。
薄れゆく意識の中、僕はそんな事を考えて眠りについた。
★☆★☆★
「ふッ!!」
鋭い呼気とともに、目の前の騎士に掌底で攻撃する。
『通し』や『発剄』などと呼ばれる技術で放たれたそれは、易々と騎士が身につけている鎧を貫通して内部の人間にダメージを与える。
鎧の防御を無効化されて内臓のズタズタにされた騎士は、喀血するとガクリと前のめりに倒れ込んだ。カランと手にしていた剣が地面に落ちた。
「結構良い物使ってるんだ」
騎士の剣を拾い上げ、その質の高さに感心する。
きっと名のある工房で作られた逸品なのだろう。
私が今さっき倒した騎士は、西方方面軍の騎士長と名乗っていた。軍の中衛を任される騎士隊の長ともなれば、由緒ある貴族の一員だったのだろう。
騎士長が倒れた敵軍はすでに敗走していて、自軍の前衛と遊撃部隊が追撃に向かっている。
戦の大勢は決した。
私は滞在していた国の姫に請われ、この戦に参加する事になった。
辺境に位置する弱小のこの国に宣戦布告がなされたのは一カ月程前だった。
大陸の交易路からも外れ、主要産業だった金採掘も鉱脈が潰えて、およそ攻め入る理由なんて見つからないような国の王族達には、なんの冗談かと思っていたらしい。
何度も使者を送り、戦争だけは回避したい旨文書を渡していたのだが、結果的にそれは失敗に終わっていた。
宣戦布告してきたのは、隣国の大陸七王国の一つだった。
規模も人口も桁違いの相手とあっては、弱小国の王族達も降伏する算段をまとめていた。
私に協力を求められたのは、そんな矢先の事である。
姫の領内視察中に、盗賊に襲われていた所を助けたのが姫と懇意になる切っ掛けで、それからというもの城内への出入りも快く認められ、事ある毎に姫に呼ばれる毎日を過ごしていた。
姫からの願いとあっては、無碍にする事も出来ずに詳しい状況を聞きだした所、降伏の条件が常軌を逸していたのだ。
一:王族に連なる者は全て処刑。
二:国の領地、諸権利は全て接収。
三:国民は全て王国の民とするが、身分は最下とする。
この他に細かい部分で色々と書かれていたが、国王と姫を始め国の重鎮達もこの条件を飲むわけにはいかなかった。
民からの信も厚い良王だったゆえ、条件の三つ目を断じて許すわけにはいかなかった。
戦争となれば、大多数の国民を死なせた上で国は敗北して滅亡するだろうが、最下身分に落とされるよりも死ぬ方が断然ましなのである。
およそ、この世界で奴隷よりも低い地位である最下身分になりたいと言う者なんぞいない。
家を持つ事は許されず、家族を持つ事も許されない。その上、道端で気まぐれに乱暴されても殺されても何をされようとも、加害者にはなんの沙汰もない。王国法でそう決まっているからだ。
降伏条件を聞いて国王も苦悩したようだが、姫の説得により戦争を決意。条件に激怒していた私は、国軍に先んじて敵軍のもとに走った。
今考えれば無謀すぎる行動だったが、それが功を奏したとも言えた。
完全になめきっていた敵軍は、単騎で現れた私の言い分などまるで聞きもしない。まぁ、いくら姫と懇意にしている人物とはいえ、国民ですらない私の戯言など普通に聞き流すだろう。
しかし、挑発に挑発を重ねた結果、前衛所属の中隊長が私の言葉に怒り、剣を抜いてしまった。
私の軽はずみな行動で先端が開かれてしまったが、私が敵軍に向かったという知らせを聞いて国軍もすでに動いていた為、先手先手を取る事が出来、一先ずは敵軍を押し返す事に成功する。
私が敵軍の真っただ中で暴れ回っていたのも、第一戦の国軍勝利に貢献していた。
戦線を立て直し、全力で攻めてくる敵軍をちぎっては投げちぎっては投げで蹂躙し尽くし……言葉が過ぎた。
私が単騎で前衛軍の指揮官の首を取り、そのまま中衛に攻め入り騎士長も討ち果たした。
国王や姫からは「奇跡だ!」と誉め讃えられたが、あの程度の軍だったら一人で壊滅出来たかもしれない。この世界にはすでに殆ど居なくなった魔物の軍団に比べたら赤子のようなものだったからだ。
敵となった王国軍を退け、その日の内に戦勝会が催される。
その席で国王直々に、この国に貴族にと申し出されたが、とある事情からそれは断った。
宴もたけなわと言った所で、その事情が私の身に起こる。
私は長い時の中を生き、世界を漂流する一族だ。
その世界毎に何かしらを成せば、勝手に世界間を移動してしまう。
長い時は数百年と一つの世界に留まり続けるが、大体は数十年単位で漂流していた。
不老の身体と意思。
悠久の時を生き抜いた経験が途方もない実力となって私を生かす。
次に流れ着く世界はどんな所だろう?
数千年生きていても飽くなき好奇心が私を刺激している。
楽しい世界だったら文句はない。
揺らぐ意識の中、驚き戸惑う姫の顔が凄く印象的だった。
まずは読んで下さりありがとうございます。
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