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西銀河物語 第2巻 アメイジングロード 第三章 帰還 (1)

第三章 帰還


(1)

 未知の星系の跳躍点からADSM72星系への跳躍点までの距離は一〇光時。探査を行った星系を左舷に見て、惑星公転周回を下から上に斜めに進宙する。星系の最外縁を周回する第八惑星の更に外側を通るコースだ。既に未知の跳躍点より五光時、ちょうど惑星公転周回上と同じ位置だ。あと五日間でADSM72跳躍点へ着く。

 シノダはスコープビジョンの左側に広がる恒星を中心とした惑星の公転を見ながら広大なパノラマに見とれていた。恒星の光が各惑星を照らしている。多元スペクトル分析によって、惑星の大気やガスがその光に反射して独自の色に映し出されている。一番近くに有る惑星は、赤く、第二惑星は水色に近い青、第三惑星は薄い茶色、素晴らしい光景に見とれていると

「シノダ中尉、艦内時間一八00だ。食事を取りに行こう」いつの間にそばに来たのかアッテンボロー主席参謀がいつもの調子でシノダを誘った。

 司令官席に目をやるとヘンダーソン中将が顎を引いて頷いた。アッテンボローの他、ウエダ副参謀も一緒である。二人の後をついて艦橋を出てエレベータに乗ると

「航宙は、だいぶ慣れただろう。宇宙に出た感想はどうだ」

「見るもの聞くこと全てが初めてなので驚いています」

 シノダがそこまで言うとエレベータが停まりドアが開いた。左に曲がって少し行くと左手に上級士官食堂がある佐官以上の人が利用できる食堂だ。

食堂に入ると上級士官全員が座れる長いテーブルがある。もちろん座る位置は上座が総司令官だが、今回のように別々に取る場合は、自席でなくてもよい。三人は適当に座ると

アッテンボローが、給仕に向かって

「ボルドー星系のブルゴーニュ星にある白ワインを頼む。WGC2986年ものがあると嬉しい」そういうとシノダが

「ワイン詳しいですね。そう言えばアンダーソン総司令官もボルドー星系のサンテミリオン星のワインがお好きです」

「サンテミリオン星は生産量が少ない。あれに手が出せるのは、将官クラスだ。我々には無理だよ。生産量の多いメドック星だな」そう言ってウエダ副参謀と目を合わした。ウエダは、

「シノダ少尉、ワインを覚えるのも士官としてのたしなみだ。好きなワインの生産星を見つけるといい」そうしている間に給仕がブルゴーニュ星の白ワインを持ってきた。

 アッテンボローは、ワイングラスに注がれたワインを顔に近づけ、においを嗅いだ後、少し口に含むと口の中に回すようにして喉の奥に流しこんだ。

「やっぱり上手い」そう言ってアッテンボローはグラスに有る残りのワインを口に入れた。

他の二人にもワインが注がれるとアッテンボローが「残りの航宙が無事に終わることを祈って」と言ってグラスを目の高さまで持ち上げた。シノダも見習って目の高さまで持ち上げるとそのまま口にワインを運んだ。

さすがにメニューは自由にならず上級士官とはいえ、曜日毎に決められたメニューを食べる。今日の食事は、ホワイトシープのソテイだ。ミルファク星系を出る時に用意された食料はマイナス四二度で凍らせている。解凍された肉をコックが料理するのだろうが、中々の味だといつもシノダは思っている。

 食事も進みコーヒーの頃、アッテンボローが、

「シノダ中尉、最近ワタナベ准尉との関係はどうなっているんだ」予想もしない質問にシノダは、

「いえ、何も。士官食堂での一件以来、全く会っていません」ワタナベ准尉のショートカットが似合う小さな顔に大きな目を思い出しながら言うと、アッテンボローとウエダは顔を見合わせあきれ顔で、

「あきれたな。時間は十分あっただろう。なぜコンタクトしない」

「いえ、あれ以来、士官食堂には行きません。艦橋と自室の往復です」

またまたウエダと目を合わせたアッテンボローは、

「信じられない。シノダ中尉、女嫌いではないのだろう。少しは、フォロー位したらどうだ。幸い次の跳躍まで何もないぞ。我々とは違うのだから」話のムードがあらぬ方向に行きはじめたと感じたシノダは、

「主席参謀、跳躍点付近で見つかった艦の残骸ですが、あれはどう思われます」話題を変えようと抵抗を試みたが、

「軍事機密に属する内容だ。本星系に戻って正式な報告書が出来るまで個人的なコメントは出来ん」真っ当な返答に結局、話題を変えられず、シノダは下を向いてしまった。

 女性についてはマイ・オカダ以外免疫がない。素敵だと思うが、何をどうすればいいか全く解らないと考えているシノダに淡々と手ほどきを説明するアッテンボローに結局、フォローを約束させられてしまった。

 艦橋に戻ったシノダは、シートに座ると自席の前にあるスクリーンパネルに検索をかけた。スクリーンに映るマリコ・ワタナベ准尉の顔を見ながら艦内ネットを利用するメールを送ろうと思ったが、すぐにやめた。艦内ネットは、他の人に見られる可能性がある。どんな噂を立てられるか解らないと思うとスクリーンを閉じて管制フロアを見た。

 ワタナベ准尉がレーダー管制勤務についていることを確認するとあることを思いつき、シートに座って時間を待った。

 一時間後、ワタナベがレーダー管制席から立って交代要員と入れ替わるのを見たシノダは、すぐに艦橋を出てエレベータに向かった。その姿を見ていたアッテンボロー主席参謀とウエダ副参謀と目を合わせて微笑んだ。既にホフマン副参謀にも伝わっているのか、こちらも目じりを緩ましている。

 艦橋のドアまでは歩いたが、出たとたんシノダは、ドアからエレベータまでの三〇メートルを走って、急いでエレベータコールボタンを押した。下から上がって来る五秒がこんなに長く感じたことはないと不思議な感覚を覚えつつ、エレベータに乗ると士官食度のあるフロアに降りて、急いで管制フロアから来るエレベータのドアの前で待った。

 エレベータが停まり、ドアが開くと何人かの士官と下士官が降りて来た。シノダの襟章を見て何も言わなかったが、見慣れない顔だという思いが顔に現れていた。シノダは、常に艦橋にいるので一般の士官とは合わない。そう思われても仕方ないと思っていると最後にワタナベ准尉が降りてきた。シノダの顔を見ると立ち止まり、

「珍しいですね。こちらのフロアに来られるとは、シノダ中尉。何か用事ですか」と言ってシノダの顔を見た。

 シノダは、通路に人がいないことを確かめると、ワタナベの手を取った。一瞬ワタナベの心に動揺が見えるしぐさを示したが、手に持っているメモパッドをワタナベの手の平に乗せ、指を外から優しく包み込むと「都合のいい時に連絡もらえれば」と言って、もう一度ワタナベの目を見ると踵を返し上級士官用エレベータに向かった。

「あのっ」というワタナベの声に振向きもしないシノダの後ろ姿を見つめていたワタナベは、周りに人がいないことを確かめメモパッドを開いた。伸縮可能なメモリスクリーンである。これならば、本人同士しか解らない。ワタナベは、書いてあるメモと場所のマークにパッと顔が明るくなり微笑んだ。すぐにメモパッドを折りたたみ、ポケットに入れると同じタイミングでエレベータのドアが開いた。ワタナベは、すぐに顔を引き締めて開き始めたドアを見ていると先頭で出てきたミネギシ少尉が、

「マリコどうしたの、こんなところで一人でいて。先に士官食堂に行って食べているかと思っていたのに」交代になった同僚のミサイル管制官や主砲管制官等が、ワタナベを好奇心の目で見つめると

「嬉しそうな顔をしている感じがするけど。いつもオスマシなのに」といってワタナベの顔を覗き込んだ。

「別に、何も」と言ってポケットにしまい込んだメモパッドを見つからないようにポケットから手を抜くと、

「ミネギシ先輩、お腹減りました」いつもの調子で甘えたのをきっかけに会話は終わり、エレベータの後ろから出てきた男性士官を無視してワイワイと女性士官四人は士官食堂に向かった。後に残った香水の香りが男性士官たちに二種類の感情を覚えさせたのは間違いない所である。

 

 「全艦に告ぐ、こちらヘンダーソン総司令官だ。後、三〇光分でADSM72星系に向けて跳躍する。現在の第二級戦闘隊形を標準戦闘隊形に戻して跳躍する。戦闘隊形を変更する時間は2時間後だ。この跳躍点は、「ヘビーアンセントレーション(方向不定状況)」だ。全艦細心の注意で跳躍してくれ。以上だ」そう言ってコムを口元から離すと

「ハウゼー艦長。再度後方に位置する哨戒艦に連絡を取り、後方からのアンノーンがないか確認してくれ」あればすぐに連絡が来ると解っていても、未知の跳躍点で見つけた艦の残骸が推進エンジンを稼働状態のまま格納ボックスに入れて航宙していることにヘンダーソンは不安とも予感ともいえない気持ちの動揺を隠せないでした。推進エンジンをとめたいところだがエンジニアの報告では、コントロール系が違う為手を出せないと言う。仕方なく、核融合炉をオンにしたまま、格納ボックスに入れた状態だ。

 三〇分後、ハウゼー艦長から

「最後尾に位置する哨戒艦から連絡がありました。後続するアンノーンなし。不審なデブリなし。と言って来ています」それを聞いてヘンダーソンは、顎を引いて頷くと目の前に迫ったADSM72星系に向けた跳躍点の揺らぎを見ていた。

「第三二一広域調査派遣艦隊」の後方四光時後ろの岩礁帯の中に明らかに岩とは違う物体が、ヘンダーソンたちの艦隊の方を見つめていた。やがて三時間後、艦隊が跳躍点に突入すると、岩礁帯から艦艇が姿を見せた。ヘルメース級航宙駆逐艦と全長は同じくらいだが、全く異なった形をしている。岩礁帯は、岩によっては直径一キロ以上ある。小型艦が隠れ熱源反応をオフにしてステルスモードにしていれば見つける事は不可能だ。そこここから現れた艦が一つの隊形を作ると未知の跳躍点方向に戻って行った。





 





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