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タカラモノ夢2

作者: SEI

 

   タカラモノ


「まさか、これほどに力をつけるとは……」

 全身を漆黒の鎧で覆われた「ヤツ」が右肩を押さえて片膝をつき倒れた。

 俺が突き刺した右肩から黒い章気がシュウシュウと音を立てて吹き出していた。

 間違いない……俺の攻撃は確実に「ヤツ」にダメージを与えている。

 この好機を逃すわけにはいかない。 

「はああああ……!!」

 俺は剣を持ったまま右手を顔の前にもっていき力を込める。

 右拳が激しく鮮烈に輝き、真横水平に伸びる刀身に徐々にその光が浸透していく。

 まだだ……まだ足りない! こんな力じゃ「やつ」を滅ぼす事は出来ない!

 俺は怒号とともにさらに、さらに力を剣に注ぎ込む。

 右手に激痛が走る。ドクンドクンと血流が流れるたびに、神経が八つ裂きにされたような痛みに意識がもっていかれそうになる。

 だがその痛覚を無視して、より一層の力で込める。

 握りしめる剣が、「もう限界だ」と言わんばかりにギチギチと悲鳴をあげていた。

 これで最後だ、だからお前も最後まで付き合ってくれよな……

 これまでの旅路を支えてくれた戦友に、親愛の眼差しで優しく微笑みかけ強く握りしめた。

「……ッ! よし!」

 右手で水平に携えた光剣を右肩で担ぐように背にもっていく。

 そのまま身を低くかがめてクラウチングスタートのように左手を地につけ態勢を整えた。

 これで、これで終わりだッ!

 両足で地を蹴り「ヤツ」に全力の力で斬り掛かろうとした瞬間

「……?」

 なにか直感めいた考えが脳裏に浮かび、踏みとどまった。

 そうだ、侮ってはいけない。「ヤツ」の力は今まで身をもって思い知らされてきたじゃないか。

 俺は先走る気持ちを抑えて「ヤツ」の様子を睨みつけるよう注意深く観察する。

 まだ剣で貫いた傷は癒えていないようでいまだに右肩を押さえて片膝をついてうずくまっている。

 こちらの異変には気付いているだろうに……動けないのか……動かないのか?

 好機なのか……罠なのか?

 頭の中に不安の暗雲が立ちこめる。

 くそお、なんでこんなに不安な気持ちになるんだッ! 考えたって意味は無いのにッ! もうやるしかないのにッ!

 その時、「ヤツ」に動きがあった。

 傷が癒えたのか右肩から手を離すとゆっくりと立ち上がろうとしている。

 もうどうとでもなれだッ!

 両足で地面を力強く蹴りつけ「ヤツ」に向かって一直線に飛び込んだ。

「うおおおおお!!」

 突風のように距離をつめると、その勢いのまま右肩に担いだ光剣を斜めに切り下ろす。

 光剣が「ヤツ」にあたり激しくスパークする。

 刀身が少しずつ「ヤツ」の体に沈んでゆく。

 少しずつ、少しずつ……

「ぐあああああ〜!!」

 文字通りの断末魔をあげて「ヤツ」の体は二つに裂けた。





 

「俺は本当に勝ったのか……?」

 自然とそんな言葉が口からこぼれた

 なにかあっけない、物足りないと言ってもいいかもしれない。

 腕に感じた確かな手応えを思い出す。

 そうだ、間違いない、「ヤツ」は死んだ。


 すると突然に背後からパチパチパチ、と快い叩音が聞こえてきた。

 これは、拍手? 誰も居ないはずなのに一体誰が? 

 驚いて振り向くとそこには「ヤツ」の姿が……!

「その通り、君の勝利だ。コングラチュレーション。ふっふっふ。まさに奇跡としか言いようが無い。君の勝利など微塵の毛程もないと予想していたのに。君の底力には心から驚かされたよ」

「偽物だったのか……」

「まあそう言う事だ」

「……それなら、今再び斬り捨てるまでだ!」

 俺は剣を突き出し「ヤツ」に構えた。

「見上げた精神力だ。だが予め言っておこう。私の強さはソレの十倍だ」

「なん……だと?」

「なに、敵が十倍強いというなら、十倍頑張れば良いだけでないか、それいくぞ」

 右手を前方に突き出し「ヤツ」が囁く。

「必殺技名狂騒する道化師ピエロレース

 何かが来るッ……! 握る剣を改めて握り直し俺は「ヤツ」の動きに構える。

 しかし……

「……ッ? うあああ!!」

 何が起こったのか、まるでわからなかった。

 右手を構え「ヤツ」が呟いた途端、突風がの手のひらから放たれたように俺の体は吹き飛ばされていた。

 油断などしていなかった。まばたき一つせずに「ヤツ」の動きに警戒していたというのにッ!

 まるで敵いっこない……一瞬でそれを把握してしまった。

 手足を動かし体の損傷を確かめる。大丈夫だ、立てない程ではない、しかしたとえ立ち上がってもどう戦えば良いんだッ!

 気がつくと「ヤツ」がすぐ側まで近寄ってきていた。

「……興冷めだな」

 つまらなそうな顔で呟くと「ヤツ」は脇に帯刀した大刀を静かに、ゆっくりと抜いた。

 もうダメだッ……悔しいけど、どうしようもないッ!

 俺は全てを諦め目を閉じた。「ヤツ」の大刀が振り下ろされる音が聞こえてくる。 

 ……ああ、俺はもう死ぬんだ……


 キーーン

 死を覚悟し目を閉じた瞬時、金属と金属がぶつかり合う音がした。

 「ヤツ」の大刀は振り下ろされなかった。

「なんだ、お前はッ?」

「ヤツ」の困惑の声が響く。

「…………。」

 いったい……何が……?

 俺は一度は絶望し閉じた目を再び開いた。するとそこには

「とっ冬弥ッ!?」

 そこには「ヤツ」と刀を対峙しせばぜり合っている冬弥の姿があった。

「ふん、待たせたな」

 冬弥は肩越しに俺に問いかける。

「お前……どうして? 死んだんじゃなかったのかッ?」

「(エンディングに野暮な事聞かなくてもいいだろ、それに)俺だけじゃないぜ、ほら」

 冬弥が視線で右方向を促す。

 そこには冬弥と同じく死んだはずの陽気の姿があった。

「よっ陽気まで!? いったいこれはどうなってんだ……まさかもう俺は死んじまってここはあの世ってやつなのか?」

「そんなわけないでしょう」

「……ッ! まさかこの声は……」

 鈴を転がすように透明な、どこまでも透き通るこの声はッ

「舞姫さま……」

 声が震える、そんな、こんな奇跡が起こっていいのかッ?

 体を抱き起こされ舞姫さまが手を握ってくる。

 ああ、本物だ……懐かしい暖かさに心まで震える。

 舞姫さまが呪文を唱えると俺の体はみるみる回復してゆく。

 俺は舞姫さまの目をじっと見つめた。愛しくて大切でどうしようもない。そんな彼女に再び会えるとは夢のようだ。

 

 その空気を断って冬弥が叫ぶ

「感動の邂逅だろうけど、まだやる事残ってるだろッ。さっさと回復して手伝いやがれ」

 冬弥は汗だくで「ヤツ」と戦っていた。見るからに限界が近い事が見て取れた。

「このばかやろうがッ勝手に諦めやがって。いいか、お前は一人じゃない、俺も陽気も舞姫さまだっている。だから諦めんじゃねえッ」

 舞姫さまが俺の頬に手をやり優しく微笑みかける。

「みんなで生きて帰りましょう」


 ……ありがとうみんな

 溢れる涙がとめられなかった。みんながいる……それだけでこんなに心強いッ

 優しい抱擁から抜け出して立ち上がり再び強く剣を握り戦場へッ

「もう大丈夫だッ心配かけたな」

「よし、じゃあいつもの通り行こうぜ。陽気! 準備は良いか!」

「いつでも……いける」

 冬弥が敵を引きつけ陽気が呪文で足止めする、そして俺が渾身の力でトドメをさす、そのやりかたで今までどんな化け物だって倒してきた。

 今回だってそうだ。たとえ「ヤツ」がどんなに凶悪でも、俺たちがそろえば敵なんかじゃないッ。

「はああああ……!!」

 剣を携えトドメの一撃に備える。

 あいつらが、必ずスキを作ってくれる……それを信じて俺は渾身の力を溜めるッ

「おらあッ」

「ぐうあ!」

 冬弥の斬げきが「ヤツ」の大刀をはじき飛ばす。

 そのスキを逃さず陽気が攻め入る。

「タッカラプトポッポルンがプピリットパロッ」

 陽気の呪文は動きを拘束する呪文だ。直撃すれば「ヤツ」とて例外ではない。

「ぐあああ! 体がッ体が動かぬううう!」

「……ッ、長くは保たない、早く!」

「よっしゃ〜いけ〜」

 冬弥が叫ぶ

「がんばって!」

 舞姫さまが叫ぶ

 

 これで、決めるッ!!

「うおおおお!!」

 大きく剣を振りかぶって「ヤツ」に向かって振り下ろす。

「必殺技名ギャラクティカマグナム!!」

「うがあああ、まさかこの私がああ〜、ちくしょ〜」

 光飛ぶ斬げきが「ヤツ」に向かって一直線に飛んでいき

 そして外れた。

「「「えっ?」」」

「……あれ?」


「えっおま……ちょっ……外した?」

 冬弥が非難の目で見つめる。ゴミを見るかのような目だ。

「うっわ〜最悪だよ。ありえねっつの」

 舞姫さまが呆れる。なぜかコギャル口調で

「もう限界、「ヤツ」の動き止められんのも限界。もう終わりだな、はい死亡フラグ」

 陽気が嘆息する。ニートの如きやる気の無さで。

 みんなその場に座り込み脱力していた。

「あ、その、ごめん。もう一度頑張るから。もう一回頑張ろうぜ。ほら、なあ頼むよ」

「謝るのが先だろ、ったくこれだから低学歴はよお」

「…………。」

「ダッサ、マジダッサ。必死さ加減がマジきもいんですけど〜」

「…………。」

「無駄な努力乙」

「…………。」


 粘り着くような視線が俺に突き刺さる、刺さる、刺さる……



「とんだ茶番だな」


「うあああああああああ」


「うるせえ、いつまで寝ぼけてる」

「……!」

 気がつくと俺はゴリラに平手打ちされて目覚めさせられていた。

 いや違う、ゴリラじゃなくて俺の母さんだ。

 それにしても……あまりにも酷い夢だった。

 あ〜思い出すだけでも苦い思いでいっぱいになる。みんなの非難が、冷たい目線が忘れられない。

「うああああああ、そんなに俺を責めないでくれ〜」

「うるせえ」

 逆の頬にも平手を食らって、俺は永眠した。


    完結


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