その台詞、現実で言うんですか?
定番のテンプレ台詞に対して。サラッと読める掌編小説。
①~④まであり、かなり短め。
――――――――――――
①「君を愛することはない」
――――――――――――
女性向けの恋愛物語を読ませてもらったんだ。妹が婚約前に読んでおけ、と言ってね。
初めこそ理解し難いこともあったが、今は少しだけわかった気がするよ。
それと同時に分からないことも沢山あった。
政略に伴う結婚なのだから愛など初めからない。なのにも関わらず、これらの話に出てくる男達は揃いも揃って「お前を愛することはない」と。
僕からすれば「今は愛はない」ではないのかと思うのだけれど。
大体そう言った話の婚約は急に定められたもので、婚約を飛ばして結婚というものだから時間が無いのだろう。
さらに言えば男の方に好きな相手、恋人がいる。
まあ、これも信じられないかな。何故って、貴族ならば領地のため、領民のために結婚するものであり、恋をするべきなのは未来の結婚相手だろう?
もしもどうしても好きになったのであれば、それに見合うだけの教育を施し周囲に妻として認められるようにすべきだ。
義務も責任も放棄して私欲のみを貫こうとするのは貴族らしくないよね。
第一、男が愛さないと言って女性に押し付けても、そもそも女性とて男の方を好きではないだろうに。
自分は愛されるのが当たり前、みたいな考えをするのって恥ずかしいよね。まあ、僕の知り合いにもいたけれど。見ていて痛々しかったよ。
僕はね、愛は育むものだと思っているんだ。
婚約期間にこれから先を長く共に生きるのにどちらかが我慢しなくても済むよう、お互いのことを知っていきたい。
妥協できないこと、妥協できること、お互いの好き嫌いを理解していきたいんだ。
うん。
だからね、今日はお互いの好きな食べ物について話し合わないかい?
――――――――――――
②「お前が彼女をいじめたことは知っているんだ」
――――――――――――
私の家は男爵家で、裕福ではないから使用人は数人だけ。執事とメイドとフットマンと料理人。これで何とか家を回しているので自然と家族も手伝うようになった。
執事だけは父の従弟がしてくれているけれど、あとは平民出身で、私たちの手伝いに困惑していたが、覚えておいて損は無い。私だって働きに出る可能性が高いから。
実際に学園へ入学する前、私は短期間親の伝手である侯爵家のメイドとして働かせてもらった。
だから知っているのだ。
「お前がララをいじめたことは知っている!水をかけたり本を破ったり、非道なことを!」
私はとても不思議で仕方がなかった。
だからだろうか、思わず「えっ」と声を出してしまった。
その声が大きかったのだろう。周囲の視線が私に向いたし、声を荒らげていた人も私を見ていた。
「あ、あの……一つ確認を……」
「なんだ」
「その、全身びしょ濡れになるほどの水を掛けられたのですか?」
「そうだ。ララ、そうだな?」
「はいっ!あの日はとても寒くて……頭から全部濡れて……セルベール様に助けてもらわなければ……」
「あの、それをしたのがフェデリカ様おひとりで?」
「そうよ!人気のない場所に呼び出して、いきなり正面からよ!」
「あ、それ嘘ですね」
このララと言う子は家事をしたことがないのだろう。糾弾している人達もだ。
私が嘘と断言したことに驚いたのか、ララは顔を真っ赤にしていたけれど。
「水をかけるのに使ったのは何ですか?」
「え?」
「全身を一回で水浸しにする量の水の重さ、分かりますか?」
「な、何よ」
「侯爵令嬢のフェデリカ様は恐らくですが、掃除に使う大きな水桶そのものをご存知ないと思います。使用人が見せるわけがないので。それに、一杯に汲んだ水桶を持ち上げることも出来ないはずです」
心当たりのある人は頷いていたし、分からない人は首を傾げていた。
そりゃそうだ。入浴は大きなたらい桶で、髪の毛をすすぐのは手持ち桶。掃除用の水桶は主人たちの目の入らないところに隠されている。
掃除をする姿を見せることすら許されない。
「仮に持てたとしましょう。その姿を誰にも見られず運ぶなど無理です。私だって本腰を入れて運ばねばならないものを、重いものを持つ生活をしないフェデリカ様が運べるはずもなく、歩くならば休憩を入れがてらになるはずです。だから、あなたのそれは嘘です」
これが一人で、でないなら。例えば使用人がいた、ならわかるけれど、学園で傍に控えるのは侍女。メイドではなく彼女達もまた貴族の出で掃除用の水桶など知らないのではないか。
「な、なんでそう言えるのよ!」
「マルキウス侯爵家で一年ほどメイド見習いをしたからです。マルキウス家の家人に掃除の姿を見せることは許されませんでした。それだけ徹底しているのです。フローレンス侯爵家も同じはずです。ほとんどの方はどのように掃除をしているのかご存知ないのでは?」
確かに、と頷く姿。
家人が部屋にいる時に玄関ホールや廊下などの掃除をし、お部屋から出ている時に素早く掃除をする。とにかくその姿を見せてはならないのが決まりだ。
だから朝早く、絶対に起きていない時間に玄関前の掃除をしたりする。
「木で出来た水桶に水を汲み、それを持ち上げて人に掛ける。それだけでもかなり力を使うことでしょう。全身濡れるほどでしたら余計に。頭からということは上から掛けなければならないのです。どうやって?少なくともその間にあなたは逃げられるはずです。あの……嘘はつかない方がいいですよ? 自分でやらなければ頭から水を丸かぶりなんて難しいはずですから」
本当はやりようがある。二階から水を掛けるとかね。でもララは正面からと言った。だから嘘なのだ。
「男性なら出来るかもしれませんが……そもそも、頭から被れるほどの水をどうやって用意するのですか?井戸の水?汲み上げ方はご存知ですか?フェデリカ様」
「いえ……恥ずかしいけれど知らないの」
「知らないのが当たり前です。それは下女やメイドの仕事ですから。つまり、フェデリカ様には水をかける嫌がらせは出来ません。というか、自分で破ってたでしょ、講義用の本。私見たよ? あのね、人に見られてないと思っても見てるものなんだよ。あなた、男の人とその婚約者しか目に入ってなかったよね? あのさ、やめなよ。恥ずかしいよ。嘘をつくにしてもあまりにも馬鹿馬鹿しいから。そんなことで騙される方もそうだけど、あなた、高位貴族の方のいじめを知らなさすぎだよ。恥ずかしいからやめなよ」
ララが言ういじめは平民とかそれに近い子供がやることで、高位貴族の方がやることではない。
「取り敢えず、あの……皆さんも恥ずかしいですよ? 政略の意味も義務も責任も果たさないで女性一人を共有していて……その……後継者の資格、取り消されていないといいですね?」
大人はそこまで甘くない。自由に思える学園だけど実際は自由ではない。どこにでも監視の目はある。特に、私のような下位貴族達は「目」として使われる。
寄り親に頼まれたら学園内での出来事は報告する。
うーん……まあ、フェデリカ様が無事ならそれでいいかな。マルキウス侯爵家に報告しないとね。何せ、あちらのご令息はフェデリカ様がフリーになるのをお待ちなのだから。
微妙な空気から逃げ出した私はそそくさと教室に戻った。
――――――――――――
③「ならば我が国がもらおう。俺と結婚しよう」
――――――――――――
王子に婚約破棄をされた。
そうしたら隣国の王子がいて、跪いてプロポーズをされた。
きゃあ、とか声が聞こえたけれど……。
「お断りします。国を通してくださいませ」
今の私はすぐに父と話さなければならないのだ。こんなところで止まっている余裕はない。
どいつもこいつも、政略的婚約の意味を知っているのか。
王子の妃になるために育てられた私を他国に連れていこうとするとか、分かっているのか。
本当にどうしようもない男たちばかり。
あの男爵令嬢も凄いわよね。家を没落させるために手を回したりしていたのに、その家に帰っていないのだから。
毒殺しようとしたけれど間に合わなかったし、王子と閨を共にしたから殺せなかったわ。流石に子が出来ていたら私の判断で処分出来ない。
出来るだけ手を回したのに悪運が強いのかなんなのか。王妃様からは途中で手出し不要と言われたからね。まあ分かるわ。側室の子供を王にはしたくないものね。
残念だわ、殿下。あなたが生きていられるように手を回したのに。
それにしても、隣国の王子はなんだったのかしら。嫌になるわ。これで手を取ったら私に非があると判断されると気付かないのね。
まったく……本当にドレスが重いわ。
――――――――――――
④「浮気は男の本能だ」
――――――――――――
「浮気するのは本能って、動物よりも酷いわ。人間には理性や社会的常識があるし、動物にだってルールがあるの。でもあなたはそうじゃない。理性で押し止められないなんて最低だわ。そんな人とはとてもではないけれど結婚は出来ないわね。まあ、人のお下がりが大好きな中古処理人間とお似合いよ」
人の多いカフェで浮気相手と堂々と現れた婚約者が宣った「浮気は男の本能」は実に馬鹿げた発言だと思う。
自分から有責の証拠を白日の下に晒す頭の悪さも同じ。
「普通はね、不貞は隠れて人に見られないようにするの。何かあった時に有責だと思われないように。だけどあなた達って愚かなのね。こんなにも証人が多い中で堂々と、政略結婚をしなければならない婚約者の前に現れるのだもの。まあ、わたくしは良かったわ。どれだけの異性と閨を共にしてきたか分からない女がどんな病気を持っているか分からないもの。あなたにも病気が移っているかもしれないと思うと、恐ろしいわ。当然あなた有責で婚約は破棄よ。わたくし、病気は嫌だもの」
カップに残っていた紅茶を飲み干すと、席を立つ。
絶句している二人だけでなく周りも静かで私の声はよく聞こえるだろう。
「マルクス・ハーヴェイ子爵令息、アンジェリカ・モルディ男爵令嬢。医者に見てもらった方が宜しくてよ? 後、慰謝料はきっちり請求致しますので。それではごきげんよう」
私の侍女が精算の処理をしている間に護衛に守られて外に出る。
さて、どれだけ話が広まるかはカフェの皆様の噂話好きに掛かっているわよ。これ見よがしに家紋の付いた馬車が店前に横付けにされ、私は悠々と乗り込む。
婚約の破棄は女の瑕疵になっていたのはもう随分と前のこと。
それに今回ばかりは私に非があるといえば『理性を手放した動物以下です』と認めたも同然になる。
伯爵家に婿入りの道を捨て、男爵家の娘と体の関係を持った男はどうなるのかしら。取り敢えず、お父様を説き伏せて婚約は必ず破棄してもらうわよ。
定番台詞を書いてて自分の中で消化出来ませんでした。
その結果がこれです。
私としては②でたまに「バケツで水ぶっかけられたのぉ」みたいなものとかを見ると疑問しかなくて。
高貴なお嬢様が水桶をご存知だと思わないし、水汲みも出来ないし、運ぶことも出来ないと思うの。
あと、周りから見られたら絶対に「何をなさっているの?」と声を掛けられると思う。
あと、高貴な方のいじめは絶対にこんなもんではないよね。




