ケイティ
「ケイティって知ってる?」
「なにそれ?」
「マイナーな都市伝説でさ、お風呂で目を閉じて『助けて』って10回連続で考えると、さらわれちゃうってやつ」
「お風呂で考える? 頭の中で? 連続10回?」
「そそそ」
「そのケイティがさらっていくの?」
「いやケイティって誰よ? って話」
「なにそれ?」
「ほんと、なにそれだよねー」
何気ない日常のバカ話。
聞いた直後に忘れているような、どうでもいい話。
友人は都市伝説が大好きで、そういう話を見つけてくるとすぐに私に教えてくる。
メリーさんとか花子さんとか骨格標本とか音楽室の誰それとか、ほんとどうでもいい話ばかりで、けれども、あまりにも楽しそうに話をするものだから、メジャーな都市伝説はだいたい聞いたことがあったりする。
けど覚えているとはいわない。
たとえメジャーといえども、だいたいは即刻忘れ去るので。
だって興味ないし。
今回のも自分でマイナーと言ってるあたり、そういう都市伝説を扱う掲示板サイトに載っていた、聞いたこともない名前も知らない誰かの創作都市伝説を、認知度の低いマイナーな都市伝説と認識して教えてきたのだろう。
メジャーな都市伝説でもパターンが複数あったりしてるので、同じタイプの都市伝説でも微妙に名前が違っていたりエピソードが違っていたりと、面白いと感じる部分はある。
八尺様とアクロバティックサラサラなんかは、名前もエピソードもまるで違うのに、2Pカラーみたいな認識があったりして、明らかに非公式なのに(面白そうだから)それが公式みたいな認知が広がったりして存在が歪められてるのもあったりする。
封印されていた邪神が獲物に徐々に近づいていくみたいなエピソードなのに、設定はショタ好きお姉さんみたいなさ。
テケテケなんかひどいよ。どこに鎌持って空飛ぶ要素があるのさ。
まあ、テケテケほど、その存在が明記されているにも関わらず、まともに定義されてないのも中々ないみたいだけどね。
いやあれはパターンが多すぎるだけか。
友人の話を適当に相づちうちながら流して聞いていると、帰りのホームルームが始まる。
その時にはすでに、どんな都市伝説だったかは名前すら忘却の彼方。
帰宅し、お風呂タイム。
そこでなぜか、今日聞いて忘れ去ったはずの都市伝説を思い出す。
キーワードや人物などの固有名詞すら思い出せない、ざっくりとした概要だけれど。
うーん、たしか、お風呂で、なんだっけか。
実にどうでもいいことだったので、秒で頭からさよなら。
特に気にせず、先にシャワーで頭を洗い落としてからシャンプーをつけて、
助けて
目を閉じた瞬間、不意に、なぜか、その言葉が頭に浮かんだ。
助けて
意識してないのに、勝手に、また。
助けて
止まらない。
ぞくり、と背筋が冷える感覚。
助けて
止まらない。止められない。
急に、背後に、誰かがいて、見下ろしている感覚。
目を閉じているから、後ろなんて見えもしないのに!
助けて、 5combo
助けて、 6Combo
助けて、 7Combo!
助けて、 8Combo!
足すケティ、 9コ……?
足すケイティ、 ……。
ケイティ、ケイティ。
……ケイティって誰?
足すケイティ? ケイティ足すの?
何を足すの? 何にケイティを足すの?
ケイティって誰?
……我に返った。
ケイティってなんだよ。いや誰だよ。
感じていたはずの悪寒は一瞬で消えた。
スンッとして、シャンプー流して体も洗って湯船に浸かって出た。
結局、お風呂から出る頃にはケイティがなんなのかすっかり忘れていた。
よく分からない都市伝説のことも、背後の気配も、なにもかも、すっきり。
「お母さーん、なんかスパゲッティ食べたい」
「そーお? じゃあ明日はスパゲッティにするわね」
「手伝う?」
「そのセリフを明日まで覚えてたら手伝ってちょうだい」
苦笑する母に、忘れないよーと返事をして自室へ。
ベッドに寝転がり、友人にコメする。
『あのさー、今日言ってた都市伝説なんだっけ?』
『あれー? 今日は新作都市伝説なかったはずだけど』
『新作って』
『メモってるのは特にないなあ。あ、新作が嫌なら新発見で』
『なんか今日聞いたような気がするんだけど』
『気のせいじゃない?』
『かな』
『だよ』
『そか。じゃおやすみ』
『気になるなら、近いうちになんか仕入れとくよ』
『いらんいらん』
『だよねー。興味ないのは分かってるけど、いくつかが記憶に残ればそれでいいのさ』
『そっかー。そういうものなん』
『そ。そういうものさ。じゃおやすみ』
……チッ……




