「石女は沈み館で静かに暮らせ」と言われたので、夫と愛人を証拠ごと海に沈めることにしました
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「今夜の嵐で、西棟が崩れるかもしれませんね」
マリエッタの声が、食堂に甘く響いた。
私は銀のスプーンを置き、静かに顔を上げる。窓の外では、予兆のように暗雲が海を覆い始めていた。
——ああ、とうとう来たのね。この日が。
三年間、待っていた。
「あら、心配してくださるの? 珍しいこと」
私——エリアーナ・フォン・ヴァイスベルクは、努めて穏やかな声で返した。
「ええ、だって西棟にお住まいなのでしょう? あの古い棟は、もう何年も修繕されていないと聞きましたわ」
彼女は翠の瞳を潤ませ、ヴィクトルの腕にしなだれかかる。蜂蜜色の巻き毛が、燭台の光を受けて金色に輝いていた。
完璧な演技だった。
——三年見続ければ、さすがに飽きるのだけれど。
「マリエッタの言う通りだ。西棟は危険だ」
夫——いえ、名ばかりの夫であるヴィクトル侯爵が、ワイングラスを傾けながら言った。金髪碧眼の端正な顔に、薄い笑みが浮かんでいる。
王都では『理想の貴族』と称される男。
その実態は、虚栄心と支配欲の塊だと知ったのは、結婚してすぐのことだった。
「今夜は本館の客室を使うといい。使用人に用意させよう」
「まあ、お優しい」
マリエッタが嬉しそうに微笑む。
私は内心で深くため息をついた。
——本当に分かりやすい。
わざわざ『安全な場所』に移動させてから西棟を崩落させれば、私が巻き込まれても『事故』で片付けられる。そして移動を断れば『頑固な妻が忠告を聞かなかった』と言い訳ができる。
どちらに転んでも、彼らに損はない。
——十五年前、先代侯爵夫人を殺した時と同じ手口ね。
「お気遣いありがとうございます。でも、西棟が恋しいの。三年も暮らせば、情が移りますから」
私は穏やかに微笑んで、紅茶に口をつけた。ストレートで、少し冷めている。
ヴィクトルの眉がわずかに動いた。
「情だと? あの朽ちかけた棟に?」
「ええ。あの部屋からは海がよく見えるの。満潮の時に地下から聞こえる潮騒も、嵐の夜に軋む梁の音も——全部、私の友人ですわ」
——正確には、この館の『異常』を教えてくれた教師だけれど。
「変わった趣味だな」
「お褒めの言葉として受け取っておきますわ」
マリエッタの目に、一瞬だけ苛立ちが走る。すぐに消えたけれど、私は見逃さなかった。
——焦っているのね。今夜が決行日だから。
「……勝手にしろ」
ヴィクトルは興味を失ったように視線を逸らした。
私は静かに席を立つ。
「では、お先に失礼いたします。嵐が来る前に、窓の確認をしなければなりませんから」
誰も引き止めない。
当然だ。私は三年前からずっと、この館の『いないもの』だった。
食堂を出て、薄暗い廊下を歩く。
壁に掛けられた燭台の炎が、海風に揺れていた。
——石女、ね。
私は唇の端を小さく上げた。
『君は子を産めぬ石女だ。正妻の座に感謝して、静かに暮らしていればいい』
結婚して半年後、ヴィクトルに言われた言葉だ。それ以来、私は西棟の朽ちかけた部屋に追いやられ、使用人からも蔑まれる日々を送ってきた。
しかし、その侮辱が嘘だと知ったのは、半年前のことだ。
マリエッタが使用人に漏らした言葉を、下働きの少女ネルがこっそり報告してくれた。
『ヴィクトル様は可哀想なお方。あの病のせいで跡継ぎを望めないなんて。だからこそ私が支えて差し上げなくては』
子を設けられないのは、私ではなく彼の方だった。
そして、その事実を隠すために私に『石女』の汚名を着せた。
——笑えるわね。自分の弱さを認められないから、他人に押し付ける。王都で『理想の貴族』と呼ばれる男の正体が、これ。
でも、怒りは感じなかった。もうとっくに、この男への期待など捨てている。
私が怒りを覚えたのは、別の真実を知った時だ。
先代侯爵夫人——ヴィクトルの母の死の真相。
『事故』とされた十五年前の嵐の夜。崩落した西棟の瓦礫の下から、彼女の遺体が見つかった。
——同じ手口。同じ棟。同じ嵐の夜。
偶然だと思うほど、私は愚かではない。
「エリアーナ様」
西棟へ向かう階段の踊り場で、小さな声に呼び止められた。
赤毛のそばかす顔。ネルだ。
「どうしたの? こんな時間に」
「あの、これを……」
彼女は周囲を気にしながら、懐から一通の封筒を取り出した。
「東棟の客室を掃除していたら、暖炉の裏に落ちていて。マリエッタ様宛の手紙みたいなんですけど、私、字が読めなくて……」
私は封筒を受け取り、中身を確認する。
——これは。
心臓が一度だけ、強く跳ねた。
『次の大嵐の夜、あの女を西棟ごと海に沈めましょう。お義母様の時と同じように』
マリエッタからヴィクトルへの手紙。
殺人計画書だ。
「ネル」
「はい」
「あなたは今夜、館を離れなさい。村の実家に帰りなさい」
「え……でも、お仕事が……」
「これは命令よ」
私は彼女の肩に手を置いた。小さく震えている。この子は聡い。何かが起きると感じているのだろう。
「明日の朝、全てが終わったら迎えに行くわ。だから今夜は、ここにいてはだめ」
ネルは大きな目で私を見上げた。それから、こくりと頷いた。
「……分かりました。エリアーナ様も、どうかご無事で」
「ありがとう。あなたのおかげよ、全部」
少女の足音が遠ざかるのを確認してから、私は再び歩き出した。
手紙を懐にしまい、西棟の自室へ向かう。
——証拠が揃った。
三年間の準備が、ようやく実を結ぶ。
部屋に入ると、窓際に人影があった。
「遅かったな」
低い声。日に焼けた肌と、黒髪を無造作に束ねた男——アレン・ホークウッドが振り返った。
「食事を早く切り上げるわけにはいかなかったの。怪しまれるでしょう」
「……すまない」
「謝らなくていいわ。それより、準備は?」
「終わった。東棟の地下、構造弱化ポイントの最終確認も完了した。嵐のピークは真夜中頃。その時間に合わせて、隠し水路の栓を抜けば——」
「東棟が先に崩れる」
私は窓辺に歩み寄り、暗くなりゆく海を見つめた。
「ヴィクトルが隠した不正蓄財の証拠。地下金庫の書類。全部、海の藻屑になるわ」
「……本当にいいのか」
アレンの声が、わずかに硬くなった。
「何が?」
「お前も危険だ。計画通りに東棟が崩れても、この館全体が揺れる。西棟も影響を受ける可能性がある」
「分かっているわ」
「なら——」
「逃げないわよ」
私は振り返り、濃紺の瞳を見据えた。
「三年間、私はこの館で『いないもの』として扱われてきた。使用人に蔑まれ、夫に無視され、愛人に嘲笑われた。でも、逃げなかった」
「……」
「逃げても追われるから。伯爵家の体面を汚したと言われて、実家にも居場所はない。だったら——」
「この館ごと、問題を解決した方が効率的、か」
私は少し目を見開いた。
「……覚えていたの? 前に話したこと」
「お前の言葉は全部覚えている」
アレンは視線を逸らした。仕事で荒れた大きな手が、無意識に窓枠を握りしめている。
——この人は、本当に不器用だ。
嵐の夜に出会って以来、彼は私の味方であり続けた。
館の修復を依頼された建築技師。しかし彼は、この館が意図的に『沈むよう』設計されていることに気づいた。
『この館は呪われているのではない。誰かが沈めようとしているのです』
あの言葉が、全ての始まりだった。
私が独学で学んだ建築学の知識を打ち明けた時、彼は嘲笑うのではなく、対等な議論の相手として扱ってくれた。
初めてだった。そんな存在は。
「アレン」
「何だ」
「今夜、私は必ず生き残るわ。そして、あなたも」
彼が振り返る。私は懐から一枚の紙を取り出した。
「これは?」
「灯台の設計図。この館を解体した跡地に建てたいの」
「……灯台?」
「二度と誰も沈まないように。海を照らす光があれば、嵐の夜でも船は岸を見失わない。この館で命を落とした人たちへの、手向けよ」
アレンは黙って設計図を見つめた。そして——
「耐潮性が弱い。基礎構造を見直す必要がある」
「やっぱり? 私もそう思っていたの。潮位変動を考慮すると、支柱の配置を——」
「ああ、ここを三角構造に変えれば強度が増す。それと、光源の高さは海面から最低でも——」
「十五メートルは必要ね。でも、それだと建材の重量が……」
窓の外で、風が唸り始めた。嵐が近づいている。
私たちは設計図を広げ、細部の議論に没頭した。
——おかしな話だ。今夜、命を賭けた戦いが待っているのに。私の心は不思議と凪いでいる。
それは多分、隣にこの人がいるからだ。
私の知識を認め、私の計画を信じ、私の隣で未来を語ってくれる人。
「アレン」
「何だ」
「今夜が終わったら、一緒にこの灯台を建てて」
彼の手が止まった。濃紺の瞳が、私を見つめる。
「……ああ」
たった一言。でも、その声には揺るぎない重さがあった。
外で稲光が走る。遠雷が、館全体を揺らした。
嵐が、来る。
真夜中。
館の窓ガラスが、波濤の轟音で震えていた。
私は西棟の自室で、時計の針が十二を指すのを待った。手には、司法官オーギュストへ送った密書の写しがある。
『大嵐の夜、沈み館の東棟が崩落する。その地下に、侯爵の不正蓄財の証拠が眠っている。先代夫人殺害の真相と共に』
彼が動いてくれることを祈るしかなかった。
いや、祈る必要はない。私は証拠と論理を揃えた。あとは、彼の正義感に賭けるだけだ。
——さあ、始めましょう。
私は部屋を出た。
本館の大広間。
嵐の夜だというのに、シャンデリアには煌々と火が灯っていた。
ヴィクトルとマリエッタが、暖炉の前でワインを傾けている。
私の姿を見て、二人の表情が凍りついた。
「……なぜここに」
ヴィクトルが立ち上がる。
「西棟にいろと言ったはずだ」
「あら、心配してくださったの? 珍しいこと」
私は食堂と同じ言葉を返した。マリエッタの顔が、わずかに歪む。
「この嵐だ。館のどこにいても危険だろう。ここにいた方が安全だと思ってね」
——嘘ね。
彼らは私を西棟に閉じ込めて、崩落に巻き込むつもりだった。私が自らここに現れたことで、計画に狂いが生じている。
「……そうか。まあ、好きにしろ」
ヴィクトルは平静を装ったが、目が泳いでいた。
マリエッタが彼の腕を引く。
「ヴィクトル様、少しお話が」
「ああ」
二人は暖炉の陰に移動し、ひそひそと言葉を交わし始めた。私には聞こえないと思っているのだろう。
——愚かね。
この広間の音響設計は、私の方がよく知っている。暖炉の煙突が反響板になって、声が反対側に届くことを。
「計画を早める?」
「仕方ない。あの女が本館にいては——」
「東棟の客室に誘導して、そこで——」
「いや、西棟の崩落に巻き込む方が自然だ。無理やりでも連れ戻せ」
私は聞こえないふりをして、窓辺に歩み寄った。
稲光が海面を照らす。黒い波が、断崖に打ち付けていた。
——もうすぐだ。
「エリアーナ」
ヴィクトルが近づいてくる。その顔には、久しぶりに見る『社交的な微笑』が浮かんでいた。
「やはり西棟に戻った方がいい。私が送ろう」
「お気遣いなく」
「いや、夫として当然のことだ」
——夫、ね。三年間、一度も夫らしいことをしなかった男が。
「なあ、エリアーナ」
「何でしょう」
「お前は、私を恨んでいるか」
意外な問いだった。私は足を止めずに答える。
「恨む? 何をですか」
「三年間、お前を冷遇した。愛人を傍に置いた。石女と呼んだ」
「ああ、それ」
私は振り返らなかった。
「恨んでいませんわ」
「そうか」
「だって、あなたを恨むには、まずあなたに期待しなければならない。期待したことがないのに、どうやって恨めばいいの?」
空気が凍った。
ヴィクトルの足音が止まる。
「……何だと」
「政略結婚で嫁いだ時から、あなたに何かを求めたことはないわ。愛も、敬意も、誠実さも。最初から持っていない人に、それを望んでも仕方がないでしょう?」
「お前——」
「だから恨んでいないの。失望もしていない。あなたは最初から、私の期待通りの男だった」
振り返る。
青ざめたヴィクトルの顔が、稲光に照らされていた。
「つまり——期待通りの、愚か者だったということですわ」
「貴様ッ——!」
彼の手が伸びる。私の腕を掴もうとして——
轟音。
館全体が、大きく揺れた。
「何だ——!?」
窓の外を見る。東棟の方角から、土煙が上がっていた。
「そんな——なぜ東棟が——」
「言ったでしょう? あなたは愚かだと」
私は静かに微笑んだ。
「この館が沈むのは西棟ではありません。あなたが隠した地下金庫のある東棟です——不正蓄財の証拠ごと」
「馬鹿な——設計図では——」
「設計図は私が差し替えたの。三年間、あなたたちが私を『無能な石女』と見下してくれたおかげで、自由に館を調査できたわ」
「貴様——貴様がッ——!」
ヴィクトルの顔が、怒りと恐怖で歪む。
その時。
「侯爵閣下、マリエッタ・シャルロワ殿、お二人に話がある」
廊下の向こうから、複数の足音が近づいてきた。
先頭を歩くのは、白髪交じりの厳格な男。王都司法官、オーギュスト・ブランシャール。
「司法官——なぜここに——」
「伯爵令嬢から密書を受け取った」
彼の冷徹な眼差しが、ヴィクトルを射抜く。
「先代侯爵夫人の死の真相、及び正妻殺害計画について、証言と証拠が揃っている。同行願おう」
「待て——これは何かの間違いだ——」
「間違い?」
私は懐から、一通の手紙を取り出した。
「『次の大嵐の夜、あの女を西棟ごと海に沈めましょう。お義母様の時と同じように』——マリエッタからあなたへの手紙よ、ヴィクトル」
「そんな——それは——」
「待って、私は何も——!」
駆けつけたマリエッタが、顔を真っ青にして叫ぶ。
「ヴィクトル様、違うわ、私はあなたに言われて——!」
「黙れ! お前が——お前がそそのかしたんだろう!」
「嘘よ! 全部あなたが——!」
——醜い責任のなすり合い。
でも、もう遅い。
「お二人とも、王都で詳しく話を聞かせていただく。抵抗は無意味だ」
司法官の部下たちが、二人を取り囲んだ。
マリエッタが、私を睨みつける。
「あなた——! あなたが全部仕組んだのね!?」
「仕組んだ? 違うわ」
私は静かに首を振った。
「私はただ、真実を明らかにしただけ。仕組んだのはあなたたちでしょう? 先代夫人を殺し、私を殺そうとした。それとも、忘れたの?」
「この——この出来損ないが——!」
「出来損ない、ね」
私は微笑んだ。
「それがあなたたちの敗因よ。私を『取るに足らない女』と見下したから、警戒を怠った。三年間、好きなように動かせていただいたわ」
マリエッタの顔が、絶望に歪む。
「ヴィクトル様——」
「触るな! お前のせいだ——お前が余計なことをしなければ——!」
「私のせい——!? あなたが無能だから——!」
「黙れッ!」
司法官が、静かに手を上げた。
「連行しろ」
部下たちが、暴れる二人を引きずっていく。
「——これほど見事な逆転劇は、法廷でも見たことがない」
オーギュスト司法官が、私の隣に立った。厳格な顔に、わずかな笑みが浮かんでいる。
「証拠の精密さと論理構成に驚かされた。お見事だ、伯爵令嬢」
「お褒めにあずかり恐縮です」
「エリアーナ・フォン・ヴァイスベルク。司法の道に、興味はないか」
「……考えておきます」
私は窓の外を見た。
東棟の崩落した跡に、夜明けの光が差し始めていた。
「でも今は、やりたいことがあるの」
「ほう。何だ」
「灯台を、建てるの」
嵐が去った朝。
私は崩れた東棟の跡地に立っていた。
海はまだ荒れていたが、雲の切れ間から朝日が差し込んでいる。断崖の下で、波が穏やかに引いていく。
「エリアーナ様!」
振り返ると、赤毛の少女が駆けてきた。ネルだ。
「無事だったんですね……! よかった……本当に、よかった……!」
涙ぐむ彼女の頭を、私はそっと撫でた。
「あなたのおかげよ、ネル。あなたが見つけてくれた手紙が、決定的な証拠になった」
「私、字も読めないのに……」
「字が読めなくても、目と耳はある。あなたは誰よりも、この館で起きていることを見ていた」
ネルが顔を上げる。
「私、もっと勉強したいです。読み書きも、算術も、全部」
「いいわ。私が教えてあげる」
「本当ですか!?」
「ただし、条件があるの」
私は跡地の向こうを指さした。
「あそこに灯台を建てる。その灯台守の見習いになってくれない?」
「灯台守……?」
「嵐の夜でも、海を照らす光を守る仕事よ。二度と誰もこの海に沈まないように」
ネルの瞳が、きらりと輝いた。
「……はい。やります。やらせてください」
「ありがとう」
私は彼女の肩に手を置き、海を見た。
朝日が、波間を金色に染めている。
「エリアーナ」
後ろから、低い声がした。
アレンが、設計図を手に立っていた。
「耐潮性の問題、解決した。三角構造の支柱配置を見てくれ」
「見せて」
私は彼の隣に歩み寄り、設計図を覗き込んだ。
「ここの角度、もう少し鋭くした方がいいんじゃない? 潮流の圧力を分散できる」
「そう思うか? だが、そうすると建材の重量が——」
「素材を変えればいいわ。この地域で採れる石は塩害に弱いから、グレイウォーク山脈の花崗岩を使いましょう」
「……強度と耐久性が上がるな」
「でしょう? コストは上がるけど、百年持つ灯台になる」
ネルが、きょとんとした顔で私たちを見上げていた。
「……お二人、仲がいいんですね」
アレンの耳が、わずかに赤くなった。
「仲がいい、というか——」
「対等なの」
私は微笑んだ。
「私の知識を認めて、私の言葉に耳を傾けてくれる人。そういう人と話すのが、私は好きなの」
アレンは視線を逸らした。でも、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。
「……俺もだ」
海風が、私たちの間を吹き抜けていく。
「沈み館」は終わった。
でも、ここから始まる物語がある。
海を照らす灯台。二度と誰も沈まない光。私とアレンが、共に設計し、共に建てる未来。
——三年間、『いないもの』として扱われた。
——でも、私は沈まなかった。
「さあ、始めましょう」
私は空を見上げた。
嵐のあとの青空が、どこまでも広がっていた。




