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「石女は沈み館で静かに暮らせ」と言われたので、夫と愛人を証拠ごと海に沈めることにしました

作者: uta
掲載日:2026/03/28

【お知らせ】

この作品は生成aiを用いて執筆を行なっています

あらかじめご了承の上、お楽しみください

「今夜の嵐で、西棟が崩れるかもしれませんね」


マリエッタの声が、食堂に甘く響いた。


私は銀のスプーンを置き、静かに顔を上げる。窓の外では、予兆のように暗雲が海を覆い始めていた。


——ああ、とうとう来たのね。この日が。


三年間、待っていた。


「あら、心配してくださるの? 珍しいこと」


私——エリアーナ・フォン・ヴァイスベルクは、努めて穏やかな声で返した。


「ええ、だって西棟にお住まいなのでしょう? あの古い棟は、もう何年も修繕されていないと聞きましたわ」


彼女は翠の瞳を潤ませ、ヴィクトルの腕にしなだれかかる。蜂蜜色の巻き毛が、燭台の光を受けて金色に輝いていた。


完璧な演技だった。


——三年見続ければ、さすがに飽きるのだけれど。


「マリエッタの言う通りだ。西棟は危険だ」


夫——いえ、名ばかりの夫であるヴィクトル侯爵が、ワイングラスを傾けながら言った。金髪碧眼の端正な顔に、薄い笑みが浮かんでいる。


王都では『理想の貴族』と称される男。


その実態は、虚栄心と支配欲の塊だと知ったのは、結婚してすぐのことだった。


「今夜は本館の客室を使うといい。使用人に用意させよう」


「まあ、お優しい」


マリエッタが嬉しそうに微笑む。


私は内心で深くため息をついた。


——本当に分かりやすい。


わざわざ『安全な場所』に移動させてから西棟を崩落させれば、私が巻き込まれても『事故』で片付けられる。そして移動を断れば『頑固な妻が忠告を聞かなかった』と言い訳ができる。


どちらに転んでも、彼らに損はない。


——十五年前、先代侯爵夫人を殺した時と同じ手口ね。


「お気遣いありがとうございます。でも、西棟が恋しいの。三年も暮らせば、情が移りますから」


私は穏やかに微笑んで、紅茶に口をつけた。ストレートで、少し冷めている。


ヴィクトルの眉がわずかに動いた。


「情だと? あの朽ちかけた棟に?」


「ええ。あの部屋からは海がよく見えるの。満潮の時に地下から聞こえる潮騒も、嵐の夜に軋む梁の音も——全部、私の友人ですわ」


——正確には、この館の『異常』を教えてくれた教師だけれど。


「変わった趣味だな」


「お褒めの言葉として受け取っておきますわ」


マリエッタの目に、一瞬だけ苛立ちが走る。すぐに消えたけれど、私は見逃さなかった。


——焦っているのね。今夜が決行日だから。


「……勝手にしろ」


ヴィクトルは興味を失ったように視線を逸らした。


私は静かに席を立つ。


「では、お先に失礼いたします。嵐が来る前に、窓の確認をしなければなりませんから」


誰も引き止めない。


当然だ。私は三年前からずっと、この館の『いないもの』だった。




食堂を出て、薄暗い廊下を歩く。


壁に掛けられた燭台の炎が、海風に揺れていた。


——石女、ね。


私は唇の端を小さく上げた。


『君は子を産めぬ石女だ。正妻の座に感謝して、静かに暮らしていればいい』


結婚して半年後、ヴィクトルに言われた言葉だ。それ以来、私は西棟の朽ちかけた部屋に追いやられ、使用人からも蔑まれる日々を送ってきた。


しかし、その侮辱が嘘だと知ったのは、半年前のことだ。


マリエッタが使用人に漏らした言葉を、下働きの少女ネルがこっそり報告してくれた。


『ヴィクトル様は可哀想なお方。あの病のせいで跡継ぎを望めないなんて。だからこそ私が支えて差し上げなくては』


子を設けられないのは、私ではなく彼の方だった。


そして、その事実を隠すために私に『石女』の汚名を着せた。


——笑えるわね。自分の弱さを認められないから、他人に押し付ける。王都で『理想の貴族』と呼ばれる男の正体が、これ。


でも、怒りは感じなかった。もうとっくに、この男への期待など捨てている。


私が怒りを覚えたのは、別の真実を知った時だ。


先代侯爵夫人——ヴィクトルの母の死の真相。


『事故』とされた十五年前の嵐の夜。崩落した西棟の瓦礫の下から、彼女の遺体が見つかった。


——同じ手口。同じ棟。同じ嵐の夜。


偶然だと思うほど、私は愚かではない。


「エリアーナ様」


西棟へ向かう階段の踊り場で、小さな声に呼び止められた。


赤毛のそばかす顔。ネルだ。


「どうしたの? こんな時間に」


「あの、これを……」


彼女は周囲を気にしながら、懐から一通の封筒を取り出した。


「東棟の客室を掃除していたら、暖炉の裏に落ちていて。マリエッタ様宛の手紙みたいなんですけど、私、字が読めなくて……」


私は封筒を受け取り、中身を確認する。


——これは。


心臓が一度だけ、強く跳ねた。


『次の大嵐の夜、あの女を西棟ごと海に沈めましょう。お義母様の時と同じように』


マリエッタからヴィクトルへの手紙。


殺人計画書だ。


「ネル」


「はい」


「あなたは今夜、館を離れなさい。村の実家に帰りなさい」


「え……でも、お仕事が……」


「これは命令よ」


私は彼女の肩に手を置いた。小さく震えている。この子は聡い。何かが起きると感じているのだろう。


「明日の朝、全てが終わったら迎えに行くわ。だから今夜は、ここにいてはだめ」


ネルは大きな目で私を見上げた。それから、こくりと頷いた。


「……分かりました。エリアーナ様も、どうかご無事で」


「ありがとう。あなたのおかげよ、全部」


少女の足音が遠ざかるのを確認してから、私は再び歩き出した。


手紙を懐にしまい、西棟の自室へ向かう。


——証拠が揃った。


三年間の準備が、ようやく実を結ぶ。




部屋に入ると、窓際に人影があった。


「遅かったな」


低い声。日に焼けた肌と、黒髪を無造作に束ねた男——アレン・ホークウッドが振り返った。


「食事を早く切り上げるわけにはいかなかったの。怪しまれるでしょう」


「……すまない」


「謝らなくていいわ。それより、準備は?」


「終わった。東棟の地下、構造弱化ポイントの最終確認も完了した。嵐のピークは真夜中頃。その時間に合わせて、隠し水路の栓を抜けば——」


「東棟が先に崩れる」


私は窓辺に歩み寄り、暗くなりゆく海を見つめた。


「ヴィクトルが隠した不正蓄財の証拠。地下金庫の書類。全部、海の藻屑になるわ」


「……本当にいいのか」


アレンの声が、わずかに硬くなった。


「何が?」


「お前も危険だ。計画通りに東棟が崩れても、この館全体が揺れる。西棟も影響を受ける可能性がある」


「分かっているわ」


「なら——」


「逃げないわよ」


私は振り返り、濃紺の瞳を見据えた。


「三年間、私はこの館で『いないもの』として扱われてきた。使用人に蔑まれ、夫に無視され、愛人に嘲笑われた。でも、逃げなかった」


「……」


「逃げても追われるから。伯爵家の体面を汚したと言われて、実家にも居場所はない。だったら——」


「この館ごと、問題を解決した方が効率的、か」


私は少し目を見開いた。


「……覚えていたの? 前に話したこと」


「お前の言葉は全部覚えている」


アレンは視線を逸らした。仕事で荒れた大きな手が、無意識に窓枠を握りしめている。


——この人は、本当に不器用だ。


嵐の夜に出会って以来、彼は私の味方であり続けた。


館の修復を依頼された建築技師。しかし彼は、この館が意図的に『沈むよう』設計されていることに気づいた。


『この館は呪われているのではない。誰かが沈めようとしているのです』


あの言葉が、全ての始まりだった。


私が独学で学んだ建築学の知識を打ち明けた時、彼は嘲笑うのではなく、対等な議論の相手として扱ってくれた。


初めてだった。そんな存在は。


「アレン」


「何だ」


「今夜、私は必ず生き残るわ。そして、あなたも」


彼が振り返る。私は懐から一枚の紙を取り出した。


「これは?」


「灯台の設計図。この館を解体した跡地に建てたいの」


「……灯台?」


「二度と誰も沈まないように。海を照らす光があれば、嵐の夜でも船は岸を見失わない。この館で命を落とした人たちへの、手向けよ」


アレンは黙って設計図を見つめた。そして——


「耐潮性が弱い。基礎構造を見直す必要がある」


「やっぱり? 私もそう思っていたの。潮位変動を考慮すると、支柱の配置を——」


「ああ、ここを三角構造に変えれば強度が増す。それと、光源の高さは海面から最低でも——」


「十五メートルは必要ね。でも、それだと建材の重量が……」


窓の外で、風が唸り始めた。嵐が近づいている。


私たちは設計図を広げ、細部の議論に没頭した。


——おかしな話だ。今夜、命を賭けた戦いが待っているのに。私の心は不思議と凪いでいる。


それは多分、隣にこの人がいるからだ。


私の知識を認め、私の計画を信じ、私の隣で未来を語ってくれる人。


「アレン」


「何だ」


「今夜が終わったら、一緒にこの灯台を建てて」


彼の手が止まった。濃紺の瞳が、私を見つめる。


「……ああ」


たった一言。でも、その声には揺るぎない重さがあった。


外で稲光が走る。遠雷が、館全体を揺らした。


嵐が、来る。




真夜中。


館の窓ガラスが、波濤の轟音で震えていた。


私は西棟の自室で、時計の針が十二を指すのを待った。手には、司法官オーギュストへ送った密書の写しがある。


『大嵐の夜、沈み館の東棟が崩落する。その地下に、侯爵の不正蓄財の証拠が眠っている。先代夫人殺害の真相と共に』


彼が動いてくれることを祈るしかなかった。


いや、祈る必要はない。私は証拠と論理を揃えた。あとは、彼の正義感に賭けるだけだ。


——さあ、始めましょう。


私は部屋を出た。




本館の大広間。


嵐の夜だというのに、シャンデリアには煌々と火が灯っていた。


ヴィクトルとマリエッタが、暖炉の前でワインを傾けている。


私の姿を見て、二人の表情が凍りついた。


「……なぜここに」


ヴィクトルが立ち上がる。


「西棟にいろと言ったはずだ」


「あら、心配してくださったの? 珍しいこと」


私は食堂と同じ言葉を返した。マリエッタの顔が、わずかに歪む。


「この嵐だ。館のどこにいても危険だろう。ここにいた方が安全だと思ってね」


——嘘ね。


彼らは私を西棟に閉じ込めて、崩落に巻き込むつもりだった。私が自らここに現れたことで、計画に狂いが生じている。


「……そうか。まあ、好きにしろ」


ヴィクトルは平静を装ったが、目が泳いでいた。


マリエッタが彼の腕を引く。


「ヴィクトル様、少しお話が」


「ああ」


二人は暖炉の陰に移動し、ひそひそと言葉を交わし始めた。私には聞こえないと思っているのだろう。


——愚かね。


この広間の音響設計は、私の方がよく知っている。暖炉の煙突が反響板になって、声が反対側に届くことを。


「計画を早める?」

「仕方ない。あの女が本館にいては——」

「東棟の客室に誘導して、そこで——」

「いや、西棟の崩落に巻き込む方が自然だ。無理やりでも連れ戻せ」


私は聞こえないふりをして、窓辺に歩み寄った。


稲光が海面を照らす。黒い波が、断崖に打ち付けていた。


——もうすぐだ。


「エリアーナ」


ヴィクトルが近づいてくる。その顔には、久しぶりに見る『社交的な微笑』が浮かんでいた。


「やはり西棟に戻った方がいい。私が送ろう」


「お気遣いなく」


「いや、夫として当然のことだ」


——夫、ね。三年間、一度も夫らしいことをしなかった男が。


「なあ、エリアーナ」


「何でしょう」


「お前は、私を恨んでいるか」


意外な問いだった。私は足を止めずに答える。


「恨む? 何をですか」


「三年間、お前を冷遇した。愛人を傍に置いた。石女と呼んだ」


「ああ、それ」


私は振り返らなかった。


「恨んでいませんわ」


「そうか」


「だって、あなたを恨むには、まずあなたに期待しなければならない。期待したことがないのに、どうやって恨めばいいの?」


空気が凍った。


ヴィクトルの足音が止まる。


「……何だと」


「政略結婚で嫁いだ時から、あなたに何かを求めたことはないわ。愛も、敬意も、誠実さも。最初から持っていない人に、それを望んでも仕方がないでしょう?」


「お前——」


「だから恨んでいないの。失望もしていない。あなたは最初から、私の期待通りの男だった」


振り返る。


青ざめたヴィクトルの顔が、稲光に照らされていた。


「つまり——期待通りの、愚か者だったということですわ」


「貴様ッ——!」


彼の手が伸びる。私の腕を掴もうとして——


轟音。


館全体が、大きく揺れた。


「何だ——!?」


窓の外を見る。東棟の方角から、土煙が上がっていた。


「そんな——なぜ東棟が——」


「言ったでしょう? あなたは愚かだと」


私は静かに微笑んだ。


「この館が沈むのは西棟ではありません。あなたが隠した地下金庫のある東棟です——不正蓄財の証拠ごと」


「馬鹿な——設計図では——」


「設計図は私が差し替えたの。三年間、あなたたちが私を『無能な石女』と見下してくれたおかげで、自由に館を調査できたわ」


「貴様——貴様がッ——!」


ヴィクトルの顔が、怒りと恐怖で歪む。


その時。


「侯爵閣下、マリエッタ・シャルロワ殿、お二人に話がある」


廊下の向こうから、複数の足音が近づいてきた。


先頭を歩くのは、白髪交じりの厳格な男。王都司法官、オーギュスト・ブランシャール。


「司法官——なぜここに——」


「伯爵令嬢から密書を受け取った」


彼の冷徹な眼差しが、ヴィクトルを射抜く。


「先代侯爵夫人の死の真相、及び正妻殺害計画について、証言と証拠が揃っている。同行願おう」


「待て——これは何かの間違いだ——」


「間違い?」


私は懐から、一通の手紙を取り出した。


「『次の大嵐の夜、あの女を西棟ごと海に沈めましょう。お義母様の時と同じように』——マリエッタからあなたへの手紙よ、ヴィクトル」


「そんな——それは——」


「待って、私は何も——!」


駆けつけたマリエッタが、顔を真っ青にして叫ぶ。


「ヴィクトル様、違うわ、私はあなたに言われて——!」


「黙れ! お前が——お前がそそのかしたんだろう!」


「嘘よ! 全部あなたが——!」


——醜い責任のなすり合い。


でも、もう遅い。


「お二人とも、王都で詳しく話を聞かせていただく。抵抗は無意味だ」


司法官の部下たちが、二人を取り囲んだ。


マリエッタが、私を睨みつける。


「あなた——! あなたが全部仕組んだのね!?」


「仕組んだ? 違うわ」


私は静かに首を振った。


「私はただ、真実を明らかにしただけ。仕組んだのはあなたたちでしょう? 先代夫人を殺し、私を殺そうとした。それとも、忘れたの?」


「この——この出来損ないが——!」


「出来損ない、ね」


私は微笑んだ。


「それがあなたたちの敗因よ。私を『取るに足らない女』と見下したから、警戒を怠った。三年間、好きなように動かせていただいたわ」


マリエッタの顔が、絶望に歪む。


「ヴィクトル様——」


「触るな! お前のせいだ——お前が余計なことをしなければ——!」


「私のせい——!? あなたが無能だから——!」


「黙れッ!」


司法官が、静かに手を上げた。


「連行しろ」


部下たちが、暴れる二人を引きずっていく。


「——これほど見事な逆転劇は、法廷でも見たことがない」


オーギュスト司法官が、私の隣に立った。厳格な顔に、わずかな笑みが浮かんでいる。


「証拠の精密さと論理構成に驚かされた。お見事だ、伯爵令嬢」


「お褒めにあずかり恐縮です」


「エリアーナ・フォン・ヴァイスベルク。司法の道に、興味はないか」


「……考えておきます」


私は窓の外を見た。


東棟の崩落した跡に、夜明けの光が差し始めていた。


「でも今は、やりたいことがあるの」


「ほう。何だ」


「灯台を、建てるの」




嵐が去った朝。


私は崩れた東棟の跡地に立っていた。


海はまだ荒れていたが、雲の切れ間から朝日が差し込んでいる。断崖の下で、波が穏やかに引いていく。


「エリアーナ様!」


振り返ると、赤毛の少女が駆けてきた。ネルだ。


「無事だったんですね……! よかった……本当に、よかった……!」


涙ぐむ彼女の頭を、私はそっと撫でた。


「あなたのおかげよ、ネル。あなたが見つけてくれた手紙が、決定的な証拠になった」


「私、字も読めないのに……」


「字が読めなくても、目と耳はある。あなたは誰よりも、この館で起きていることを見ていた」


ネルが顔を上げる。


「私、もっと勉強したいです。読み書きも、算術も、全部」


「いいわ。私が教えてあげる」


「本当ですか!?」


「ただし、条件があるの」


私は跡地の向こうを指さした。


「あそこに灯台を建てる。その灯台守の見習いになってくれない?」


「灯台守……?」


「嵐の夜でも、海を照らす光を守る仕事よ。二度と誰もこの海に沈まないように」


ネルの瞳が、きらりと輝いた。


「……はい。やります。やらせてください」


「ありがとう」


私は彼女の肩に手を置き、海を見た。


朝日が、波間を金色に染めている。


「エリアーナ」


後ろから、低い声がした。


アレンが、設計図を手に立っていた。


「耐潮性の問題、解決した。三角構造の支柱配置を見てくれ」


「見せて」


私は彼の隣に歩み寄り、設計図を覗き込んだ。


「ここの角度、もう少し鋭くした方がいいんじゃない? 潮流の圧力を分散できる」


「そう思うか? だが、そうすると建材の重量が——」


「素材を変えればいいわ。この地域で採れる石は塩害に弱いから、グレイウォーク山脈の花崗岩を使いましょう」


「……強度と耐久性が上がるな」


「でしょう? コストは上がるけど、百年持つ灯台になる」


ネルが、きょとんとした顔で私たちを見上げていた。


「……お二人、仲がいいんですね」


アレンの耳が、わずかに赤くなった。


「仲がいい、というか——」


「対等なの」


私は微笑んだ。


「私の知識を認めて、私の言葉に耳を傾けてくれる人。そういう人と話すのが、私は好きなの」


アレンは視線を逸らした。でも、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。


「……俺もだ」


海風が、私たちの間を吹き抜けていく。


「沈み館」は終わった。


でも、ここから始まる物語がある。


海を照らす灯台。二度と誰も沈まない光。私とアレンが、共に設計し、共に建てる未来。


——三年間、『いないもの』として扱われた。


——でも、私は沈まなかった。


「さあ、始めましょう」


私は空を見上げた。


嵐のあとの青空が、どこまでも広がっていた。

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