第九話 実は仲良し?三人組
あれから様子を見てたがやはり奴はA組の教室に訪れていた。まぁ廊下から眺める程度の偵察レベルだったけど。
速攻帰宅して直ぐにマル秘ノートと自らの記憶を再確認したが、やっぱり紫髪の主要キャラなんていなかった。無理矢理やらされてたギャルゲーだから関心がなかったのは事実。でも全く記憶に残ってないのも不自然だろう。……俺と同じモブなのか。それとも。
「クソ、マジで分からん」
これまでの発言からして黒津や赤嶺に興味を持っているのは間違いない。問題はどんな理由で彼らに拘っているのかである。単純なファンならまぁいいかもしれないが、仮に『星君』を知っているファンなのだとすればかなり厄介になる。
原作ファンで物語を近くで見たいだけなら許す。けど仮に主人公やヒロイン狙い、ひいては攻略が目的だったなら大問題である。
「……でも女だよな。あのパッとしない主人公を攻略したいと思うか?」
これが乙女ゲーム転生者の女ならまだ理解出来る。主人公に代わってイケメン達とお近付きになろうと躍起になるパターンだ。ギャルゲーでも同様だろう……男も女も考えることは同じだな。
でもギャルゲー世界に転生した女だと話は変わる。俺の上司みたいにギャルゲー大好きな女性も世の中にはいる。でもギャルゲーの主人公って平凡な設定が多いんだろ? そんな男を攻略したいと思うプレイヤーが果たしているのだろうか。
「⁉︎ まさか、ヒロイン狙い……」
あり得なくはない。三十路で未婚のギャルゲー大好きプレイヤーの課長はよく言っていた。桜ちゃんが可愛い、私の王子様、向日葵最高と……。もしかして未婚はそういう理由からだったのか。確かにおかしいとは思ってたんだ。業を背負っているとはいえ、出世コースのキャリアウーマン。趣味を隠せば美人。……ということは紫髪の女も。
「冗談じゃないぞ。主人公からヒロインを強奪して百合展開を企んでるとか笑えない」
人の趣味に口出しはしない。けど俺の命に関わるなら話は別だ。奴がヒロインを攻略するごとに俺の生存確率が低下する。ハーレム狙いなら即死じゃねえか。
「ま、まずいぞ。あの女を止めないと」
奴が一年なのは分かるが、それ以外の情報がない。名前は、クラスは。転生者ならどこまで知っている。白瀬の結末を把握してるなら協力できないか?
「どちらにしても敵を知らないとな」
でもどうやって? あなたは転生者ですかと話しかけるのか。名前は何ですかって聞いてみるか……いや、それはもうナンパじゃないか。普通に警戒されるだろうし、下手をすれば社会的信用が低下する。
誰に何を思われようが関係ないが、攻略活動(主人公による)に影響が出てしまえば本末転倒だ。全てを他人任せで命を委ねるなんて怖過ぎる。
「こういう時に便利な安達に聞くか?」
友人キャラは星空高校の主要な女子生徒の情報収集を行う変態なのだ。名前や学年、クラスはもちろん。趣味や部活、身長体重などの個人情報まで何故か知っている。そしてその情報を主人公に伝えるのだ。あの子は〇〇らしいぞと。無論、その中にはヒロイン達のトピックスも含まれている。
「でもなぁ、あいつとは仲良くなりたくないし」
あの紫髪の情報をくれなんて言えば、確実にあらぬ誤解をされてしまう。安達が調子に乗ることは間違いないだろう。……そもそも女子生徒の情報収集ってなんだよ。ゲームでは許されても、現実世界なら普通にアウトだろ。共犯者と思われて退学や犯罪に問われたらどうする。ある意味ゲームオーバーじゃないか。
「こっそり偵察するのが無難か」
奴もAクラスに来てストーキング行為を行ってるんだ。俺がやっちゃダメな理由はないはずだ。……そもそも俺の場合は調査だし。先ずはちょっと教室を覗くだけだから。
ヒロイン攻略以外の余計なことはしないと決めたのに。いきなり暗雲である。
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放課後。騒ぐ安達を無視して帰ろうしてたのに、急に風向きが変わってしまう。
「相棒よ――白瀬を尾行するぞ」
「はぇ? 何言ってるの?」
学校が終わると同時に足早に教室を出ていく彼を見て、安達が馬鹿なことを言う。どこに向かっているのか亜樹斗を巻き込んで調査すると宣っている。……ホントに馬鹿じゃないの。
「急ぐのだ! 俺の見立てでは奴は運動能力も高いぞ」
「何でそんなことが分かるの? というかダメだよそんなこと」
ここまで堂々と迷惑防止条例に歯向かう馬鹿だったとは。同じ学校の生徒として恥ずかしい。……何で仮にも進学校の星空にコイツが受かってるのよ。亜樹斗には勉強教えたけど、安達は謎。
「俺の勘が告げている! 白瀬と関わると高校生活がきっと面白いことになると」
――ホント最悪。何でアイツと似た様なことを感じているのよ。……もしかして他にもいたりするのかしら。――女子だったら何となく嫌だ。
「善は急げだ! 輝かしい青春を掴むんだ!」
「い、痛い痛いよ! 分かったから引っ張らないで」
「⁉︎ ちょっと、二人とも待ちなさい!」
こんな流れで彼を尾行することになってしまう。これは私の意思じゃない。暴走する二人のブレーキ役として私がいるだけ。決してやましい理由ではない。
学校の外。通学時とはまた違う空気である。星空高校周辺は栄えており、放課後を楽しむ学生達の姿も多い。中学の時は経験出来なかった放課後ショッピングが何気に楽しみだったりする。娯楽施設も多く油断してしまえば成績に影響しそうね。
「相棒、奴の姿は見えるか?」
「……見えてるよ」
役に入り切った安達に辟易する亜樹斗。傍から見れば二人は不審者そのもの。私は同類にされたくないから少しだけ距離を離す。
バレない様に距離を空けて歩く。人混みがすごいのに意外と彼を見失うことはない。……オーラとでも言うべきか。人を惹きつける何かを感じる。街行く人達――特に女の子は顕著で、すれ違った後に振り返る子もいるくらい。……何だか面白くない。彼は彼で興味がないのか、それとも慣れてるのか特にリアクションなく進む。
「ん? マンションに入って行ったな」
「ほぇ〜、どうやらここが白瀬君の家みたいだね」
高層マンション……所謂タワマンである。戸建て暮らしの私からすればマンションは一種の憧れである。彼は何階に住んでいるのか。仮に高いフロアなら夜景が綺麗に見えたりするのかな?
「かなり裕福みたいだね……」
「そうか? 俺の家と変わらないじゃない」
「出たよ。宗の無自覚お金持ち自慢。シンプルに直した方がいいと思うよ」
そう。この変態は親がお金持ちなのだ。有名企業の役員を務める親に、親族は会長職に就いているらしい。……ホント恥晒しよね。いつかスキャンダルで会社が傾くんじゃないかしら。
でも裕福な安達が言うのだから彼もまたそうなのだろう。全然詳しくない私にだって分かるのだから。ターミナル駅近くのタワーマンション。徒歩で全てが完結する立地は中々の物だと思う。……入学式当日に彼の親は不在だった。それも関係あるのかな。
「よし、ホシを挙げるぞ。亜樹斗、突撃だ!」
「……しないから。大体勝手に入れないでしょ」
この手のマンションはセキュリティも強固だろう。アポ無し訪問なんて直ぐに止められてしまう。最悪は警察に通報からの学校へ連絡。
「仕方ない。囮を使う」
「……なんて?」
「赤嶺桜のお色気の術で見張りの気を引く。その隙に俺とお前でダイブだ」
「――馬鹿じゃないの」
「ダイブって……仮に人がいなくなってもエレベーターは動かないと思うよ。そもそもエントランスにすら入れないんじゃ」
安達はおかしい。昔から壊れてる。彼の家に押しかけて何を企んでいるのか。どうせ碌でもないことに決まってる。……そういえば男の子の家って亜樹斗しか知らない。彼の自室はどんな雰囲気なのかしら? やっぱり意識が高い家具があったりする?
「もう帰ろうよ。家に突撃するならもっと仲良くならないと」
「つまり、好感度が足りないと。……一理ある。白瀬、ガード堅そうだもんなぁ」
また馬鹿なことを。女の子を攻略するゲーム? みたいな話をする安達。この世界はゲームじゃないんだから。それに彼は男の子。攻略するのは女の私――⁉︎ じゃないから!
「な、何言ってるのよバカ亜樹斗! もう帰るわよ」
「え〜、なんかいきなり怒られたんだけど……」
「ヒステリックヒロインだな」
二人を無視してこの場を後にする。
高校生活はまだ始まったばかりなんだから焦る必要はない。……実はちょっと期待してたとかもないから。もっと仲良くなったら遊びに行けばいい。
誰に対する言い訳なのか。それをまた恥ずかしく感じるのだった。




