第七話 自己紹介
入学二日目。授業はまだないが本日からフルタイムである。ロングホームルームに学校案内に部活動紹介など定番のイベントが行われる予定……定番かどうかは分からないけど。だって高校生活は人生で一度しか経験がないからな。
星空高校は進学校。運動部に力を入れている設定はないからなのか、主人公やヒロインは誰も部活に属さない。これはゲームによりけりなのだろうが、『星君』はそういった路線である。……ちなみに白瀬は運動能力も高いという無駄設定もあったりする。
「それじゃあ出席番号一番から挨拶よろしく」
現在は自己紹介の時間である。名前は最低限で、あとは出身中学や高校での目標、趣味や座右の銘など好きにチョイスして発表することになっている。……原作通りだな。ということは必然的に先頭バッターは。
「青宮冷花です。よろしくね」
青い髪に緩いパーマのショートヘア。女子にしては高い身長に滲み出るイケメンオーラから中学時代は王子と呼ばれていた青宮。微笑を浮かべるだけで男子も女子もソワソワしている。――これが王子様ヒロインである。
「中学は女子校だったから、高校では違うことを楽しみたいかな。ボクの青春をみんなにも分けてあげるよ」
途端に黄色い悲鳴と野太い雄叫びが響く。……Aクラスは原作通り随分とノリがいいな。ギャルゲーだから成り立つけど、現実世界でこれを言ってたらやばい奴扱いだな。何だよ青春を分けるって。俺なら恥ずかしくて明日は休んでしまうぞ。
数分でクラスメイトの心を掴んだ青宮。クラスのアイドル枠は自信満々に自己紹介を終える。
「序盤から凄いのがきたな。はい次……」
ネクストは同じア行のヒロイン――赤嶺である。少し緊張しているのか表情は硬い。その様子が少し怒っているようにも見えてしまう。
「赤嶺桜です。よろしくお願いします」
緊張の理由はこの自己紹介、ひいては高校生活を失敗したくないという想いから。何が何でも主人公の彼女や嫁とイジられたくないのだろう。……残念ながら無駄になるけどな。
「中学はソフトテニス部でしたが、高校で部活は考えてません。貴重な三年間を有意義に過ごしたいと思います」
当たり障りのない自己紹介。だが赤嶺はヒロインである。つまり花がある。何処か気が強くて冷たく感じられても、男子を魅了するには十分だったようだ。熱い視線が送られている……残念だったな男子共。ヒロインは主人公の黒津が総取りすると決まっているのだ。悪いがモブはモブらしく諦めてくれ。
三番目もネームドキャラ……ではなく名も無きモブ生徒。普通な感じの女子だがヒロインと比べられてしまえば見劣りしてしまう。……でも普通っていいよな。少し頑張れば凄いに変わるんだから。羨ましいぜ。
次は男子で言えば最初となる。『星君』に登場する貴重な男キャラで、主人公の悪友で友人枠、ラブコメっぽいトラブルを引き起こす舞台装置。赤嶺からすれば天敵である。
「はいは〜い。みんなお待ちかかねの人気者。安達宗の出番だよ!」
「「「イェーイ!」」」
ノリの良い男子が雄叫びを上げ、安達が更に場を盛り上げる。いやマジでノリがいいな。事前に打ち合わせしてたんじゃないかってくらいの騒ぎに耳が痛くなる。
「いや〜、でもみんなは運が良いよ。だってこんなにもかわい子ちゃんがAクラスに揃ってるんだから」
自分の自己紹介なのに何故かクラス女子の紹介を始める安達。青宮や赤嶺、後ろに控える別ヒロインを星空の三大美女と称え褒めまくる。……いや、入学二日目で三大美女って何だよ。元からいた人達に失礼すぎるだろ。まぁ興味ないけど。
「俺達はホントに運が良い。――だがしかし! 本来はみんなの三大美女なのに、あろうことか独占しようとしている輩がこの中にいる!」
「だ、誰だ!」
「許せねえ」
「俺の嫁に手を出したのはどこのどいつだ!」
もう滅茶苦茶である。安達の奇行に先生は苦笑い、女子達は引いている……特にヒロイン①は物凄く嫌そうな顔をしている。――赤嶺、お前の悪い予感は残念ながら的中するぞ。
「黒幕は――お前だッ!」
「……へ?」
目を白黒させる主人公。……いや何でだよ。この流れで何で動揺してんだよ。絶対来るって分かってただろ。――さてはお前話聞いてなかったな?
「黒津亜樹斗! お前は幼馴染である赤嶺桜を独占しているな!」
「な、何言ってるのさ宗。やめなようるさいから……」
「うるさい! 俺は知ってんだぞ! お前らは幼稚園から高校まで同じクラスだ。家は隣で家族ぐるみの関係。昨日も仲良く学食デートしていたことも知っている!」
「幼馴染だと……」
「凄い、ドラマみたい」
「もう夫婦じゃん笑」
顔を引き攣らせる赤嶺にオドオドする黒津。その一方で安達はノリノリに糾弾する。自己紹介はどうなったんだよ。先生までそうだったのかと驚いている。
「赤嶺桜を毒牙にかけ、あろうことか二人まで狙っているな! これは由々しき事態だ!」
「そうだそうだ!」
「独占禁止法!」
「女の敵!」
一部の女子まで一緒になって囃し立てる。そんなことするから安達は余計に調子に乗ってしまう……だが、そろそろ終わりだな。
「赤嶺との朝チュンに飽き足らず……ノワァァッ!!」
「……安達うるさい」
顔面に筆箱(安達の)をくらい派手に倒れる友人キャラ。見事な投擲を見せた赤嶺は冷たい笑顔を担任に向け一言。
「次でいいですよね?」
「あ、ああそうだな。安達は早く席に戻りなさい」
なんかアレだな。ヒロイン達よりも安達の存在が濃すぎて、みんな自己紹介忘れちゃったんじゃなかろうか。ただ、黒津と赤嶺の関係性は今更隠せないだろう。
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自己紹介も後半戦。安達のせいで随分と時間が押している。巻きでという先生の指示でスムーズに進む。
「初めまして。黄原向日葵です」
三人目のヒロイン登場。黄色の髪にゆるふわウェーブ。中学時代のもっさりとした髪をバッサリと切りメガネはコンタクトに変えた高校デビューガール。
黄原の昔を知る生徒はおらず、仮にいたとしてもその変わり様にさぞ驚いたことだろう。俺もゲームで見た中学時代の写真には驚いたものだ。……まあそれだけだけど。
「あの、えっと、よろしくお願いします?」
「うおおおお!」
「尊い!」
「俺が守るから」
巻きでって言ってたのに我慢出来なかった男子達。ここは男子校かな? それとも動物園か。雄叫びの意味が分からず黄原は首を傾げてしまう。その仕草を見て鼻血を噴き出す生徒まで出ている……いや、初めて見たわ。興奮して鼻血なんて。
「はい、お前ら落ち着けよ。はい次」
先生もクラスの空気を理解したのか扱いが雑になる。凄いよな先生って。俺なら絶対鬱になって辞めるだろうな。
「黒津亜樹斗です。よ、よろしく」
「帰れー!」
「変態!」
「あいよあいよ〜!」
風評被害が過ぎる。クラスメイトのブーイングにより主人公の挨拶は一分も保たずに終わってしまった。おい、我らの主人公になんて仕打ちをしやがる。彼がいなければ俺達はモブにすらなれない星屑だったんだぞ(怒)。――原作通りだけど。
青宮、赤嶺、安達、黄原、黒津とネームドキャラの自己紹介が終わる。後は正直言って消化試合だな。ゲームでもカットされてたし、大したイベントや情報もないだろう。
青宮と赤嶺に安達、黄原と黒津が纏まるエリアから離れた白瀬君は他のモブキャラと変わりない。見せ場や役割もないし、適当に終わらせるとするか。
「白瀬雪都です。程々に高校生活を頑張ろうと思っています。よろしくお願いします」
どうだこのモブっぽい挨拶は(ドヤ)。きっと白瀬に自己紹介シーンが用意されてたならこんな感じだったのだろう。出番を終え足早に去ろうとする一歩――どういうわけかそれよりも早く動く奴がいた。
「はいは〜い! 質問です! ズバリ…………彼女はいますかぁッ?」
「……え?」
安達の思わぬ質問、そして展開にフリーズしてしまう。何だよ質問って。人の自己紹介に質問タイムとかあるのかよ。
「プライベートなことなので……」
咄嗟に出たのが職場でよく使っていたフレーズである。課長から妙な質問攻めにあった時は大体これで乗り切っていた……別にいないんだから、いないで返せばよかったんだけど。
「じゃあじゃあ、彼氏はいますか!」
「は?」
バカがいるぞ。白瀬は男だろうが。人の趣旨思考を否定するつもりはないが、ここはギャルゲー世界だぞ。男同士の恋愛をギャルゲーでやるとか狂気の沙汰でしかない。闇が深過ぎる。
「なら次はボクから質問しようかな」
「はい、どうぞ!」
何故か場を仕切る安達に王子様ヒロインが質問してくる。
「ボクはよく王子様って呼ばれるんだけど、キミはお姫様って呼ばれたりするかい?」
「呼ばれない。俺は男だから」
何だこの頭が悪い質問は。そんなあだ名はねえよ……ないよな? 親以外の交友を知らないから確かに分からないが。
「……私からも質問。趣味は?」
「プライベートなことなので」
「……」
ヒロイン達に余計な情報は与えない。主人公のスリーサイズなら今度教えてやろう。
青宮に対抗してくる赤嶺。原作でこの二人はどちらかというと仲が悪かった。それも当然か。ルート次第では恋敵なわけだしな。
「はい! 質問です」
「どうぞ、向日葵ちゃん」
安達の奴、もう下の名前で馴れ馴れしく呼ぶのか。そこはコミュ力お化けの友人キャラ。営業向きの性格ではあるよな羨ましい。
……黄原よ。質問ないかと言われたら頑張って質問しようとする真面目ちゃんか。いや、学力化け物の優等生だったな。余談ではあるが、黄原ルートに進むには一定レベルの学力が必要だったりする。……用心に越したことはない。主人公にはテストも頑張らせないとな。
「白瀬さんの好きな食べ物は何ですか?」
小学生かよ。無理矢理絞り出してその問いか。どんだけモブキャラに興味ないんだよ。まぁいいさ。原作通りで良き。
「マグロです(適当)」
もういいだろ。何なんだこの時間は。あれだけ馬鹿騒ぎした安達よりも長い自己紹介じゃないか。しかも質問の内容はどれもくだらない。まるで俺が滑ってるみたいで恥ずかしい。原作にはない展開だ。
「白瀬……お前がここまで最長だな。ナンバーワンだ」
担任に促され席に戻る。赤嶺の気持ちが少し分かった気がする。傍から見る分には笑えるが自分が当事者になると安達には殺意が湧くな。




