第四話 白瀬というモブキャラ
殴り書きではあるが、マル秘ノートの作成が終わる。俺は忘れっぽいから思い出したことは直ぐに書く習慣を身につけないとな。興味あることは覚えてるんだけど、それ以外は短期間で忘れてしまう。特に人の名前は苦手すぎる。顔と名前が一致しないどころか、顔と名前両方を忘れてしまうんだから難儀だよな。
いつの間にか外の風景は夜になっていた。窓から見える光景からマンションにいることが分かる。十階くらいだろうか。モブキャラの癖に良い生活しやがって。俺はアパート暮らしだったのに。
改めて白瀬のことを考える。
本名白瀬雪都。来月から高校入学を控えた十五歳の少年である。身長約170センチ、痩せ型、黒髪、色白、そして美少年。……何だか腹が立つな。でも逆に言えばこれら以外の情報は少なかったりする。
例えば作中でヒロインが、白瀬君またテスト十位以内だったとか、運動部じゃないのに体力テストで好成績を収めた、街を歩いてたら事務所からスカウトされたなどの情報をくれたりする。……モブキャラの情報を小出しして何になるんだよと当時は思ったのだが、プチ情報くらいでシナリオへの関わりはほとんどない。いくら俺が社畜ギャルゲー大好き(強要)プレイヤーだったとしても、ゲームや攻略本以外のトピックスは知りようがないのだ。むしろモブキャラの癖にここまで設定が用意されていたことの方が驚きである……それが死亡フラグの伏線だったのか。
「白瀬……お前は何者なんだ?」
厨二っぽく自分に語りかけるが、白瀬は何も答えない。それも当然か。今は俺が白瀬なんだから。
彼の部屋と思われる室内を見て回るが特に目立つ物はない。勉強机にベッド、ローテーブルとテレビに参考書が詰まった本棚。いかにもモブキャラですよといった自室である。……却って怪しく感じてしまうのは気のせいだろうか。標準スペック主人公の部屋の方がまだ特徴があったのにな。
憑依する前の白瀬の記憶を辿ろうとするが何も浮かんでこない。親の顔や幼少期から中学時代など思い出は沢山あるはずなのに。これじゃあ中学の同級生に会った時どう反応すればいいんだよ。
記憶がないなら文明の力。ポケットに入っていたスマホを取り出し中身を確認する……どうでもいいが、俺が初めてケータイを持たされたのは高校入学以降だったのを思い出した。
「……おいおいマジかよ」
登録されている連絡先は父と母のみ。メッセージアプリも同様だった。……マジかよ白瀬君、この見た目で君はぼっちだったのか。顔が良ければ人生安泰じゃないのかよ。……君とは仲良くなれる気がするな。
それなら仕方ないと自室を出て家の中を徘徊する。随分と広いな。俺の実家(戸建て)よりも普通に広く高級感がありおしゃれである……ただ生活感がまるではない。白瀬の部屋以外は誰もいない。そんな雰囲気である。――あまり良くないとは思ったのだが、改めてメッセージアプリを起動する。タップしたのは『家族』と設定されたグループトーク。そこには答えが記されていた。
「なるほど、な」
どうやら白瀬の両親は転勤出張族らしい。共働きでどちらも正社員。仕事柄国内、場合によっては海外出張まである慌ただしい社会人人生を送っていると……何だか自分が情け無く感じるな。
両親不在の一人暮らし高校生。漫画やアニメでは良くある設定だがそれをモブキャラに適用して何になるのか。現実世界では間違いなく児相案件の大炎上だが、ここはギャルゲー世界だから許されるのだ(理不尽)。
「まぁ生活費が振り込まれるなら、逆にありだな」
記憶にない両親と住むなど拷問に近い。そもそも俺からすれば赤の他人。二十五歳のサラリーマンには酷な話である。マジでよかった。
自由に使える金があるならバイトは不要。そもそもそんなことに時間を使うわけにもいかないだろう。俺がやるべきことは死亡フラグを回避すること。しいてはヒロイン攻略である……攻略するのは主人公なんだけど。
ヒロインの好感度は俺には無用の長物だが、主人公にはマストアイテムとなる。というかラブラブしてハッピーエンド、もしくはハーレムエンドを迎えてもらわないと俺が死ぬ。……シナリオをコントロールする為にも主人公君とは仲良くした方がいいだろうな。俺が死なない為にも彼には是非ともヒロイン攻略を達成してほしい。三人同時攻略可能なハーレム王を目指してくれよ。
こうして記念すべき転生一日目が終了したのであった。




