第三話 不幸の元凶
善は急げ……かは分からないが、記憶があるうちに今把握している原作知識をノートに書き写すことにした。マル秘ノートである。
ギャルゲー『星空に瞬く君達へ』通称『星君』はジャンル通り、平均的なスペック主人公が三人のヒロイン達との絆を育むラブコメゲームである。幼馴染ヒロインにボクっ娘ヒロイン、高校デビューヒロイン。ジャンルの異なる魅力的な女子高生と擬似的にイチャイチャ出来るそんなゲームだ。
原作フルコンプを果たした俺に知らないことはない……こう聞くと俺がギャルゲー大好きプレイヤーのように感じられてしまうが、実際には違う。というか全然違う。俺が好きなのは剣と魔法のファンタジージャンルだ。
じゃあ何でフルコンプするくらい熟知してるんだと言われてしまうが、それには理由がある。――上司、あのクソ課長の業務命令でギャルゲーをプレイする羽目になったのだ(意味不明)。
俺の会社はゲームを開発するような職種ではない。単に上司がギャルゲー大好きプレイヤーだったに過ぎない。人の趣味にケチをつける気は毛頭ないが、あのバカ上司は俺に『星君』をプレイしろと半ば強引に迫ってきたのだ。
『君はゲームが好きなのか? ならばこの『星空に瞬く君達へ』をプレイしたまえ。感動のあまり何周もすることになるだろう』
確かにゲームが趣味だとは言った。言ったけどギャルゲー大好きなんて言ってない。というか何でゲーム好き=ギャルゲー大好きになるんだよ。あの人仕事出来る天才だけど頭はおかしいんだよな。
ただ勧められただけなら適当にプレイして感想伝えてフェードアウトでよかったんだろうけど、何故か奴はきっちりとした感想を求めてきた。言葉ではなく文章で、しかもワードやパワポに纏めろという暴論(キャラごとの感想からエンディングに関する考察にイラスト評価など盛り沢山)。もちろん俺は反抗した。好きでもないゲームをプライベートでやり込む理由はないと。
『あの、流石にこれは業務とは関係ないかと』
『なに? 君は上司の指示に従えないのか? これはいけないな。……ボーナスの査定に響いてしまう』
正論を真っ向からぶった斬り脅してきやがったのだ。パワハラ以外の何物でもない。大体なんだよギャルゲーのレポートって。それを業務命令でやれとか頭がおかしいとしか思えない。
大義は我にあり。そんな想いで反論しようとしたのだが……。
『ん? いいのかな? 君が業務の合間に社用PCで悪さしているのは知っているのだが?』
『⁉︎ な、何のことでしょうか?』
『違法なサイトとしてブロックされなければバレないと? 甘いなぁ。上司権限で部下が何をしているのか確認する権利があるのだよ』
もちろん、その気になれば会社はメールの内容からインターネットアクセス状況など全てを確認可能なことは知っている。……でもさ、高だか一社員のPCログを調べてるなんて普通は思わないだろ。
『中高生に人気のRPGかぁ。趣味は人それぞれだが、真面目な君が業務中にゲームの情報を漁っているとは誰も思うまい』
『グッ……』
そうなのだ。パッとしないサラリーマンの俺だが唯一の武器が真面目なところ。これを俺から取ってしまえば平凡な使えない会社員になってしまう。コツコツ積み上げてきた俺の信頼が水泡と帰す。それは不味い。居場所を失ってしまう。
『うんうん、ご理解いただけたようでなによりだよ。いやぁ探していたのだ。好きな物を語り合う同志という存在をね』
桜ちゃんが可愛い、あのエンディングが良かったなど好き勝手語る上司。こんなのが何で有能なのだろうか。入社直後から優秀で即戦力扱い、最年小で課長に昇格したエリート中のエリート。――三十路で未婚のギャルゲー大好きの業を背負った悲しき女上司である。
『……何か今失礼なこと考えたか?』
『いえ、気のせいかと……』
そんなこんなで俺はギャルゲー攻略を命じられ、望みもしない女の子の攻略に勤しみ、レポートに纏め報告するという生活を繰り返していた。――その結果なのかは不明だが、気付いたら白瀬に転生していたと……元の俺はどうなったのだろうか。死んだのか。今更考えても仕方ないけど。――ただあのバカ上司に再会することがあるのなら、文句の一つくらいは言ってやる――え? 殴らないのかって? 俺は平和主義者だから勝てない勝負はしないのさ。




