第二話 モブキャラ憑依
突然だが転生と言われたら何を思い浮かべるだろうか。
剣と魔法のファンタジー、ダンジョン世界、現代風の異世界にTS転生など色々あるだろう。単純に若返ったり、死に戻り、誰かと入れ替わるもそう。これらに共通していることは現実との大きな乖離が顕著に現れる。そして大抵の物語が主人公にとって良くも悪くも都合が良いことが多い。……稀にだが超ハードモードな物語も一定数存在しているのもまた事実。数は少なく、メジャーではなくマイナー、そしてバッドエンドも存在する世界。本当に最悪なことに俺はそのハズレを見事引き当ててしまったらしい。
「は、はは……」
鏡の前で苦笑いを浮かべる少年。俺よりも十歳近く離れているだろう美少年は困ったような笑顔で鏡の前に立つ。色白で身長は170センチ程の痩せ型。汚れを知らない綺麗な黒髪は女性も羨むサラサラヘアー。……何で一目見ただけでそんなに詳しいのか。そんなの彼を知っているからに決まっている。こいつはギャルゲー『星空に瞬く君達へ』の登場人物だからだ。
「白瀬雪都……だと」
いかにも主人公という見た目だが、こいつは歴としたモブキャラである。ストーリーに絡むことはほぼなく、主人公とヒロイン達のラブコメには無関係。現実世界ではあり得ないイベントを主人公達が進める中、彼は関わる、というか場面に登場することなく物語が完結してしまうモブキャラの手本のような存在なのだ。
「ああ、終わった……」
演劇のように項垂れる白瀬。見た目が良い分様になっているのが腹立つな。
モブキャラだったとしても美少年ならむしろ最高だろと普通は喜ぶのかもしれない。ギャルゲーとはいえゲーム世界。モブキャラもデザインが良くされるのが慣例だが、何故か白瀬は超絶見た目が良いのだ。第四のヒロインではないかと『星空に瞬く君達へ』発売前には囁かれていたくらい。……やっぱり最高じゃないかって? こいつの悲惨なルートを知っている俺からすれば大外れなんだよ。
ギャルゲー、主人公、そして三人のヒロイン。ということは必然的にマルチエンディングが存在する。各ヒロインと結ばれたハッピーエンド(更にトゥルーエンドあり)、三股状態で終わるハーレムエンド、そして誰とも付き合わずに終わるノーマルエンド。大枠はこれらの三ルートなのだが、問題なのは一番つまらないであろうノーマルエンド。
主人公からすれば平凡なラストかもしれないが、俺の憑依先の白瀬からすれば最悪。ゲーム終了後に流れるエンディングで主人公達は二年に進学したことが分かるのだが、それとは別にプレイヤーも衝撃の事実が判明する。――なんと春休みの間に白瀬が死亡したとメモが流れるのだ。突然、何の脈絡もなく。はあ? って感じだ。マジで意味不明。
ハッピーエンドやハーレムエンドでは白瀬の情報は何もないことからおそらく健在。だが何故かノーマルエンドだと死んでしまう。机に置かれた花瓶に葬式の風景、三十人から二十九人人になってしまった一クラス。……気味が悪かった。『星空に瞬く君達へ』で背中がゾッとする感覚は初めてだったな。
――まあつまりだ。
ゲーム世界に転生したとか考えてる奴が現実にいたらヤバいが、知り尽くしたギャルゲー、しかもその登場人物に憑依してると分かったなら、これがくだらない妄想ではないと判断がつく。同時に何もせずにただ生活するだけだと、エンディングによっては死亡してしまう。……うん、最悪だな。
白瀬の部屋にあるカレンダーによると現在は三月末(ご丁寧にチェックしてある)。後一週間程で入学式――ひいてはストーリーが始まってしまう。……準備期間はこの僅か。一週間で果たして何が出来るのか。悲観して諦めるのか、知っていること全てを書き出し対策するか、はたまたどんな逆境にも負けない肉体を手にするか(一週間じゃ無理)。
「……絶対生き残ってみせる。死ぬなんて御免だ」
言葉の割に何処頼りない白瀬が鏡の中で意気込んでいた。




