第十六話 スニーキングミッション
GW初日。初夏に相応しい夏の訪れを予感させる季節。暖かいというよりは暑さを肌で感じる良い天気の日に俺はファミレスにいた。転生最初の外食や懇親会で使った例の店である。
「いやぁ、参ったね。まさかもうバレちゃったか」
「ど、どうしよう……」
ケラケラと笑う王子様ヒロインにオドオドする主人公。何で休みの日にメインキャラ達に会わなければいけないのか。それは昨日スタートしたばかりな青宮ルートの導入イベントに動きがあったからである。
「……なんか早くないか?」
「ボクがヘマしたと? 心外だなぁ」
そう、早すぎるのだ。
愛しの王子様に突如として現れた王子様(意味不明)によってお嬢様達には激震が走る。ショックの余り寝込む女子まで出たが、伝えた初日に疑われるのは急展開すぎる。――こいつが余計なことをしたんじゃないかと俺は疑っていた。
「ほら見てごらんよ。キミに言われた通りだろ」
「そう、だな……」
「ごめんね、相手が僕だったから」
「いや、黒津君程の適任は他にいない。二人はベストカップルだ。もっと自信を持っていいと思うよ」
「ふ〜ん……」
写真がいけなかったのか? いや、ゲームでもツーショットだったし。……自撮りだったかな? 撮影者という第三者が邪魔者だったのか……。
「この凛子って子は親衛隊のリーダーでね。彼女を抑えることが出来れば他も静かになるんだけど……」
「し、親衛隊?」
時刻は朝の八時前。学校よりも早い時間の集合である。社畜精神が染み付いた俺の朝は早く、王子様ヒロインも早起きだから普段と変わらないが、主人公は眠そうである。休み前ということで夜遅くまでゲームをしていたらしい。そんな時に青宮から緊急のメッセージが早朝に届き、急遽集まったのだ。寝癖が直ってないのはそれだけ急いで来たからなのだろう……もっとゆっくりでもよかったんだけどな。俺はファミレスでモーニングの予定だったし。
「アルテミス聖女学院の友達さ。彼女達は親衛隊って自ら名乗ってるよ」
「な、なんか凄いね……」
「黒津君。君はその親衛隊と戦うんだよ」
「⁉︎ え⁉︎ 僕戦わさせられるの? き、聞いてないよ!」
朝から良いリアクションである。眠気も吹き飛んだのではないだろうか。……俺も真の意味で自由なら夜更かしからの夕方まで寝る休みを過ごしたかったな。
「キミ的には守りじゃなくて攻めるべきと」
「下手な嘘を重ねるくらいなら、大きな嘘を一発かます方がいい……多分な」
「……話についていけない。もしかして本当に戦うの?」
勝手に勘違いしている主人公は放っておくとしてだ。別に焦る必要はないんだよな。今直ぐ結果を得られなければ不味い理由もない。小さな嘘をコツコツ積み上げるのも正解だろう……ただ俺的にはそれじゃあ困るのだ。
ここはギャルゲー世界。これはラブコメイベント。ただのクラスメイトとして仲良しこよしは成立しない。二人はゲーム同様に恋人関係になる義務がある(迫真)。じゃないと白瀬が死んでしまう。
「ちなみに、その友達は何て言ってるんだ?」
「証拠を見せろだって」
……そこは原作と変わらないな。無駄な空白をカットしてきた感じか。分かりやすいじゃないか。ならこちらもその思惑に乗らせてもらおう。
「デートだな」
「「デート?」」
「二人は恋人なんだから別におかしくはないだろ?」
本当は偽が付くけどな。将来的には本物になるんだから気にするな。
「デートしてるところを友達に見せる。これなら納得するんじゃないか」
「いや、えっと……僕達は本当に付き合ってるわけじゃないから、下手したらバレるんじゃないかな?」
「そりぁね。不自然に振る舞うと瞬殺されるかも。相応しくないってなったら……」
「ひぃ⁉︎」
親衛隊とやらはそんなに多く登場はなかったが、作中での散りばめられた情報からしてヤバいのは分かる。女子校で女子を王子様と崇め、自らを親衛隊と名乗る女達……普通にヤバいだろ。恐ろしいことにその団体は青宮が小学生の時に発足したらしい。
「でも大丈夫だ。君達二人はお似合いだから。それっぽく振る舞えば後は時間が解決してくれる」
「い、いや……やっぱり僕」
「そのデートなんだけどさ、今日決行するのはどうかな?」
「きょ、今日⁉︎」
主人公と違い前向きな王子様ヒロイン。連休中にとは俺も思ってたがまさかの今日か。……でも準備もなしにデートが成り立つのか? さすがにファミレス程度の気持ちしか整ってないだろ。
主人公の服装はお世辞にも外行きの服とは言えない。とりあえず部屋着以外の服で急いで飛び出して来たって感じだ。一方の青宮は……原作同様に隙がない。服装もそうだが髪型にメイク、小物まで完璧だ。……逆に何でこいつは臨戦態勢なんだよ。まさか、実はもう主人公を意識しているのか――最高だな。
「黒津君の予定もそうだし、準備もあるだろ?」
「大丈夫だよ。いつでもいいって!」
「……何で青宮さんが答えるのさ」
何やらスマホを操作している青宮。誰かと連絡を取り合ってるのか、複数回の通知音が流れた後に画面を見せてくる。
冷
今日の11時からデートの予定だから、どうしてもボク達の関係を疑うなら見に来たらいいよ
凛子
望むところですわ! 冷様に相応しいかモニタリングさせていただきます!
黒津を無視してデートの予定を決めていた。しかも二人からすれば天敵の親衛隊に喧嘩を売る形で。
「そういうことだからよろしくね黒津君?」
「……お腹痛い」
さすがに主人公には同情してしまう。序破急から破が消えている。もしかしたら急しかないかもしれない。……可哀想だが俺の為にも頑張ってくれ。安達風に言うならお前は三大美女の一人をゲットして、俺は死亡フラグから解放される。決して悪い話じゃないはずだ。……そんな不安そうな目で見ないでおくれ。ちゃんとフォローするからさ。
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ショッピングモールデートをすることになった主人公と王子様ヒロイン。急な展開だったが話が決まってしまったなら仕方がない。二人にはカップルとして奮闘してもらおう。
『聞こえてるか黒津君?』
『聞こえてるよ……』
主人公の片耳に装着したイヤホンには俺の声が届いていることだろう。二人の後方から少し離れた位置で見守るのはモブキャラの白瀬。主人公の不安を払拭する為にこのバカみたいな手法を取らせていただいた。
今回のデートを背後から見張るのはもう一人いる。青宮の女学院時代の同級生で親衛隊のリーダーを務める凛子とやらだ。……キャラが濃すぎないか?
凛子の存在は青宮だけが知っている体とし、何も知らない主人公の振る舞いをモニタリングする設定……実際はみんな知ってるんだけど。話がややこしくなるからそうした。君の他にもストーカーがいるよなんて伝えたらイベントぶち壊しは免れないからな。
『対象と思われる女子を確認した。もう偽デートは始まっているぞ』
『りょ、了解です』
何故凛子とやらが分かったのか。作中ではボイスのみでイラストは実装されなかった。にも関わらず俺が気付いたのは二人の後をつける怪しい女がいたからである――女学院の制服を着た。
「ぐぬぬ……男の分際で冷様の隣に立つなんて」
見た目関係なかったわ。間違いなくこいつだ。
ぐぬぬ……なんて初めて聞いたわ。やっぱりこいつキャラ濃すぎだろ。モブキャラ白瀬よりも目立ってるじゃないか。
「写真通り冴えない見た目ですわ! アレが冷様の恋人だなんてあり得ません!」
失礼な奴だな。ギャルゲー主人公はみんな平凡設定なんだよ。色がないけどヒロインキラーなんだからいいんだよ。
今回のイベントではこいつが渋々ではあるが、納得するところまでである。以降は直接対面したり、青宮の女学院時代の話を聞いたりするイベントが続く。といっても毎日連続で発生するわけじゃない。ゲーム内の都合もあるから、そこはまちまちである。
「……やっぱり冷様のお遊戯の可能性がありますね。だって恋人にしては距離を感じますもの」
こいつ鋭いな。いきなりバレそうだ。
『黒津君。敵に君達の関係性が疑われてる。至急対処せよ』
『⁉︎ た、対処⁉︎』
一瞬ビクッと驚く主人公。急な指令に動揺しているのだろう。……だが任せてほしい。俺には原作情報があるのだ。無駄に得たギャルゲー知識で華麗にフォローしようじゃないか。
『腕を組むんだ。それが難しければ手を握るでもいい』
『腕⁉︎ 手を握る⁉︎』
女学院の生徒は男子との関わりがほとんどないはず。恋人との写真で同様するくらいだ。腕や手など身体的な接触を見せれば直ぐに同様するに決まってる(原作知識)。
『さあ、やるんだ』
『む、無理だよ断りもなく』
『君達は恋人なんだ。君ならやれる』
『⁉︎』
……今更気付いたんだがこの作戦には欠点があった。俺と主人公の通話を青宮に直接伝えることが出来ないことである。両方の耳を塞ぐと会話に困るからという理由で、主人公には片耳に装着させていたが……その片方も青宮に装備させればよかった。
同様する黒津は案の定、作戦の共有が出来ていない。先を歩く青宮に後ろから手を伸ばしては引っ込める主人公……普通に不自然だわ。下手したら事案じゃなかろうか。
「……何ですのあの動きは」
凛子の視線が一際鋭くなる。これは不味いぞ。思った以上に主人公の女子に対する免疫がなかった。お前幼馴染ヒロインには遠慮しないじゃないか。どうなってんだ。
『作戦変更! そこのファミレスでブレイクタイムだ。少し早いがランチにしよう』
『りょ、了解!』
先を歩いていた青宮を呼び止めファミレスに誘導する主人公。本日二度目のファミレスだが致し方ない。あのまま無理に続けていたら主人公が捕まってしまう。そしたら俺まで死んでしまう。そんなのダメだ。
「ランチですか。デートでファミレスは……」
庶民がどうとか呟きながら凛子も入店する。モニタリングは継続か。やっぱり最後までついてくるんだろうな。
俺も続こうとファミレスに入ろうとする。――ここはギャルゲー世界ではあるが、一つの現実世界でもある。これまでもそうだったようにイレギュラーは発生してしまうのだ。
「……白瀬? き、奇遇ね」
振り向くとそこには幼馴染ヒロインがいた。ピンクの髪をいじりながらチラチラとこちらを見てくる正統派幼馴染(意味深)。最近しつこく絡んでくる赤嶺桜が青宮ルート進行中にバッティングしてしまう。何でだよもう。




