第十四話 偽恋人
「じゃあ、改めて……一年Aクラスよろしくぅ!!」
「「「よろしく!!」」」
安達の掛け声に合わせて声を張り上げるAクラス。当初は七割予定だったが、結果的には全員が参加した。これは安達の人脈が成すことなのか、ファミレスの貸切という非日常が彼らを駆り立てたのかは分からない……高校生でファミレス貸切とかヤバいな。さすがはギャルゲーの世界。ちなみに俺が前に使ったファミレスだったりする。
「宗の親は凄い会社の役員なんだ」
主人公によると、このファミレスは安達グループ傘下にある系列店らしい。一族経営の身内だからこそ高校生でありながら貸切が出来た――といっても突発的な貸切ではなく随分と前から抑えていたとのこと。しかも費用は会社ではなく安達のお小遣いから。金に驚くべきか、安達の高校生活に懸ける想いに驚くべきか分からないな……金持ち設定はあったけど、安達グループなんて名称ゲームにはなかったんだが。
「ファミレス貸切は驚いたけどね」
「……あいつ唯一の取り柄が’お金持ち’なのよ」
「さく……赤嶺さん、それは言い過ぎだよ」
赤嶺の暴言に内心引く。どんだけ嫌われてるんだよ。
ちなみに俺達の席は黒津に赤嶺の三人だ。どうせなら青と黄も同席にしたかったが、残念ながら先客がいた。ぼうっとしてた主人公に何故か俺の隣にいた赤嶺で仕方なく席に着いたのだ。……何で赤嶺は俺の隣に座ってんだよ。邪魔だな。
「黒津君、今更言い直さなくていいよ。みんな知ってるからな」
「じゃあ「……ジロ」いや、親しき仲にも礼儀ありだから!」
また『ジロ』が出てるぞ赤嶺。そんなに睨んだら主人公が可哀想じゃないか。ついでに何で俺まで睨まれてんだよ。折角アシストしてやったのに。
「それにしても……安達君は昔からあんな感じなのか?」
「宗は……そうだね。賑やかなところは変わらないね」
「うるさいだけよ。全然懲りないし」
二人が幼馴染なのに対して安達は小学校から一緒という設定。主人公と幼馴染ヒロインの関係を囃し立てることも多いが、それ以外のヒロインを盛り上げることもある。
各ヒロインからすれば毒にも薬にもなるが、一貫してるのは主人公の強力な味方であるということか。安達の暴走で散々な目にも遭うが、最終的にヒロインと結ばれるなら、主人公からすれば良い人なのだろう。
「君達楽しんでる?」
「……来なくていい」
噂を嗅ぎつけたのか、安達が主人公の隣に座る。……やっぱり赤嶺俺の隣でよかったな。空いてたら絶対隣に座って来たじゃん。
「貸切料金は気にしなくていいけど、注文は割り勘だから、そこのところよろしくねぇ」
暴走して頼みまくったら痛い目を見ると。これは普通にファミレスを利用するよりも高くなるかもな。……ちゃんと一人一人金は持ってきているのか?
「ファミレス貸切とか凄いね。高校生でこんなこと考えるのは宗くらいだよ」
「そうか? 別に俺じゃなくてもプランとしてあるから珍しくはないぞ」
……珍しいと思うが。俺は高校生の時、ファミレス貸切の経験なんかなかった、いや大人になってもなかったわ。これだから金持ちは。
「貸切料金はいくらだったんだ?」
「金のことは気にすんなよ。白瀬はアイドル枠だからな☆」
うぜえ。何処の世界にモブのアイドルがいるんだよ。クレーム殺到の大炎上になるわ。
「そういうわけにもいかないだろ。全員で時間を共有してるのに、一人だけの負担は公平じゃない」
「……」
驚いたように目を見開く安達。まさかモブが金を持ってると知って驚いてるのか? まぁ俺の金じゃないんだけど。
別に俺は高校生を前にカッコつけたいわけじゃない。義務として払いたいとかでもない。単にこいつに借りを作りたくないだけだ。……後で今日のことを理由に何か求められても嫌だしな。
「――なんか、赤嶺桜がお熱なの分かった気が――痛い!」
「な、何だって? というか大丈夫か?」
喋ってる途中に痛いと騒ぐ安達。こいつは本当に賑やかな奴だな。……隣の赤嶺は顔を赤くしながら、次やったら両足ねと恐ろしいことを宣っている。俺この席嫌なんだけど。
「イタタタ……今回は大丈夫だから気にするな。けど、そうだな、次は場所代も折半にしようかな」
「それが無難だと思う。高校生で金の貸し借りは推奨しない。……まぁ次は参加しないけど」
「おーいみんなぁ! 次も白瀬参加するってぇ!」
「「「イェーイ!」」」
……何だよこれ。お約束的な流れになったじゃないか。やっぱり俺は安達が苦手だな。
****
程々に盛り上がった懇親会も終盤。最後にドリンクバーでもと思い席を立つ俺に近づいて来る影。……何となく気付いてた。ずっと視線を感じるなと。
「やぁお姫様。ご機嫌いかがですか?」
「……今最悪になったよ」
青宮冷花。『星君』でヒロインを務める一人で通称王子様。イケメン女子として同性から圧倒的な人気を誇る。女子が彼女にしたい女子ナンバーワンである(意味不明)。
「あはは、キミは冗談がうまいなぁ。本当はそっちの席に行きたかったんだけど、中々解放してもらえなくてね」
「それは大変だったな。きっとみんな帰りを待ってると思うぞ」
紫髪のストーカー行為で最近は視線に敏感になっていた。直ぐに青宮からのモノだと気付いたんだが、関わりたくないから無視してたんだけどな。
「そんなことないさ。キミに用事があるって伝えたら、キャアキャア言いながら送り出してくれたよ」
……こいつ。分かっていながら行動してる節があるよな。主人公が変な勘違いしたらどう責任を取るつもりだ(怒)。
「俺は特に用事はないから、さようなら」
「待って待って! 真面目なやつだよ。相談に乗ってほしいことがあるんだ」
「相談?」
まさかこれは……王子様ルートの導入イベントじゃなかろうか? 時期的に少し早い気もするが誤差に近いだろう。――これはチャンスだ。
「ちょっと外でいいかい? あまり人には聞かれたくないかな」
「……話を聞くだけなら」
いいえ、思い切り関わります。青宮ルートに入るには必須のイベントだから、これを消化しないと始まらないのだ。
青宮の要望通りにファミレスの外に出たところで、相談とやらが再開する。
「単刀直入に言うとね、恋人を探してるんだ」
「偽恋人か。中学時代のファン達を黙らせる為の」
「そうそう! …………え、えッ? ボクまだ何も言ってないけど⁉︎」
「状況証拠から結論は導き出せるのさ(大嘘)」
恋人というワードで直ぐに分かった。
青宮がエスカレーター式の私立女子校から何で態々公立の進学校に来たのか。その答えと今回の相談は繋がっている。
「これまでとは違った青春を送りたい。けど、旧友達がそれを許してくれない。だから偽の恋人を用意したいと」
「ねえ? キミってエスパー?」
青宮自身、中学の友達を嫌っているわけじゃないが、彼女達は些か過保護過ぎるのだ。
俗世の者達と関わりすぎると青宮が穢れてしまうと。男はケダモノ。決して近寄ってはならない。だから放課後や休日は私達と過ごしましょうって感じにしつこいと。
「免疫のない彼女達に恋人が出来たと打ち明ければ、しばらくは静かになると考えたわけだ」
「ちょっとボクの話聞いてる⁉︎ ……キミと話してると調子狂うなぁ」
「一時的には解決出来るかもしれないが、問題の先送りにしかならないぞ。嘘をつき続けるのも限界がある」
「……ねえ? もうツッコまないよ? 話を進めてもいいかな?」
初めは大人しくなるが、以降は証拠を見せろだったり、具体的なエピソードの開示、しまいにはデートに参加を求めたりと結構無茶な感じになる。
王子様ヒロインは偽恋人の主人公と擬似的なカップル生活を送ることで段々と意識するようになり、最終的には嘘をホントにするという流れになるのだ……ありがちな設定。
「だが、俺は適任者を知っている」
「うん、だからキミに相談したんじゃないか」
「待っていてくれ。今連れてくるから」
「?? 連れてくるって誰を? ボクはキミに……」
青宮が最後何か言っていたが、無視してファミレスに戻る。お目当ての人物は直ぐに見つかるが、何故か一人でポツンとしていた。赤嶺は他の女子グループ、安達は会計の確認などで不在。……ある意味チャンスだな。
「あれ、黒津君一人?」
「白瀬君。例の自己紹介から僕の扱いが酷くてね……」
哀愁漂う主人公。だが心配するな。俺がとっておきの青春をプレゼントしてやるぜ。
もちろん、そんなことは言わずに主人公を外に連れ出す。待っていたのは王子様ヒロインの青宮。二人は互いを見て目を丸くしている。
「白瀬君……これは一体……?」
「うん、ボクもよく分からないな」
「説明しよう。黒津君は今日から青宮さんの恋人になるんだ」
「⁉︎ な、ならないよ! てかなれないよ! い、いきなりどういう意味さ⁉︎」
ゲーム同様に混乱する主人公。流れは若干違うが許容範囲だろう。
事情を掻い摘んで黒津に説明する。何だかゲームのナビゲーターキャラになった気分だ。これはこれで悪くない。
「要件は分かったけど、どうして僕?」
「さあ? ボクは君を指定してないからね」
青宮が偽恋人役に主人公を選ぶ理由……それは安達が起因してると言える。この世界やゲームでもそうだったように、自己紹介のタイミングで安達は主人公の宣伝? をしまくった。
イケメン女子の青宮から見ても美少女な赤嶺。そんな彼女の幼馴染で仲が良い主人公。――そこから青宮はこう考えたのだ。モテる人はモテるのだと。
……要は美少女の赤嶺が認める幼馴染なら、女子校の旧友も簡単に認めてくれるだろうと思ったわけだ。
「黒津君だっけ? 赤嶺さんに怒られたくないんだけど……」
「大丈夫だ。俺から説明しよう」
「全然大丈夫じゃないよ。話がややこしくなるから止めて。……後から僕が叱られるんだから」
おっ、さすがに青宮は主人公の存在を認知していたか。しかも赤嶺との関係まで。これは赤と青で互いにジェラシー効果が生まれるな(意味不明)。
「大丈夫だ。きっと上手くいく。――さぁ、先ずは二人で写真撮影だ。手始めにそれを友達に送る。これでしばらくは静かになるはずだ」
「……なんかやけに手慣れてるね」
「白瀬君ってこんなキャラだっけ?」
強引に二人を並ばせて俺のスマホで写真撮影。欲を言えばラブラブアピールでハートを作って欲しかったんだが、青宮に拒否られる……まだ好感度が足りないか。少し傷付いた主人公の顔から俺は目を逸らした。
「この写真を送るから黒津君の連絡先を教えてほしい」
「うん、いいよ」
自然な流れで主人公の連絡先もゲット。クラスグループチャットから黒瀬⇆青宮の連絡先を開通して写真を共有。……俺は策士だったのか。順調すぎるぜ。
「ねえ、ボクもキミの連絡先知りたいんだけど」
「やだよ、俺はいらないな」
具体的なアドバイスは主人公経由で十分だ。裏から俺が適切な指示を行い王子様ヒロイン攻略を目指す……完璧だな。転生してここまで良い流れは初めてだ。
「ちょっと黒津君スマホ貸して」
「? いいけど……」
主人公のスマホを借りて何やらポチポチする青宮。……黒津君や。安易に他人にスマホを貸すのはどうかと思うぞ。俺の秘密のアドバイスがバレる可能性もある。今度折を見て注意しておかないとな。
――ピコン
通知か? 一体何の?
「teamキブシ――何だこれ?」
「グループチャットだよ。今回の件はここで連絡を取り合おう」
また回りくどいことを。偽恋人作戦は二人で進めればいいだろ。モブの俺は必要ないのに。
まぁいいか程度にしか思わなかったのだが、どうやら青宮の狙いは別だったらしい。スマホに届いた新たな通知を見てやられたと後悔する。
――青宮冷花が友達に追加されました。
『ボクのハニー。よろしくね♡』
イタズラが成功したような笑みを、主人公に見えない角度から見せつけてくる青宮。また変な奴に目を付けられてしまったようだ。




