第十三話 連休前の雑談
四月後半。GWを前に浮き立つAクラスの生徒達。いや、Aクラスだけじゃなく星空高校全体、もしくはもっと多くの人達が心待ちにしているのかもしれない。……俺もそうだったな。休み前は楽しみでしかたなかった。――ギャルゲー『星空に瞬く君達へ』を無理矢理プレイさせられる前までは。
楽しみだからこそ終わった時に虚しくなる。新年度が始まったばかりの長期休暇だから心が不安定になる。……その結果が五月病なのかもしれないな。年中憂鬱だった俺は何病なのか。
四月が終わる。つまり1/12を消化してしまうことになる。死亡フラグを回避する為に得られた成果はあったのか。好感度の確認が出来れば楽なのだが、そんな便利機能は白瀬には実装されてない。数値で人の感情を測るなど本来は不可能だが、それ以外の何かで判断するのもまた難しい。……ひいては主人公に向けられた各ヒロインの好感度を俺は把握することが出来ないのだ。
これは中々にハードモード。ヒロイン達に黒津君のこと、どれくらい好き? なんて聞いて回るわけにもいかないし。……気持ち悪いわ。
俺は『星君』の傍観者兼モブキャラ。彼らの物語に常に出演しているわけじゃない……どちらかというとほぼ関われない。希望的観測かもしれないが、俺の知らないところでラブコメをやっていると信じよう。
「し、白瀬はこの連休は何をするの?」
休み時間に俺の机に来ていた赤嶺がGWの予定を聞いてくる。例のイベント後、幼馴染ヒロインは頻繁に訪ねてくるようになった。授業のことや趣味について、日常的な会話から中学のことまで。……まるで取り調べみたいだ。俺が答える度に光速でスマホに何やらメモをしている。
……というか白瀬を呼ぶのにどもるなよ。そんなに嫌か。
「特に予定はないな」
連絡先を交換してからというもの、毎日のようにメッセージアプリの通知が届く。相手は赤嶺桜。学校では絡まれ放課後も絡まれる不憫な俺。……苦手なんだよな。連絡が来るとつい、会社や上司に対する返信のようになる。そんな相手とやり取りしてもつまらないと思うが、何故か赤嶺にはウケているのか時々ネタにされる。
「ず、ずっと家にいても退屈なんじゃない?」
「休みは休むものだろ。英気を養わないと」
「ふふ、何よそれ? 疲れた会社員みたい」
悪かったな見窄らしいサラリーマンで。休みの日は極力自分の好きなことだけしたいスタイルなんだよ。本来なら会社のことなんか考えたくもなかった……あのクソ上司のせいで。
といってもこの世界の俺は無理矢理ギャルゲーをやらされることもない。休みの日は自由に過ごしても怒られない……怒られないのだが、このまま何もしなければ白瀬君は死亡エンドになってしまう。つまり、人生を懸けたギャルゲー攻略を強制されているのだ。……これじゃあ前の方が良かったな。逆らっても死ぬわけじゃないんだし。
「GW限定のイベントも沢山あるみたいだ。これなんかどうだ?」
「⁉︎ えっ、わ、私とここに?」
「ああ。黒津君と出かければ楽しいと思うよ」
「…………」
『星君』ではゲームの構成上、365日シナリオが用意されてるわけじゃない。学校パートや放課後パートに休日パートなどある程度制限されたレールに沿って行動することになる。つまりだ。ゲームにない日常もこの世界には存在している……当たり前だけど。
だからこんな感じで俺はアシストをしている。少しずつでも好感度を稼ぎたいからな。
「……何で亜樹斗が出てくるの? 何度も言ってるけど私達はただの幼馴染で」
「そう。今は幼馴染かもしれない。でもこの先もずっと関係性が変わらない保証はない」
この感じからして、幼馴染ヒロインの好感度稼ぎは順調じゃないんだろう。本人が言うようにまだ幼馴染でしかない。
「たとえば、彼の隣に女性が――彼女が出来たらどう思う?」
「どうって……祝福? するかな。でも亜樹斗はお子様だから恋人なんて……」
「甘いな。彼だって高校生なんだ。彼女が欲しいと思ってるかもしれない。そして彼のことを気になる女子がこの先現れる可能性もゼロじゃない」
『星君』には様々なエンディングが用意されている。一人を選んだ単独ルートだったり、全員選んだハーレムルート。特殊なのは三人中二人を選ぶツインルートなど。選ばれたヒロインは所謂勝ちヒロインとなるわけだが、選ばれなかったヒロインは負けヒロインとなる。
『どうして……昔からずっと一緒だったのに。大切な気持ちに気付けなかったんだろう。あと、少しでも早ければ』
負けヒロインとなった赤嶺桜は特に居た堪れない。ずっと隣にいた主人公はもういない。別の女に取られた主人公はもう二度と戻ってこないと悲しみに暮れるのだ。……すごく嫌だったな胸糞だし。でも全ルートコンプリート指令があったから仕方なくやったんだよ。恨むぞ課長。
「まぁ、何が言いたいかと言うとだ。赤嶺さんに後悔してほしくないんだよ。当たり前がいつまでも当たり前とは限らない」
「……後悔」
俺の理想はハーレムルートだが、確実に結ばれるのなら単独ルートでもいいと思ってる。その相手が赤嶺だったらいいなと。それくらいは感情移入してしまった。不器用で怒りっぽいけど根は優しいんだよ。……絡まれることが増えたのも理由かもしれないけどな。――そして俺は悪い大人だから、裏は裏で他ヒロインのアシストもする。命よりも大切なモノなんてないからな。
「――ねえ? さっきのイベントだけど、わた「お二人さん、ちょっといいかい?」」
何かを言いかけた赤嶺を遮るのは主人公の友人キャラである安達。ニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「連休前の懇親会は二人とも参加かな? そろそろ人数を確定させたいんだ」
「……私はまだ決めてない――お邪魔虫」
最後はよく聞こえなかったな。……俺は難聴系主人公じゃないぞ?
それにしても懇親会か――俺何も聞いてないんだけど。えっ? ハブられてるの?
「クラスチャットで白瀬も回答がないから、どうなのかなあって」
「クラスチャット? 何だそれ?」
「あ……、招待忘れてた」
おいおい、そりゃあ分からないよ。……もしかしなくても俺嫌われてる?
「悪い悪い。強制じゃないから。今からでも入っとく?」
「……いや、いいや」
グループで会話がある度に通知が来るのも鬱陶しいしな。必要な業務連絡ならホームルームで十分だ……決していじけてるわけじゃない。
「それでメインの――懇親会はどうする?」
「……ちなみに誰が来るんだ?」
「今のところ七割が参加予定だ」
驚異的な数値だな。最初だからとりあえず行こうって人もいるんだろうな。……ちなみに俺は、会社の飲み会はほぼ欠席してた。
「錚々たるメンツが参加予定だ! 三大美女にこの安達宗、ついでに黒津亜樹斗も」
「……参加するなんて言ってないわよ」
「うんうん、自分が三大美女って認識はあると」
「は? アンタが普段から騒いでるんでしょ」
赤嶺の極寒視線を受けても飄々とする安達。ゲームでもそうだったんだけど、こいつ掴みどころがないんだよな。
「で、もちろん白瀬も来るでしょ?」
「行かないけど」
「――え?」
安達の驚いた顔を見て気分が良い。この流れで参加しないは想定外だったのだろう。
俺が知りたかったのは主人公や各ヒロインが参加するか否かである。ゲームになかったイベント。これを利用しない手はない。
「みんなで楽しんでくれ」
「……じゃあ私もやめようかな」
おい、赤嶺お前はダメだ。高校生のうちから人付き合いを避けるんじゃない。俺のありがたい説教はどうなった?
「なる程なる程――みんなぁ! 白瀬も参加するだって!」
「「「イェーイ!」」」
こ、こいつ……やりやがった。クラスのみんなも巻き込むことで引けないようにしたのか。
「白瀬君が来るなら私も行こうかなぁ」
「ワンチャンあるかな?」
「アンタは私服がダサいからダメよ」
「放課後はみんな制服でしょ!」
相変わらずノリがいいな。この状況で断るのは難しいか。やっぱり安達は天敵だな。赤嶺の気持ちがよく分かる。
「……私も行く」
面白くなさそうに赤嶺が参加を表明する。そんなに行きたくないのか……安達主催なら確かに嫌だよな。でも、さすがはラブコメ製造機だ。それらしいイベントを物語の外でも企画するのは素晴らしい。
「じゃあ、週末よろしくねぇ。グループチャットで場所とか共有するから」
それだと俺には共有されないんだが大丈夫だろうか。連絡なかったってことで無視して帰ろうかな。
「私が転送するわ」
「……承知しました」
逃げられなかったか。残念だ。




