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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆鹿屋玲子◆


 ――ナガシマ、着いた。


 バスを降りた瞬間、視界に飛び込んできたのは、

 でっっっかい観覧車! でっっっっかいジェットコースター!

 そして、なんかいっぱいあるスライダーの塊!


「夏だ……」


 思わず呟いた私に、


「夏だねぇ」

「夏だね」

「夏ですね」


 三方向から同意が飛んでくる。


 うん。キューブガーデンは春だった。



「……ねぇ」


 私は、そっと横を見る。


 ――いる。


 彰斗。

 普通にTシャツ。普通のデニムパンツ。

 なのに、場違いなくらい落ち着いてる。


 なんでこの人、

 ダンジョンもプールも同じ顔なの?


「楽しみですね」


 って、にこっと言われて、

私は内心で叫んだ。


(あっ、これダメなやつだ)


 好感度が静かに上がるタイプの笑顔!


「れ、玲子? 顔赤くない?」


 恵美に言われて、はっとする。


「き、気のせい! 暑いだけ!」


 誤魔化しながら、更衣室へ向かう。


 女子更衣室の前で、いったん解散。


「じゃあ、僕も着替えてきます」


「はーい!」


 返事は元気。

 でも内心は、すでに戦場だった。




 更衣室。


 ロッカーを開けて、鞄から水着を取り出す。


 ――白地に、淡い水色のライン。

 フリル控えめ。露出も控えめ。


(うん、普通。安全。たぶん)


 選んだ時は「これでいい!」って思ったのに、

 今は不安しかない。


「玲子、どう?」


 弥生がもう着替え終わってる。


「……普通」


「普通って一番強いよ」


 遥が親指を立てる。


「勝負じゃないしね」


 真名も淡々。


 ――そうだ。

 今日は戦わない。

 比べない。

 私は私。


 そう言い聞かせて、更衣室を出る。




 目の前に広がるプールエリア。


「うわぁぁ……!」


 一面、水、水、水。

 スライダー、波プール、流れるプール。


 テンションが、勝手に上がる。


 ……で。


 問題の人がいた。


「……」


 彰斗。

 普通に似合ってるラッシュガード姿。


 なんで!?

 なんでこういうとこ無駄に似合うの!?


 手を振られる。


 私は、反射的に手を振り返してから、


(やばい、ちゃんと見られてる)


 って気付いた。


 心臓が忙しい。


「まず、どこ行いきますか?」


 って聞かれて、


「なが、流れるプール!」


 声が裏返った。


「賛成!」

「様子見にはちょうどいいね」


 全会一致。


 浮き輪を借りて、いざ出発。


 流れるプール。


 浮き輪に乗った瞬間、

 私は理解した。


(あ、これ……距離近い)


 流れの関係で、自然と並ぶ。

 肩が、腕が、ちょっと触れる。


 意識したら負けだ。

 分かってるのに。


「玲子、流されてるよ」


「えっ!?」


 気付いたら、変な角度で回転してた。


「ちょ、ちょっと! 助けて!」


 手を伸ばした瞬間、

 彰斗が普通に浮き輪を掴んで引き寄せる。


 ――近い。


(ち、近いってば!)


「大丈夫?」


「だ、大丈夫です!」


 声が裏返る(本日二回目)。


 その瞬間、


「なにやってんの、玲子」


 弥生の笑い声。


「完全に一人でコントしてたよ」


「ち、違うの!」


 私は必死に否定する。


「流れが! 流れが悪いの!」


「流れのせいにする人、初めて見た」


 遥が冷静にツッコむ。


 みんな笑ってる。

 彰斗も、ちょっと困ったように笑ってる。


 ――あぁ。


 この感じ。


 特別なことは、何も起きてない。

 でも、普通に楽しい。


 見えない敵と戦うより、

 こうやって笑ってる方が、ずっといい。


 私は浮き輪に身を任せながら、

 小さく息を吐いた。


「……よし」


 決めた。


 今日は、考えすぎ禁止。

 悩むのは、帰ってからでいい。


 まずは――


「次、波プール行こ!」


「元気だね」


「今のうち!」


 そう言って、私は一番に流れから抜け出した。


 背中から聞こえる笑い声を、

 少しだけ誇らしく思いながら。


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