098
◆鹿屋玲子◆
――ナガシマ、着いた。
バスを降りた瞬間、視界に飛び込んできたのは、
でっっっかい観覧車! でっっっっかいジェットコースター!
そして、なんかいっぱいあるスライダーの塊!
「夏だ……」
思わず呟いた私に、
「夏だねぇ」
「夏だね」
「夏ですね」
三方向から同意が飛んでくる。
うん。キューブガーデンは春だった。
「……ねぇ」
私は、そっと横を見る。
――いる。
彰斗。
普通にTシャツ。普通のデニムパンツ。
なのに、場違いなくらい落ち着いてる。
なんでこの人、
ダンジョンもプールも同じ顔なの?
「楽しみですね」
って、にこっと言われて、
私は内心で叫んだ。
(あっ、これダメなやつだ)
好感度が静かに上がるタイプの笑顔!
「れ、玲子? 顔赤くない?」
恵美に言われて、はっとする。
「き、気のせい! 暑いだけ!」
誤魔化しながら、更衣室へ向かう。
女子更衣室の前で、いったん解散。
「じゃあ、僕も着替えてきます」
「はーい!」
返事は元気。
でも内心は、すでに戦場だった。
◆
更衣室。
ロッカーを開けて、鞄から水着を取り出す。
――白地に、淡い水色のライン。
フリル控えめ。露出も控えめ。
(うん、普通。安全。たぶん)
選んだ時は「これでいい!」って思ったのに、
今は不安しかない。
「玲子、どう?」
弥生がもう着替え終わってる。
「……普通」
「普通って一番強いよ」
遥が親指を立てる。
「勝負じゃないしね」
真名も淡々。
――そうだ。
今日は戦わない。
比べない。
私は私。
そう言い聞かせて、更衣室を出る。
◆
目の前に広がるプールエリア。
「うわぁぁ……!」
一面、水、水、水。
スライダー、波プール、流れるプール。
テンションが、勝手に上がる。
……で。
問題の人がいた。
「……」
彰斗。
普通に似合ってるラッシュガード姿。
なんで!?
なんでこういうとこ無駄に似合うの!?
手を振られる。
私は、反射的に手を振り返してから、
(やばい、ちゃんと見られてる)
って気付いた。
心臓が忙しい。
「まず、どこ行いきますか?」
って聞かれて、
「なが、流れるプール!」
声が裏返った。
「賛成!」
「様子見にはちょうどいいね」
全会一致。
浮き輪を借りて、いざ出発。
流れるプール。
浮き輪に乗った瞬間、
私は理解した。
(あ、これ……距離近い)
流れの関係で、自然と並ぶ。
肩が、腕が、ちょっと触れる。
意識したら負けだ。
分かってるのに。
「玲子、流されてるよ」
「えっ!?」
気付いたら、変な角度で回転してた。
「ちょ、ちょっと! 助けて!」
手を伸ばした瞬間、
彰斗が普通に浮き輪を掴んで引き寄せる。
――近い。
(ち、近いってば!)
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
声が裏返る(本日二回目)。
その瞬間、
「なにやってんの、玲子」
弥生の笑い声。
「完全に一人でコントしてたよ」
「ち、違うの!」
私は必死に否定する。
「流れが! 流れが悪いの!」
「流れのせいにする人、初めて見た」
遥が冷静にツッコむ。
みんな笑ってる。
彰斗も、ちょっと困ったように笑ってる。
――あぁ。
この感じ。
特別なことは、何も起きてない。
でも、普通に楽しい。
見えない敵と戦うより、
こうやって笑ってる方が、ずっといい。
私は浮き輪に身を任せながら、
小さく息を吐いた。
「……よし」
決めた。
今日は、考えすぎ禁止。
悩むのは、帰ってからでいい。
まずは――
「次、波プール行こ!」
「元気だね」
「今のうち!」
そう言って、私は一番に流れから抜け出した。
背中から聞こえる笑い声を、
少しだけ誇らしく思いながら。




