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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆鹿屋玲子◆


 ホテルの部屋に戻ってからも、私は全然落ち着けなかった。


 ベッドに座ったまま、スマホを握ったり置いたり。

 画面は暗いままなのに、指だけが無意味に動いてる。


 ――分かってる。

 考えすぎだって。


 でも、どうしても頭から離れなかった。


「……ねぇ」


 小さく声を出すと、みんなが私の方を見た。


「どうしたの、玲子?」

 恵美が、すぐ気付いてくれる。


「えっと……」


 一度、息を吸ってから言った。


「彰斗と、イレーザさんの関係って……どう思う?」


 言った瞬間、空気が一瞬止まったのが分かった。


 あ、やっぱり。

 みんなも考えてたんだ。


「不安?」

 弥生が、様子をうかがうみたいに聞いてくる。


「……うん」


 隠す意味もなくて、正直に頷いた。


「眷属とか、契約とかさ。

 私たちの知らない世界で、もう全部決まってる感じがして……」


 膝の上で、ぎゅっと拳を握る。


「勝手に想像して、勝手にモヤモヤしてるのは分かってるんだけど」


「それ、普通だよ。

 見えない相手に不安になるのは、当たり前」


 恵美が、はっきり言った。


 遥も頷く。


「しかも相手、めちゃくちゃ出来る人なんでしょ?

 不安にならない方が無理だよ」


「でも……」


 思わず声が弱くなる。


「じゃあ、どうすればいいの?

 このまま悩んでても、何も分かんないし」


「戦えばいいんじゃない?」


 弥生が、あっさり言った。


「……戦う?」


「うん。でも正面からじゃなくてね」


 弥生は、ちょっと笑う。


「玲子は玲子らしく、でいいとおもう」


 真名も静かに続ける。


「見えない敵と戦っても、答えは出ない」


「……そっか」


 胸の奥が、少しだけ軽くなる。


「だったら、無理に探ったり、比べたりしなくていい」


 恵美の言葉が、すっと染みた。


「……なにもしない、ってこと?」


 不安が消えきらなくて、聞き返す。


「違うよ」


 恵美は首を振った。


「ちゃんと見るの。

 楽しみながら」


「見る……?」


 その時、遥が思い出したみたいに言った。


「そういえば、明日プールだよね」


「あ……」


 思わず声が出た。


「ナガシマの」


「水着も、もう買ってあるし」


 弥生が肩をすくめる。


「特別な作戦とか、要らなくない?」


「どういうこと?」


「普通に遊んで、普通に笑って、普通に話す」


 指を折りながら説明する。


「それだけで、分かることってあるよ。

 多紀くんの態度とか、空気とか」


 遥も乗っかる。


「水着で動揺するかもしれないし」


「ちょっと!」


 顔が熱くなる。


「それ……賭けじゃない?」


「でも、無理しない賭け」


 恵美が、優しく言った。


「背伸びしない。

 誰かになろうとしない。

 玲子は、玲子のままでいい」


 しばらく、何も言えなかった。


 でも――


「……そっか」


 自然と、息が抜けた。


「見えない敵に怯えてても、仕方ないよね」


「うん」


「だったら……」


 顔を上げて、笑う。


「明日は、思いっきり遊ぶ!」


「それそれ!」


「やっと玲子復活!」


 部屋が、一気に明るくなる。


 不安が消えたわけじゃない。

 でも、抱えたままでも前に進める気がした。


 カバンの中に入れてある水着を思い出して、胸が少しだけ高鳴る。


 ――戦うって言っても。

 プールで出来る戦いなんて、せいぜい笑うことくらいだ。


 そう思えた自分に、ちょっとだけ安心した。



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