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◆多紀彰斗◆
朝の、カラオケ店拉致尋問事件から3日。
あれ以降、添島さん達との距離は、確実に変わったと思う。
馴れ馴れしくなった、というより――小さなことでも聞き合えるようになった、が近い。
今日の体調。
日常の気になったニュース。
プライベートに踏み込んだちょっとした話題。
以前なら遠慮して飲み込んでいたような話を、普通に口にして会話をするようになった。
そして何より、あのダークネスウルフの経験値。
添島さん達は、全員がレベル27に到達していた。
数値の伸び方も、かなり特徴的だ。
持久力。
瞬発力。
それに、精神力。
特に後衛組――豊賀さんと一枝さんの伸びが大きくて、
この二人だけで、ホブゴブリン単体なら処理できるようになっていた。
そして、今日は予定していたヴェインエッジの練習日。
なので添島さん達には、在庫の魔石100個でポーション作りだけして、
今日は終了して貰う事になっている。
新種の魔物が現れてから、ギルドの対応も早かった。
存在はすべて告知され、危険度も再設定。
今はもう、
魔眼の同行、もしくは高レベルハンター同行が推奨事項になっている。
イレーザさんと会う場所については、
「オベリスクから転移するから、場所は分からない」
そう説明してある。
実際、僕自身もよく分かっていない。
オベリスクの内部、らしいけど、窓はないし、外界との感覚もない。
キューブガーデンそのものが、どこに存在しているのかも曖昧で――
ここがどこだと、証明する術がない。
不思議な場所だ。
「おはようございます」
「おはよう、彰斗」
「おはようございます、彰斗」
転移ポータル室から管理室へ入ると、
いつもの席で、いつもの二人が待っていた。
今日はすぐに訓練かと思っていたけど、
テーブルにはティーセットが並んでいる。
「まずは、ケーキからですね」
「当然」
即答するシャニアさん。
事前に予約していたケーキを取り出す。
もちろん、リネア様用の新作も忘れていない。
この流れは、もう様式美かな。
ケーキを食べながら、僕はギルド側の最新情報を共有した。
新種魔物の出現数。
現場での混乱。
ハンター側の対応。
それに対して、シャニアさんが答え合わせをするように補足を入れる。
情報に齟齬はなかった。
一区切りついたところで、シャニアさんが言う。
「それじゃあ、《血戦営塞》で練習しましょうか」
やっぱり、そこですよね。
人型魔物。
集団戦。
ヴェインエッジの特性を試すには、これ以上ない環境だ。
僕はイレーザさんからレイピアを受け取る。
銀白色の細身の刀身。
中央に走る、淡く光る青い導管紋様。
派手さはない。
でも――美しさがある。
これを扱える力はある。
問題は、僕にその力を使いこなせるかだ。
「……お願いします」
そう答えて、僕は転移に備えて気を引き締めた。
今日の目的は、狩りじゃない。
使いこなすことだ。
――血戦営塞。
僕にとって初めての、全力を試す場所だ。
◆
転移に向かう前、イレーザさんが一歩、前に出た。
「その前に……こちらを」
そう言って差し出されたのは、布に包まれた一式だった。
「そうだった。ありがとうございます」
変装する為の防具を用意してくれていたのを思い出す。
布を解いた瞬間、思わず息を呑む。
白を基調とした軍服。
生地は軽そうなのに、触れるとしっかりとした張りがある。
金糸で細かな文様が施されていて、派手というより――気品がある。
背面を広げた瞬間、はっきりと分かった。
背中一面に刻まれた、紋章。
幾何学的で、それでいて有機的なライン。
魔力を帯びたように、淡く存在感を主張している。
僕の左手にある紋章と同じ。
「……イレーザさんの?」
「ええ。
私の紋章です」
さらりと言うけれど、その意味は軽くない。
「眷属が戦場に立つ際、主の紋章を背負うのは自然なことです」
自然、という言葉に僕は気が引き締まる。
「それから、こちらも」
最後に差し出されたのは、白い仮面だった。
顔全体ではなく、目の周りだけを覆う形。
視界は遮られない。
けれど――明確に“戦う者”の顔を想像する。
「……これ」
正直、「えっ? これ付けるの?」って思ったけど、
中身を隠す為の道具で、実際に着けたら僕だと判らないよな。
ってことで、言葉を飲み込んだ。
「魔力の安定を促す補助具にもなっています」
なるほど。
「着替えはこちらで」
そう言って、イレーザさんは管理室から少し歩いた部屋へと僕を案内する。
質素な作りだったけど、ベットに机、クローゼットなどの家具があって、誰かの自室のようだった。
「ここって、イレーザさんの個室ですか?」
「はい。彰斗も着替えてくださいね」
も?
そう疑問を持った直後、イレーザさんは、着ていた白のワンピースを落とし、下着姿へと変わっていた。
え?
っと、驚いた瞬間。
イレーザさんは最初に出会った時の、白銀のフルプレートを装着していた。
瞬間装着だ!
「彰斗?」
「あっ、はい! 今着替えます!」
「はい。手伝ってあげますね」
え?
◆
着替えを済ませ、最後に仮面を装着する。
仮面は、ファンタジー品らしく、留める為の紐なんてなく、ピッタリとくっ付いていた。
しかも、着けた本人以外は外れない仕様になっているとの事。
ちょっと気になったので、着けたり外したりを何度も試してみた。
「こっちですよ」
「イレーザさんに促さるように、鏡の前に立つ。
鏡に映った姿は――
誰これ? だった。
白と金。
背に紋章。
目元を覆う仮面。
自分が“何者として立つのか”を、否応なく意識させられる。
「……どうでしょうか」
そう尋ねると、イレーザさんは一瞬だけ目を細めて、
「ええ。
よく似合っています、彰斗」
その一言で、不思議と心が落ち着いた。
これは飾りじゃない。
責任と役割の証だ。
僕は一度、深く息を吐く。
そして、ヴェインエッジの柄を握った。
「ありがとうございます」
◆
「遅い!」
管理室へ戻ると、シャニアさんが拗ねていた。
ハンターギルド中央本部フードコート◆
恵美「あれが、多紀君が言っていたケーキ屋ね」
真名「買って帰るのか?」
恵美「ううん。今日の昼食代わりに食べていかない?」
豊賀「良いと思います」
遥 「うん。そうしようよ」
恵美「多紀君は、どれも美味しいって話だったよね」
真名「確かめないとな」
豊賀「多紀君の好みが判るかもね! ねっ! 玲子」
玲子「あ……うん。そうよね!
彰斗の好きなもの! 好きな……もの……
綺麗なお姉さんとか?」
恵美(玲ちゃんー!)
真名(玲子ぉ!)
豊賀(玲子ちゃん……)
遥 (玲子ちゃんー!)




