094
◆添島恵美◆
朝の桑名駅は、思ったより人が多かった。
通勤客。学生。
キューブガーデンに向かうハンター。
そして――
「あ」
遥が、先に気付いた。
改札の向こう。
見慣れた姿。
多紀君。
昨日と同じ、少し気の抜けた歩き方。
――今だ。
私達は、言葉を交わさなかった。
目配せだけで十分だった。
「彰斗!」
玲子が声を掛けた瞬間、全員で距離を詰める。
「え? 添島さん? みんな?」
状況を理解する前に。
「行こっ」
「え?」
「いいから!」
両腕を玲子と遥が掴み、真名が背中を押して、方向転換。
「ちょ、ちょっと!?」
多紀君の抵抗は、駅前の看板の前で止まる。
『歌活』
朝8時から営業中
「……え?」
困惑する彼を、私達は迷いなく個室へ放り込んだ。
◆
ソファに座らされた多紀君は、完全に観念した顔だった。
「……昨日の続き、ですよね」
「分かってるなら話が早いです」
私が腕を組む。
「説明不足」
「情報過多」
「理解不能」
「そして」
玲子が指を突きつける。
「私達、モヤモヤしたまま一晩越しました!」
「すみません!」
即、謝罪。
いい反応です。
「じゃあ、再尋問開始」
「再って言いました!?」
◆
「まず、これ」
私はスマホを操作し、画面を彼に向ける。
★【アメリカ】
■ ジョシュア・クライヴ 28歳
Lv105(魔導)
■ マリアン・ホルスト 30歳
Lv102(金剛)
★【ヨーロッパ】
■ ハインリヒ・フォーゲル 40歳
Lv104(武王)
■ エレーネ・フィオレンティーナ 35歳
Lv102(錬金)
★【日本】
■ 東円寺 慶 43歳
Lv102(剣王)
■ 北条 紗耶香 35歳
Lv100(光女)
「今、人類が到達してるそれぞれの最高レベルです」
多紀君の眉が、わずかに動く。
「日本だと、東円寺さんがトップなんだ」
そして、私は彼を見る。
「多紀君。
昨日はそこまで理解できなかったけど……」
一瞬、言葉に詰まる。
「レベル100超えたら、称号変わるんだよね?」
「はい」
「その辺りの詳しい話と……」
視線が泳ぐ。
「……その……あと……」
声が小さくなる。
「眷属になるにあたって、何か儀式的なこととか、あるの?
それと、イレーザさんて、どんな人なの?」
沈黙。
そして。
「……え?」
多紀君は、首を傾げていた。
「えっと……まず、魔眼の話からしますね」
◆
「魔眼の基本からです」
真面目な声。
淡々と説明が始まる。
●初級
魔力が視える
●中級
魔力が詳しく分かる
弱い魔物が逃げる
「で、レベル100」
「うんうん」
「称号が『真眼』に変わります」
●上級
魔力の流れが視える
精神耐性アップ
魔力そのものの構造解析
●真眼
眼が金色になります
魔力を掴む
注入する
奪う
魔素を取り込む
「……掴む?」
玲子が小さく首を傾げる。
正直、私も分からなかった。
でも、これは今はいい。
◆
「次、眷属の話!」
弥生が前のめり。
「変な儀式!」
「怪しい契約!」
「キス!」
「血!」
「指輪!」
「ないです」
即答。
「え?」
「巨大スライムを倒すために選ばれて。
神器もらって。
後から聞いたら、その時点で眷属化してたそうです」
「……え、無断契約?」
「そうなりますね」
「怖っ!?」
――儀式なし。
空気が、少し緩む。
「で、スライムを倒したら」
彰斗は、淡々と続ける。
「大量の経験値が入って、レベルが194に」
「……はい?」
「初日の、家に帰る前の出来事です」
私達は、しばらく言葉を失った。
◆
「あと……イレーザさん、ですよね?」
話題が変わる。
「イレーザさんは」
彰斗は、少しだけ柔らかい表情になる。
「銀髪のストレートロングで、背が高く、180センチくらいあります」
「き、綺麗な人なの?]
玲子が 更に訊ねる。
「はい。凄く綺麗な人です」
空気が揺れた。
「姿勢や仕草も綺麗でした」
「……」
「優しいお姉さん、って感じです」
――ダメだ。
別の意味で、耐えられない。
眷属。
女性。
優しいお姉さん。
(恋愛に発展するの……?)
でも。
誰も、それ以上は聞かなかった。
今は、まだ。
聞けない。
私達は、そういう事にした。
◆
「……とりあえず」
私が締める。
「今日はこれで勘弁します」
「ありがとうございます……」
「でも」
全員で、じっと見る。
「次、なにかあったら説明必須だから」
「はいっ!」
素直。
そこが、ずるい。
◆安藤将司宅◆
安藤 「呼び出して悪かったな」
東円寺「いえ、それで?」
安藤 「まずはこいつを見てくれるか」
東円寺「多紀彰斗か。面白い子ですね」
安藤 「あぁ。それとこの子達もだ」
東円寺「はい。こんな狩り方、誰もしませんでしたよね」
安藤 「俺達の時は、全てが未知だったからな。
今のように情報が揃った頃には、魔眼に対する扱いがな」
東円寺「魔眼の索敵の有用性は変わらないはずですが……
安藤 「誰が広めたかしらんが、これはしっかりと認識を改めさせないとな」
東円寺「新種ですね?」
安藤 「そうだ。機械に頼った索敵だと遅すぎる。そして見逃す。
それ以前に、低ランクの者達はその機械すら持っていない」
東円寺「これはむしろ、ダンジョンの方が安全ですよね?」
安藤 「あぁ。ダンジョンの魔物には変化がないようだ」
東円寺「フィールドに出る者達へは、どう対応させますか?」
安藤 「魔眼の同行。もしくは、Bランク以上の戦闘職の同行だろうな。
ギルド側からも、低ランク区画の監視体制を増やすつもりだ。
現地を含めてな」
東円寺「妥当な案ですね」




