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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆添島恵美◆


 彰斗と別れてから、私たちはほとんど無言でポーション作りに没頭していた。


 手は動いている。

 数も間違えていない。

 でも、誰もがどこか落ち着かない。


 清算を終えたあたりから、その違和感ははっきりと形になっていた。

 視線が泳ぐ。意味もなく息を吐く。

 ――全員、ソワソワしている。


 ホテルに戻り、食事を済ませ、順番に浴室へ。

 湯気と石鹸の匂いに包まれても、その感じは消えなかった。


 そして今。


 各自の部屋着。

 ベッドに腰掛けたり、ソファに転がったり。

 ようやく“くつろぎタイム”に入ったはずなのに。


 沈黙は、長くは続かなかった。


「……ねぇ」


 玲子だった。


 いや、違う。

 これは“合図”だ。


「イレーザさんって、女性よね!?」


 一気に来た。


「眷属って! 眷属ってなに!?

 どうやって契約するの!?」


 玲子はクッションを抱えたまま、身を乗り出す。


「もしかしてさ……キスとか!?

 ねぇ!? ねぇ!?

 あー! きになるぅー!!」


「ちょ、玲子、声!」


 思わず制止する私。でも、もう遅い。


「それ、私も気になってた!」


 弥生が即座に乗っかる。


「だって普通さ、契約とか儀式とか、もっとこう……あるよね!?

 急に“眷属”って!」


「分かる分かる!」


 遥まで手を挙げる。


「私、多紀君のステータスとかも気になるんだけど!

 最高レベルって今どれくらいなの!?」


 部屋の空気が、一気に賑やかになる。


 ――あぁ。

 溜めてたんだ、みんな。


 私は一歩引いたところから、その様子を見ていた。


 正直、私も気になっていないわけじゃない。


 でも――


「……レベル、ね」


 気付いたら、口に出ていた。


 全員の視線が、私に集まる。


「私が気になったのは、数字そのもの」


「数字?」


 真名が首を傾げる。


「確か、レベル100で上位称号に変わるんでしょ?

 多紀君の、ううん。魔眼の上位称号について教えてくれなかった」


 一瞬、静かになる。


「……確かに」


 真名が、ゆっくり頷いた。


「私は神器の方が気になるかな」


「神器?」


「うん。

 神の器で神器。武器として与えられたみたいだけど……」


 真名の目が、少しだけ真剣になる。


「何の目的で、そういう物を渡してるのか」


 また一つ、疑問が積み上がる。


「ちょっと待って!」


 弥生が両手を振る。


「話が重くなってきてない!?

 私達、くつろぎタイムだよ!?」


「でも気になるじゃん!」


 玲子が即反論。


「契約! 眷属! 女性!

 この三点セットは放置できないでしょ!?」


「できない!」


 遥も即答。


 私は、そんなみんなを見て、小さく息を吐いた。


 ――そうだよね。


 戦って。

 作って。

 考えて。


 その合間に見えた“彰斗の世界”。


 踏み込めないけど、目は逸らせない。




 部屋の空気が、少しだけ重くなっていた。


 誰も口にはしないけれど、

 不安と好奇心と、得体の知れない世界への戸惑いが混ざり合っている。


 このまま話を続けたら、きっと余計な方向へ行く。


 ――そう感じた私は、意識して話題を切り替えた。


「……ただ」


 静かに言葉を置く。


「多紀君が、私達を助けてくれている。それだけは確かよね」


 一瞬の沈黙。


 でも、それは否定ではなかった。


「うん」


 最初に頷いたのは、遥だった。


「ポーションの件もそう。

 私達の収入を最優先に考えてくれてた」


 その言葉に、真名も続く。


「戦闘面でも、何度も助けられた。

 前に出る時も、無理をさせないようにしてくれてたし」


「私も」


 弥生が、少し照れたように笑う。


「いつも気遣ってくれるよね。

 危なくなったら、必ず声をかけてくれる」


 最後に、玲子が黙ったまま視線を落とす。


 そして、ぽつりと。


「……優しい顔、してた」


 それだけで、十分だった。


 私は、その様子を見て、少しだけ胸の奥が軽くなるのを感じる。


「大丈夫」


 自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言った。


「多紀君を疑う理由なんて、思いつかないでしょ」


 全員が顔を上げる。


「今日は、色々ありすぎて、じっくり話す時間がなかっただけ」


 魔物の事。

 イレーザさんの事。

 眷属という言葉。

 そして、彰斗の立っている場所。


「明日」


 私は、はっきりと言った。


「明日、沢山聞きましょう」


 その言葉に、四人が同時に頷く。


 不安が消えたわけじゃない。

 疑問も、謎も、何一つ解決していない。


 でも――


 同じ場所に立っている、という感覚だけは共有できた。


 私は、ベッドに腰を下ろし、ゆっくりと息を吐く。


 踏み込む覚悟は、まだ整っていない。


 それでも。


 目を逸らさずに向き合う準備は、

 この夜で、少しだけ出来た気がしていた。


◆ベットの中◆


玲子 (眷属って、あの眷属でしょ? キス? キスなの!? あぁー! 寝れない!)

真名 (194……いや……194ってなに? 追い付けるのか? そもそも追い付けるものなのか?)

弥生 (眷属……契約……誓い……玲子ちゃん、これ無理じゃない?)

遥  (どんな人なんだろう……多紀君大丈夫かな?)




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