093
◆添島恵美◆
彰斗と別れてから、私たちはほとんど無言でポーション作りに没頭していた。
手は動いている。
数も間違えていない。
でも、誰もがどこか落ち着かない。
清算を終えたあたりから、その違和感ははっきりと形になっていた。
視線が泳ぐ。意味もなく息を吐く。
――全員、ソワソワしている。
ホテルに戻り、食事を済ませ、順番に浴室へ。
湯気と石鹸の匂いに包まれても、その感じは消えなかった。
そして今。
各自の部屋着。
ベッドに腰掛けたり、ソファに転がったり。
ようやく“くつろぎタイム”に入ったはずなのに。
沈黙は、長くは続かなかった。
「……ねぇ」
玲子だった。
いや、違う。
これは“合図”だ。
「イレーザさんって、女性よね!?」
一気に来た。
「眷属って! 眷属ってなに!?
どうやって契約するの!?」
玲子はクッションを抱えたまま、身を乗り出す。
「もしかしてさ……キスとか!?
ねぇ!? ねぇ!?
あー! きになるぅー!!」
「ちょ、玲子、声!」
思わず制止する私。でも、もう遅い。
「それ、私も気になってた!」
弥生が即座に乗っかる。
「だって普通さ、契約とか儀式とか、もっとこう……あるよね!?
急に“眷属”って!」
「分かる分かる!」
遥まで手を挙げる。
「私、多紀君のステータスとかも気になるんだけど!
最高レベルって今どれくらいなの!?」
部屋の空気が、一気に賑やかになる。
――あぁ。
溜めてたんだ、みんな。
私は一歩引いたところから、その様子を見ていた。
正直、私も気になっていないわけじゃない。
でも――
「……レベル、ね」
気付いたら、口に出ていた。
全員の視線が、私に集まる。
「私が気になったのは、数字そのもの」
「数字?」
真名が首を傾げる。
「確か、レベル100で上位称号に変わるんでしょ?
多紀君の、ううん。魔眼の上位称号について教えてくれなかった」
一瞬、静かになる。
「……確かに」
真名が、ゆっくり頷いた。
「私は神器の方が気になるかな」
「神器?」
「うん。
神の器で神器。武器として与えられたみたいだけど……」
真名の目が、少しだけ真剣になる。
「何の目的で、そういう物を渡してるのか」
また一つ、疑問が積み上がる。
「ちょっと待って!」
弥生が両手を振る。
「話が重くなってきてない!?
私達、くつろぎタイムだよ!?」
「でも気になるじゃん!」
玲子が即反論。
「契約! 眷属! 女性!
この三点セットは放置できないでしょ!?」
「できない!」
遥も即答。
私は、そんなみんなを見て、小さく息を吐いた。
――そうだよね。
戦って。
作って。
考えて。
その合間に見えた“彰斗の世界”。
踏み込めないけど、目は逸らせない。
◆
部屋の空気が、少しだけ重くなっていた。
誰も口にはしないけれど、
不安と好奇心と、得体の知れない世界への戸惑いが混ざり合っている。
このまま話を続けたら、きっと余計な方向へ行く。
――そう感じた私は、意識して話題を切り替えた。
「……ただ」
静かに言葉を置く。
「多紀君が、私達を助けてくれている。それだけは確かよね」
一瞬の沈黙。
でも、それは否定ではなかった。
「うん」
最初に頷いたのは、遥だった。
「ポーションの件もそう。
私達の収入を最優先に考えてくれてた」
その言葉に、真名も続く。
「戦闘面でも、何度も助けられた。
前に出る時も、無理をさせないようにしてくれてたし」
「私も」
弥生が、少し照れたように笑う。
「いつも気遣ってくれるよね。
危なくなったら、必ず声をかけてくれる」
最後に、玲子が黙ったまま視線を落とす。
そして、ぽつりと。
「……優しい顔、してた」
それだけで、十分だった。
私は、その様子を見て、少しだけ胸の奥が軽くなるのを感じる。
「大丈夫」
自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言った。
「多紀君を疑う理由なんて、思いつかないでしょ」
全員が顔を上げる。
「今日は、色々ありすぎて、じっくり話す時間がなかっただけ」
魔物の事。
イレーザさんの事。
眷属という言葉。
そして、彰斗の立っている場所。
「明日」
私は、はっきりと言った。
「明日、沢山聞きましょう」
その言葉に、四人が同時に頷く。
不安が消えたわけじゃない。
疑問も、謎も、何一つ解決していない。
でも――
同じ場所に立っている、という感覚だけは共有できた。
私は、ベッドに腰を下ろし、ゆっくりと息を吐く。
踏み込む覚悟は、まだ整っていない。
それでも。
目を逸らさずに向き合う準備は、
この夜で、少しだけ出来た気がしていた。
◆ベットの中◆
玲子 (眷属って、あの眷属でしょ? キス? キスなの!? あぁー! 寝れない!)
真名 (194……いや……194ってなに? 追い付けるのか? そもそも追い付けるものなのか?)
弥生 (眷属……契約……誓い……玲子ちゃん、これ無理じゃない?)
遥 (どんな人なんだろう……多紀君大丈夫かな?)




