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◆早川 将◆
「走れ走れぇー! 死にたくなかったら、死ぬ気で走れぇー!」
全力で走る俺達の周囲には、数えるのも面倒なほどのウルフの群れが張り付いている。
「橘! あと少しだ! 気合い入れろ!」
4人の中で一番レベルが低い学者の橘に、武闘レベル75の姉御が檄を飛ばす。
「岩倉! もしもの時は、お前が橘を担げ!」
「えっ!? ここは姉さんじゃ――」
「姉御にはウルフを蹴散らす役目があるだろ!」
「お姉さんと呼べぇ!」
「「お姉さん、よろしくお願いします!」」
「任せなぁ!」
などと、かなり余裕があるように見えるかもしれないが、足を止めたらたぶん全滅だ。
普段の俺達は『案件六課』と呼ばれる部署に所属している。
キューブガーデンという、正体不明の存在。
そこで発生する理解不能、あるいは表に出せない事象を、秘密裏に処理するのが俺達の仕事だ。
――と言えば聞こえはいいが、そんな案件はそう頻繁にあるものでもない。
そのため、暇潰しとレベル上げを兼ねて、フィールドに出現した高レベル魔物の処理にも当たっている。
今回も、いつも通りブラックウルフの討伐任務だった。
だが、現れたのはブラックウルフに酷似した、別種の魔物。
黒いウルフを次々と召喚するその魔物を、橘が鑑定した結果――
レベル60《ダークネスウルフ》。
そして、アホみたいに呼び出された黒いウルフはレベル30。
今は殿を務める俺と姉御が、飛び掛かってくるウルフ共を蹴散らしているが、橘の体力はそろそろ限界だ。
……俺は何で、こんな状況でこいつらのことを思い返してる?
ああ、そうか。
死を覚悟したからだな。
結局、俺の一番の居場所はここだった――
避難所に誰かいるのか?
すまないな、巻き込んでしまって。
だが、十分……いや、五分耐えれば増援が来る。
俺が、持ち堪えてみせる!
「わぁあっ! あぁあああっ!」
避難所まで残り約50メートル。
橘が盛大にすっ転びやがった。
◆統括指令室 安藤将司◆
「……っ!」
メインモニターに映し出されているのは、ドローン越しに捉えられた案件六課の隊員達。
固唾を呑んで状況を見守るしかない俺達の前で、最悪の展開が映し出される。
机を叩きつけそうになる衝動を、俺は歯を食いしばって抑えた。
「警備戦闘班の到着予測は!?」
「現在算出中……推定8分です!」
現場の早川から送られてきた
『新種確認。ダークネスウルフ、レベル60』
という簡潔な緊急報告。
俺は即座に、モニター越しに対象を再鑑定した。
レベル60 ダークネスウルフ
・自身の周囲に影領域を展開
・影領域よりウルフ型魔物を召喚
・召喚体はレベル30、実体化済み
・魔核なし
・魔力が尽きるまで無制限召喚
・召喚体が減少すると本体が戦闘参加
・本体撃破後も召喚体は消滅しない
「……厄介すぎる」
何故、今になって新種が出現した?
まさか――
上位のダンジョンの出現との関連性が?
いや、今考えるべきことじゃない。
モニターには、避難所手前で包囲され、必死に抗う早川達の姿が映っている。
耐えてくれ……。
◆多紀 彰斗◆
「予定変更! 援護に出ます!」
僕は即断した。
「鹿屋さん! 扉前から援護射撃をお願いします!
残りの方は鹿屋さんの護衛を!」
「ちょ、彰斗!?」
「多紀君!?」
「すみません! あとで必ず謝ります!
でも……僕は絶対に大丈夫です!」
そう言い切って、僕は扉を開け放ち、外へと飛び出した。
背後から、
「彰斗を信じて!」
鹿屋さんの声が聞こえた。
僕が貰った力は、努力の無い紛い物。
そんな気持ちが確かにあった。
だから、隠したい。
運で手に入れた力で目立ちたくない。
だから、使わなかった。
でも、扉の近くで待機する添島さん達の姿を見ていたら――
恥ずかしくなった。
そして、イレーザさんが僕を選んだ事で、僕は魔眼の力を得た事を思い出す。
この力を誇らない僕は最低だ。
だから――
今は、全力で使う。
僕の全力で、
戦う人達と休憩所を繋ぐ、その道を――
僕が切り開く。
恵美「玲子?! 皆! 多紀君を後ろから援護!
私達も出るわよ! 真名! 玲子! スリートップ!」
真名「了解!」
玲子「任せて!」
恵美「遥と弥生は左右のフォロー!」
遥 「はい!」
弥生「はい!」
恵美「って!? もう蹴散らしてるぅ!
黒いのこっち来たぁ!」
恵美「いい的よ! 吹っ飛べぇ!」




