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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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 休憩所に入る前に、必ず行う事がある。

 それは、聖女のスキル『ハイヒール』を豊賀さんが皆に施す事だ。


 『ヒール』系のスキルには、治療以外の効果もある。

 それが、汗をかいた時の不快感や汗の臭いを、綺麗さっぱり消してくれる作用。

 いわゆる、浄化作用だった。


 今回初めて、上着を着たまま走り通したことで、普段よりも汗をかいていたから、

 その恩恵に改めて感謝していた。


「いつもありがとうございます」


 僕は豊賀さんにお礼を言って、ウィンドブレーカーを脱ぐ。


「狩り中は活躍する機会がほとんどないので、こういう事でお役に立てて嬉しいです」

「強化魔法もそうですけど、ずっと活躍していると、僕は思っています」

「ありがとうございます、多紀君」


「そうよ。弥生がいなければ、こんな走り回る狩りなんて、ぜ! ったいに無理!」


 鹿屋さんもローブを脱いで、休憩モードへと移っている。


「バスケの練習よりハードだよ」

「そう! それ! ステータスとか弥生の強化魔法があっても、ほんとキツイ」


 大豊さんの言葉に、鹿屋さんが大きく頷きながら、

 手からそよ風を出して自分に当てている。


「玲子、私にもくれ」

「私もぉ」

「分かってるわよ。はい!」


 鹿屋さんの風魔法で体の熱を冷ますまでが、休憩前のルーティンになっている。




 緊急時の避難所にもなっている休憩所には、トイレはもちろん、飲料水の自販機もあるので、

 昼食をゆっくりと摂る場所として、ほとんどのハンターが利用している。

 だけど今日は、僕達だけのようだった。


「ここのテーブルにしましょうか」


 添島さんがテーブルを一つ動かし、二つをくっ付けて、僕達は席に着く。


「多紀君。今日、巣のウルフリーダーが全て討伐されれば、明日にはまたウルフが現れるのよね?」


 添島さん達の最近のお弁当は、桑名駅前のパン屋さんのものだ。

 サンドイッチから総菜パン、甘い菓子パン系まで、今日も色々な種類がテーブルに並べられていく。


 鞄から取り出しているのは一枝さん。

 戦闘時にリュックサックを背負っていても支障がない事から、

 荷物持ちを買って出ている。


 僕もリュックから、水筒と自作のおにぎりを取り出す。


「はい。ウルフの巣はゴブリンとは違って、常時リーダーが生まれる訳ではないので、

 明日の朝には元に戻っていると思います」


 魔物の出現地は、全て魔物の巣や村の中と決まっている。

 なら、常に巣や村の周りで待ち構えていれば楽じゃないか――とはならなかった。


 その理由が、出現法則の例外とも言える現象。

 夜になると、巣や村以外でも魔物が出現するからだ。


 まあ、

『夜になれば、魔物は巣や村の近辺以外にも出現する』

という、二つ目の法則があるとも言える。


「それなら、今日みたいなランニング狩りは出来ないですね」

「いえ、走りながらの戦闘にも慣れてきているみたいですし、試してみる価値はあると思います」

「もう、視界に入れば、私のウィンドショットで撃ち抜くわ!」


 鹿屋さんが誇らしげに胸を張る。


「今日、凄かったです。一度も外してなかったですよね」

「そうなの! 絶好調よ!」

「大豊さんも、ホブ相手に踏み込む位置に迷いがなくなって、毎回一撃でしたからね。

 本当に凄いと思います」


「剣闘スキルのおかげかな。回数を重ねるほどに、最適解みたいな感じで理解出来た。

 走りながら斬るなんて事、剣闘スキルも想定外だったみたいだ」

「えっ?」

「なんか、スキルと一緒に検証した結果、みたいな感じでさ。

 こう……『これだ!』ってなった時を、スキルが覚えるような感覚だった」

「えぇ……」


 大豊さんの説明に、僕は返す言葉が見つからなかった。


「私達には良い事だって事だし、午後からも頑張りましょ」


プルルル♪ プルルル♪


「えっ!?」


 添島さんの端末機から、ギルドからの呼び出し音が鳴り響いた。


「ちょっと待って!」


 脱いだ上着のポケットから、端末機の上部部分になる小型タブレットを引っ張り出し、

 通話ボタンをスピーカーモードで押す。


『添島さんですね』

「はい」

『現在、新種の魔物から避難している隊員が、そちらの休憩所に向かっています。

 最悪の場合、隊員と共に入口から魔物が雪崩れ込む可能性があります。

 装備を整えて、奥へと避難してください』


 一瞬の戸惑いを見せた添島さんが、「了解しました」と返事を返す。


『あと数分で接触します。ご武運を』


 僕はテーブルに広げた昼食をリュックに戻し、

 上着とレイピアを装着し、

 走り込んで来るであろう入口の扉へと向かった。


「多紀君!?」

「彰斗!?」


 僕は紫の光を放つ瞳で、戸惑う添島さんを見る。


「数十のウルフを蹴散らしながら、こちらに向かっている人達を視つけました。

 確実に、数匹は雪崩れ込みます。

 なので、入口で対処した方がいいと判断しました」


「確かに、入って来た所を死角から叩けば――

 真名、行ける?」

「任せろ!」

「玲子は、後続に向けてウィンドボムで吹き飛ばせる?」

「やってみるわ!」

「弥生は強化魔法を」

「今、かけます!」

「ありがとう。じゃあ、弥生と遥は後ろの通路で待機。

 援護お願いね」

「「はい」」


 彼女達が、恐怖を振り払って行動に出ている事に、僕は気付いていた。

 気付いたからこそ、彼女達の行動を止める権利なんて、僕にはない。


 死ぬ恐怖が無い僕の行動に、彼女達は勇断を示した。


 ――絶対に。

 傷一つも、付けさせる訳にはいかない。


恵美(落ち着いて対処。落ち着いて対処)

真名(冷静に。冷静に)

弥生(慌てないで回復。慌てないで回復)

遥 (集中……集中……)

玲子(あっ……彰斗の真剣な顔だ)



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