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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆多紀彰斗◆


巡回バスの座席に揺られながら、僕は窓の外をぼんやりと眺めていた。

 今日の隣は鹿屋さん。

 いつもより、少し距離が近い。


「……はぁ」


 小さくため息を吐いた鹿屋さんが、苛立ちを隠そうともせずに口を開く。


「彰斗の事を女の子と勘違いしたのは、まあしょうがないわよね」

「……」

「でも、そのあとが最悪。ほんとに」


 声に、まだ熱が残っている。


「直ぐに諦めてくれたから、もういいんじゃない?」


 前の席から、豊賀さんが穏やかにそう言う。


「でも!」


 食い下がる鹿屋さんに、僕は少し迷ってから――

 そっと、その手を取った。


「すみません」


 自分でも驚くほど、素直な声が出た。


「正直……ああいう時、どう振る舞えばいいのか分からなくて。

 結局、皆さんに頼ってしまいました」


 あの時。

 肩に腕を回されて引っ張られた瞬間。


 ――撥ね退けるべきか。

 ――少し様子を見るべきか。


 判断が、ほんの一拍遅れた。


 そして別の男が、彼女達に一歩踏み込もうとしたから、

 よろける振りをして腕を払い、前に出て――

 魔眼の威圧を、ほんの少しだけ当てた。


 その直後。

 彼女達が“僕を守るように”動いたことが、胸に引っかかっていた。


 力を隠して守られるのはどうなんだ?


「チームなんだから、当然です」


 前の席の添島さんが、きっぱりと言う。


「それにしてもさ」

 通路を挟んだ隣の席から、大豊さんが肩をすくめた。

「ナンパするためにハンターしてるんじゃないかって、思っちまうよな」


 その言葉に、周囲の男性ハンター達の気配が一斉に消えた。

 ように感じた。


 昨日に続いて、今日。

 二日連続のナンパ。


 ――早く、狩場に入りたい。


 そんな気持ちが、全員に共通していた。




 北側停留所。

 雑林の入口。


 バスを降りた瞬間、空気が切り替わる。


「じゃあ、行きましょう」


 上着を着たままでも、添島さんと大豊さんの動きに淀みはない。

 新しい装備は、もう体に馴染み始めている。


「前方、9時方向。ホブ1、ゴブリン5」


 魔眼で捉えた瞬間、それぞれの位置を続けて告げる。


「ホブが先頭。後ろにゴブリンが固まってます」


「了解!」


 返事と同時に、僕達は走り出した。


 数秒後に接敵。


 ――来る。


 体長150センチほどの筋肉質な緑猿。

 武器は持たず、両腕を振り上げて一直線に突撃してくる。


 だけど。


「遅い」


 大豊さんが一歩踏み出す。


 構えていた大剣が、腰の位置から水平に振り抜かれた。


 重い風切り音。

 次の瞬間、ホブゴブリンの動きが止まる。


 ――胴体が、ずれる。


 腕力自慢の突撃は、剣が届く前に終わっていた。

 ほぼ同時に、ゴブリン達が悲鳴を上げる。


「散開!」


 添島さんの声。


 六尺槍が低く唸り、前列のゴブリンを押し崩す。


「玲子!」


「任せて!」


 鹿屋さんの指揮棒が振られる。


「――ウインドショット!」


 圧縮された風弾が、横一列に走る。


 ゴブリン二体がまとめて吹き飛び、木に叩きつけられた。


「残り3!」


「こっち!」


 一枝さんと豊賀さんが後衛を固め、

 残ったゴブリンを逃がさない。


 戦闘は、接敵から十数秒で終わった。


(……やっぱり安定してるなぁ)


 防具の阻害感も見えない。

 回避、踏み込み、連携――どれも自然だ。


「次、ここから一時方向300!

 ホブ1 ゴブリン5

 ゴブリン2匹が先行中」


「了解!」




 情報通り、単独ウルフはいない。


「ゴブリン処理、お願いします。僕はスライムに行きます」


「了解!」


 僕は雑林を広く走り回る。

 久しぶりの移動狩りだ。


「ちょっと! 休憩なし!?」

「暑い~! 次のゴブどこだぁ~!」


 後ろから、冗談混じりの声が飛んでくる。


「文句言いながら、ちゃんと付いてきてるのが凄いですよ」

「そりゃ、置いてかれたら困るからね!」


 笑い声。

 動きは止まらない。


 雑林に、僕達しかいない。

 ナンパで溜まった不快感が、汗と一緒に流れていく。




 活動開始から、1時間ほど経過。


 魔眼が捉えた境界線の向こう。

 『6の六』側。


 大きな魔力反応。


(……強い)


 位置的に、ウルフの巣の方向。

 討伐パーティーが入っているはずだ。


 はぐれウルフリーダー?


 いや――


 頭に浮かぶのは、別の存在。


 ブラックウルフ。

 レベル40。

 単独行動。


(もし、あれだったら……)


 今の彼女達では、勝てない。


 逃げる。

 その判断は、すぐに出た。


 だけど、次の瞬間。


 ――人の魔力反応、4つ。


 魔物との距離、約500m。

 魔物の魔力が、動いた。


(戦闘が始まる……?)


 確認に行くべきか。

 距離を保つべきか。


 独りなら、様子を見に行ける。

 でも――


 不意に、視界の端に鹿屋さんの顔が入る。


 心配そうに、覗き込む視線。


(……違う)


 僕が守るのは、こっちだ。


 離れて、何かあったら。


 僕は、僕を許せない。


「……いつもなら、そろそろ昼休憩の時間ですよね」


 努めて、平静に言う。


「休憩所へ向かいませんか?」


「なんだ」


 鹿屋さんが、ふっと笑った。


「そんなこと考えてたのね」


「……です」


 それだけで、十分だった。


 僕は進路を変える。

 仲間達を、危険から遠ざけるために。


 ――戦わない、という選択もまた、

 ハンターの判断だと、信じて。


◆統括指令室◆


偵察班 「対象が気付きました」

通信班 「チーム早川に通達」

安藤将司「巣の方はどうなっていますか?」

偵察班 「順調に殲滅中だと思われます」

通信班 「各パーティーのバイタルサインに異常なし」

安藤将司「そのまま監視を続けてください」

事務局長「総司令、何か気になる事でも?」

安藤将司「私の直感が……少し」

事務局長「なるほど」


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