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ローブ選びは、思っていたよりもあっさり決まった。
鹿屋さん、一枝さん、豊賀さん――後衛組の三人が選んだのは、ふくらはぎ辺りまでの長さのハーフコート型ローブだった。
「走る事を考えたら、これくらいが限界よね」
「ですね。足捌きは重要ですし」
生地は夏用の薄手コート。
通気性と撥水加工が施されていて、触るとしっかりとした張りがある。
「これ、強化10倍のですよね」
「うん。最新式のやつ」
キューブガーデンの気候は、一年中春のように穏やかな気温だから、これくらいの重ね着なら大丈夫。
ローブの前は、ボタンではなく金属チェーンの留め具。
実用性とデザイン性、どちらも考えられている。
「で、色なんだけど――」
最初に決めたのは鹿屋さんだった。
「私は、これ」
手に取ったのは、濃い紫色。
「……あれ?」
豊賀さんが首を傾げる。
「それ、彰斗のスポーツウェアの色と近くない?」
「ち、違うから!」
即座に否定が飛ぶ。
「同系色の合わせだし、好きな色ってだけよ!」
でも、その言い方が少しだけ早口だった。
「まあ、似合ってると思いますよ」
「ほら! 彰斗はそう言うと思った」
鹿屋さんはむっとしつつも、どこか満足そうだった。
次は豊賀さん。
「私はこれにします」
選んだのは空色。
濃紺のスポーツウェアとの相性が良く、動いた時に視認しやすい。
「分かりやすい色ですね」
「うん。後ろにいるって一目で分かるでしょ」
最後は一枝さん。
「私は……これですね」
白を基調に、紺色のラインが入ったデザイン。
スポーツウェアの配色を反転させたような印象だった。
「清潔感ありますね」
「白が好きなので」
三人とも、それぞれ納得した表情でローブを羽織る。
そのまま、防具試着室の奥にある動作確認用の広場へ向かった。
◆
広場では、何人かのハンターが防具を付けたまま体を動かしていた。
素振り、ステップ、軽い跳躍。
その中に、添島さんと大豊さんの姿があった。
二人とも自分の武器を持ち、前後に動きながら感触を確かめている。
でも――
(……微妙だな)
動けていない訳じゃない。
ただ、切り返しが一瞬遅い。
こちらに気付いた二人は、苦笑いを浮かべて動きを止めた。
「どうですか?」
「悪くはないのよ」
添島さんが肩を竦める。
「でも、阻害感がきつい」
「守られてる感じはあるんだけど」
大豊さんも同意する。
「その分、いつもの動きが出にくい」
回避重視で戦ってきた二人にとって、守備力の増加はそのまま動きの制限になる。
「……だったら」
僕は三人のローブを指した。
「後衛と同じ系統のコートタイプの方がいいと思います」
「ローブ?」
「いえ、合皮ベースの強度高めのやつです。
腰ベルトで固定するタイプなら、コートというよりジャケットに近いですし」
二人の表情が、少しだけ変わる。
「プロテクターじゃなくて?」
「はい。今まで通り、回避を優先した方がいいです。
防具で本来の力が出ないのは、本末転倒だと思いますので」
一瞬の沈黙。
「……確かに」
添島さんが頷いた。
「守られてる安心感は確かにあるけど、動きが負けてる感じがするのよね」
「私もそっちが良さそうだな」
大豊さんも納得した様子だった。
◆
結局、後衛組三人は、最初に選んだローブに即決定。
大豊さんと添島さんは、ウィンドブレーカータイプの上着になった。
素材は後衛組と同じ、最新式の10倍強化繊維品。
色は大豊さんが濃い青緑。ピーコックブルーというらしい。
添島さんは青リンゴの色。名前もそのままアップルグリーンだった。
「それで、多紀君はどれにするの?」
あっ、自分も買う流れだったのかこれ――
そうだよな……僕はレベルが低い事になってるし、一番に防具を揃えないとダメな存在だった。
「あー。そうですね……僕も添島さん達と同じやつにします」
「じゃあ、はい! これ!」
鹿屋さんがいつの間にか手に持っていた物を僕に手渡す。
「あっ、ありがと」
色は今着ているスポーツウェアと同色。黒紫って表記されていた。
「この色の表記って、日本語なんだ……」
「感想それ!?」
◆魔装工房『アストラル』◆
工房主「イレーザ様のご要望品……確かにこれであってますか?」
店長 「はい。こちらでもご確認したところ、サイズはこれで合っていますと」
工房主「このデザインは、完全に守護者の衣裳ですよね?
子供?」
店長 「えっ!? 使徒様って子供産めるんですか?!」
工房主「知らないわよそんなこと。
まあ、合っているのなら問題ないわ。
使徒様からの依頼を手掛ける名誉。全力で務め上げるわよ!」




