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カラオケ店に、揃いのスポーツウェアでの来店。
キューブガーデンが現れてから、開発が怒涛の如く進んだ桑名駅周辺では、
僕達の恰好がハンターのそれだという事は周知されている。
まあ、紋章隠しの手袋をしている時点で、私服でもハンターだと気付かれてしまうんだけど――
そして、女の子5人に男一人という状況は、ハンターでなくても嫉妬と興味の眼を向けられることになる。
「彰斗、どうしたの?」
「いや、背中に感じる視線にちょっと……」
「まだ気になるんだ」
「そりゃね」
基本、なんの理由もない移動だけの時は、僕は最後尾から付いて行くことになる。
ちょっとだけ距離を空けてしまうのも、そんな僕の心境の現れでもあり、
それに気づいている添島さん達も、何も言わない。
でも、そんな僕の横には、必ず鹿屋さんが並んでいる。
「彰斗さ」
「うん?」
「変な視線、私も嫌だからさ。……だから一緒にいるの」
さらっと言うけど、言葉の端に少しだけ熱がある。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
鹿屋さんはそれ以上、何も言わない。
その代わり、僕の腕へと手を回し、恋人感を見せる。
「これで、ハーレムだとは思われないでしょ」
「えっ? ん? そう……なるのか」
「でしょ!」
◆
カラオケルームに入ると、鹿屋さんは当たり前のように僕の隣へ腰を下ろした。
さっきまで腕を回していた手も、特に離れる様子はない。
ちらりと周囲を見ると、添島さん達は誰一人としてその事に触れない。
もう見慣れた光景、というやつなのだろう。
正直、少しだけ気恥ずかしい。
でも、それ以上に――嫌ではなかった。
「じゃあ、飲み物揃ったところで……」
添島さんがリーダーらしく、軽く手を叩いて話を切り出す。
「明日からのハンター活動について、確認しておきましょう」
その言葉に、皆の表情が自然と引き締まる。
「まず、マナベリーの代金だけど……多紀君が出す、でいいのよね?」
「はい。皆さんのレベル上げを優先したいですし、その方が効率もいいので」
一瞬、遠慮がちな空気が流れたけど、
「多紀君がそこまで考えてくれてるなら、私達は甘えます」
一枝さんがそう言ってくれて、全員が頷いた。
少しだけ、胸の奥が軽くなる。
「次にポーションの数ね」
添島さんが続ける。
「1日100本は今まで通り。だけど――」
「ハイヒール50本、ハイマナヒール50本、ですね」
僕が先に言うと、
「ギルドからの要請もあるし、聖女のホーリーヒール治療を優先する方向で。
でも、ハイヒールを求める人も確実にいるから、完全には切らないってことだよね」
添島さんが補足し、全員一致で決まる。
「余った魔石についてはどうする?」
「100を超えた分はハイヒールポーションにして、全部ストックにしましょう。
自分達用と、家族や知人に渡す分とかも考えて」
「もう私達は八本ずつ持ってるけど、余裕はあった方がいいよね」
「賛成」
話は淀みなく進んでいく。
「それで明日だけど、売店で防具を購入して、ホブゴブリンで試す。
……で、いいよね?」
「「「「はーい」」」」
添島さんが少しだけ声のトーンを落とす。
「それで問題なければ、次の目標をウルフリーダーと、ゴブリンリーダーの集団。
推奨はDランクだけど、いいかな?」
大豊さん達が静かに頷く。
「多紀君も、それで良い?」
「はい。フィールド狩りならランク制限はありませんし、
受付で注意はされますけど……討伐を止められる事はありません」
「今の私達でも、大丈夫なのよね?」
「はい。慌てなければ、勝てます。
あと、ギルドが出している公式動画を見ると、予習になると思います」
「そうね。帰ったら見ましょう」
「「「「はーい!」」」」
「じゃあ、決まりね」
添島さんが小さく息を吐いて、表情を緩める。
「……真面目な話はここまで!」
そう言って、急に明るい声を出す。
「せっかくカラオケに来たんだから、歌おう!」
「そうよね!」
鹿屋さんが即座に分厚い本を手に取る。
「彰斗、最初なに歌う?」
「えっ、僕ですか?」
そう言いながら、僕の前に本を差し出してくる。
「実は……カラオケで歌った事がなくて」
「そうなの? じゃあ、どんな歌が好き?」
にっと笑う鹿屋さんに、僕はアニメソングのいくつかを伝えた。
「日葵ちゃん?」
「うん。そう」
そんなやり取りをしながら、部屋に音楽が流れ始める。
最初は添島さんが歌うらしい。
「恵美がいつも先陣を切るのよ。で、弥生は聞き役」
「聞き役? ってあるの?」
「うん。歌が上手じゃない子もいるでしょ。でも一緒に居たいじゃない。
だから聞き役」
「なるほど」
「彰斗は、私と一緒に歌ってみる?」
「これなら、私も知っている曲だから」
それは僕が伝えたアニメソングの一つだった。
数人の女性が歌う、魔法少女アニメの歌で、日葵もよく歌っていた曲。
「男の僕が歌っていいものなの?」
「全然! それにこれは、男性が歌っても変じゃない歌詞だし」
「そっか。じゃあ、一緒にお願いします」
「任せて!」
異物感を感じる事もなく、
この場所にいる時間が、
ちゃんと“居場所”になっている――
そんな事を、僕はぼんやりと感じていた。
玲子「楽しかったぁ!」
弥生「多紀君、初々しかったですね」
恵美「人前で歌うのが初めてなら、ああなるよね」
遥 「でも、楽しそうでした」
真名「玲子が引っ張ってたのが良かったんだろう」
恵美「そうね。……ほんとそうよね」
真名「どうかしたのか?」
恵美「多紀君って、玲子の気持ち気付いているよね?」
弥生「初対面の妹さんにバレてましたからね」
玲子「うっ……」
恵美「それで、あの距離感は凄くない?」
真名「確かになぁ~。玲子を自分から特別扱いしない。
でも、ちゃんと特別感を玲子に見せている」
遥 「……お兄ちゃんっぽい」
「「「それだ!」」」
玲子「なんでよ!」




